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【輪生相談】チーム運営を行いたいと考えているのですが、ツール・ド・フランスで勝つようなチームを作る為に必要な予算の最大値と期間はどれくらいでしょうか?
輪生相談 by 栗村 修私はロードレースを辞めた後、自転車業界で10年以上仕事をしています。本当にたくさんの仕事を経験させて貰っており、日々感謝しかありません。サイクリングに人生を捧げて恩返しをしたい気持ちと共に、未来を創ることを本気で考え職務に励んでおります。そんな私の目標の一つに、日本に根付いたチームがツール・ド・フランスで勝利し、一夜の熱狂を創り出すことがあります。ラグビーワールドカップの南アフリカ戦のような熱狂を作りたいのです。その為にはヒト、モノ、お金の全てが高い次元で必要だと理解しています。特にロードレースにおいて、スポンサー支援に大きな割合を占める都合上、国内外ともにお金の問題は目につきます。だからこそ私の会社の利益を上記目標の為に配下し、主たるチーム運営を行いたいと考えています。熱くなってしまいすみません。お恥ずかしい質問になりますが、ツール・ド・フランスで勝つ為に必要な予算の最大値と期間はいくらを見積もれば良いか教えて貰えませんか。昨今のレース環境も鑑みて、ジュニア育成から含めて頂いても構いません。お知恵をおかしください。
(男性 会社員)
■栗村さんからの回答
熱いご質問をありがとうございます。ご質問について、大きなテーマを優先順位順にお答えしていきましょうか。
まず、もっとも重要なのがチーム予算の確保です。
ここ数年、ワールドチームの予算額は激増していますから、過去の感覚をアップデートしなければいけません。最近のニュースですと、直近の3年間だけでワールドチームの年間予算の総額は33%増加し、5億7000万ユーロにも達したということです。日本円にすると900億円を超えます。
この総額を18あるワールドチームで割るとおよそ50億円ですが、チームによって格差があるようで、レッドブルやUAEのような大チームは80億円ほどの年間予算を使えるようです(いずれも参考資料はこちら)。いずれにせよ、1年あたり数十億円のお金が必要になることは間違いありません。
したがって、「日本に根付いたチームがツール・ド・フランスで活躍」という目標のためには、何はさておき、年間数十億円のお金を集められる経営者が必要です。これができなければ何も始まりません。かつてのように情熱と創意工夫だけではどうにもならない世界になってきています。
具体的には、各チームは主にスポンサーからの広告費用で予算を賄っています。1990年代後半のドーピングスキャンダルによってワールドワイドレベルのメジャースポンサーが撤退する動きがありましたが、近年はレッドブルの参入が象徴するように、メジャースポンサーが戻ってきている流れがありますから、空気は悪くありません。そこでスポンサーを獲得できるスペシャリストが必要になります。
予算が確保できたとして、次に必要なのがチームスタッフです。
チームのスタッフというと、監督、メカニック、マッサーがまずは思い浮かぶ方が多そうですが、現代のロードレースでは科学的なトレーニングの知見があるコーチやドクター、データサイエンティスト、スポーツ管理栄養士、最新・最速の機材を用意できるメーカーサポートなどが欠かせず、見方によっては選手以上に重要な存在になっています。奪い合いも熾烈だと聞きますから、そういうスタッフを集める知識や人脈のある人が、やはり必要です。
チームオーナーは日本人が望ましいですが、スポンサー確保の専門家とスタッフについては日本人である必要はなく、むしろ初期段階では経験のある有能な外国人スタッフを多く集めて、いかにノウハウを多く吸い上げられるかが重要になってくるでしょう。
ただし、現実問題としてはいきなり膨大な予算と有能なスタッフをかき集めることは不可能なので、一つ下のランクであるUCIプロチームから数年かけて準備を進めていく必要があります。
お金が無ければ優秀なスタッフは集まりませんし、お金があってもスタッフの能力が低ければお金をドブに捨てる結果となってしまいます。雇用は難しい問題ですが、世界一を目指すならばある程度ドライにヘッドハントと解雇を、つまりトライ&エラーを繰り返す必要があり、これができなければファミリーチームの運営に目標を切り替えた方が良いでしょう。
さて、その次に来るのが才能のある選手の発掘でしょうか。
残念ながら努力だけでは世界一にはなれません。才能が必要です。今は、パワーメーターで強さをある程度定量化できます。不確定要素があるロードレースのリザルトだけではなく、トラック競技やタイムトライアルレースなどで若者の才能を選別することも重要です。日本は先進国としては人口が多い国ですから、日本人の中にもツール・ド・フランスで総合優勝を狙える才能を持った若い個体はいるでしょう。その個体を早いうちに発見し、サッカーや野球ではなく、ツール・ド・フランスを目指してもらう必要があります。
そして最後が選手の育成と強化です。
「日本人でツールを目指す」というと、ほとんどの場合は育成や強化についての話に終始しますが、優先順位はむしろ最後です。なお、発掘・育成・強化にもある程度の時間が必要なので、初期段階では「完成された」海外プロ選手を集めて実績を積み上げていき、水面下で日本人選手の発掘・育成を進めていかなくてはなりません。
才能のある日本人選手の発掘・育成・強化(完成)に10年かかるとして、単純計算で50億円×10年=500億円の予算が必要です。それらを見落として既存選手のトレーニングや強化の話ばかりしても、意味がないとは言いませんが、ツール・ド・フランス制覇という壮大なゴールにはたどり着くのは難しいでしょう。
夢がないようですが、まずは資金集めがすべてです。先立つものがなくてははじまりません。年間数十億円の予算を確保する道筋を描くこと、そして優秀な人材を集めること。それが偉大な目標への第一歩になるでしょう。
トップチームの運営には多額の資金と優秀なスタッフが必要だ。
文:栗村 修・佐藤 喬
栗村 修
中学生のときにTVで観たツール・ド・フランスに魅せられロードレースの世界へ。 17歳で高校を中退し本場フランスへロードレース留学。その後ヨーロッパのプロチームと契約するなど29歳で現役を引退するまで内外で活躍した。 引退後は国内プロチームの監督を務める一方でJ SPORTSサイクルロードレース解説者としても精力的に活動。
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