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サイクル ロードレース コラム 2025年4月24日

ラスト500mを単独でかけあがったポガチャルが10秒もの差をつけユイの壁を制す【Cycle*2025 ラ・フレーシュ・ワロンヌ:レビュー】

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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ラ・フレーシュ・ワロンヌ

クリケリオン・コーナーで加速しそのまま10秒の差をつけフィニッシュしたポガチャル

長年のつまらない慣習など、タデイ・ポガチャルがあっさりと打ち破った。世界チャンピオンの脚をもってすれば、ぎりぎりまで待っている必要もなかった。最も勾配が厳しいゾーンで加速を切ると、ユイの壁のラスト500mを単独でかけあがり、自身2度目のラ・フレーシュ・ワロンヌ勝利を悠々と手に入れた。

「この厳しくも美しい上りで、再び勝つことが出来て、最高の気分だ。でも自転車乗りとしてはそれほど楽ではない上りだし、今日は天気もあまり良くなくて、だから本当にタフなレースだった。その中でも勝ち抜くことが出来たことは、うん、本当に大きな意味がある」(ポガチャル)

ラ・フレーシュ・ワロンヌ

スーダル、リドル、UAEの3チームがレースをコントロール

朝から冷たい雨が降り続いた。スタート直後に5選手が飛び出していった背後で、3日前のアムステル・ゴールドレース表彰台に選手を送り込んだ3チーム、マティアス・スケルモース擁するリドル・トレックに、ポガチャルのUAEチームエミレーツXRG、そしてレムコ・エヴェネプール率いるスーダル・クイックステップが、勢力的にプロトン制御に励んだ。

特にエヴェネプールは、野心を隠そうとはしなかった。「自分の脚は必ずしもユイ向きではないから」と、序盤から集団にハイスピードを強いて、ライバルたちの脚をあらかじめ削る作戦に出た。

「集団先頭で、僕らは良い仕事をした。チーム全員が力強い走りを見せたし、僕も脚の調子が良かった。とてつもなくモチベーションも高かった」(エヴェネプール)

逃げを無理に追いかける意図はなかったはずだ。ただ自ずとタイム差はほとんど与えなかった。最大でも2分半程度までしか開かず、たいていは45秒から1分半の間を行ったり来たり。これを好機ととらえた選手たちもいた。それが残り143kmで大胆にブリッジをしかけたトビアス・フォスであり、さらに20kmほど先でタンデムアタックを打ったウノエックス・モビリティの2人だ。

このノルウェー人たちは、あっさり逃げと合流する。その上、ついには3人だけで、最後まで粘り続けることになる。レース半ばでユイを頂点とする周回コースに入り、いよいよ本格的なアップダウンが始まると、朝から高速で逃げ続けてきた選手たちにもはや抵抗し続ける体力が残っていなかったせいでもある。濡れた路面に滑り落ち、脱落を余儀なくされる者もいた。

J SPORTS サイクルロードレース【公式】YouTubeチャンネル

【フィニッシュシーン】ラ・フレーシュ・ワロンヌ|Cycle*2025

ラ・フレーシュ・ワロンヌ

少しずつ集団は小さくなっていった

メイン集団もまた、エレフ坂、シュラヴ坂、ユイの壁と3つの起伏を繰り返すうちに、少しずつ規模を小さくしていった。上りのたびにUAEが厳しい加速に転じ、スーダル・クイックステップは平地でも上りでも黙々と作業に勤しんだ。ディフェンディングチャンピオンのスティーブン・ウィリアムズや、3年前の勝者ディラン・トゥーンスは、1周回目を終える前に早々と後方へ消えていった。2周目のシュラヴ下りでは、スケルモースが落車で希望を断たれた。

「今日は天候が本当に厳しかったし、僕らもスーダル・クイックステップも起伏のたびにスピードを上げたから、いつも以上に消耗戦になった。最終登坂に入る前に、みんなすでにヘトヘトだった」(ポガチャル)

ラ・フレーシュ・ワロンヌ

最後まで力強く逃げていた3選手

3度目のシュラヴ登坂へ向かう手前で、いよいよスピードは本格的に上がる。長らく前で泳がせていた3人を、残り7kmで回収し、いまだ80人ほどが残っていたメイン集団は、細く長く伸びていく。

このシュラヴで主導権をがっちりと奪い取ったのが、UAEであり、ポガチャルだった。いまだ2人のアシストが王の脇に控えていた。大雨に見舞われたU23世界選@チューリッヒで独走を披露し、後の世界チャンピオンにインスピレーションを与えたヤン・クリステンが、凄まじい上りの脚で集団を30人ほどにまで削っただけではない。下りではポガチャル自らが加速。それをエヴェネプールがすかさず止めに入ると……なんと前から6番目につけていたクリステンがあえて脚を緩め、小さな分断を作り出すという頭脳戦さえ展開した。

ユイまでの残す平地は、長年の相棒……ながら一緒に転戦するのは2022年ツール以来というブランドン・マクナルティが、先頭で引き倒し、この日3度目にして最後の壁に入ると、再びクリステンが元気いっぱいに速度を上げた。

数あるクラシックの中でも、唯一絶対の勝負地として名高い平均勾配9.6%の激坂は、平日にも関わらずたくさんの観客が詰めかけていた──今年の復活祭のバカンスは、ワロン地方はリエージュの週末から──。中でも最も賑わっていたのが「クリケリオン・コーナー」で、壁の中でも最も厳しいシケインは、ところによって勾配26%にまで跳ね上がる。

ラ・フレーシュ・ワロンヌ

ユイの壁では優勝候補たちが前方を陣取る

ここで前方へと進み出ようとしたのが、ベン・ヒーリーだった。「僕は爆発力には欠けるから、できるだけ遠くからしかけるのが得策だと考えていた」と、いまだフィニッシュまで500mを残して、大胆な動きを企てた。

「レースがどんな風に展開するかなんて分からないし、アタック場所は決めてはいなかった。ただヒーリーが左から僕の脇まで上がってきたから、あ、彼は加速するに違いないぞ、と少しリズムを上げたんだ」(ポガチャル)

サドルから腰も上げずに、(本人としては)少しだけスピードを上げたポガチャルは、状況を確認するように後ろを振り返った。そして改めて上を向くと、決定打を振り下ろした。

「しっかり車輪を安定させられている選手なんてひとりもいなかった。だから最初の加速を切った。そしたら誰もついてこなかった。だから頂上までそのまま走り抜いた」(ポガチャル)

もがくライバルたちを簡単に置き去りにしたポガチャルだが、そのポガチャルもまた、短くて長い独走に、もがき苦しんだ。ちょうど1分半の一人旅。2年前の加速地点である残り200mを切ってからは、我慢しきれず、何度も後ろを振り返った。

「残り200mの看板を見てからも、まだまだ先は長かった。自転車界において、最も長い200mかもしれない」(ポガチャル)

終わってみれば、後続には10秒ものリードをつけていた。過去2年は同タイムフィニッシュで、この10年間でも最大4秒しか差はつかなかった。激坂スプリント続きだったラ・フレーシュ・ワロンヌで、これほどの大きな差がついたのは、実に22年ぶりだった。

雨上がりのユイのてっぺんに、世界チャンピオンが虹をかけた。3月上旬のストラーデ・ビアンケ以来、ひたすらワンデークラシックに専念してきたポガチャルは、パリ〜ルーベ2位、アムステル2位……と続いてきた悪い流れを、豪快に断ち切った。ワンデー6戦3勝と勝率5割に戻し、4日後のリエージュ〜バストーニュ〜リエージュへ、今シーズン2つ目のモニュメントタイトルを獲りに行く。

ラ・フレーシュ・ワロンヌ

優勝ポガチャル、2位ヴォークラン、3位ピドコック

「2位が2回というのは、決して悪くはないけれど、勝利は、もっといい。だから本当に、本当に満足しているんだ。チームの全員が、ここには勝つために乗り込んできたから、仕事を成し遂げられたことが本当に嬉しい」(ポガチャル)

「早すぎず、遅すぎず」と加速タイミングを慎重に見定めたというケヴィン・ヴォークランは、2年連続2位に飛び込み、高いユイ適正を改めて証明した。トム・ピドコックは初めて表彰台乗りを成功させ、アムステル(2024年優勝)、リエージュ(2023年2位)に続き、アルデンヌ3連戦で全トップ3入り達成。

1日中チーム総出でレース作りに励んだエヴェネプールは、16秒差の9位に沈んだ。雨で次第に身体が冷え、最後の上りで、思い通りの爆発力を発揮できなくなっていたという。

「レース最後の1分半を除けば、チームの仕事にも、僕自身の走りにも、最高に満足している。足の調子は本当に良かった。日曜日に向けて、良い印だ」(エヴェネプール)

文:宮本あさか

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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