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【輪生相談】サイクルイベントに参加した際、私はエントリーモデルのロードバイクに乗っているのですが、スタッフの女性から「私も同じメーカーに乗っていたの。みんなに持ち上げられてすぐ買い替えた」と言われ、悲しい気持ちになりました。
輪生相談 by 栗村 修
サイクルイベントに参加した際、私はエントリーモデルのロードバイクに乗っているのですが、スタッフの女性から「私も同じメーカーに乗っていたの。山に行ったときに重量級と言われ、みんなに持ち上げられてすぐ買い替えた」と言われました。ロードバイクを始めるときはエントリーモデルから始めると思うのですが、自分のロードバイクが好きなのでとても悲しい気持ちになりました。
(女性 会社員)
■栗村さんからの回答
定期的にいただくご質問ではありますが、こういった、ある種のマウンティングはモノを使う趣味にはしばしばつきまとう問題ですので、改めて取り上げましょう。
どうしてもグレードによるマウンティングは生じがちです。本人たちに悪意はないと思いますが、受けた方はいい気分ではないですよね。ただ、自転車に限りませんが、グレードや価格が高ければいいというものではありません。高価さだけを追求したら成金趣味になりかねませんし、重要なのは、自分なりの価値観が確立しているかどうかだと思います。具体的には、こんな感じです。
90年代の日本では、豊かだったせいかロードバイク趣味の人々の大半がデュラエースなどの最上位グレードを使っていました。デュラエースの値段も、今と比べるとかなり安かったですね。ところが、本場フランスに行くと、レース会場でもデュラエースを使っている人がほぼいないんです。デュラエースの2ランク下の105か、せいぜいその上のアルテグラが関の山でした。
そういう彼らが実に格好いいんです。乗った時のフォームや自転車のシルエットは美しいし、速いし、ロードバイク乗りとしての所作というか、振る舞いが洗練されていたからです。あと、バイクが常に綺麗だったのも印象に残っていますね。
翻って当時の日本人サイクリストはというと、機材は言ったように最高峰でしたが、振る舞いがどうも垢抜けなく、フォームやペダリングはガチャガチャで、さらには不思議とバイクが汚れていても気にしない人が多く、正直言って、素敵だとは思えませんでした。
服や自動車でも同じようなことが言えますよね。全身をハイブランドで固めれば無条件でおしゃれかというと、そうではない。サイズが合っているかとか、そのブランドのコンセプトを理解しているかとか、あるいは姿勢や振る舞い、暮らし全体がハイブランドにふさわしいかなど。逆に高い服を身に着けていなくても、格好いい人はいくらでもいます。それは、そこにポリシーがあり、モノと本人の振る舞いが合致しているというか、ある種の合理性があるからですね。
もちろん、あえて「一点豪華主義」的に高級品を楽しむのも一つの正解だと思います。大切なのは、高級とかエントリーとかいう問題ではなく、自分自身の価値観をしっかりと持ち、かつ、それを他人に押し付けないことですね。
あと、最近、トレーニングに復帰した僕は改めて最新の機材事情を勉強し直している最中なのですが、いやあ、今の機材はエントリー・ミドルグレードでもとんでもなく高性能ですね。今の僕は105で組んだバイクに乗っているのですが、僕が現役だったころのデュラエースよりも確実に性能が上です。
近年は機材の高価格化が加速している印象があり、実際その通りだとは思うのですが、「価格あたりの性能」を指標にするなら、むしろ昔より安くなっている気がします。つまり今のエントリークラスのバイクは、過去最高に速くて乗りやすいエントリークラスですから、外野に何を言われようと気にする必要はありません。
それと、ご質問にあった重量についてですが、僕自身の経験談を少し付け加えておきます。
現役時代に乗っていたロードバイクの重量は10kg弱でした。練習時には重いホイールを装着していたので、実際には10kgを軽く超えていたと思います。今は8kg前後のロードバイクに乗っていますが、上りのタイムは当時を大きく下回っています......。
現役時代の自分と53歳のおじさんとなった僕で比較するのは少し無理があると感じられるかもしれませんが、実際にStravaで最新のカーボンバイクに乗った現在の国内プロ選手たちのタイムを確認しても、自転車の重量が2〜3kg違うはずなのに当時の私の記録と差はありませんでした。
下記ブログ記事を参考に確認してみたのですが、有名な富士ヒルクライムを1kg軽いバイクで走った場合、僕の体重とパワーでは、40秒ほどしか短縮できないという試算になりました。パワーに換算するとたった4W程度です。1時間以上かけたヒルクライムで、これだけの差に対して20〜30万円をかけるのが果たして正解なのかどうかは、まさに、その方の価値観次第だと思います。
https://note.com/tatamis_cycle/n/ncc1728fb218bまた、初心者の方であれば、体重を1kg落としたり、出力を5W上げることは、比較的簡単に、しかも無料で達成できるでしょう。しかも、こうした話は「長い上り坂」でのことに限った話であり、平坦な道においては、バイクの重量はほとんど関係なくなります。
少し長くなってしまいましたが、質問者さんはご自身のレベルに合ったエントリークラスのバイクを購入され、それを気に入っていらっしゃるわけですから、「重量がどうこう」という話は、もしかすると余計なお世話なのかもしれません。ロードバイクは、あくまで気持ちよく、そして安全に走ることが大事な乗り物であり、そのバイクと一緒にイベントに参加している質問者さんは最高に幸せな使い方ができているわけで、きっとバイクも喜んでいることでしょう。
ロードバイクの高性能化、高価格化が著しいが、自分のレベルに合ったバイクを気持ちよく乗ることが幸な使い方だ。
文:栗村 修・佐藤 喬
栗村 修
中学生のときにTVで観たツール・ド・フランスに魅せられロードレースの世界へ。 17歳で高校を中退し本場フランスへロードレース留学。その後ヨーロッパのプロチームと契約するなど29歳で現役を引退するまで内外で活躍した。 引退後は国内プロチームの監督を務める一方でJ SPORTSサイクルロードレース解説者としても精力的に活動。
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