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サイクル ロードレース コラム 2025年3月31日

モンジュイックの歓喜! プリモシュ・ログリッチが最終日の独走で逆転総合V、アユソは最後に力尽きる【Cycle*2025 ボルタ・ア・カタルーニャ:レビュー】

サイクルロードレースレポート by 福光 俊介
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総合優勝ログリッチ、2位アユソ、3位マス

さすが、スパニッシュロードでの戦い方を知る男である。過去4度、ブエルタ・ア・エスパーニャを制しているプリモシュ・ログリッチ(レッドブル・ボーラ・ハンスグローエ)が、同国伝統のステージレース「ボルタ・ア・カタルーニャ」で2年ぶり2度目の個人総合優勝。最終日までもつれたフアン・アユソ(UAEチームエミレーツ・XRG)との覇権争いは、バルセロナ・モンジュイックの丘での独走劇で決着させた。

「僕には最後の最後までやり遂げるだけの脚があった。自信をもって走ることができていたし、チームメートの働きも素晴らしかった。最高の1週間だったよ!」(ログリッチ)

ログリッチとアユソ、大会前から2強として挙げられていた両雄の戦いは第1ステージから始まっていた。この日3つ目の中間スプリントポイントで、まずログリッチが動く。ここで3位通過し1秒ボーナスを得たところから、激動の7日間が幕を開けた

負けじとアユソも腰を上げる。第2ステージもやはり、逃げをとらえた後に迎えた3つ目の中間スプリントポイントが“土俵”となる。先に明確な意思を見せたのはログリッチだったが、トレインを組んで万全だったはずの連携が乱れてしまう。この間にアユソが先頭に出て、1位通過。3秒のボーナスタイムゲットで、ライバルからのアドバンテージを得た。

ボルタ・ア・カタルーニャ

ラ・モリーナスキー場フィニッシュは写真判定

探り合いの2日間を経て、いよいよ彼らの“主戦場”である山岳地帯へ。第3ステージから本格的に直接対決が始まって、先勝したのはアユソ。先に飛び出していたチームメートのマルク・ソレルを生かしながら自身のタイミングを計ると、ログリッチの動きに合わせて巧みなスプリント。写真判定まで持ち込まれたが僅差で勝ち切ると、ボーナスタイムによって2人の間に6秒のタイム差が生まれた。

ただこれで、ログリッチが本気になった。1級山岳モンセラートの頂上を目指した第4ステージでは、スタート直後に設けられた中間スプリントポイントから動き出す。1位通過に成功して3秒ボーナスを獲得。その後形勢を整えてモンセラート登坂に移ると、先にアタックしたアユソを一発で追わず、テンポで差を縮める冷静な対応。他のライバルを振り切って2日連続のアユソとのマッチアップに持ち込むと、スプリントで前日のリベンジ。この時点で総合は同タイムながらリーダージャージに袖を通し、今シーズン初の“テレマーク”も披露した。

J SPORTS サイクルロードレース【公式】YouTubeチャンネル

【ハイライト】ボルタ・ア・カタルーニャ 第7ステージ|Cycle*2025

ボルタ・ア・カタルーニャ

2日連続でアユソとログリッチの山頂マッチアップ

「アユソがアタックした後も僕には余力があって、必ず追いつけると思っていた。勝てるかどうかは運次第ではあったけど、無事にステージ優勝できて良かった! これで落ち着いて残りのステージを走れそうだよ」(ログリッチ)

第5ステージでは横風がプロトンを襲ったが、2人そろって先頭グループで切り抜ける。中間スプリントでアユソが3位通過し1秒ボーナスを得たことで、再び総合争いをリード。互角の勝負は残る2ステージにゆだねられた。

ところが。主催者が「大会のハイライトになり得る」と自信をもってコース設定をした第6ステージが強風で、予定通りのレース実施がかなわず。リーダージャージ争いどころではなくなった。ベルガの街を基点とする周回コースを新たに設定したが、一度は2周で競う(1周目はニュートラル走行)と決まった運用も選手たちの提案で撤回。結局約28kmの超ショートステージになって、個人総合争いは“休戦”。もっとも、即刻スタートで短距離レースにしようと先頭に立って主催者と交渉したのはログリッチだった。

これによりアユソとログリッチは1秒差のまま、バルセロナでの最終決戦へ。88.2kmの短距離に、モンジュイックの丘越えが6回詰め込まれたタフなコースセッティング。最終ラウンドのゴングがなるやいなや、レッドブル勢が飛ばしに飛ばす。12.6km地点に設けられた1回目の中間スプリントポイントでログリッチが1位通過に成功し3秒ボーナス獲得。リードアウト役を担ったニコ・デンツも2位を押さえると、3位通過となったアユソが1秒ボーナスにとどまったことで、ログリッチが暫定で首位に浮上する。

モンジュイック入りを前に2回目の中間スプリントがやってきて、今度はアユソが1位で3秒ゲット。デンツをはさんでログリッチが3位通過でボーナスは1秒だったため、またもアユソが1秒差で総合をリードすることとなる。

両者の間隙を縫って仕掛ける選手が現れるものの、レットブルもUAEもガードが堅い。クリアな状態でリーダージャージを争うべく、両チームそろってプロトン内で睨みを利かせる。そして、4回目のモンジュイックで決定的な瞬間を迎えた。

ボルタ・ア・カタルーニャ

総合タイム1秒差で最終日!

「2回目の中間スプリントを終えて、僕には選択の余地がなくなってしまった。勝ちたいなら、自分から何かを起こさないといけなかったんだ」(ログリッチ)

スルスルと集団から抜け出して急坂を駆け上がると、一気に独走態勢へ。真っ先に追わなければならないはずのアユソは、どうにも反応が鈍い。

「ログリッチの真後ろにつけていなければならなかった。頂上が見えたところでエガン(ベルナル)を前に入れてしまったんだ。それもあってログリッチのアタックに反応できなかった」(アユソ)

個人総合での逆転へ向け、最後の20kmをひとりで逃げたログリッチ。6回上ったモンジュイックで一度も失速することはなく、ライバルの追走を許さない。大観衆の待つフィニッシュにひとりで戻ってきた“マエストロ”は、2年ぶりのカタルーニャ制覇を決めた。

「2年前の個人総合優勝では、レムコ(エヴェネプール)とフィニッシュラインを越えた。今回はあの時と違って、ひとりで戻ってくることができた。スプリントをする必要がなかったし、何より他の選手のことを考えずに済んだ。こんなうれしいレースの終わり方はないよ!」(ログリッチ)

歓喜のログリッチから14秒後に2人が続いて、さらに5秒後にメイン集団がフィニッシュ。アユソはこのグループの最後尾でレースを終える。もはやゲームオーバーであった。

「正直に言うと、脚の状態が良くなかった。中間スプリントで1位通過したときに“何とかなるかも”と思ったけど、そんなに甘くはなかったね。ログリッチのアタックも予想はしていたけど、追う力が残っていなかったんだ。今日はどうやったってログリッチが勝っていたと思うよ。仕方ないね」(アユソ)

大会史に残る激闘を演じたログリッチとアユソは、1か月半後にジロ・デ・イタリアで再び相まみえる。マリア・ローザ争いの構図がどうなるかはまだ分からないけど、この2人が有力な立場にあることは間違いない。カタルーニャがジロに好影響をもたらすのではと問われたログリッチは、いま一度気を引き締める。

ボルタ・ア・カタルーニャ

20kmの独走劇で逆転総合優勝

「今日の勝利はあまり影響しない。ジロに向けてさらにフィジカルを上げていかないといけないし、ボルタ・ア・カタルーニャと同じ戦術で走るわけでもない。まったく別のレースだからね。でもモチベーションになることは確かだ。良い気分で次の段階へ移っていけるよ」(ログリッチ)

両者とも、ジロまではレースプログラムを設定していない。ログリッチについては、ひとまず休息し、落ち着いた段階でトレーニングキャンプに向かうという。

今回のボルタ・ア・カタルーニャではこの2人のほかにも、新たなスターが誕生した。19歳の新星、マシュー・ブレナン(チーム ヴィスマ・リースアバイク)である。

昨年は下部組織で走り(トップチームに合流して数レース走った実績はある)、晴れて今季からトップチームの一員に。第1ステージでのいきなりの勝利は、上り基調の最終局面で先駆けしていたティボール・デルフロッソ(アルペシン・ドゥクーニンク)を追いかけて、フィニッシュ手前で逆転。今大会のナンバーワンスプリンターと目されていたカーデン・グローブス(アルペシン・ドゥクーニンク)らを振り切って、価値あるワールドツアー1勝目を挙げた。

変則的なフィナーレだった第1ステージから一転し、第2ステージは“ザ・スプリント”。グローブスらが加速する脇から抜け出したイーサン・ヴァーノン(イスラエル・プレミアテック)が勝利。それを猛然と追っていたのはブレナン。ステージ2位となって前日手にしたリーダージャージを守ることに成功した。

そのジャージは翌日に手放すことになったが、山岳でも要所まで粘ってリーダーとしての責務は果たした。そして第5ステージでは、横風分断の前方で生き残って、しっかりスプリント締め。第1ステージに続くデルフロッソとの勝負にも、再び勝ってみせた。

ステージ2勝を挙げたことで、ポイント賞でのバルセロナ帰還にも意欲を示したブレナンだったけど、第6ステージを前に大会から撤退。チームは19歳のワールドツアー勝利に沸いた一方で、経験値と過度の期待とが見合わない状況を避け、プレッシャーから解放することを判断。もっとも、当初出場予定だった絶対エースのヨナス・ヴィンゲゴーに替わって招集されていた経緯もあり、ここで無理はさせず次につなげることを最優先した。

ボルタ・ア・カタルーニャ

マシュー・ブレナンは強い輝きを見せた

トップスプリンターの仲間入りを果たす勢いのブレナンは、4月上旬にオランダで1レース走ったのち、同29日開幕のツール・ド・ロマンディに出場することが決まっている。

情熱の国での開催に違わない、熱いレースが繰り広げられた7日間。最終成績を整理しておくと、個人総合ではログリッチ、アユソに続き、エンリク・マス(モビスター チーム)が3位入賞。ミケル・ランダ(スーダル・クイックステップ)は1秒差で表彰台に届かず。勝ったログリッチはポイント賞、山岳賞も獲って今大会3冠。アユソはヤングライダー賞を持ち帰る。チーム総合はチーム ヴィスマ・リースアバイクがトップとなった。

ベルギーでは「北のクラシック」が行われ盛り上がりを見せているが、ステージレース戦線も各地で展開中。UCIワールドツアーでは、イツリア・バスクカントリーが4月7日から行われる。

文:福光 俊介

福光 俊介

ふくみつしゅんすけ。サイクルライター、コラムニスト。幼少期に目にしたサイクルロードレースに魅せられ、2012年から執筆を開始。ロードのほか、シクロクロス、トラック、MTB、競輪など国内外のレースを幅広く取材する。ブログ「suke's cycling world」では、世界各国のレースやイベントを独自の視点で解説・分析を行う

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