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サイクル ロードレース コラム 2010年4月16日

新人の苦悩はポイントアップキャンペーン?

しゅ~くり~むら by 栗村 修
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今シーズン、一人の新人選手が宇都宮ブリッツェンに加入しました。

昨年の実業団シリーズBR-1カテゴリー(ディビジョン2)の年間チャンピオンであり、シマノレーシングの鈴木真理選手(アジアチャンプ2回、全日本チャンプ1回、Jサイクルツアーチャンプ3回)を師匠に持つ男、若杉厚仁選手(20歳)です。

自転車をはじめて短期間で得た実績に、甘いマスク、素直で礼儀正しい性格などなど…

ある意味でシンデレラボーイの様なポジティブなイメージを持っている若杉選手へは、周囲も相応の期待をかけ、何よりも若杉選手自身が、新たに「UCI CONTINENTAL TEAM」の一員として迎えた2010シーズンを、前向きな気持ちでスタートしたのは言うまでもありません

しかし、そんな若杉選手が、ここ数週間コンディションを落としています。

Wakasugi1
[同世代の小阪選手(右)とは対照的に不調に苦しむ若杉選手(左)]
photo(c):Tatsuya.Sakamoto/STUDIO NOUTIS

シーズンはじめに行ったチームプレゼンテーションの際に、私は「若杉選手は今シーズンの戦力としては考えていない」とインタビューで答えました。

それは、彼の力が足りないと感じているから発した言葉でなくて、ロードレースの選手が成長するには多くの時間が必要なことを理解しているつもりだからこそ選んだ言葉でした。

才能と運のみで、短期間に頂点まで昇り詰める選手はいます。

しかし、そんな選手には、その後必ずと言っていいほど「壁」が立ちはだかり、俗に言うスランプに陥ります。

どんなチャンピオンであれ、選手人生のどこかに必ず大きな「壁」と戦う時期を持っているのです。

それが、最初なのか、中盤なのか、それとも終盤なのか、時期の違いがあるせよ、壁を乗り越えた経験のない選手はチャンピオンと呼ばれることはないですし、人々に感動を与えられるアスリートになることは絶対にありません。

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[レースで苦しみ本来の自分を見失いかけていた若杉選手]
photo(c):UTSNOMIYA BLITZEN

ある哲学者が、「人生とは、重い石を山の頂に持ち上げて、そして石が転げ落ち、また石を持ち上げる作業の繰り返しだ」と語ったと何かの本で読んだことがあります。

この表現はある意味で的を得ているのかもしれませんが、何かが足りない気がします。

その大変な作業を繰り返す過程で、必ずポジティブな副産物が生まれるはずなのです。

石を山の頂に運ぶ作業とは、毎日イケイケで絶好調の練習ができている状態を表しているとは限りません。

深みにはまり、悩み、前にも後ろにも進めなくなった「スランプ状態の選手」こそ、ある意味で頂を目指している状態なのかもしれません。

ちょっと話がそれましたが、「スランプ」とは、選手をやっている限り必ずやってくるポイントアップキャンペーンみたいなものです。

サン○イン牧場でいう、虫を入れてもらうと収穫量が増すアレと一緒です…(知らない方ごめんなさい)

今回は、若杉選手が悩む時期に陥っていますが、恐らく、この事は全ての自転車選手、全てのアスリート、というか全人類に当てはまる事柄なはずです。

私自身は、苦しいのは嫌いなので、ポイントアップキャンペーンにすすんで応募するのはパスしますが、まあ、気付いていないだけで、結構、自分の人生はキャンペーン応募率が高かったかもしれないです…

基本的に、選手人生も、そして人生も、どんな状態でも笑えたもん(良い意味でアホになったもん)勝ちなのでしょう

栗村 修

中学生のときにTVで観たツール・ド・フランスに魅せられロードレースの世界へ。 17歳で高校を中退し本場フランスへロードレース留学。その後ヨーロッパのプロチームと契約するなど29歳で現役を引退するまで内外で活躍した。 引退後は国内プロチームの監督を務める一方でJ SPORTSサイクルロードレース解説者としても精力的に活動。

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