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心機一転フォレリングが「第一目標」をクリア ファンデルブレッヘンとの師弟対決を制し2度目の優勝【Cycle*2025 ストラーデ・ビアンケ ドンネ:レビュー】
サイクルロードレースレポート by 福光 俊介優勝デミ・フォレリング、2位アンナ・ファンデルブレッヘン、3位ポーリーヌ・フェランプレヴォ
ライバルの勢いを感じつつも、みずからのレベルアップにも手ごたえがあった。環境が変わって不安はあったけれど、それを乗り越えられれば結果がついてくると信じて。
ウィメンズプロトン界のエース、デミ・フォレリング(FDJ・スエズ)がストラーデ・ビアンケ ドンネで2年ぶり2度目の優勝。今季プロトンに戻ってきたアンナ・ファンデルブレッヘン(チーム SDワークス・プロタイム)とのマッチアップに勝利した。
2年ぶり2度目の優勝したデミ・フォレリング
「このレースは私たちにとって第一目標でした。ねらい通りに勝つことができて本当にうれしいです。チーム全員が力強く走った結果が最高の形になりました」(フォレリング)
最強を誇るチームSDワークスを昨季限りで離れ、FDJ・スエズに移っての新シーズン。「正直言うと、不安でいっぱいだった」という。チーム内で難しい立場となっていた昨季途中からは「常に何かについて考えているような状態」で、移籍を決めてもまた新たな悩みに直面。新しいチームメートに会うまでは、どこか恐怖感もあった。
ただ、いざこれからをともにする仲間に会ってみたら、みんながとても明るく迎えてくれて、一瞬で前向きになることができた。だから、「いまの私はバイクの上で自由を得ている」。キャリアの新章が始まった。
その最初の見せ場であったストラーデ・ビアンケ ドンネ。チームメートとの連携面の課題を明確にする良い機会になるとも考えていたが、走ってみればおおよそイメージ通りにレースを進められた。アシストのひとり、エヴィータ・ムジックが落車で一時後方へと下がったにもかかわらず、再度前線へと戻って、さらには逃げグループにも乗った。フォレリング自身もフィニッシュまで60kmを残したところでパンクに見舞われたが、バイク交換で対応しロスを最小限に食い止めている。
FDJ・スエズは、レース序盤から数チームと並んで集団コントロールに力を使った。逃げらしい逃げはいずれも許さず、残り60kmを切った直後にエヴァ・ファンアフト(チーム ヴィスマ・リースアバイク)をきっかけとする数人の先頭グループが生まれたときも、人数をかけて追走。勝負どころでフォレリングが動けるよう、着々と状況を整えていった。
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【ハイライト】ストラーデ・ビアンケ ドンネ|Cycle*2025
新たな先頭グループが形成
フィニッシュまで40kmを残したところでは、主要チームがすべてジョインする新たな先頭グループが形成。前述したムジックがここで機能し、ライバルの動きを注視しながらフォレリングの合流を待つ。残り距離とともに活発になっていくプロトンに、有力視されていたカタジナ・ニエウィアドマ(キャニオン・スラム・ゾンダクリプト)が落車、エリーザ・ロンゴボルギーニ(UAEチームADQ)はベストコンディションからほど遠くともに脱落していった。
集団前方をキープし勝負のときを待つフォレリング。イメージでは、最終の未舗装区間(第13セクター)レ・トルフェで仕掛けて勝負を決めるつもりだった。ところが変速時にチェーンが落ち、加速に失敗。この間にファンデルブレッヘンがスピードを上げていたこともあり、追う状勢となった。それでも慌てずに対応しファンデルブレッヘンに追いつくと、カウンターアタック。残り12kmで、フォレリングとファンデルブレッヘンのマッチアップが始まった。
「最終セクションで加速して独走に持ち込むイメージでした。ただ、チェーン落ちで計画が狂ってしまったので、いったんアンナ(ファンデルブレッヘン)に追いついて、それからどうしようか考えることにしました」(フォレリング)
数年前まではチームメートだった両者。ファンデルブレッヘンは2021年に引退後、現チームのスポーツディレクターに就くとともに、個人コーチとしてフォレリングをサポートした。いわば師弟関係にある。
「互いをよく知り、彼女が何をしようとしているかもすぐに分かります。逆に、彼女も私が何をしようとしているかを理解しているはずです。ですから、勝つための最善策を考える必要がありました」(ファンデルブレッヘン)
2人になってからは、フォレリングの牽く時間が幾分長く、その状況を嫌ってファンデルブレッヘンに前へ出るよう求める場面も。実のところ、その時点で勝負がほぼ決していたことをファンデルブレッヘンが打ち明ける。
好走を見せたファンデルブレッヘン
「すでに脚にきていて、最後の未舗装セクションを通過してからなかなか回復できなかったのです。何度も先頭交代を求められては“もう少し時間をちょうだい。私は若くない”と言ったのですけどね(笑)」(ファンデルブレッヘン)
戦いのフィナーレとなるシエナのサンタ・カテリーナ通りに入って、ファンデルブレッヘンが前に出てわずかながらスピードを上げたのが、せめてもの抵抗だった。フィニッシュ前400m、急坂を利用してフォレリングが踏み込むと、ファンデルブレッヘンについていく余力はなかった。“師匠”からの勝利を決めた“弟子”は、カンポ広場に達するや大観衆を煽りながらフィニッシュラインを通過した。
「調子は良かったのですが、勝てるかどうかは別の話で、最後の最後まで集中して走り続けることが大事だと思っていました。アンナとのレースは心から楽しめて、いつだって初心に帰ることができます。彼女に私の成長を見せられたこともうれしいですね」(フォレリング)
フィニッシュでの両者の差は18秒。レース前は「ベストに戻るにはまだまだ時間が必要」と話していたファンデルブレッヘンも、この先のビッグレースへ期待が持てる好走だった。
「複雑な気持ちはまったくありません。ただただうれしいです。デミ(フォレリング)についていく力があると実感できました。ストラーデ・ビアンケはスポーツディレクターとして(チームカーで)走った方が楽ですね(笑)。でも私はライダーでありたいのです」(ファンデルブレッヘン)
2人のフィニッシュから約1分30秒後、3番目にやってきたポーリーヌ・フェランプレヴォ(チーム ヴィスマ・リースアバイク)も今季ロードに戻ってきたひとり。2014年にロードで世界女王になり、その後マウンテンバイクに注力。昨年のパリ五輪で金メダルを獲得したのを機にロード復帰を決断。本格復帰早々に、表彰台の一角を押さえた。
「ロードレーサーとしての価値を証明することができました。オフロードを走ってきたことが今日のレースには役立ちましたね。可能ならばデミとアンナと一緒に行きたかったのですが、すでに限界に達していました。それからは3位を目指す方へフォーカスしました」(フェランプレヴォ)
ウィメンズプロトンの活況に貢献する既存メンバーに、復帰組、さらには新星も加わってレースレベルの向上が著しい。レース距離こそ136kmと昨年から1km減ながら、未舗装区間が13カ所・総距離50.3kmに延伸した今回、選手たちは巧みに攻略してみせた。ウィメンズワールドツアーは、3月16日にトロフェオ・アルフレド・ビンダを走り、22日には20年ぶりの復活開催となるミラノ〜サンレモ ドンネへ。トスカーナの“白い道”で躍動した猛者が、引き続き激戦を繰り広げる。
文:福光 俊介
福光 俊介
ふくみつしゅんすけ。サイクルライター、コラムニスト。幼少期に目にしたサイクルロードレースに魅せられ、2012年から執筆を開始。ロードのほか、シクロクロス、トラック、MTB、競輪など国内外のレースを幅広く取材する。ブログ「suke's cycling world」では、世界各国のレースやイベントを独自の視点で解説・分析を行う
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