人気ランキング

メルマガ

お好きなジャンルのコラムや
ニュース、番組情報をお届け!

メルマガ一覧へ

コラム一覧

サイクル ロードレース コラム 2025年5月19日

「最高の場所で感動的な勝利」ファンアールトが怪我から完全復活のステージ優勝!|ジロ・デ・イタリア2025 レースレポート:第9ステージ

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
  • Line

ファンアールトがジロ初勝利を挙げる

トスカーナの「白い道」が、2025年ジロのヒエラルキーを大きく揺さぶった。本命勢の中で総合最上位につけていたプリモシュ・ログリッチは、落車とメカトラでタイムを落とし、UAEチームエミレーツ・XRG内の序列を飛び越えて、21歳のイサク・デルトロがマリア・ローザを身にまとった。ストラーデ・ビアンケを隅々まで知り尽くしたワウト・ファンアールトが、シエナのカンポ広場に最速で駆け込んで、長く辛かった待ち時間についに終止符を打った。

「ジロでのステージ優勝は、言うまでもなく、大きな意味を持つ。でも同時に、ずっと長らく勝てなかった時期を経て、こうして新たな勝利を収められたこともまた、僕にとっては大きな意味を持つんだ。本当に素晴らしい気分だ」(ファンアールト)

逃げには乗り遅れたけれど

スタートフラッグが振り下ろされるとほぼ同時に、6人の逃げが出来た。あまりにあっさりと決まってしまったものだから、本当は逃げるつもりだったというファンアールトは、なにもできないまま流れを見送った。

「今日の最大のチャンスは逃げて勝つことだと信じていた。だから逃げを逃した時点で、早くも勝機を逃したと考えた。『今日はサイモン(イェーツ)がトラブルに巻き込まれぬよう助ける日』と、思い直していたんだ」(ファンアールト)

もちろんプロトンの先頭では、ディエゴ・ウリッシの人生初マリア・ローザを1秒でも長く輝かせようと、XDS・アスタナ チームが淡々と制御に乗り出した。ところが、すぐさま、Q36.5プロサイクリングチームも厳しいテンポを刻み始めた。2023年ストラーデ・ビアンケ勝者トーマス・ピドコックで、勝負を打つためだった。

逃げには2分半以上のリードを与えなかった。そして白い道の接近とともに、少しずつ、確実に、6人との距離を縮めていった。

ピーダスン爆走、ログリッチ孤立する

残り67.7km、グラベルセクターに突入した途端に、リドル・トレックが猛攻に転じた。今ジロ前半戦の主人公マッズ・ピーダスンが、総合エースのジュリオ・チッコーネを引き連れてメイン集団の先頭に素早く駆け上がると……スピードを猛烈に上げたのだ!

この春2つの石畳モニュメントで表彰台に乗った男による、全力の牽引は、凄まじい破壊力だった。集団は細く長く引き伸ばされ、ウリッシは粘る間もなく後方へと吹き飛ばされた。

「僕らのプランは、最初のセクターに先頭で入り、集団を小さくすること。チッコーネのストレスを軽減するためだった」(ピーダスン)

未舗装区間を走り抜ける選手たち

全長8kmの第1セクターを抜け出す頃には、メイン集団は、早くも30人程度に数を減らしていた。リドルは4人をしっかり残し、UAEもエース級4人が問題なく前にとどまった。イネオス・グレナディアーズにいたっては、なんと大量6人。大部分の総合エースは、側にアシストがついていた。もちろんファンアールトも、サイモン・イェーツと揃って好位置につけた。

ただログリッチだけが、孤独だった。前ステージで1日中レースコントロールに尽くしたレッドブル・ボーラ・ハンスグローエのアシストたちは、第1セクターの入口へエースを先頭で導いた直後、姿が見えなくなった。

ログリッチの悪夢、再び

続く第2セクターで、誰もが恐れていたことが起こる。緩やかな上り基調の道を、ふいに左へ曲がった瞬間だった。残り51.5km地点で、4人が小砂利の地面に滑り落ちた。落車した選手の中に、ログリッチとピドコックの姿があった!

素早く立ち上がると、大急ぎで自転車に飛び乗った。運悪く、この落車のタイミングでアタックがかかり、白くもうもうと上がる砂煙にまぎれて攻撃は続行された。おのずと集団のスピードは上がる。前夜マリア・ローザを脱いだログリッチを置き去りにして、前方へどんどん遠ざかっていく。

しかも数キロ先で、ログリッチはパンクに見舞われた。フアン・アユソら総合候補が揃う第2集団に対する遅れは、第2セクターの出口で50秒に達した。

それでも粘り強く追走を続けた。後ろから追いついてきたアシストの助けを借り、続く第3セクターでは20秒差にまで縮めた。ただ、これ以上は、詰められなかった。むしろ再び差は開いていく。

「とにかく辛かった。前方のペースは早く、僕はベストの状態ではなかった。でも最後まで諦めず走った。今日の僕はたしかにタイムを失った。でも負けることもあれば、勝つことだってある。まだ道のりは長い。まずは体の状態を確認し、回復に努め、今後どう取り組むべきかを見極めなきゃならない」(ログリッチ)

ログリッチは度重なるアクシデントで順位を落とした

2022年ツールでルーベの石畳を拝借したとき、やはりログリッチは落車の犠牲となり、同ステージだけでタデイ・ポガチャルから2分以上の遅れを喫している。今回のログリッチは、大多数の総合ライバルから最終的に1分15〜25秒を失った。例えば前日までアユソに対して総合で3秒リードをつけていたが、今や1分12秒のビハインドを背負う。総合順位も3位から、2分25秒遅れの10位へと下げた。

偶然か、必然か。デルトロが加速

落車が発生したコーナーは、下りの起点でもあった。この坂道を、デルトロは猛スピードで駆け下りた。ここにエガン・ベルナルを含むイネオスの3人が乗じ、ファンアールトも素早く後に続いた。いまだ逃げ続けていたアルペシン・ドゥクーニンクの2人に追いつき、追い越し、5人の新しい先頭集団を形成した。

奇妙にも、この時のデルトロは、決してアタックしたつもりはなかったという。すぐには落車の状況がつかめなかったから、スピードを落とさず前進し続けただけ。しかも追いついてきたベルナルの、コロンビアナショナルチャンピオンジャージが、砂煙の中で、アユソのマリア・ビアンカに見えた。ますます先を急ぐ理由になった。

「でもすぐに、それがエガンだと分かって、スピードを落とした。だって後ろにリーダーを残して加速し続けるわけにはいかないから。でも無線で、そのまま前に留まるよう指示された。こういう状況になったからには、タイムを無駄に失うべきではなかったから」(デルトロ)

そのベルナルのために、イネオスの他の2人は力を注いだ。特に約20kmにわたり、ブランドン・リベラが驚異的な献身を披露した。ジュニア時代にマウンテンバイクの大陸別選手権でベルナルとともに表彰台に上がった悪路巧者は、白い道も、アスファルトも、ひたすら黙々と引き続けた。

そのリベラが仕事を終える頃、背後から、マティアス・ヴァチェクが単独でブリッジを成功させた。ピーダスンのマリア・ローザの日々を支え続けた22歳は、この日は自らのチャンスに賭けていた。

ついには最終第5セクター、いわゆる「コッレ・ピンズート」へ。この春のストラーデ・ビアンケでポガチャルが栄光への独走を始めた、あの白い激坂へ、デルトロ、ファンアールト、ベルナル、ヴァチェクの4選手が先頭で走り込んだ。

経験と執念でワウトしがみつく

ピンズートへの突入と同時に、デルトロは加速を切った。すでに第4セクターでも軽いジャブを打っていたが、最大勾配15%に達する激坂では、ライバルたちを本気で振り払いにかかった。ヴァチェクとベルナルは耐えきれず、後退していった。

ただファンアールトだけは、クライマーの後輪に必死に食らいついた。ストラーデ・ビアンケに4度参戦し、すべてを4位以内で終えているクラシックハンターは、この坂道の厳しさはもちろん、激勾配が360mしか続かないことも知っていた。


「ひたすら生き残ることだけを考えた。第4セクターの攻撃は、まだある程度はコントロールできていた。でもピンズートでは、完全に限界だった。それでも経験のおかげで、どこで道が平坦になるのか、どのコーナーまで食らいつけば良いのかを、僕は分かっていた」(ファンアールト)

なんとか難所を抜け出した後も、ファンアールトは先頭交代に一切協力しなかった。21歳のデルトロは「サイモン・イェーツが後方にいたからね」と理解を示したが、30歳のファンアールトは「限界を超えすぎて、その後はひたすら回復に集中していた」と本音を漏らす。

「おかげで幸いにも、シエナへの最後の上りに向けて、僕は再び息を整えることができた」(ファンアールト)

最後の急坂、最後の加速

ラスト1kmのアーチをくぐった先の、おなじみサンタ・カテリナの上りで、最後にもう一度だけデルトロは加速に転じた。ワウトは必死に食らいつきながらも、冷静にタイミングを待っていた。

「もしも僕に絶好調時の脚があれば、勾配の厳しいゾーンで彼を追い抜こうとしただろう。でも今日の僕は、とにかく彼についていくためにすべてを尽くした。コーナーを曲がった直後に彼を追い抜こうと、計画していたんだ」(ファンアールト)

ファンアールトにとって怪我からの完全復活を示す勝利となった

上りが終わり、下りに入る直前の、ラスト400mの右カーブ。そこでデルトロに並ぶと、ファンアールトはがむしゃらに前へと躍り出た。さらにはうねる下りカーブをギリギリで攻め、そのまま先頭でカンポ広場のフィニッシュラインをさらいとった。

「僕はとても感激屋で、勝利を手にした瞬間、たくさんの感情が頭の中を駆け巡った。それに、この広場は、特別な場所だ。自転車レースを終えるには最高の場所だと言ってもいい。観客やファンをこれほど近くに感じられるのは、素晴らしい体験なんだ。今日はまるでアリーナのようだった。様々な理由で、感動的な勝利だった」(ファンアールト)

シエナでは、2020年以来2度目の勝利だが、初めてのジロでは、初めての区間勝利だった。開幕前に体調を崩したせいで、決して狙い通りにはいかなかった1週目の終わりに、ファンアールトは見事に誇りを取り戻した。応援に駆けつけた妻子や、表彰式までフィニッシュエリアで待っていてくれたチームメイトの前で、心からの笑顔を見せた。

今回の勝利で、ツール9勝、ブエルタ3勝と合わせて全3大ツール区間制覇を達成したことになる。なにより昨ブエルタ第10ステージ以来――その1週間後に落車で膝を負傷して以来の……9ヶ月ぶりの勝ち星だった。ちなみに嬉しいプロ50勝目でもある!

デルトロがヒエラルキーを揺るがす

メキシコ人として初めてマリア・ローザに袖を通したデルトロ

ドラマチックな1日の終わりに、ジロに新たな歴史が刻まれた。悔しい2位に終わったデルトロが、メキシコ人選手として史上初めて、マリア・ローザを身にまとった。

「僕にとっては信じられないようなことで、上手く気持ちを表現できない。もちろん誰もがこのジャージを着たいと願っているし、僕だって同じだった。とにかくクレイジーな気分だ」(デルトロ)

総合本命たちがひしめく第2集団に対しては、大きな差をつけた。デルトロから58秒遅れでチッコーネが3位に飛び込み、UAEのリーダーの2人、アユソは1分07秒後、アダム・イェーツは1分10秒後にそれぞれレースを終えた。ツール・ド・ラヴニールで史上初のメキシコ人総合覇者となった21歳は、22歳のアユソを、つまり総合で1分13秒も上回ってしまったことになる。新人ジャージまでもむしり取った。

ただデルトロは、あくまで、今後もアユソとイェーツがチームリーダーだと強調する。

「2人はすでに高い実力を何度も示してきたし、素晴らしい能力を持つ、素晴らしい選手だ。そんな彼らと同じチームで走れるのは、とてつもなく光栄なこと。今日はレースの状況が、単に僕の有利に働いただけ。僕がリーダーになることはない」(デルトロ)

そのUAEチーム・エミレーツXRGは、総合1位デルトロ、2位アユソに加え、8位にブランドン・マクナルティ、9位にアダム・イェーツと、依然としてトップ10に4人を並べている。また総合1位から3位・1分30秒遅れのアントニオ・ティベリまでは、そのまま新人賞でも上位3位までを占めている。

文・宮本あさか

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

  • Line

あわせて読みたい

J SPORTS IDを登録すれば、
すべての記事が読み放題

J SPORTS IDの登録(無料)はこちら

ジャンル一覧

J SPORTSで
サイクル ロードレースを応援しよう!

サイクル ロードレースの放送・配信ページへ