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アユソが前半最大の山岳で初優勝!マリア・ローザは再びログリッチ|ジロ・デ・イタリア2025 レースレポート:第7ステージ
サイクルロードレースレポート by 山口 和幸フアン・アユソ(UAEチームエミレーツ・XRG)がグランツール初優勝
第108回ジロ・デ・イタリアは2025年5月17日、カステル・ディ・サングロをスタートしてタリアコッツォにフィニッシュする第7ステージ(距離168km)が行われ、UAEチームエミレーツ・XRGのフアン・アユソ(スペイン)がグランツール初優勝を果たした。総合成績では2023年の覇者プリモシュ・ログリッチ(スロベニア、レッドブル・ボーラ・ハンスグローエ)が第2ステージ以来となる首位に。再びリーダージャージ、マリア・ローザを着用することになった。
前半戦で最も過酷な山岳ステージ
サイクルロードレースをこよなく愛するイタリア人にとっては頭の痛いデータがある。2021年5月12日のアレッサンドロ・デマルキを最後にイアリア選手がマリア・ローザを着用していないのである。4年と4日という空白期間は大会史上最も長い記録なのだという。2025年大会もリドル・トレックのマッズ・ピーダスン(デンマーク)が通算で5日間、ログリッチが1日マリア・ローザを獲得。この日の過酷な山岳でマリア・ローザ争いが本格化することはイタリア勢にとってもわかりきっていたことで、リドル・トレックのジュリオ・チッコーネもバーレーン・ヴィクトリアスのアントニオ・ティベーリもイタリアの名誉にかけてトライした。しかしそれを手にしたのはイタリアの隣国スロベニアのログリッチだった。スロベニア勢はこれで31回目のマリア・ローザ獲得となり、英国勢を抜くことになる。
イタリア半島を縦貫するアペニン山脈の脊梁部分を走るこの日は山岳ポイントが4つ。カテゴリー3級のロッカラーソを上り、モンテウラーノとヴァド・デッラ・フォルチェッラの2級山岳ポイントを通過し、最後はカテゴリー1級のタリアコッツォへ。今大会最初の1級山岳であり、最初の山頂フィニッシュだ。
「イタリアの最も美しい村」のひとつ、タリアコッツォを激走
「イタリアの最も美しい村」のひとつ、タリアコッツォがフィニッシュと表記されるが、タリアコッツォの集落ではなく、上り坂を13km上ったところにフィニッシュが設定された。ジロ・デ・イタリアに初めて採用された上り坂である。平均勾配は5.5%と発表されているが、最初の9kmが比較的なだらかなため数値が低くなっているに過ぎない。残り約3kmは10%の急傾斜で、一部は勾配値13%を超える。ステージ全体の獲得標高は3500mというから前半戦の勝負どころと言っても過言ではない。
気温10度ほど、曇り空の下に選手たちが集結した。アブルッツォの中心に位置するカステル・ディ・サングロは、中世の特徴が色濃く残っているとともに、イタリアの自動車産業の中心地でもある。歴史と現代が調和するこの町を174選手がスタート。長い上りと短い上りが絶え間なくフィニッシュまで続く。モンテウラーノへの上りは短いが特に厳しく、勾配は14%に達する。波打つ曲がりくねった山道で今大会最初の本格的総合優勝争い繰り広げられた。
17秒遅れの総合2位と絶好の位置につけているログリッチだが、痛いのは2022年の総合優勝者でチームメートのジャイ・ヒンドレー(オーストラリア)が前日の大落車でリタイアしてしまったこと。
「以前ジロ・デ・イタリアを勝っているヒンドレーのリタイアは大きな損失だった。これが自転車競技であり、変えることのできないこと」とチームの布陣を整え直して臨むことになった。
レースは序盤から山岳ポイントやステージ1勝を争う選手らがアタックを仕掛け、これをレッドブル・ボーラ・ハンスグローエ勢が追いかけてメイン集団を引っ張っていく。VFグループ・バルディアーニCSF・ファイザネのマヌエーレ・タロッツィ(イタリア)、チーム ポルティ・ビジットマルタのアレッサンドロ・トネッリ(イタリア)、チーム ピクニック・ポストNLのハイス・レイムライゼ(オランダ)、デカトロン・AG2Rラモンディアルのニコラ・プロドム(フランス)、XDS・アスタナ チームのクリスティアン・スカローニ(イタリア)、スーダル・クイックステップのジャンマルコ・ガロフォリ(イタリア)が第1集団を形成して102km地点で最大差となる3分57秒をつける。
マリア・ローザのピーダスンが最後の山麓で脱落
そして勝負は157km地点で最後の上り坂に突入。マリア・ローザのピーダスンがここでついに脱落する。残り10kmで第1集団はプロドム、ガロフォリ、タロッツィの3人に。メイン集団は計算していたかのように残り2kmまでにすべての逃げを吸収すると、UAEチームエミレーツ・XRGのラファウ・マイカ(ポーランド)がアユソのために先頭に立って牽引。いよいよ実力者だけの攻防が始まった。
チッコーネ(リドル・トレック)らイタリア勢が猛攻
チッコーネが残り1.5kmでアタックすると、イネオス・グレナディアーズのエガン・ベルナル(コロンビア)とティベーリが反応。この動きでステージ優勝争いは15選手に絞り込まれる。残り1kmに掲げられた赤い逆三角形の旗、フラム・ルージュでベルナルが勝負に出ると、チッコーネが追走。ここでついにアユソがカウンターアタックを見せて後続との差をわずかにつけた。追いかけたのはティベーリとチームメートのダミアーノ・カルーゾ(イタリア)。残り300mでアユソが主導権を握り、そのままトップでフィニッシュラインを通過した。
アユソがグランツールでステージ勝利したのは初めて。今シーズン6回目の勝利で、プロとしては14勝目。スペイン選手のジロ・デ・イタリア区間勝利は114回目で、2024年のペラヨ・サンチェス以来。22歳と8カ月のアユソは、1962年のアンヘリーノ・ソレルと1970年のミゲール・ラサに次ぐ、史上3番目に若いスペイン人ステージ勝者となった。
残り300mまで体力を温存していたアユソがステージ勝利を果たす
「この勝利は私のキャリアにおいて大きなステップ。4回目のグランツールで、ブエルタ・ア・エスパーニャではあとちょっとだった。初めて参加したジロ・デ・イタリアで今日それを達成できたのは特別」とゴール直後のアユソ。
「急斜面の最後の上りで、2回や3回のアタックをして戦況を混乱させるよりも、1回のアタックで決めることができると見抜いていた。ライバル選手たちが攻撃を始めたけど、自分が得意とする残り距離まで温存して、そこから全力を出した」
4秒差の2位集団はアユソのチームメートであるイサーク・デルトロ(メキシコ)が先頭。ベルナル、ログリッチ、チッコーネ、ティベーリ、カルーゾ、EFエデュケーション・イージーポストのリチャル・カラパス(エクアドル)がフィニッシュした。
デルトロは、2001年と2002年に3勝したフリオ・ペレス以来、ジロ・デ・イタリアのステージ表彰台に立った2人目のメキシコ選手となる。アユソとデルトロは、2018年第6ステージのミッチェルトン・スコットのサイモン・イェーツとエスデバン・チャベス以来となる、マススタートステージでのチームによる初のワンツーフィニッシュを果たした。
アユソは前日、ピーダスンから35秒遅れ、総合2位ログリッチから18秒遅れの総合6位だったが、この第7ステージで区間4位のログリッチに4秒差をつけ、さらに10秒のボーナスタイムを獲得し、総合成績でログリッチから4秒遅れの2位に躍進することになる。
グランツール初勝利は生涯記憶に残るだろう(アユソ)
「1つの勝利というよりも、グランツールでの初めての勝利。2022年にプロ初勝利を挙げたときと同様に、生涯記憶に残るだろう。チームはこの日、ジロ・デ・イタリアでのステージ勝利を目指していし、私もそうだったが、レースのコントロール責任とプレッシャーはプリモシュ・ログリッチにあった。今日のようなフィニッシュ設定は彼が最も強いので、私は彼の後ろにいてマークしていた。有力選手の攻撃が始まった時、私はただ自分の出番を待った。何人かの選手はその動きでエネルギーを無駄にした。いつもより待機する時間がかかったが、私は30秒から45秒の最大パワーで走る余力を持っていたのでフィニッシュまでペースダウンすることはなかった」
アユソにとってこの日は勝利を得るだけでなく、第2ステージの個人タイムトライアルで失った16秒を取り戻すことも重要だった。まずは難関ステージでライバルに4秒先行したことで消えかけそうだった自信を取り戻す。翌日はこのポジションを守り、シエナにゴールする2日後がキーとなると今後の展望を口にした。シエナにゴールする第9ステージはストラーデ・ビアンケで使用される未舗装路30kmがあって、アクシデントも想定しなければならない。
「日曜日は今回のジロ・デ・イタリアの中で最も緊張するステージの1つになる。なぜなら、いい脚、いいポジショニング、強力なチームワークが必要なだけでなく、運も必要だから。不運なタイミングでパンクしたら数カ月の努力が台なしになる。私とチームが問題なくその日を過ごせることを願っている」というアユソには、うまくいけばトップに躍り出て有利な立場で休息日を迎えたいという野心もある。
再びログリッチがマリア・ローザに輝き、並々ならぬ覚悟を見せる
総合1位に躍り出たログリッチだが、アユソが1発アタックしたとき、少し後ろにいたのだが追従できなかった。レースが終わって最大のライバルであるアユソが総合成績で4秒遅れにいるのだからと、おごることなく気を引き締めている。
「総合優勝のラストチャンスがいつ訪れるかわからないけど、この先10回もジロ・デ・イタリアを走るつもりはない」とこの大会で2度目の総合優勝を決める覚悟を示している。
「いつも勝ちたいと思っているけど、今日はマリア・ローザを手に入れたのでまずはそのことを楽しみたい。フアン・アユソが速い選手であり、厳しいライバルになることは分かっていたが、ジロ・デ・イタリアは始まりに過ぎず、人生は続く。昨日多くの選手が落車したにもかかわらず、チームメートはとても頑張ったから、私たちはこのジャージを守り抜く戦いを最後まで完遂したい」
選手たちはこの日ゴールして、最終到着地のローマに最接近したのだが、翌日からはイタリア北部の本格的山岳に向かって徐々に北上していく。戦いはようやく1週間。6月1日のローマに続く道はまだ果てしなく長い。
文:山口 和幸
山口 和幸
ツール・ド・フランス取材歴30年超のスポーツジャーナリスト。自転車をはじめ、卓球・陸上・ボート競技などを追い、東京中日スポーツ、ダイヤモンド・オンライン、LINEニュース、Pressportsなどで執筆。日本国内で行われる自転車の国際大会では広報を歴任。著書に『シマノ~世界を制した自転車パーツ~堺の町工場が世界標準となるまで』(光文社)、講談社現代新書『ツール・ド・フランス』。青山学院大学文学部フランス文学科卒。
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