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キンバリー・ルコートがキャリア最大の栄誉 今季のハイアベレージで一躍トップライダーの仲間入り【Cycle*2025 リエージュ〜バストーニュ〜リエージュ ファム:レビュー】
サイクルロードレースレポート by 福光 俊介優勝ルコート、2位ピーテルセ、3位フォレリング
春のクラシックシーズンの締めとなるリエージュ〜バストーニュ〜リエージュ ファムは、4選手に絞られた争いでキンバリー・ルコート(AGインシュランス・スーダル チーム)一番にフィニッシュラインを通過。プック・ピーテルセ(フェニックス・ドゥクーニンク)やデミ・フォレリング(FDJ・スエズ)に競り勝ち、第9回大会の女王に輝いた。
「正直に言うと、自信がありました。だから苦しい場面でもあきらめることはなかったですし、自分の走りを最後の最後まで信じていました。でも、本当に勝ったなんてビックリ! 自分でもすごいことを成し遂げたと思います」(ルコート)
リエージュのウィメンズエディションは、今年で9回目。イベントとしての歴史こそ浅いが、男子と同様にそのテイストは山岳レースに匹敵する難易度で、実際に数時間前にメンズライダーたちが駆けたルートを走る。両者の大きな違いを挙げるなら、男子レースの往路がカットされるあたり。バストーニュの街を出発し、リエージュに向かって北上する間に通過するいくつもの登坂区間は、男女共通である。
クロエ・ダイガート(キャニオン・スラム・ゾンダクリプト)ら3人が出走を取りやめ、コースへ繰り出したのは137選手。早い段階で5人が集団から飛び出したが、レース展開に影響を与えるものとはならない。この間、集団ではリアヌ・リッパート(モビスター チーム)やシルヴィア・ペルシコ(UAE・チーム・ADQ)がクラッシュ。登坂が本格的に始まったところでペルシコはレース続行を諦めている。
スタートから20kmを過ぎたところで、最大8選手による新たな逃げグループが形成され、これを見送ったところからFDJ・スエズがメイン集団のコントロールを開始。タイムギャップを調整しながら進んでいくが、丘越えのたびに自然とその差は縮まっていく。逃げの選手たちの脚の差も顕著になり、上りを通じて散り散りになると、フィニッシュまで70km以上を残した段階で集団へと引き戻される。
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【フィニッシュシーン】リエージュ~バストーニュ~リエージュ ファム|Cycle*2025
天候に恵まれたリエージュ〜バストーニュ〜リエージュ ファム
残り55kmを切ったところでマエヴァ・スキバン(UAE・チーム・ADQ)がひとり飛び出して、一時は集団との差を1分以上に広げる。ヴァレンティナ・カヴァラー(アルケア・B&Bホテルズ・ウィメン)による追走がきっかけになって集団のペースが上がると、コート・ド・ラ・ルドゥット(登坂距離1.6km、平均勾配9.5%)で集団は2人をキャッチ。4年ぶりにこのレースに戻ってきたアンナ・ファンデルブレッヘン(チーム SDワークス・プロタイム)がペースメイクを図ると、最大勾配16.5%の上りで優勝候補と目されていたエリーザ・ロンゴボルギーニ(UAE・チーム・ADQ)が遅れ始めた。
これらの動きで15人にまで絞り込まれたメイン集団。残っているのは精鋭ばかり。パウリーナ・ローイヤッカース(フェニックス・ドゥクーニンク)の動きにファンデルブレッヘン、アントニア・ニーダーマイヤー(キャニオン・スラム・ゾンダクリプト)、セドリーヌ・ケルバオル(EFエデュケーション・オートリー)が反応。フィニッシュまで30kmを残して4人が20秒ほどのリードを得た。
集団では人数を残していたFDJ・スエズが再び主導権を確保。タイム差の拡大を防ぎながら、フォレリングを有利にするべく牽引を続ける。さらにはモビスター チームも加勢。最後の登坂区間、コート・ド・ラ・ロッシュ・オ・フォーコン(1.4km、11.4%)の入口ではその差は15秒を切った。
メイン集団に流れが戻ると、最大勾配15%のラ・ロッシュ・オ・フォーコンでピーテルセが動いた。続いてフォレリングが踏み込むと、ついていけたのはピーテルセと逃げていたケルバオル、さらには世界女王のロッテ・コペッキー(チーム SDワークス・プロタイム)。ファンデルブレッヘンらに代わって4人が先頭に立った。
スピードのあるコペッキーが入ったことでいささか牽制気味となった先頭メンバーだったが、スピードが緩んだところでケルバオルが再びアタック。この間のペースの上下でコペッキーが力尽きると、一度は後ろに下がっていたルコートがフォレリングとピーテルセに合流。ここは協調してケルバオルに追いつくと、その勢いのまま4人は逃げ切りを狙う。
ハードなコースとは裏腹にのどかな風景がつづく
それからは散発的にアタックが出たものの、いずれも決定打には至らず。優勝争いはスプリントに委ねられた。
「残り5kmで脚が痙攣し始めたのですが、チームカーからものすごい励ましてもらいました。スプリントになればデミ(フォレリング)の後ろから加速するよう指示があって、それを実行したのです」(ルコート)
前に押し出されたフォレリングをピッタリとマークし、最後の200mでスプリントを開始。ピーテルセに読まれていたルコートの動きだったが、スピードで上回った。リエージュのフィニッシュラインに一番到達。“クラシックの華”で、キャリア最高の栄誉をつかんだ。
「上りのたびに息が上がってしまって、デミたちのスピードについていけませんでした。でも最後まであきらめることはしませんでした。チームメートが私を集団に戻そうと全力を尽くしてくれたのです。優勝はチームのみんなが与えられた役割を果たした結果だと思います。どんなことがあっても決してあきらめてはいけない。それを証明できました」(ルコート)
一見マイヨ・アルカンシエルかと錯覚してしまう、純白に赤・青・黄・緑のラインはモーリシャスチャンピオンジャージ。インド洋に浮かぶ島国で、アフリカの1国に数えられる共和制の国家である。ルコート自身はフランスから移住した父親とスコットランド人の母親のもとで育ち、12歳で自転車競技に取り組んでからはマウンテンバイクを中心に走ってきた。
一時はロードレースと並行して両競技に取り組んだが、パートナーの住む南アフリカに移り住んだのを機に活動のペースを緩める。7年ほどは、「アフリカ選手権と、ときどきアマチュアレースに出ていた程度」だったという。
そうした生活が心身の消耗を防いできたのかもしれない。昨年、現チームでトップシーンに戻ってくるとすぐに適応。今季に入ってからは出るレースのほとんどでトップ10フィニッシュ。ヨーロッパのサイクルメディアでは、「成長スピードが速い選手のひとり」と記された。
リエージュ一本に集中していたというルコート
「アムステル・ゴールドレース(31位)とラ・フレーシュ・ワロンヌ(6位)も走りましたが、気持ちとしてはリエージュ一本に集中していました。想像以上の結果で驚いていますが、チームのみんなで喜びたいと思います」(ルコート)
ラ・フレーシュ・ワロンヌ フェミニーヌからの連勝がかかっていたピーテルセは2位。最後はルコートをかわすことができなかったけど、大満足で春のシーズンを終える。
「再びポディウムに上がれてとてもうれしいです。アルデンヌクラシックすべてで表彰台に上がることができました。オフロードを走っている私にはリエージュのコースはピッタリ。マウンテンバイクのレースコースに近い印象なのです。自分に合ったレイアウトできっちり結果を出せて自信が深まっています」(ピーテルセ)
昨年同様、アルデンヌクラシックでの勝利を逃したフォレリングだが、新たなヒロインを大歓迎する。
「またひとり、素晴らしい選手が出てきましたね。もちろん以前からキム(ルコート)を知っていて、スプリント力の高さも理解していました。彼女が優勝者リストに名を刻んだことは、私にとってもうれしいです。ライバルが増えるのは良い兆候で、とてもエキサイティングな時代が来ていると実感しています」(フォレリング)
終盤に見せ場を作ったケルバオルは4位。逃げ切った4選手から24秒後にやってきたグループでコペッキーが先着し5位。体調不良による戦線離脱から復帰した過去2回優勝のファンデルブレッヘンは11位でレースを終えた。
新女王誕生に沸いたクラシックシーズンを終え、これからはグランツールへ。春に活躍した選手たちが、今度は数日間の戦いに身を置く。フォレリングが述べるように、「エキサイティングな時代」を象徴する激戦となるのか。時代を築いてきたグランツールレーサーがその力を見せ続けるのか。ウィメンズプロトンのレベルが上がり続けていることを、われわれは実感する。
文:福光 俊介
福光 俊介
ふくみつしゅんすけ。サイクルライター、コラムニスト。幼少期に目にしたサイクルロードレースに魅せられ、2012年から執筆を開始。ロードのほか、シクロクロス、トラック、MTB、競輪など国内外のレースを幅広く取材する。ブログ「suke's cycling world」では、世界各国のレースやイベントを独自の視点で解説・分析を行う
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