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昨日、シーズン最初のレースとなる 『第53回社会人対抗ロードレース』 に出場し、宇都宮ブリッツェンの飯野選手が、今シーズから Team UKYO に移籍した土井選手を抑えて優勝を飾りました… が、実際は土井選手が周回数を勘違いするというハプニングがあったため、『勝たせてもらった』 という表現が正しいといえます。
チーム全体の内容としては、飯野選手以外の選手は全員が後続のメイン集団内でのゴールとなっており、課題もそれなりに残る初戦となりました。
レース中盤に形成された13名(大学生やクラブチームの選手も含む)の先頭集団に残れたのは飯野選手のみ。一方、Team UKYO は4名がこの中に入り、現時点での戦力は Team UKYO の方が上であることがハッキリとしたレースでもあります。
しかし、Team UKYO の戦力が我々を上回っていることは既にわかっていたことでもあるので、今回のレースで光る走りをいくつかみせた宇都宮ブリッツェンの若手選手たちの可能性を信じ、引き続き地に足を着けた活動を続けながらチーム全体のレベルアップを目指していきたいと思います。
そして、修善寺でのレースが終わったあとすぐに土井選手と共にお台場へ移動して、世界一のワンデーレースである 『ロンド・ファン・フラーンデレン』 の中継に挑みました。
勝ったのは、優勝候補最右翼のファビアン・カンチェラーラ(レディオシャック)。
ボーネン(オメガファルマ)が序盤にクラッシュしてリタイヤする波乱の展開のなか、ライバル全員からマークされながらも圧倒的な力で全員を引きちぎった強さはまさしく『異次元』。
来週の 『パリ〜ルーベ』 でも、チームがうまく機能し大きなアクシデントに見舞われなければ、勝利を手にする可能性はかなり高いのではないでしょうか。
そんなロードレース三昧の一日ではありましたが、お台場へ向かうクルマのなかでは土井選手が持つジレンマに触れる時間帯もありました。
昨年まで世界最高峰の舞台で活動していた土井選手が、いきなり日本のローカルレースに出場するということは、モチベーションを維持するという観点でみると決して容易な作業ではないはずです。
人が何かを考えるときというのは、様々な 『視点』 や 『時間軸』 を選択した上で答えを探しにいきます。
そして、その選択された組み合わせによって多様な 『価値観』 が生み出されるのです。
選手や現場に近い指導者というのは、 『現場視点』 & 『短い時間軸』 を選択することが一般的。
それは、実生活に於ける我々の思考と同様で、国や大企業といった大きな組織を作る側の人間と、その中でルールに従って生活する側の大多数の人間とでは、必然的に物事の考え方(価値観)が変わってきます。
土井選手は現役選手である以上、当然 『現場視点』 & 『短い時間軸』 での思考を持っており、この組み合わせが現場レベルでの向上心を生み出していきます。
しかし、今の土井選手の心の中には、若手育成や日本のレース界発展などの 『マクロ視点』 & 『長めの時間軸』 という組み合わせの価値観も存在しています。
この二つの価値観が彼の心のなかでぶつかり合っているように感じました。
選手としての価値観のみで物事を考えると、恐らく今の環境というのは全てに於いて物足りなく、彼の心をネガティブにしてしまうでしょう。
一方で、マクロな視点で物事を考え過ぎてしまうと、そもそも危険で先の見えない競技活動という特殊な活動へのモチベーションを維持することができなくなってしまいます。
当然、レース現場に関わる人達の大多数は 『現場視点』 なわけですから、今の土井選手の立場を理解してくれる人の数というのは決して多くはないでしょう。
本場での活動というのは、肉体的には相当に厳しいチャレンジになりますが、うまく自分の居場所を見つけることが出来れば精神的には健全(現場視点的に)になれます。
一方で、国内での活動というのは精神的に不安定になり易く、これまでも多くのトップ選手たちがその壁と戦ってきました。
現在、本場欧州で活躍している選手たちにも、いずれ次の選択を迫られる時間帯が訪れます。
その時に彼らを受け入れる受け皿が用意されていなければ、彼らの経験は次世代に受け継がれることなく封印されてしまうことになります。
もし、彼らが個人の努力でチームなどを持ったとしても、そのノウハウが日本のレース界全体にフィードバックされることは難しいはずです。
土井選手は、宇都宮ブリッツェンにとって今シーズン最大の強敵でありますが、一方で、日本のレース界に於いては重要な経験を持つ大切な選手でもあります。
引き続き、大きな視点を持ちながら、多くの雇用が生み出される環境づくりを進めていかなくてはなりませんね。
そして、本日、宇都宮ブリッツェンの鈴木真理選手が大腿骨のプレートを取るための抜釘手術を行いました。
彼もまた、多様な苦しみと戦っている選手の一人です。
少しでもはやく、皆に(自分にも)夜明けが訪れますように…
栗村 修
中学生のときにTVで観たツール・ド・フランスに魅せられロードレースの世界へ。 17歳で高校を中退し本場フランスへロードレース留学。その後ヨーロッパのプロチームと契約するなど29歳で現役を引退するまで内外で活躍した。 引退後は国内プロチームの監督を務める一方でJ SPORTSサイクルロードレース解説者としても精力的に活動。
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