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【輪生相談】ここ数年、実業団のロードレースの選手が、競輪への移行している気がします。やはりロードレースの未来は明るくないのでしょうか......
輪生相談 by 栗村 修ここ数年、実業団のロードレースの選手が、競輪への移行している気がします。やはりロードレースの未来は明るくないのでしょうか......。もっとロードレースの楽しさを知ってもらいたいのですが、ロードレースの上の方々はどう思っているのでしょう。2リーグに分けたと思えばまた一緒にしたり、強いチームに強い選手が偏り、移籍も水面化でフェアなものなのかファンにはわからず。せっかく応援していても成績を残せば翌年にはよそのチームへ。なんだかなぁーと冷めていく自分もいます。YouTubeとかの見せ方も、もっとやり方があるのではとか。栗村さんの意見が聞きたいです。
(女性 会社員)
■栗村さんからの回答
まだまだマイナーな国内ロードレース界を応援いただき、ありがとうございます。そして、貴重かつ率直なご意見に感謝します。皆さんの目にそのように映ってしまっている現状を非常に申し訳なく感じています。
現状を簡潔に説明するならば、「強化が必要である」という方向性の総論についてはみな賛成ですが、具体的なやり方、つまり各論については様々な意見が出て、まとまっていない状態です。その各論については試行錯誤が続いていますし、ある種の横並び体質が発展に歯止めをかけている感もあります。
加えて、そもそもの目的がツール・ド・フランスで勝てる選手を生み出すことなのか、あるいは世界で戦えなくても国内で娯楽産業として成立すれば良いのかで、評価は大きく変わってきます。ちなみに、意外かもしれませんが、僕は昔から一貫して前者の考え方で取り組んでおり、エンタメはそのための手段です。
今も、レースの現場は、強化や盛り上げの方法を各自が必死に模索している状態です。ただ、一つ言えるのは、別府・新城選手に次ぐ選手が長らく出てきていない以上、あらゆる関係者が選手強化という観点で進めてきた取り組みは、結果論としては成功していないと言わざるをえないということです。もちろん僕自身もその一人です。
これまでの僕の戦略は、国内レースを盛り上げれば国内マーケットが広がり、結果として才能のある若者の参入が増え、やがて彼らが海外へ挑戦することで、ワールドツアー選手が安定的に生まれるのではというイメージを持っていました。そういう狙いを持って宇都宮ブリッツェンの監督や国内レースの主催者などを務めてきましたし、実際、ジャパンカップや宇都宮ブリッツェンなどが先行事例となり、国内に多くの地域型レースやチームが増えてきました。つまり戦略の半分は成功したのですが、では競技力で世界との差が詰まったかというと、残念ながら逆で、むしろ広がりつつあるのが現状です。
私はいわば「国内強化組」だったわけですが、一方で海外にとにかく若者を送り込もうとする「海外挑戦組」の指導者たちもおり、彼らもずっとがんばっているのですが、目覚ましい成果を生めていない点では同じです。つまり、立場の違いはあるにせよ、全員が戦略の修正を求められている状態ですね。
各論がまとまっていないと書いたように、誰もがツールで活躍する選手を生み出したいという総論では一致しているものの、ではどうやってアプローチするのかという各論にズレが生じて、時にお互いを否定し合ったりしている状況です。
ちなみに、おっしゃるようにリーグの分裂騒動もありましたが、僕はそれほど否定的ではありません。新しい形への挑戦というポジティブな方向性の中で起きた人間的なすれ違いが大きくなってしまっただけで、広い目でとらえればトライアンドエラーのひとつです。
さらに、質問者さんがおっしゃるようにロードレース選手から競輪選手への転向が起こっていますが、これもひとつのトライであると捉えていただけると嬉しいです。隣接種目との行き来が盛んになることは、プラスにもなり得ます。
さて、以上を踏まえた上で現時点での私のロードレース強化策述べますね。それは、「ロードレースはいったん縮小させる」ことです。びっくりされるかもしれませんが、まあ、落ち着いて聞いてください。
日本は、道路環境などいくつかの理由でロードレースに関して欧米よりも不利な面があります。ロードレースは、レースにしても、チーム運営にしても、コストと手間が大きいのが弱点です。また、ケガのリスクも大きい。なによりも、国内にレースが増えて、チームがたくさん生まれても、ツールとの距離が一向に縮まっていかないという現実がありますよね。
そこで、日本でも欧米へのビハインドが小さい形で行えるトラックやシクロクロスに「いったん」注力し、選手のフィジカルの根本的な底上げを図るべし、という考えです。その背景には、言うまでもなく近年の世界のロードレースでシクロクロスやトラックからの転向組が活躍している事実が挙げられます。また、昨今の日本勢のトラックでの躍進は、強化に力を入れれば結果がついてくることを示しています。
要は、真正面からロードレースの競技力を強化することが上手くいかなかったので、迂回戦略をとろう、ということです。成功しなかった事実がある以上、同じやり方を続けるのは得策とは言えません。
話が広がってしまいましたが、最後に、日本のチームや選手を応援してくださっている質問者さんにお伝えしたいことがあります。僕の究極の目標は娯楽として成り立つことよりも強化にあるのですが、どの国にも当てはまるカンタンな強化手段などが存在しないことは理解しています。したがって、先行事例を観察しつつ、常にアップデートする必要があります。
その上で言いたいのですが、必ず、日本に合った強化のやり方はあるはずなんです。それが見つかっていないだけです。その方法に少しでも近づければ、応援してくれる方々ももっと安心してレースを楽しめるはずです。
長い目で見て、諦めずにやっていきます。どうかお付き合いください。よろしくお願いします。
日本に合った強化のやり方を見つけ、ツール・ド・フランスで勝てる選手を生み出したい。
文:栗村 修・佐藤 喬
栗村 修
中学生のときにTVで観たツール・ド・フランスに魅せられロードレースの世界へ。 17歳で高校を中退し本場フランスへロードレース留学。その後ヨーロッパのプロチームと契約するなど29歳で現役を引退するまで内外で活躍した。 引退後は国内プロチームの監督を務める一方でJ SPORTSサイクルロードレース解説者としても精力的に活動。
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