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“自分の脚質に向いている”選手がこぞって参戦、シーズン4つ目のモニュメント【Cycle*2025 リエージュ〜バストーニュ〜リエージュ:プレビュー】
サイクルロードレースレポート by 宮本 あさかシーズン4つ目のモニュメント、ラ・ドワイエンヌ(最古参)
春クラシックのトリを飾るのは、シーズン4つ目のモニュメント。1892年生まれのオールドレディ、「ラ・ドワイエンヌ(最古参)」の異名を誇るリエージュ〜バストーニュ〜リエージュだ。伝統的にクライマーたちの狩場となってきた格式高いこのレースが、2025年4月最後の日曜日、2人の王による激闘の舞台となる。
「最も僕の脚質に向いているクラシック」。彼らは揃ってこう断言する。片やディフェンディングチャンピオンのタデイ・ポガチャル。もう一方は初出場で初勝利をさらったレムコ・エヴェネプール。現役ロード世界チャンピオンと昨夏の五輪金メダリストの2人は、この4年間、リエージュの栄光を仲良く分け合ってきた。2021年と2024年はポガチャルが制し、2022年と2023年はエヴェネプールが勝った。
高低差図
そもそも21世紀に入ってから計13回、今大会のタイトルは、グランツール総合優勝経験者の手に落ちてきた。2025年も総距離252kmのコースに、全部で11の起伏が散りばめられ、獲得標高は4000mを超える。チャンピオンシップで勝敗を争う才覚と、難関山岳ステージを先頭でこなせる脚がなければ、決してLBLを攻略することは出来ない。
森や丘をすり抜ける道は起伏をはらむ
ベルギー・ワロン地域に描かれるコースは、まさしくレース名のごとし。リエージュ中心部に建つ荘厳な君主司教宮殿前から走り出し、まっすぐ南下してバストーニュで折り返したら、北上して再びリエージュへ。2つの世界大戦では激戦地となったアルデンヌの、鬱蒼とした森や丘をすり抜ける道は、ただでさえ無数の起伏やうねりをはらんでいる。特にラスト約95kmには、9つの恐るべき坂道が立ちはだかる。
中でも最初に集団をふるいにかけるのが、残り78.5km地点に待ち構えるコート・ド・ストクーだろう。登坂距離1.1km、平均勾配11.9%、最大16%超という激坂であるだけでなく、大会最多5勝エディ・メルクスを讃える記念碑の立つてっぺんまで上りきった先の、下りもひどく難解だ。たった4km先では、立て続けにコート・ド・ラ・オート・ルヴェ(2.2km、7.5%)もこなさねばならない。
ルートマップ
その後のコル・デュ・ロジエは、大会唯一の「コル=峠」だけあり、全長4.5kmと本格的な長さを誇る。続くコート・ド・デニエは2021年に初めて使用された新入りで、1.7km・7.8%をまっすぐによじ登る。前者はフィニッシュまで60km、後者は46.7km。絶好調のチャンピオンたちであれば、独走に持ち込むことも不可能ではない距離かもしれない。
路上ペイントがひときわ派手なコート・ド・ラ・ルドゥット
もちろん現存する最古のクラシックレースの、伝統の勝負地は、「要塞」の名を冠する18世紀末の戦場。フィニッシュ手前34kmに待ち受ける、コート・ド・ラ・ルドゥットだ!
すでに220kmも走り続けてきた勇者たちは、全長1.6km・平均勾配9.5%・最大16.5%の坂道で、全速力のアタック合戦を巻き起こす。2023年にエヴェネプールはここでライバルの大部分を振り払い(その後30km地点の無印の坂道コルネモンから独走開始)、昨年のポガチャルは最も勾配の厳しいゾーンで、勝利の一撃を振り下ろした。
もしもラ・ルドゥットで勝負が決しなかった場合、コート・デ・フォルジュ(1.3km、7.8%、10%)を経て、最終峠コート・ド・ラ・ロッシュ・オ・フォーコン「隼岩」でさらなる殴り合いが見られることになる。初出場時のエヴェネプールは、ここから初優勝への一人旅を始めた。登坂距離1.4km、平均勾配11.4%、頂上間際に15%超あり。最後の最後まで、リエージュ〜バストーニュ〜リエージュは、選手たちにとびきりの試練を与える。
興味深いことに、LBLはときに、フィニッシュラインまで勝負がもつれ込む。2019年以降、南リエージュのウルト川のほとりに最終ストレートが引かれているが、2020年も2021年も5人によるスプリントが繰り広げられた。2度ともにポガチャルは現場に立会い、1年目は3位、2年目は初優勝に輝いている。
おそらく両者の主張に間違いはない。スプリントでも独走でも勝ったポガチャルにとっても、2度の独走勝利を果たしたエヴェネプールにとっても、リエージュこそが「最も僕の脚質に向いているクラシック」なのだろう。昨夏はツール・ド・フランスでも、昨秋は「シーズン5番目のモニュメント」イル・ロンバルディアでもともに表彰台に立ち(いずれもポガチャル勝利)、ほんの1週間前にはアムステル・ゴールドレースでそれぞれに苦い思いを噛み締めた(ポガチャル2位、エヴェネプール3位)。年齢は違うが同じ年にワールドツアーデビューを果たした2人の「元」神童は、しかしリエージュに限っては、いまだ真剣勝負をしたことはない。2023年には揃ってスタートラインに並んだが、本格的な勝負が始まる前に、ポガチャルが落車で戦いを去った。
パートナーの母に勝利を捧げるポガチャル
つまりは2025年大会こそが、初めてのリエージュ直接対決。一体どんな戦いが繰り広げられるのか。果たしてどちらが3勝目をもぎ取るか。もしもポガチャルが勝った場合、モニュメント勝利数は現役単独首位にして史上3位タイの「9」に達する。
ユイの壁で奮闘したベン・ヒーリーやトム・ピドコックもまた、本人としては「リエージュのほうが脚質に向いている」とのこと。「上れるスプリンター」としてマイケル・マシューズはアルデンヌに挑戦し続けるし、秋のイタリアンクラシックではすっかりポガチャルの好敵手となったエンリク・マスは、そろそろ春でも開花したいところ。キャリア絶頂機の2020年大会にやらかしてしまい、いまだに2位×2回に甘んじているジュリアン・アラフィリップは、新しいチームメイトのマルク・ヒルシとともにリエージュ獲り再挑戦。
グランツール総合向きのレースだからこそ、かつてのGC最強軍団イネオス・グレナディアーズも例年気合を入れて臨む。元ツール総合覇者ゲラント・トーマスも、人生最後のリエージュにやってくる。2019年大会王者のヤコブ・フルサンにとってもまた最後のLBLで、6月15日に引退予定のロマン・バルデにとっては、正真正銘、人生最後のモニュメント。興奮の思い出とともに、春クラシック月間が、幕を閉じる。
執筆日時:2025/4/25
※出場予定選手は執筆時の情報を元に作成しています
※※変更になる場合がございますのでご了承ください
文:宮本あさか
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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