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【輪生相談】レース中に選手がボトルの水を頭からかぶるのを目にすることが多々あります。かぶる用途を考えてボトルの水は真水の方が良いのでしょうか?
輪生相談 by 栗村 修ロードレース中継を見ていて、レース中に選手がボトルの水を頭からかぶるのを目にすることが多々あります。自分は特に暑い日は塩分補給のためにスポーツドリンクを入れがちなのですが、かぶる用途を考えて真水の方が良いのでしょうか?それとも選手達はベタベタになりながらスポーツドリンクをかぶっているのでしょうか?
(男性 会社員)
■栗村さんからの回答
意外と、皆さん気になっているようですね。結論から言うと、体温を下げるために使う水は基本的に真水です。スポーツドリンクをかけると、ベタベタして不快になりますから、よほどの緊急時を除いては使わないほうが良いでしょう。もう暑さのピークは過ぎましたが、日本の酷暑は災害レベルですから、暑さ対策は重要なテーマですね。
僕が現役だったころは、積極的に水をかぶる選手は少数派でした。「水をかぶるなんてもったいない」という感じでしたね。身体を冷やす重要性がまだ知られていなかったんです。
しかし、最近のプロの海外レースでは、選手たちはレース中に頻繁に水をかぶり、首の後ろにアイスパックを入れる、ウォームアップやクールダウン時にはアイスベストを着用する、さらにはレース後にアイスバスに入って体を冷やすなど、以前と比べ物にならないほど体温を下げるための対策を取っています。こうした対策が行われるようになった背景には、深部体温計の普及により、体温の上昇とパフォーマンスの関係が可視化されるようになったことがあるのでしょう。
今やっているブエルタなどを見ても、選手たちが受け取るボトルには大体、ジェルがくくりつけられていますよね。思うに、今はかぶることができないスポーツドリンクのボトルの割合は減り、水+カロリー補給用のジェル、という組み合わせが主流になっているのではないでしょうか。それほど水をかぶることが重視されているわけです。一般の方でも手軽にできる方法をいくつか紹介しましょう。
まず、夏場のロングライドには、ロングボトルを2本用意して、エネルギーやミネラル類の補給用とかぶる用に分けるのがおすすめです。レースであれば、スタート前から積極的に体の深部体温を冷やしておいてもいいですね。
プロのレースでは水をかぶることが重視されている
僕自身、現役時代には夏のレース前に全身に水をかけ、びしょびしょの状態でエアロスーツを着てスタートラインに立っていました。なぜエアロスーツかというと、水を吸っても通常のウェアほど重くならないからですね。当時は「変な人」扱いされましたが、どちらも正しかったと思います。
ただし、筋肉をレースに備えた状態にするウォーミングアップと深部体温を下げることは相反する行為でもあるため、冷やす場所が重要です。体に関する研究は日進月歩ですので、もしかすると来月には全く逆のことが言われるかもしれませんが、現時点で効果的に深部体温を下げることができる部位を紹介しておきます。
まず、首筋や脇、足の付け根といった太い血管が皮膚の近くにある部位。これらの部位を冷やすと、効果的に体温を下げることができます。保冷剤や凍らせたペットボトルを当てたり、濡れたタオルを巻いて風を当てたりするのが良いでしょう。
また、手のひらや足の裏、頬には、動静脈吻合(どうじょうみゃくふんごう)という部位があり、温度に応じて血管が収縮・弛緩することで深部体温を調整しています。太い血管がある場所を冷やすのが難しい場合でも、手を冷たい水に浸したり、手足を濡れたタオルで拭いたり、凍らせたペットボトルを手に持つだけでも効果は期待できます。
コンビニなども活用しつつ、単に暑さをしのぐために水をかけるのではなく、科学的な知見に基づいて深部体温を調整してみてください。
ただ、一つ補足すると、人間の体には本来、様々な調整機能が備わっています。科学で解明されているものもあれば、まだ未知の領域もあるでしょう。トレーニング方法や食べ物などに限らず、人為的に無理をすると目に見えない悪影響が生じたり、体全体のバランスが崩れる可能性もあります。そのため、プロではないサイクリストの皆さんは決して無理をせず、体の声に耳を傾けながら自転車を楽しんでいただければと思います。
文:栗村 修・佐藤 喬
栗村 修
中学生のときにTVで観たツール・ド・フランスに魅せられロードレースの世界へ。 17歳で高校を中退し本場フランスへロードレース留学。その後ヨーロッパのプロチームと契約するなど29歳で現役を引退するまで内外で活躍した。 引退後は国内プロチームの監督を務める一方でJ SPORTSサイクルロードレース解説者としても精力的に活動。
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