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photo(c):Tatsuya.Sakamoto/STUDIO NOUTIS


ツール・ド・熊野が終了しました。
結果としては、増田選手が昨年10月の墜落事故で負った大怪我を乗り越えて総合9位に。
そして、辻選手が最終日にステージ3位に食い込んで表彰台に上がってくれました。
今大会を通じて表彰台に上がれた日本人選手は5人しかおらず、第2ステージでの落車を乗り越えて本当によくがんばってくれたと感じています。
宇都宮ブリッツェンは、昨年のこのレースでステージ1勝を飾り、リーダージャージも手に入れました。
その事と比較すれば物足りなさも感じるかもしれませんが、今年は昨年とはまったく違った状況でこのレースを迎えた訳ですから、私自身は宇都宮ブリッツェンの選手たちに大きな誇りを感じています。
3月11日、未曽有の大地震が東日本を襲いました。
この時、宇都宮ブリッツェンは、1週間後に迫った開幕戦に向けて最終キャンプを行っていました。
合同練習を終えて各自が帰路についた直後、震度6強の地震が宇都宮を襲ったのです。
私は翌日の練習用の補給食を買うためにスーパーの中にいましたが、揺れが収まった直後の店内はグチャグチャになっていて、辺り一面が埃で覆われていました。
柿沼選手と中村選手は二人で追加練習を続けていましたが、自転車に乗っていても揺れを感じ、そして止まったあとは道路上に立っているのも大変な状況だったと語っていました。
その後、ご存知のように東日本はパニックに近い状況へと置かれていきます。
様々な情報が流れ、「今すぐ逃げろ」という人もいました。
宇都宮ブリッツェンも一時的に活動を中断しましたが、すぐに練習を再開し、多くのレースが開催中止になるなかで様々な支援活などに参加しながら“見えない目標”に向かって準備を続けてきました。
自転車ロードレースとは、ある意味で、多くのアクシデントの上に成り立っているスポーツと言えます。
思い通りにならなかったり、不安や恐怖を感じることが、“日常”となって選手たちを取り巻いているのです。
しかし、どんな状況下に於いても、選手たちは運命を受け入れ、そこから前に進む方法を模索していきます。
今年のツール・ド・熊野は、4日間とも悪天候に見舞われ厳しいコンディションのレースが続きました。
レースを走っていないチームほど、この様な状況への対応には苦労するものです。
そんな中で、宇都宮ブリッツェンがみせた走りの可能性は、リザルト以上の価値を持っていたと感じています。
例え周りが気付いていなくとも、僕はこのチームが置かれた状況をずっと見てきたので大きな誇りを感じるのです。
決して簡単な言葉では説明できない状況下で続けてきた選手たちの努力は、いつかきっとカタチとなって表れるでしょう。
栗村 修
中学生のときにTVで観たツール・ド・フランスに魅せられロードレースの世界へ。 17歳で高校を中退し本場フランスへロードレース留学。その後ヨーロッパのプロチームと契約するなど29歳で現役を引退するまで内外で活躍した。 引退後は国内プロチームの監督を務める一方でJ SPORTSサイクルロードレース解説者としても精力的に活動。
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