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サイクル ロードレース コラム 2025年1月22日

【輪生相談】世界と日本のロードレースの実力差の原因はどこにあるのでしょうか。

輪生相談 by 栗村 修
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世界と日本のロードレースの実力差の原因はどこにあるのでしょうか。以前は体格差、選手人口差などが原因だと考えていたのですが、今年の世界選手権の男子スクラッチで窪木選手が世界一になるという快挙を見て、逆に原因がわからなくなりました。窪木選手に限らず昨今の日本のトラックレースはブノワ・べトゥ氏による厳しい指導により大きく競技力が向上しています。逆に言えば「厳しい指導」が不足していることが日本のロードレースが低迷している原因だという仮説も成り立ちます。実際に(失礼ながら)窪木選手はロードレースでは世界レベルに届かなかったわけですから。個人的には真面目な日本人の練習が不足しているとは考えたくないですが、過去にヨーロッパで一流選手と走った経験を持つ栗村さんは「日本と世界のロードレースの実力差」はどこに原因があるとお考えでしょうか。

(男性 会社員)

■栗村さんからの回答

栗村さん

選手の強さは、シンプルには「フィジカルの才能×トレーニング×スキル」という式で表せます。
才能は先天的なものですが、トレーニングは後天的な要素ですよね。そしてスキルは両方が入り混じっています。あと、機材の影響はここでは割愛しますね。

質問者さんは窪木選手という特定の選手を例に挙げてロードレースとトラック中距離での成績の差について考察していますが、鋭いですね。同じ選手ですから、上の式の先天的なものの影響をほぼ取り除いた実験だとも言えます。

20240707TDF0038-A.S.O._Billy_Ceusters.jpg選手の強さは「フィジカルの才能×トレーニング×スキル」という式で表せる(写真は2024ツール・ド・フランス総合優勝のタデイ・ポガチャル)

もちろんロードレースとトラック中距離では競技人口が違います。ですが窪木選手はロードレースでは世界トップとはいきませんでしたが、トラック中距離でアルカンシェル獲得という偉業を成し遂げました。それはつまり、日本でのロードレースが置かれた環境には、トレーニング方法か、スキルの後天的な面を身に着ける技術に世界標準に対する差があることを示唆しています。

そして、実際の答えはその通りです。窪木選手を含めトラック各種目で日本初の世界チャンピオンが何人も出現したのは、強化費によって有能な外国人コーチを招き、ライバル国よりも「トレーニング」と「スキル」の強化にコストをかけられたからです。つまり、日本人選手であっても、リソースを有効に使えれば世界一になれるということです。

もちろん、目標がロードレースならば選手人口が多く、種目としての成熟度も高いですから、強化にかかるコストも莫大なものになります。それと、ロードレースでの強化ノウハウは、各国のナショナルチームではなくワールドチームに蓄積されています。ですから、その環境に飛び込まなければノウハウにアクセスできないという問題があるのですが、原理的には同じです。窪木選手のようなフィジカルの才能がある若者を発掘し、お金をかけて最先端のトレーニングを行い、さらにはフォーム改善等スキルアップをはかれれば、日本人がツールに勝つことも可能なのです。

質問者さんは「厳しい指導」や練習量の必要性を心配されているようですが、現代のロードレースは厳しい指導者を付けてがむしゃらにただ追い込めば強くなるような世界ではありません。科学的な知見に基づいた合理的なトレーニングやフォーム改善、栄養指導や質の高い休養などが欠かせません。事実、年間の走行距離や練習量は僕が現役だった頃に比べて現在の方が少なくなっているといわれています。

ただガムシャラな頑張りの度合いならば、日本の無名選手でもポガチャルやウィンゲゴーに並ぶ選手はいるでしょう。でも、その「質」が問題なんです。あとは生まれ持った才能と。そして、質の高い頑張りを手に入れるためには、ハイレベルなリソース、すなわち優秀なスタッフを雇う必要があります。

誤解しないでほしいのですが、僕は頑張りや根性を否定するものではありません。むしろ、最後の勝負はそこで決まると信じています。しかし、これは日本人の特徴かもしれませんが、頑張ることには危険な自己満足に陥ってしまうリスクがあるんですね。達成感で満たされてしまい、努力の質について反省することを忘れてしまうのです。

金満チームに、根性と創意工夫で立ち向かって勝利することには少年マンガ的な夢がありますし、そういう夢は大事だと思います。でも、サイクルロードレースの現実はもう少し冷徹かもしれません。

とはいえ、今回の窪木選手によるトラック中距離でのアルカンシェル獲得が日本の中長距離選手にとって、非常に大きな希望になるのは間違いありません。なぜなら、「できる」と信じられることは、選手をはじめ現場に関わる全ての人々にとって何よりも重要だからです。

ロードレース選手の強化ノウハウは、世界トップクラスのワールドチーム内で僕たちが想像する以上に高度な水準にまで引き上げられています。その現実を踏まえると、現時点での最善策は、才能ある日本人選手を発掘し、ナショナルチームなどで一定のレベルまで育成した後、できるだけ早い段階でワールドチームへ送り込むことだと思います。

文:栗村 修・佐藤 喬

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栗村 修

中学生のときにTVで観たツール・ド・フランスに魅せられロードレースの世界へ。 17歳で高校を中退し本場フランスへロードレース留学。その後ヨーロッパのプロチームと契約するなど29歳で現役を引退するまで内外で活躍した。 引退後は国内プロチームの監督を務める一方でJ SPORTSサイクルロードレース解説者としても精力的に活動。

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