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アユソ22歳、メジャーステージレース初制覇のチャンス到来 グランツールへのスプリングボード、ティレーノ〜アドリアティコ開幕【Cycle*2025 ティレーノ〜アドリアティコ:プレビュー】
サイクルロードレースレポート by 山口 和幸沿道から名物料理の差し入れシーンが見られるかも......?
イタリア半島の西側に広がるティレニア海と東側のアドリア海を結ぶ7日間のステージレース、第60回ティレーノ〜アドリアティコが3月10日から16日まで開催される。2024年の総合2位、UAEチームエミレーツ・XRGのフアン・アユソ(スペイン)、同3位レッドブル・ボーラ・ハンスグローエのジャイ・ヒンドレー(オーストラリア)らが初の総合優勝を目指す。
イタリア人がこよなく愛する2つの海をつなぐレースが60周年を迎える。西海岸の開幕地にはアルペシン・ドゥクーニンクのマチュー・ファンデルプール(オランダ)、リドル・トレックのジョナタン・ミラン(イタリア)、Q36.5プロサイクリング チームのトム・ピドコック(英国)、イネオス・グレナディアーズのフィリッポ・ガンナ(イタリア)などのビッグネームが並ぶ。
マリア・アッズーラで総合優勝トロフィーを掲げるヴィンゲゴー
個人総合1位選手に与えられるマリア・アッズーラの候補者にはEFエデュケーション・イージーポストのリチャル・カラパス(エクアドル)、グルパマ・FDJのダヴィド・ゴデュ(フランス)、バーレーン・ヴィクトリアスのアントニオ・ティベーリ(イタリア)、リドル・トレックのジュリオ・チッコーネ(イタリア)らがひしめく。大会の総合優勝者に授与されるトロフィーは金色の三叉のヤリ(英語でトライデント)。これはギリシャ神話ですべての海を支配したとされるポセイドンが使っていた武具で、2つの海を制した象徴として最終日の表彰台で渡される。
イタリア半島に春の到来を告げる伝統のステージレース。直近10年の総合優勝者リストは超豪華だ。ナイロ・キンタナ(2015、2017)、グレッグ・ファンアーヴェルマート(2016)、ミハウ・クフィアトコフスキ(2018)、プリモシュ・ログリッチ(2019、2023)、サイモン・イェーツ(2020)、タデイ・ポガチャル(2021、2022)、ヨナス・ヴィンゲゴー(2024)とグランツール覇者か五輪金メダリストか元世界チャンピオンしかいない。
ティレニア海からアドリア海を目指す
ところでこのティレーノ〜アドリアティコを語るうえで、ほぼ日程が丸かぶりするフランスのパリ〜ニースを引き合いに出さずには話が進まない。1933年に始まったフランスの春のステージレースがパリ〜ニース。規模や格式、難易度はほぼ同じである。ただし日程が重複するのだから、選手は毎年どちらかを選ぶ必要がある。例えばチームヴィスマ・リースアバイクのヴィンゲゴー(デンマーク)は2024年にティレーノ〜アドリアティコに参戦して総合優勝したが、2023年はパリ〜ニースに出場して総合3位。そして2025年は再びパリ〜ニースを選択している。
シーズン最初の本格的ステージレースの両者の違いは、パリ〜ニースが日曜開幕で翌週の日曜までの8日間、一方のティレーノ〜アドリアティコは月曜から同じ週の日曜までの7日間だ。イタリアはローマ・カトリック教徒が多く、日曜日は教会でミサに参列する慣習がある。そのためジロ・デ・イタリアなどのいたしかたない日程を除いては日曜日にレースをすることが極めて少ないのだ。
また、3月8日には主催者が同じストラーデ・ビアンケが同じイタリア半島中央部で開催され、連戦する選手に中1日の休息日を設定できるというのも、ティレーノ〜アドリアティコが1日減で開催するうえでの利点だ。今回もゴデュ、ピドコック、クフィアトコフスキらがストラーデ・ビアンケを走ったあとにティレーノ〜アドリアティコ入りする。
2025年もストラーデ・ビアンケに参戦したポガチャルは、さすがに今回のティレーノ〜アドリアティコはパスした。2024年はジロ・デ・イタリア、ツール・ド・フランス、世界選手権を制覇したが、「さすがにレースに出過ぎた感がある。来年は出場レースを絞っていきたい」と語っていたが、現在のところその考えどおりにスケジュールを構築しているようだ。
2024年に3日間首位に立ったアユソ
UAEチームエミレーツ・XRGはポガチャルに代わって、エースにアユソを起用した。2022ブエルタ・ア・エスパーニャ総合2位とヤング・ライダー賞。2023ツール・ド・スイス総合2位。2024年はティレーノ〜アドリアティコ初日の個人タイムトライアルを制し、第3ステージまで首位。ヴィンゲゴーに逆転されたが、総合2位でフィニッシュした。この実績が認められ、「ボクのあこがれはアルベルト・コンタドール。だから出場するのが夢だった」というツール・ド・フランスのメンバーに抜擢され、ポガチャルのアシストを務めながら総合9位の位置につけていた。ところが第13ステージでコロナ罹患から調子を崩し、初参加のレースはリタイアという結果に終わった。
2024年、加速するヴィンゲゴーにアユソとヒンドレーが反応
UAEチームエミレーツ・XRGはパリ〜ニースにアルメイダやシヴァコフらを派遣している。多くのプロチームはこの時期は戦力が二分されるが、豪華なメンバーを擁するUAEチームに関しては盤石とも言える布陣を確保している。ラファウ・マイカ(ポーランド)、アダム・イェーツ(英国)のベテラン勢は経験の浅い22歳のエースにとっては頼もしい存在となる。
3月1日に今季のレース活動を始めたアユソは絶好調だ。3月2日の2レース目、フォンドローム・クラシック(フランス)で優勝。同5日にイタリア入りしてトロフェオ・ライグエーリアでも4人のスプリント勝負で圧倒的なパワーを見せつけて優勝した。もしこのティレーノ〜アドリアティコでアユソのマークが厳しければ、チームはイェーツをプランBとして起動させる作戦を取るようだ。
「今年の初めからティレーノ〜アドリアティコはシーズン序盤の主な目標の1つだと公言してきた。だから今、本当に興奮しているし、やる気も出ている。チームにとって今年はここまで本当にいいスタートを切っていて、個人的にも勝利でそれに貢献できたことにとても満足している」とチーム公式サイトがアユソの意気込みを紹介している。
「チームには今、勝利へのメンタリティがあり、それが全員のモチベーションをさらに高めていると思う。ティレーノ〜アドリアティコでは、非常に強いフォーメーションを擁していて、私とアダム(イェーツ)の2人で総合優勝を狙っていけると思う。このレースは大好きで、イタリアでレースをするのはいつも楽しい。素晴らしいレースウィークになることを期待して楽しみにしている」
ストラーデ・ビアンケからの連戦となるピドコック。UAEに匹敵する強豪チームのエースを任されたヒンドレー。山岳に強いカラパスとチッコーネ、ゴデュ。バーレーン・ヴィクトリアスのペリョ・ビルバオやスーダル・クイックステップのミケル・ランダといったスペイン勢も忘れてはならない。チームヴィスマ・リースアバイクはサイモン・イェーツ(英国)で王座の継承を狙う。そしてモビスター チームのエースは過去2勝のキンタナ。これはもう、パリ〜ニースともども目が離せない。とんでもないサイクルロードレースウィークとなるはずだ。
ティレーノ〜アドリアティコ 高低差図
ティレーノ〜アドリアティコ日程
3月10日 第1ステージ リド・ディ・カマイオーレ 11.5km(個人タイムトライアル)
3月11日 第2ステージ カマイオーレ〜フォッローニカ 192km
3月12日 第3ステージ フォッローニカ〜コルフィオリート(フォリーニョ) 239km★★
3月13日 第4ステージ ノルチャ〜トラサッコ 190km★★★
3月14日 第5ステージ アスコリピチェノ〜ペルゴーラ 205km★
3月15日 第6ステージ カルトチェート〜フロンティニャーノ(ウッシータ) 163km★★★
3月16日 第7ステージ ポルト・ポテンザ・ピチェーナ〜サンベネデット・デル・トロント 147km
★は難易度
ティレーノ〜アドリアティコ事前会見にて
ティレーノ〜アドリアティコ事前会見にて
ティレーノ〜アドリアティコ事前会見にて
文:山口和幸
山口 和幸
ツール・ド・フランス取材歴30年超のスポーツジャーナリスト。自転車をはじめ、卓球・陸上・ボート競技などを追い、東京中日スポーツ、ダイヤモンド・オンライン、LINEニュース、Pressportsなどで執筆。日本国内で行われる自転車の国際大会では広報を歴任。著書に『シマノ~世界を制した自転車パーツ~堺の町工場が世界標準となるまで』(光文社)、講談社現代新書『ツール・ド・フランス』。青山学院大学文学部フランス文学科卒。
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