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【輪生相談】日本のロードレース漫画では、アシスト、エース、クライマーなどしっかり役割分担をしていますが、実際のレースではどうなのでしょう?
輪生相談 by 栗村 修日本のロードレース漫画では、アシスト、エース、クライマーなどしっかり役割分担をしていますが、実際のレースではどうなのでしょう?ツールとかでは選手の動き、役割がなんとなくわかるのですが、日本の実業団のレースをみていると、逃げ、と第一プロトンも各チーム数人しかいないので役割も何もないように、チームでの動きというよりも協調?栗村さんからはどうみえますか?(漫画と比べてごめんなさい)
(女性 会社員)
■栗村さんからの回答
チームプレーはサイクルロードレースの醍醐味の一つで、理解すると面白さがグッとアップします。ただし、ツールなどのようなきれいなチームプレーを実現するためにはいくつかの条件がありますから、どこのレースでも同じようなレースが見られるわけではありません。
チームプレーを理解するとサイクルロードレースの面白さがグッとアップする。
まず、それぞれのチームの選手数が十分に多いこと。少なすぎると教科書通りのチームプレーは成り立ちにくいです。また、レース距離がある程度以上長い必要もあります。短い距離だとシクロクロスのようにあっという間に終わってしまうので、強いチームや選手が集団を引き倒すくらいしかできなくなります。
さらに大事なのが、それぞれの選手の実力が高いことです。ツールに出場するような選手は、たとえアシストであっても、格下のチームならば絶対的なエースになれるような力の持ち主です。一日中45km/hで走れたり、大柄で400W以上を長時間発揮できたり、それほど強い選手たちが、あえて自分の勝利は狙わず、持てる力をエースのために使うからこそチームプレーが成立するんですね。めちゃくちゃ強くてトップ10は狙えるけど、最後のパンチ力が足りなくて優勝争いには届かないような選手たちが4〜5人でローテションを組めば、そりゃあ色々な局面で戦略を組めますよね。
しかし、レースのレベルが下がると、「エースになれる実力がないからアシストをします」という、消極的な理由でアシストになる選手が増えます。そういう選手は結局のところあまり強くないので、アシストとしての力もそれほどではありませんから、綺麗なチームプレーが生まれないんですね。アシストをするためには、最低限、集団の先頭に立ってレースの平均速度前後でペースメイクできなければならないわけですから。
そしてちょっとキツイ言い方をすると、日本のアシスト選手たちは、「強い選手があえてアシストを選ぶ」というパターンよりは、後者のケースの方が多いのです。するとレースでは集団について走るのが精いっぱいで、とても意味のあるアシストができなかったりします。
もちろんそういう選手たちが多いレースであっても、監督や選手たちはいろいろと策をめぐらせてチームプレーを行おうとしています。実際、日本のレースでもチームプレーはたくさん行われているのですが、ツールのように綺麗な形にはなかなかならないんですね。
一つの基準を示すとすれば、述べたようにレースの平均速度に対する選手の実力です。一般的にレース距離が長くなると平均速度は下がるため、意図的にペースを上げることでレースに展開を生み出せます。
世界トップクラスのプロトンは、全員が本気で走れば200kmのレースを平均50km/h以上で走り切れるでしょう。しかし、通常のレースの平均速度は40km/h強であるため、彼らは余力を残して走っているんですね。そのため加減速によって戦略的な緩急をつけやすく、目に見えるチームプレーが生まれやすくなります。さらに、そういうプロのレースでは、一般的に最後の1時間で急激なペースアップが行われます。
しかし、日本のレースではプロトンの実力の上限に近い速度で走ることが多いため、今述べたような戦略的な緩急をつける余地があまりないんです。さらに、最後の1時間に急激なペースアップが行われることはほぼありません。
とはいえ、世界トップレベルの選手たちの間でもチームプレーの形は変わりつつあります。ポガチャルが世界選手権で100km近く独走勝利を収めてしまうような時代ですから、教科書的な「エース/アシスト」関係は変わりつつあるのかもしれません。その意味では、プロのレースがアマチュアレース化してきているのです。ただ、そもそもの実力が高いからこそ映えるアシストができる、という条件は、今後も変わらない気がしますね。
そして最後にもう一点。かっこいいチームプレーを実現したいからといって、日本のレースのプロトンの平均速度を下げることは適切ではないと思います。本場ヨーロッパのアマチュアレースでは、選手が次々と前へ飛び出していく展開が多く、プロレースのような戦略的なチームプレーはあまりありません。そこでは実力者同士がチームを超えて弱い選手を引き離そうとする、いわば弱肉強食的な戦いが展開されています。その結果、実力が試され、強い選手が勝つレースになっています。日本のレースで平均速度を下げてまで「プロごっこ」をすることは、競技力向上という観点からはマイナスになるでしょう。
文:栗村 修・佐藤 喬
栗村 修
中学生のときにTVで観たツール・ド・フランスに魅せられロードレースの世界へ。 17歳で高校を中退し本場フランスへロードレース留学。その後ヨーロッパのプロチームと契約するなど29歳で現役を引退するまで内外で活躍した。 引退後は国内プロチームの監督を務める一方でJ SPORTSサイクルロードレース解説者としても精力的に活動。
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