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男子より1日早く石畳を駆け抜ける北の地獄、SDワークスとヴィスマのコンビ対決から目が離せない!【Cycle*2025 パリ~ルーベ ファム:プレビュー】
サイクルロードレースレポート by 山口 和幸2024パリ〜ルーベ ファム
第5回パリ〜ルーベファムが2025年4月12日にフランス北部で開催される。13日に行われる男子の伝統レース、第122回パリ〜ルーベの女子版だ。前年の覇者で、1週間前のロンド・ファン・フラーンデレンでも優勝したチーム SDワークス・プロタイムのロッテ・コペッキー(ベルギー)、そのレースでタイム差なしの2位となったチーム ヴィスマ・リースアバイクのポーリーヌ・フェランプレヴォ(フランス)らが優勝を狙う。
石畳の悪路を走る女子レーサー
「北の地獄」と呼ばれる石畳の悪路が断続的に出現し、晴れたら土埃まみれ、雨が降れば泥だらけになるパリ〜ルーベは1896年に始まった世界で最も象徴的な春のクラシックレースの一つだ。国際統括団体のUCI(国際自転車競技連合)とレース主催者のA.S.O.により女子クラスがワールドツアーカレンダーに追加されたのは2020年。パンクや落車負傷などで騒然となるレースは無骨な男子のレースだと思っていただけに、まさに画期的で信じられない進展だった。
2020年10月に初開催の予定だったが、新型コロナウイルスによる世界的パンデミックにより中止となった。仕切り直しで2021年10月2日に初開催され、女子選手らは北フランスのパヴェ(石畳)を駆け抜け、ルーベの旧ヴェロドロームにフィニッシュした。サイクルロードレースに新たな歴史が加わったのである。
初代女王はトレック・セガフレードのエリザベス・ダイグナン(英国)だった。レース中盤でアタックし、17カ所すべての石畳セクターを独走して優勝した。ユンボ・ヴィスマのマリアンヌ・フォス(オランダ)が2位で、ダイグナンのチームメイトだったエリーザ・ロンゴボルギーニ(イタリア=現在はUAEチーム・ADQ)が3位に入った。
2022年はロンゴボルギーニがトレック・セガフレード勢として連覇。イタリアのナショナルチャンピオンであるロンゴボルギーニは、レース終盤の第8石畳セクターで単独アタックして優勝した。コペッキーが2位、ルシンダ・ブラント(トレック・セガフレード)が3位だった。
2024年、前年の覇者ジャクソンがパンクでストップ
2023年はカナダのアリソン・ジャクソン(EFエデュケーション・ティブコ・SVB=現EF・オートリー・キャノンデール)が18人の第1集団に加わり、ヴェロドロームでの7人のゴール勝負を制した。そして2024年は世界チャンピオンジャージを着用したコペッキーが優勝している。
第5回大会にして女子レースも北の地獄を走ることが定着した感がある。レースは4月12日(土曜日)にドゥナンをスタートし、ルーベの有名な屋外ヴェロドロームにフィニッシュする。ちなみに隣接して250m室内板張りヴェロドロームもあるのだが、パリ〜ルーベのフィニッシュのために古いバンクも残されている。距離は148.5km。17カ所の石畳セクターがあり、スタートに近い方からセクター17、16、15とカウントダウンで表記される。
パリ~ルーベ ファム ルートマップ
今大会の優勝に関わってくるのは間違いなく現世界チャンピオンのコペッキーと、ロレーナ・ウィーベス(オランダ)の2枚看板を持つチーム SDワークス・プロタイムだ。ともにこの春先から絶好調だ。
春の女子クラシックレースではウィーベスがミラノ〜サンレモで優勝し、コペッキーがロンド・ファン・フラーンデレンで3度目の優勝を果たした。パリ〜ルーベファムはこの2大会に引き続いて今季のモニュメント第3戦となるが、ツートップで走れるチームは多様な作戦が取れるのが利点だ。チームとしてはグランツールでエースを務めてきたデミ・フォレリング(オランダ)がFDJ・スエズに引き抜かれてしまったが、それを含めてワンデーレースで見せつける強さはこれまで以上だ。
パリ~ルーベ ファム 石畳セクター表
さらにチームにはシクロクロス出身で、東京五輪にはマウンテンバイクで出場したカタブランカ・ヴァシュ(ハンガリー)がいる。悪コンディションをものともせず、オフロードでのバイクコントロールには定評があり、今回はどんな役割を担って走るのかに注目したい。
ツートップ態勢とフォスとフェランプレヴォを擁するチーム ヴィスマ・リースアバイクも同じだ。フォスは圧倒的な実績があってレジェンドとなりつつある37歳。そしてフェランプレヴォはそれを超えるかもしれない33歳のフランス選手だ。フェランプレヴォは23歳でシクロクロス、マウンテンバイク、ロードレースの世界チャンピオン三刀流を実現。パリ五輪マウンテンバイク金メダリスト。マウンテンバイクの実績をもっと厳密に言えばクロスカントリーオリンピックだけでなくマウンテンバイクマラソンでも世界チャンピオン。さらにグラベル世界選手権でも優勝している。
サイクルロード三刀流フェランプレヴォが初優勝を狙う
フェランプレヴォはもともとロード選手で、すでに2014年にはエリート女子ロードの世界チャンピオンになっている。その後マウンテンバイクに集中したが、ついに今季から現チームに新加入してロードレースに専任することになった。フォスとフェランプレヴォはストラーデ・ビアンケ、ミラノ〜サンレモ、ロンド・ファン・フラーンデレンで一緒に走っていて、フェランプレヴォがストラーデ・ビアンケで3位、ロンド・ファン・フラーンデレンで2位、フォスがミラノ〜サンレモで2位になっている。
どちらも不整地をものともしない特殊なロード選手なので、コペッキー&ウィーベスコンビに対抗できる存在。とりわけ地元フランスのファンにとってフェランプレヴォは母国のヒロインでもある。ここのところオランダ、それに続いてベルギー選手にいいところをもっていかれる女子ロード界に新たな活力を注入してくれることは間違いない。
石畳を得意とするDNAを備えた選手もいる。U23シクロクロス世界チャンピオン、キャニオン・スラム・ゾンダクリプトのゾーイ・バックステッド(英国)である。父のマグナスは2004パリ〜ルーベ優勝者。ゾーイはまだ20歳だが、パリ〜ルーベは3年連続の出場となり、石畳をうまく走るトレーニングをここまで積んできた。アシスト役にはクロエ・ダイガート(米国)とキアラ・コンソンニ(イタリア)がいる。
リドル・トレックもパリ〜ルーベで新たな勝利を目指している。エリーザ・バルサモ(イタリア)とエレン・ファンダイク(オランダ)で優勝を狙う。バルサモは昨年のパリ〜ルーベでコペッキーにスプリントで敗れて2位。ファンダイクは2022年7位、2024年6位で石畳を得意としているのであなどれない。
2024年はコペッキーがスプリント優勝
日本選手が所属しているチームは参戦できなかったが、来年以降に期待したい。
気象予報サイトのフランスメテオによれば12日は残念ながら晴れ。最低気温8度/最高気温24度というサイクリング日和だ。ちなみに男子レースの13日は雨予報のようだ。いずれにしても北の地獄。どんなに汚れても、途中で落車しても旧ヴェロドロームの決勝ラインを1番で通過した選手が勝ち。表彰式でもらえるのは本物の石畳の敷設に使用される立方体の石のトロフィーである。
執筆日時:2025/4/10
※出場予定選手は執筆時の情報を元に作成しています
※※変更になる場合がございますのでご了承ください
文:山口和幸
山口 和幸
ツール・ド・フランス取材歴30年超のスポーツジャーナリスト。自転車をはじめ、卓球・陸上・ボート競技などを追い、東京中日スポーツ、ダイヤモンド・オンライン、LINEニュース、Pressportsなどで執筆。日本国内で行われる自転車の国際大会では広報を歴任。著書に『シマノ~世界を制した自転車パーツ~堺の町工場が世界標準となるまで』(光文社)、講談社現代新書『ツール・ド・フランス』。青山学院大学文学部フランス文学科卒。
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