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サイクル ロードレース コラム 2025年5月18日

壮絶な逃げバトル!プラップが45.5km独走で初のグランツール区間制覇|ジロ・デ・イタリア2025 レースレポート:第8ステージ

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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グランツール初の区間勝利を掴んだルーク・フラップ

とてつもなくクレイジーだった1日の終わりは、「初めて」の喜びにあふれていた。大会8日目にして今ジロ初の逃げ切りが決まり、チーム ジェイコ・アルウラーの24歳ルーク・プラップ(オーストラリア)が初めてのグランツール区間勝利をつかんだ。

XDS・アスタナ チームのディエゴ・ウリッシ(イタリア)が、35歳にして、生まれて初めてマリア・ローザに袖を通し、母国に今大会初にして、4年ぶりのピンクジャージをもたらした。

「正直まだ信じられない。ずいぶんと長い間この時が来るのを待っていたような気がする。ヨーロッパでずっと結果が出せなかった。去年のジロでも何度もあと一歩のところまで行った。今日ついに実現できたなんて、本当に特別なこと。夢が叶った」(プラップ)

終わりの見えない飛び出し合戦

とてつもなくクレイジーな1日の始まり


正しい逃げができあがるまでに、実に83kmも要した。しかもスタート直後の1時間は、なんと時速49.5kmの全力疾走!

前日マリア・ローザを脱いだばかりのマッズ・ピーダスン(デンマーク、リドル・トレック)が、飛び出しを仕掛けたせいでもあった。マリア・チクラミーノに着替えたスプリンターは、40km近くもぎりぎりの追走劇を繰り広げ、ついには49.9km地点の第1中間スプリントを狙い通り先頭通過。12ポイントを新たに収集し、ポイント賞2位との差を94ポイントに広げた。

直後に集団はひとつにまとまり、勝負は振り出しに戻る。3級山岳への上りを利用して、数人が前へとにじり出るが、山頂を越えた直後にプロトンへと引き戻された。下りでまたしても数人がトライするも、やはり恐ろしい勢いで集団が追いかけてきた。

メインプロトンの制御に乗り出すレッドブル・ポーラ・ハンスグローエ

1時間45分にもわたりドンパチは繰り返された。それでも、短い下りの先の高台に差し掛かると、残り114km、とうとう大きな一団が前方へと抜け出した。最終的に20人が逃げの切符をつかみ、今ジロに参戦する23チーム中、14チームが先頭集団に選手を送り込んだ。

「逃げに乗るための戦いは、本当に信じられないほどだった。延々と繰り返され、僕も幾度となく流れに乗り遅れそうになった。ただ、もう一度だけチャンスにかけたら、そこには大きな集団がいた。うん、大変な戦いを勝ち抜いて、ようやく逃げ出すことができたんだ」(プラップ)

ようやく落ち着きを取り戻したメインプロトンでは、マリア・ローザのプリモシュ・ログリッチ擁するレッドブル・ボーラ・ハンスグローエが制御に乗り出した。強い日差しの下で、あくまで淡々とリズムを刻み、逃げには最大6分のリードを許した。

逃げてもなお離合集散を繰り返す

大所帯の逃げ集団から残った4人


せっかく苦労して逃げ出したというのに、先頭集団はうまく協調体制を保てなかった。しかも、ほんの10kmほど先で1級山岳へ差し掛かると、厳しい山道ですぐに分裂を始めた。

一時は2人が抜け駆けさえ試みた。マリア・アッズーラ姿のロレンツォ・フォルトゥナート(イタリア、XDS・アスタナ チーム)と、人生最後のグランツールを戦うロマン・バルデ(フランス、チーム ピクニック・ポストNL)とが、残り92.1kmの1級山頂で競り合い、そのまま下りで揃って先行を開始してしまったからだ。

ちなみに40ポイント収集で山岳賞首位の座をきっちり固めたフォルトゥナートは、その上、長きにわたって、「暫定」マリア・ローザでもあり続けた。前ステージ終了時の総合タイム差が2分57秒と、逃げの中で総合最上位につけていた。

長い下りの先で、先頭は再び規模を取り戻す。ただ、それほど待たずして、新たな分裂の動きが起こった。残り70km、小さな上りを利用して、プラップが新たな飛び出しを仕掛けたのだ。

ウィルコ・ケルデルマン(オランダ、チーム ヴィスマ・リースアバイク)はいち早く反応した。フォルトゥナートは振り落とされたが、チームメイトのウリッシも、続く下りで素早く前をとらえた。ここで7人に絞り込まれた逃げ集団内で、残り50km、今度はこの2人が先行にトライした。数キロ先で合流を果たしたのは、もはやイゴール・アリエタ(スペイン、UAEチームエミレーツ・XRG)とプラップだけ。20人の大所帯だった逃げ集団は、残り46km、4人になった。

プラップはこの時もそれほど長くは待たなかった。前に追いついた直後、3級山岳の上りを利用して、またしても大きな加速を切った。残り45.5km、ひとり飛び出した。

「スプリントで彼らに勝てないことは分かっていた。だから、かなり早い段階で仕掛けなきゃならなかったんだ。それに、今年のレースの流れを見ている限り、遠くからの動きがとてつもなく成功していた。だから頭の片隅に『最初に仕掛けた人間こそが有利』という考えがあって、だったらとりあえずやってみようと思ったんだ」(プラップ)

プラップ、解放への独走

単独走行に持ち込むルーク・フラップ

すでに150km以上も猛スピードで走り続けてきたライバルたちは、もがき苦しみ、オージーの後輪に食らいつくことすらできなかった。

数百メートル先の山頂で早くも10秒差をつけたプラップは、そのままペースを落とさず単独走行に持ち込んだ。第2ステージの個人タイムトライアルこそ、コース序盤に落車したせいでダントツの最下位に終わったが――昨夏のパリ五輪個人TTも濡れた路面で落車し、そのまま病院送りに――、そもそもはオーストラリア個人TT2連覇中の独走スペシャリスト。後続との差を素早く1分にまで押し広げた。

ただ一切協力しようとしなかった22歳のアリエタを振り落とし、残り7kmで追走が34歳ケルデルマンと35歳ウリッシだけになってからは、逆に差はじわじわと縮んでいく。もちろん最大の理由はウリッシが先を急いだからなのだけれど、プラップも左脚の痙攣に苦しんでいた。また2月に手術した左手首が痛み、ハンドルバーをしっかり握ることさえできなかったという。

それでも逃げ切るには十分だった。最終的には2人を38秒差でかわし、フィニッシュラインへひとり先頭で飛び込んだ。3度目のグランツール挑戦で、初めてつかみ取った区間勝利。なによりプロ入り4年目にして、生まれて初めてのワールドツアー勝利だった。

実はわずか1ヶ月半前に、本人曰く「レベルの低いギリシャのレース」ではあったけれど、プラップは2つの「初」をつかんでいた。国内選手権以外のレースでのプロ初勝利であり、嬉しいヨーロッパ初勝利でもあった。

「おかげで重圧から解放された気分だった。だから、ここでも1つ勝ちたいと思っていたし、友達のリッチー・ポートが言ってくれたように、堰を切ったように勝利が続けばいいと願っていた。だから、これは、本当に、本当に特別な勝利だ。すごく意味のある勝利だし、今後の自信につながってくれるよう願ってる」(プラップ)

長く輝かしいキャリアの果てに プラップに置き去りにされた後方では、もう1つの戦いが続いていた。前日の第7ステージ終了時点で総合4分01秒遅れのウリッシが、マリア・ローザの可能性を追い求めていたのだ。

「ステージ優勝のことだけを考えて逃げに乗った。僕も努力したけれど、プラップは本当に強かった。でも、その後も、僕には望みをつなぎとめられるだけのリードがあった。疲れてはいたけれど、全力を尽くし続けた」(ウリッシ)

「秒差の戦い」であることは理解していたディエゴ・ウリッシ

独走に持ち込まれた時点で、メイン集団との差は5分45秒あった。アリエタの動向には構わず、ひたすら自分の走りを心がけた。残り19.6kmのレッドブルKM・ポイントで、ボーナスタイム2秒を獲得することも忘れなかった。この日最後の山岳で、メインプロトンの一部が軽いアタックを繰り出し、突如として差が縮んだこともあった。

「沿道の観客たちは、僕がマリア・ローザを獲れると叫んでいた。正確なタイム差は知らされていなかった。ただ『全力を尽くせ』との声に、秒差の戦いであることは理解していた」(ウリッシ)

最後まで共に走り続けたケルデルマンに、区間2位とボーナスタイム6秒はさらわれてしまった。走り終えてから4分近くも、ウリッシはフィニッシュエリアで待たなければならなかった。ひどく長い待ち時間だった。 そして、35人ほどに小さくなったメイン集団が、フィニッシュするほんの直前、ウリッシは歓喜の雄叫びを上げた。プロ生活16年目。ジロでステージ8勝もつかんできた強豪が、母国のグランツールで、ついに初めて総合リーダージャージを身にまとう権利を手に入れた。

「自転車競技に取り組み、プロになる夢を叶えた人間なら、特にイタリア人なら……誰でも夢に見るジャージだ。マリア・ローザを着る前に、子供の頃、祖父母と一緒にジロを見た午後を思い出した。今、僕はキャリアの終盤にさしかかり、こうして夢を生きている。最高に幸せだ」(ウリッシ)

メイン集団ではフアン・アユソ(スペイン、UAEチームエミレーツ・XRG)が最後の最後に飛び出しを仕掛け、ライバルから1秒だけかすめとった。勝者から4分50秒遅れで1日を終えたログリッチは、第3ステージで素早くジャージを脱いだように、今回もたった1日でマリア・ローザを譲り渡した。ただウリッシに対する総合の遅れは、わずか17秒に過ぎない。


文・宮本あさか

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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