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自分は海外のワールドツアーに出るような選手になるのが夢で現在は練習と英語に励んでいます。海外選手になるためには最終的に語学力とレースに通用するような強さが大事だと思います。そこで自分はヨーロッパへいき自転車留学をした方がお金はかかりますが語学力と強さの両方を得られると思いました。高校に入学せずロードレース1本で行くのは厳しいでしょうか?高卒認定もなしでもしロードレーサーになれなかったらどうするの?とよくいわれますが、保険をかけて高校に行くのは無理だと分かっているから選択した行動だと思います。まだ中学生3年生ですが高校入試まであと3ヶ月しかありません。どのような方法が良いのかお返事お願いします。
(男性 高校生以下)
■栗村さんからの回答
中学3年生なのにとても真剣にご自身の人生を考えていて素晴らしいです。質問者さんがおっしゃるように、語学力を習得した上で早めに本場へ行く選択肢は「一定の条件を満たした人材であれば」正解になると思います。
その一定の条件とは、メンタルとフィジカルの準備ができていることです。簡単に説明しますね。
まず、メンタルの準備というのは、あらゆるストレスに対する耐性です。「強さ」でも「鈍さ」でもどちらでも大丈夫ですが、質問者さんは、孤独で追い込まれた状況でも、常にケロっと笑って楽観的でいられる性格でしょうか。
続いてフィジカルの準備ですが、たしかに欧州へ行けばレース漬けにはなります。質問者さんのフィジカルは、生まれつきかなりハードにロードバイクに乗っても壊れず、さらに週3回のレースを走りながらどんどん強くなれるつくりになっているでしょうか。
質問者さんが生まれつき上記の資質を持ち合わせていれば、準備はできていますので、思い切ってチャレンジしても良いと思います。
一方、そうではない、もしくはどうかわからないのであれば、まずは日本国内のレースで自分を試してみることをお勧めします。その場合は、当然、高校へ通いながらになりますが、質問者さんが考えているほど遠回りにはならないのでご安心ください。
まず、漠然と「『本場』である欧州に行けば道は開けるはず」だと感じてらっしゃると思いますが、それは正解でもあり、不正解でもあります。場合によっては、日本でレースに出続けたほうがワールドツアーへの道のりとしては効率的なケースもあります。
何を隠そう、僕もまさに質問者さんのように考え、高校を辞めてフランスへ渡った一人です。渡欧の当初は「流石本場だ」と感激し、たくさんのレースに出ましたが、やがて気づいたんですね。「本場にはレースがたくさんあるけど、プロになる連中はこういう草レースにはいない」ということに。
欧州はロードレースの本場ですから、たくさんのレースがあります。でも、プロのスカウトは、草レースなんて見ていないんですよ。彼らが見ているのはツール・ド・ラブニールなど有望な若手が集まる一部の有名な国際レースです。それらのレースに出られないなら、少なくとも正規ルートでワールドツアーデビューを目指すという意味では、日本のホビーレースを走っているのと大差ありません。
もちろん、欧州でアマチュアレースに出る生活を送ることで身につくことはたくさんあります。欧州での生活能力や、語学力、あと基本的なレーススキルですね。でも、漫然とレースに出ているだけでは疲労やマンネリなどで弱くなることさえありますし、欧州とはいえアマチュアレースのレベルは日本のJプロツアーより低いこともあります。それに、本場のクラブチームは意外と最新の強化方法を知らなかったり、伝統があるが故にレース頼りになってノウハウの面では遅れている部分があったりもします。
質問者さんのように考えて若いころに欧州に渡った日本人は、僕以外にも実はたくさんいました。でも、そのほとんどはプロにもなれずに終わりました。新城・別府選手は例外中の例外であることを忘れてはいけません。
こういった問題があることを前提として、改めてお答えします。
UCIワールドチームにUCIプロチームも加えると世界には「プロ選手」が約1,000人いることになります。この1,000人のうち毎年10%の選手が入れ替わったとして毎年100名の新規枠を争うことになります。では、この新規枠を各チームがどの様な基準でスカウティングしているでしょうか。
1.ツール・ド・ラブニールや世界選手権などU23やジュニアのトップレースをモニタリング
2.自転車競技の他種目や、他競技出身選手、年齢はいっているが国際レース出場経験がなく各チームのスカウトが見落としている選手など、上記正規ルートの外で化け物級のフィジカルを持った選手をモニタリング
3.一時期の日本のようにマーケティング的な意味での強みを持った国の選手など、スポンサーを持ってきてくれそうな選手
先ほど書いたように、欧州の一般的なアマチュアレースにはプロのスカウトはほぼ興味を持っていません。そういったレースで勝ってもトップチームの目には止まらないでしょう。一方、最近のトップチームはデータを重視しているのでレース経験があまりなくてもパワーなどフィジカルデータが凄ければ興味を持ってくれます。
ですので、質問者さんが注力すべきは、まず、自身のフィジカルのポテンシャルを高める方法を学び、ワールドツアーレベルで戦うための数字的な強さを段階的に獲得していくことです。そのためには、独学でもある程度は追求できますが、やはり有能なコーチに出会うことが大切です。自転車のトレーニング方法だけでなくウェイトトレーニングなどで基礎体力のアップ、フォームやペダリング、ポジションなどの研究、最新の栄養学の勉強、そしてボディケアの知識も身につけた方が良いでしょう。これらが選手としてのベースになるわけですが、それらを持って英語を習得し、欧州に渡ることで時間的な効率はとても高まるはずです。要するに、「最短ルートのつもりで欧州へ渡ったのに、実はすごい遠回りをしていた」というありがちなミスを避けられることになります。
あくまで個人的な印象ですが、一般的な日本人は後天的にフィジカルの強化やフォームの調整などを行わないと、才能のある欧米人のようにレースに出ていれば勝手に強くなっていくことはないように感じています。
今、日本国内で上記のフィジカル強化を積極的に受けられる環境は、トラック種目の強化を担う「HPCJC(High Performance Center of Japan Cycling)」です(HPCJC)。なお、HPCJCの選手育成プログラムに参加するためには「トラック強化指定選手」に選ばれる必要があります。以下をご覧ください:HPCJC FAQ。
ここまで書いたような事情を考慮すると、高校へ行かずにいきなり欧州へ渡って漠然とアマチュアレースを走ることのメリットがそれほど大きくないことがわかると思います。それよりは、トラック中距離やシクロクロスなどの日本代表(強化指定選手)を目指しつつ、各種目のU23世界チャンピオンを目指した方が、よりトップチームの目に留まりやすいのではないでしょうか。質問者さんの脚質は分かりませんが、トラック中距離に力を入れている日本の高校へ進学して世界大会を目指すのも良い手だと思います。
また、浅田顕監督はじめ海外と強いパイプを持った日本人指導者や日本チームと早めに繋がりを持つことも大切だったりしますので、メールを送ってみたり、レース会場で会ったら積極的に挨拶をするようにしてくだいね。応援していますよ!
ポガチャルもツール・ド・ラブニールでの総合優勝(2018年大会)を経てUAEチームエミレーツへ移籍している
文:栗村 修・佐藤 喬
栗村 修
中学生のときにTVで観たツール・ド・フランスに魅せられロードレースの世界へ。 17歳で高校を中退し本場フランスへロードレース留学。その後ヨーロッパのプロチームと契約するなど29歳で現役を引退するまで内外で活躍した。 引退後は国内プロチームの監督を務める一方でJ SPORTSサイクルロードレース解説者としても精力的に活動。
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