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アスグリーン執念の独走V!濡れた石畳が運命を分ける中、マリア・ローザはリード拡大|ジロ・デ・イタリア2025 レースレポート:第14ステージ
サイクルロードレースレポート by 宮本 あさかカスパー・アスグリーンを讃えるEFエデュケーション・イージーポスト
単なる移動ステージにはならなかった。テクニカルな周回と濡れた石畳、そして1人の男の驚異的な独走力が、あらゆる予想を覆した。カスパー・アスグリーン(デンマーク、EFエデュケーション・イージーポスト)が渾身の逃げ切りで、自身初のジロ区間勝利をつかみとった。後方では落車のカオスが、多くの総合エースを苦しめた。ただマリア・ローザのイサーク・デルトロ(メキシコ、UAEチームエミレーツ・XRG)は上手く難を逃れ、総合リードを押し広げた。
「グランツールも後半戦になると、たとえ平坦ステージでも、成功する可能性があると分かっていた。誰もが脚に疲れを感じ始めている頃だから。それこそが今日の勝敗を分けたんだ」(アスグリーン)
逃げるカスパー・アスグリーン
粘ったアスグリーン、自ら逃げを作る
ふさわしい逃げができあがるまでに、単調な平坦路で、延々20kmもの攻防が繰り広げられた。
スタート直後に、すでにアスグリーンを含む10人ほどが前線に飛び出した。ところがプロトンがこれを許さない。名だたる逃げ屋が数名滑り込んでいた上に、ワウト・ファンアールト(ベルギー、チーム ヴィスマ・リースアバイク)の姿さえ前方にあったせいだった。数十秒単位の追いかけっこが延々と繰り広げられた。スタートから20km先で、最初の逃げはあえなく捕らえられた。
吸収されるかされないかのタイミングで、再び猛烈に加速を切ったのが、他でもないアスグリーンだった。エアロヘルメットにTTスーツと、逃げるための完全武装でステージに臨んだ健脚は、今度は4選手を引き連れて飛び出していく。
同時にすかさず複数のチームが道幅いっぱいに並び、プロトンの蓋を閉めた。小さな逃げが、ようやく許された。ほどなく1人が自発的に後方プロトンへと下がったせいで、最終的には4人の逃げだった。スプリンターチームにとっては、コントロールにはそれほど苦労させられないであろう程度の人数だった。
「今ジロのチームの目標は、リッチー(リチャル・カラパス/エクアドル、EFエデュケーション・イージーポスト)で総合を狙うこと。ただ同時に、チームは、個人としての成績を追い求めるチャンスも与えてくれた。今日、自由に走る機会がもらえたことを、本当に感謝している」(アスグリーン)
狭い路地で大集団落車、濡れた石畳がレースを揺るがす
逃げの4人が奪えたリードは最大でも2分ほどで、大半の時間帯は、1分半ほどに抑えられた。スプリンターを擁する複数のチームが、メイン集団先頭で黙々とテンポを刻んだ。
静かな時間がしばらく続いた。ただ、ステージ半ばで軽く雨が降り出すと、集団の中に不安が広がっていく。しかも国境線を越えスロベニアに入国すると、道は軽い起伏とうねりを帯び始めた。濡れた路面でのリスクを最小限に抑えようと、多くの総合系チームが必死に最前列へと競り上がった。
落車が相次いだリドル・トレック
徐々に緊張感が高まっていく中、残り26.4km、いよいよとスロベニアをまたぐ周回コースに突入した。……そのほんの先だった。イタリア側の、旧市街を貫く長い石畳の上で、残り22km、大規模な集団落車が発生した。軽く左側に折れ、道幅が狭くなった瞬間に、信じられないほど多くの選手が地面に投げ出されてしまった!
中でもリドル・トレックは、チームの7人中6人が落車の犠牲に。前日区間4勝目を挙げたマッズ・ピーダスン(デンマーク)も軽く転んだが、なにより総合7位につけていたジュリオ・チッコーネ(イタリア)が身体を痛めた。
「ごらんの通り、チッコは総合のチャンスを失ったし、チームは今日の区間勝利を争うチャンスも失った。でも自転車レースには良い時も悪い時もある。これもレースの一部だ」(ピーダスン)
その後、同チームは、7人全員でゆっくりとフィニッシュを目指し、区間勝者から16分以上遅れて1日を終えた。残念ながらレース直後に受けた検査で右大腿四頭筋の損傷が認められ、当夜にチッコーネの途中リタイアが発表された。
混沌の追走劇、マリア・ローザ飛び乗る
マリア・ローザをまとうデルトロも、決して落車を免れたわけではない。
「僕だって落車したんだ。誰かに後ろから追突されてね。大したことはなかったけれど……。すぐに立ち上がって走り出した。誰が前にいるのか、誰が後ろにいるのか、自分の集団が先頭なのかどうか、なにも分からなかった」(デルトロ)
しばらくは無線も機能しなかったと言い、だからこそデルトロは、ひたすら目の前の25人ほどの集団に食らいついた。そこでは、落車発生前からすでにハードに牽引していたチーム ヴィスマ・リースアバイクとアルペシン・ドゥクーニンクが、勢いを緩めることなく猛然と前進していた。
中でも4人が難を逃れたヴィスマが、スプリントエースのオラフ・コーイ(オランダ)と総合エースのサイモン・イェーツ(イギリス)のために、勢力的に先頭を引いた。いまだに逃げている3人を捕らえねばならなかったし、背後に置いてきた大量の総合ライバルから、できる限りタイムも奪いたかった。
デルトロとS・イェーツに加え、この追走第一集団には、カラパスも潜り込んでいた。一方でプリモシュ・ログリッチ(スロベニア、
さらに、この日の朝を総合3位で迎えたアントニオ・ティベーリ(イタリア、バーレーン・ヴィクトリアス)は、落車で身体を打ち付けただけでなく、3台のバイクに足首を挟まれ、時間も体力も大きくロス。必死の追走を余儀なくされた。
カスパー・アスグリーン、厳しい1日のすべてが報われた瞬間
完全燃焼の先でつかんだ歓喜
ヴィスマとアルペシンがどれほど無我夢中で追いかけようが、逃げとの差は思うようには縮まらなかった。
スロベニア側には、直角コーナーが多く、濡れた路面で誰もが苦しめられた。それでもこの日最後の山を上り、うねる下りを冷静にこなすと、残り6kmでついに15秒差にまで追い詰めた。
ただ、ここで、アスグリーンが大胆な加速に転じる。ちょうど最後の平地に差し掛かったタイミングだった。第10ステージの個人タイムトライアル12位で好調さをうかがわせていた独走巧者は、そもそもずいぶんと長い間、実質的にひとりで逃げを先導していたのだ。それほど苦もなく独走態勢に持ち込んだ。
「正直、あまりなにも考えられなかった。かなり疲れていたし、もはや消耗しきっていた。とにかくコーナーを上手く切り抜けることだけを考えた。できるだけ効率的に、できる限り速く走ることに集中した」(アスグリーン)
後方で長らく献身を尽くしたファンアールトが、残り5.5kmで力尽きたのは、アスグリーンにとって朗報だった。アルペシンやモビスター チームが作業を引き継いだが、集団内に紛れていたEFエデュケーション・イージーポストのチームメイト2人が、追走リズムを巧みに妨害した。タイム差はもはや動かない。
「厳しい1日だった。こういった状態に持ち込むためには、悔しいけれど、自分自身が壊れるほど出しきらなきゃならない。でも、上手く行けば、すべてが報われる。だから今は本当に満足している」(アスグリーン)
とうとうアスグリーンは16秒差で逃げ切った。元フランドル覇者にとっては、249日ぶりの勝利であり、新しいチームに移籍して初めてつかんだ歓喜だった。
またグランツールにおいては、2023年ツール第18ステージに続く逃げ切り勝利。あの日もまた完全なるスプリンター向けの平地で、やはり自らが作り上げた小さな逃げを、アスグリーンは勝利に結びつけたのだった。
残念な1日となってしまったピーダスン
デルトロがリード拡大、チームリーダーの座の行方は
アスグリーンの16秒後に、16人からなる集団がフィニッシュラインに滑り込んだ。発射台のいないスプリントを、カーデン・グローヴスが制した。コーイは区間3位だった。
そしてデルトロやカラパス、S・イェーツを含むこの16人の集団から、58秒後に、アユソ、ログリッチ、ベルナルがフィニッシュにたどり着いた。さらに遅れること56秒、ティベリもステージを終えた。
当然ながら、総合順位もタイムも、大きくシャッフルされた。デルトロと同じ集団にいたS・イェーツが、1分20秒差の総合2位に浮上し、カラパスも2分07秒差の総合4位に。
この2人が2つずつ順位を上げた一方で、アユソは総合3位へ後退。タイム差も前日までの38秒遅れから、1分26秒遅れへと大きく落とした。ログリッチは総合5位のままながら、やはりタイム差は2分23秒に拡大している。ティベリは総合3位から、一気に3分02秒遅れの8位に陥落した。
「タイム差が大きくなっても僕自身は変わらない」と語ったイサ―ク・デルトロ
6度目のマリア・ローザ表彰式に臨んだデルトロは、思わぬ形で大きなアドバンテージを得たことになる。総合2位以下とのタイム差は、38秒から1分20秒へと開いた。これまで「僕はまだリーダーの器じゃない」と、あくまで先輩補佐の意志を繰り返してきた21歳だが……アユソとの1分26秒の差が、UAEにおける順列を決定的に変えるかもしれない。
「たとえタイム差は大きくなっても、僕自身の精神や肉体は変わらないんだよ。ただ僕はとにかく上位に入りたい。調子は良いし、周りの人々が僕に自信をくれる。自分の可能性を信じたいし、やり遂げたいとは思っている」(デルトロ)
翌日からジロは本格的な山越えを迎える。いよいよ本当の戦いが始まる。
(文・宮本あさか)
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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