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落車したポガチャルが大会史上最速の時速40.705kmで走り抜け2年連続独走勝利で最多記録3勝に並ぶ【Cycle*2025 ストラーデ・ビアンケ:レビュー】
サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか2年連続独走勝利タデイ・ポガチャル、2位トーマス・ピドコック、3位ティム・ウェレンス
とにかく無敵。なにがなんでも無敵。激しい落車さえも、世界チャンピオンの脚を削ることはなかった。タデイ・ポガチャルが2025年ストラーデ・ビアンケを勝ち取り、数々の記録を打ち立てるとともに、またしても新たな伝説を書き加えた。
「仕事を成し遂げることができて、最高に幸せだ。大好きなレースのひとつだし、なによりチームのみんなの懸命な努力に報いられなかったとしたら、とてつもなく残念に思ったはずだから」(ポガチャル)
UAEチームエミレーツXRGのチームメイトが、絶対的リーダーのために、レースを精力的に支配した。フロリアン・フェルミールスが長距離を引き倒し、イサーク・デルトロが砂利の急坂で無情な加速を繰り返し、ティム・ウェレンスが最後の仕上げを行った。9年前に大会最多3勝目を手にしたファビアン・カンチェッラーラの名を冠する第9セクターに突入し、ちょうど1年前のポガチャルが独走に乗り出したフィニッシュ手前81kmに差し掛かる頃には、メイン集団を15人ほどにまで絞り込んでいた。朝から逃げ続けていた6人も、すでに1分差にまで追い詰めた。
誰もが王の動向を見守っていた。トム・ピドコックやベン・ヒーリーは、常に後輪を離れなかった。ただ同セクターでのアタックを予め宣言していた昨大会とは異なり、今回は「ラスト150mのスプリント勝負かも?」なんてうそぶいていたポガチャルは、どうやら別の勝ち方を予定していたようだ。去年と同じ地点で動こうとはしなかった。
むしろ真っ先に攻撃に転じたのは、ピドコックのほうだった。スタート前には「先手を打つなんて無駄」と口にしていた。ただし「想定外のことが起こらない限り」との注意書きも付いていた。フィニッシュまで残り78.5km、思い切って加速した。
「事前のプランは、タデイのアタックに反応し、ひたすらついていくことだった。でも彼が少し待ちの姿勢を取っているように感じた。だから決めたんだ。よし、自分から動こう、って」(ピドコック)
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【ハイライト】ストラーデ・ビアンケ|Cycle*2025
最初に仕掛けたのはピドコックだった
2年前の大会覇者の勇敢な先制に、ディフェンディングチャンピオンも瞬時に反応した。他には誰ひとりついてこなかった。数日前から続くうららかな春の陽気の中、もうもうと白い砂煙を上げながら、ポガチャルとピドコックは先を急いだ。
2人は素早く逃げ集団に追いつき、あっさりと置き去りにしたが、やはり早めに仕掛けていたコナー・スウィフトだけは同伴に成功した。過去2度大会を制したミハウ・クフィアトコフスキーのために指示通り前に飛び出しながらも、思わぬ形で「自分自身のために」戦うことになった。どれほど脱落しそうになっても、昨季トリプルクラウンを成し遂げた神童とマウンテンバイク五輪2連覇の怪物のデュオに、夢中でしがみついた。
「凄まじくハードだった。彼らの走行スピードの速さは、たとえ下りでも、クレイジーなほどだった。ひたすら後輪に張り付いたけど……まさに驚異的。自分のパフォーマンスを誇らしく思う」(スウィフト)
高速で前進する3人の関係は、しかし、残り50km地点のアクシデントをきっかけに大きく変化する。全長30kmの周回コースに入り、幾重にも蛇行するテクニカルな下りを先頭でこなしていたポガチャルが、車輪を滑らせ地面に転がり落ちたのだ。すぐ背後につけていたピドコックは、さすがのハンドル捌きで華麗に落車を避け、何事もなかったかのように走り続けたが、スウィフトは沿道の草むらへと大きく迂回する羽目となった。
同日に行われた女子レースでも、同じ下り坂の少し上部で昨ツール覇者カタジナ・ニエウィアドマが落車し、即時リタイアに追い込まれたが、昨ツールの男性覇者は、不幸中の幸い──「これから僕のニックネームは『ラッキーガイ』さ」と本人も言うように──、あちこちに擦り傷を作っただけで済んだ。もちろん地面に左半身を叩きつけたせいで、マイヨ・アルカンシェルの左肩部分は大きく破れた。お尻を滑らせながら草むらに突っ込み、ジャージの臀部にも小さな穴が開いた。ただ頭部をアスファルトに強打することはなかったし、手袋にも助けられた。
落車のダメージ深く残る
「瞬間的に軽いパニックに陥ったし、あらゆる考えが頭の中を巡った。バイクは無事か、立ち上がれるか……時計は無事か(笑)、明日のベッドのシーツはどうだろう……って。同時に、なんとか先頭に追いついて、レースを最後まで争わなきゃならないと考えた」(ポガチャル)
アドレナリンに突き動かされるように、ポガチャルは脇目も振らずに先を急いだ。すぐ先の第11セクターに入る前に、かろうじて自転車だけは交換したが、ドクターカーから治療を受けている余裕などなかった。少し先を孤独に走っていたスウィフトをすぐにとらえたが、構うことなく全力で置き去りにした。ピドコックにつけられた30秒差を、大急ぎで取り戻さねばならなかった。
ピドコックが真の英国紳士だったおかげで、ポガチャルはそれほど無茶せずにすんだ。タイム差が10秒ほどに縮まった時点で、あえてペダルを踏む脚を緩め、ライバルの前線復帰を待ったからだ。残り46kmで、無事に、2人のチャンピオンは再合流を果たした。
「落車の直後は、ひどい状況に思えた。だから無事で本当に良かった。タデイが追いかけてきていることを理解した瞬間、当然だけど、待つことにしたんだ。敬意と尊厳を持って走るのは大切なこと。あんな状況を利用するのではなくてね」(ピドコック)
ところでポガチャルは優勝記者会見で、ちょっと冗談めかしながらではあるけれど、落車の原因をこんな風に分析している。
「僕の後輪につけていたのはマウンテンバイクの世界チャンピオンにして五輪王者、しかもシクロクロスチャンピオンでもあるからね。僕だって上手いことを見せつけなきゃ、というプレッシャーを感じていたのかもしれない。結局は僕がかなり下手くそだってことを見せてしまったわけで……」(ポガチャル)
合流後しばらくは共闘を続けた。しかし周回コースも2周目に入り、例のダウンヒルを今度はピドコックの背後で慎重にこなしきると、いよいよポガチャルはレースの仕上げに取り掛かった。本来であれば1周目のコッレ・ピンズートで披露しようと目論んでいたという加速を、2回目の通過時に打ち込んだ。第12セクターは入口の500mが平均勾配9%、最大15%という激坂な上に、全長2.4kmが延々と登り基調。真のクライマー向きだった。
「ここでトライしなきゃならないことは理解していた。残すセクターは短くてむしろトム向きだったし、シエナの最終坂だってどうなるか分からない。だから全力を振り絞った。そして、それで十分だった」(ポガチャル)
フィニッシュまで約19km。凄まじい歓声の中、ポガチャルは勝利へと飛び立った。
シエナのカンポ広場にたどり着く頃には、2位ピドコックに1分24秒もの大差をつけていた。1年前に自らが樹立した「大会史上最大のタイム差(2分44秒)」は更新できなかったけれど、今回だって史上2位の記録だった。ストラーデ・ビアンケの連覇は、第19回大会にして初めての快挙であり、レインボージャージ姿での勝利もまた大会史上初。
大会史上最速の時速40.705kmで全長213kmを駆け抜けたポガチャルは、もちろんカンチェッラーラと並ぶ大会史上最多タイの3勝目もつかみ取った。3大会いずれも独走勝利で、その距離は総計149kmにも至る。なんと3勝目のご褒美として、白い道のひとつに自らの名前をつける権利を与えられたようだから、2026年大会でのお披露目を楽しみにしよう。
ティム・ウェレンスも表彰台入り!
ただ数々の記録よりも、この日のポガチャルにとって一番嬉しかったのは、3位にチームメイトのウェレンスが入ったことかもしれない。「実はポガチャルが予定より早くアタックしたおかげで、自分でも表彰台を狙う体力が残っていた」と、離合集散を繰り返す後続を上手く抑えつつ、やはり第12セクターで独走態勢に持ち込んだ。33歳のチームキャプテンにとっては、2017年以来2度目の表彰台だった。
また健闘光ったスウィフトは13位で、長い1日を終えた。
文:宮本あさか
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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