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ヴィンゲゴーがツール・ド・フランス王座奪還を目指してパリ〜ニースを選択、ロードレースのあらゆる魅力が凝縮された8日間の戦いへ【Cycle*2025 パリ〜ニース:プレビュー】
サイクルロードレースレポート by 山口 和幸2023パリ〜ニースではポガチャルに力負けしたヴィンゲゴー
第83回パリ〜ニースが3月9日から16日まで8日間の日程で開催される。ヨーロッパで行われる今シーズン最初の重要なステージレースで、ツール・ド・フランスの王座奪還を目指すヨナス・ヴィンゲゴー(デンマーク、チームヴィスマ・リースアバイク)が参戦する。
ヴィンゲゴーは今季、ポルトガルのボルタ・アオ・アルガルベ(2月19〜23日)に唯一出場していて、いきなり総合優勝を達成しているが、2025年シーズンのさらなる強化を図って、このパリ〜ニースをスケジュールに入れてきた。チームメートには2024年の総合優勝者である米国のマッテオ・ジョーゲンソンがいて、ナンバーカード1番はジョーゲンソンに譲る。
美しい南仏を走る
フランス語でクルス・オ・ソレイユ(course au soleil)、太陽へのレースという愛称を持ち、1933年から開催されるフランスの伝統的ステージレース。かつてのレース主催者は南仏エリアをテリトリーとする地方メディアだったが、ツール・ド・フランスを運営するA.S.O.が傘下に収めた。それにより7月のツール・ド・フランスでの野心に燃える有力選手の出場が増えた。
レースはパリの名がつくが、スタートは必ずしもパリを出発地とせず、パリ南部の都市がスタートとなる場合が多い。一方、最終フィニッシュは大会の名前どおりニースとなることがほとんどだ。またリーダージャージはツール・ド・フランスと同様に4種類で、そのデザインはツール・ド・フランスとほぼ同じものを使用する。
若干の違いがあるのは個人総合1位のジャージ。フランス語の公式サイトではle maillot jaune et blancという表記があり、つまり厳密には「黄色と白のジャージ」なのである。よく見ると胸に白いラインが入っていて、これがツール・ド・フランスのマイヨ・ジョーヌと異なる部分。同じA.S.O.主催のクリテリウム・デュ・ドーフィネもほぼマイヨ・ジョーヌだが、大会イメージカラーの青色が1本ラインとして胸に入っている。やはり伝統レースにはこだわりがあるのだ。
太陽を求めて地中海のニースへ
大会は1982年から1988年までアイルランドのショーン・ケリーが7連覇を達成し、そのまま最多優勝記録となっている。ケリーはスプリント力のある屈指のクラシックライダーで、ツール・ド・フランスのポイント賞を4度受賞。さらに言えばアルプスやピレネーも大きな遅れを取らないオールラウンダーでもあり、1988年にはブエルタ・ア・エスパーニャで総合優勝を達成している。
そんなケリーが7回優勝したパリ〜ニースは、ツール・ド・フランスのプチステージレースとも言える。そのためパリ〜ニースの歴代優勝者リストは、ツール・ド・フランスのそれととても似ている。2006年のフロイド・ランディス(同年ツール・ド・フランス優勝は薬物違反で剥奪)、2007年と2010年のアルベルト・コンタドール(スペイン)、2012年のブラッドリー・ウィギンス(英国)、2016年のゲラント・トーマス(英国)、2019年のエガン・ベルナル(コロンビア)、2023年のタデイ・ポガチャル(スロベニア)だ。2022年のプリモシュ・ログリッチ(スロベニア)もツール・ド・フランスのサブチャンピオンだ。
さらに言うならば将来的にツール・ド・フランスを制するような逸材をこのパリ〜ニースに見出すこともできた。1989年と1990年にパリ〜ニースを連覇したミゲール・インデュライン(スペイン)は1991年からツール・ド・フランスで前人未到の5連覇を達成することになった。
7月のツール・ド・フランスを占う意味でも、さらには将来的な総合優勝者をチェックするうえでも今回のパリ〜ニースには注目したい。厳しい寒さに耐えた北フランスから太陽を求めて地中海を目指すレースは、自転車シーズンのすべてが凝縮されていると言っても過言ではない。天候が崩れればみぞれが降り、泥だらけのコースをひた走る。過酷な山岳ルートで汗をにじませる。今回もパリ〜ニース主催者は巧みに設計した全8ステージを用意してくれた。
パリ〜ニース 全体図
3月9日の第1ステージはル・ペレ・アンイヴリーヌを発着とする156.1kmの平坦ルートだ。イヴリーヌはパリの西側に位置する県で、県庁はヴェルサイユ。今回はル・ペレという町が開幕地を務めることになった。パリの南西50kmほどにあるが、まあフランス全土の地図で大まかに見ればパリである。
レースはここから地中海を目指して南下する。3月10日の第2ステージはモンテソンからベルガルドまでの183.9kmで、スプリンターが大好きなフラットコース。3月11日の第3ステージは一転して距離28.4kmのチームタイムトライアルが設定された。フランス中部のヌヴェールからおよそ13km南のマニクール村にある自動車サーキットコースのシルキュイ・ド・ヌヴェール・マニクールをスタートし、ヌヴェールの市街地にゴールする。
パリ〜ニース 第7ステージ 高低差図
3月12日の第4ステージはヴィシ〜ラ・ロジュ・デ・ガルド間の163.4kmで、途中に5つの丘陵地があり、最後は6.7kmの上り坂が待ち構える。3月13日の第5ステージはさらに厳しさが増す。サンジュスト・アンシュヴァレ〜ラ・コートサンタンドレ間は距離203.3kmの長丁場に加え、終盤の5つの山岳ポイントがどれも急勾配。ゴールの坂は一部18%だ。3月14日の第6ステージ、サンジュスト・アンサンタルバン〜ベールレタン間の209.8kmは一転してフラットで、スプリンターの活躍の舞台となる。
パリ〜ニース 第8ステージ 高低差図
そして総合優勝の行方は最後の2日間にもつれ込むことになる。3月15日の第7ステージ、ニース〜オロン間の147.8kmは山岳コース。3月16日の第8ステージはニースを発着し、119.9kmという短い距離に仕掛けどころの第1級山岳が3カ所ある。フランスで最も美しい村として人気のエズを通過するなど、国際映像の空撮も見どころとなるので楽しみだ。
2023パリ〜ニース優勝のポガチャル。左は2位ゴデュ、右は3位ヴィンゲゴー
今回の出場選手の中で最も注目されるヴィンゲゴーは、2023年に出場し、ポガチャルから1分39秒遅れの総合3位でフィニッシュしている。初めての総合優勝を目指すが、UAEチームエミレーツ・XRGのブランドン・マクナルティとジョアン・アルメイダ、バーレーン・ヴィクトリアスのサンティアゴ・ブイトラゴ、レッドブル・ボーラ・ハンスグローエのアレクサンドル・ウラソフ、チームジェイコ・アルウラーのベン・オコーナー、デカトロン・AG2Rラモンディアールチームのフェリックス・ガル、チームピクニック・ポストNLのロマン・バルデ、グルパマ・FDJのギヨーム・マルタンといったライバルの存在を考えると、ミスは許されないだろう。
ツール・ド・フランスで2年ぶり3度目の総合優勝を目指すヴィンゲゴーは周到な計画をもって今シーズンを戦い抜く予定だ。5日間のステージレース(実際には第1ステージはレースキャンセル)、ボルタ・アオ・アルガルベでヴィンゲゴーは最終日の個人タイムトライアルをトップタイムでゴールして逆転優勝した。それに続くレースがこのパリ〜ニースとなるのだが、2023年のツール・ド・フランスを圧勝して連覇したときもこのパリ〜ニースを足がかりとした経験がある。ただし春先のパリ〜ニースでいきなり強さを見せつけたわけではなかった。今回は欠場しているポガチャル、そして総合2位になったダヴィド・ゴデュに遅れを取っている。
2024パリ〜ニースを制したジョーゲンソン
今季のヴィンゲゴーとしては、連覇のかかるティレーノ〜アドリアティコを捨てて、あえてこのパリ〜ニースを選択して王座奪還の糸口を見出そうとしている。必ずしもヴィンゲゴーはここで総合1位を獲得する必要がなく、チームメートのジョーゲンソンが昨年と同じレベルのパフォーマンスを発揮すればチームリーダーを譲るという選択肢もある。ツール・ド・フランスを2度制覇したヴィンゲゴーであっても、簡単には勝てないトップクラスの選手たちが栄冠を狙っているのだから、簡単なレースではないことはよく承知している。
総合優勝争いは、ヌヴェールでのチームタイムトライアルで候補者が絞り込まれるはずだ。昨年、一時的に首位に躍り出て総合3位に入ったマクナルティが強力なチーム力でここでもトップをうかがう。この第3ステージで首位に立てば、その後もしばらくリーダージャージを着用し続ける可能性もある。
第4ステージのラ・ロジュ・デ・ガルドの上りは2年前にヴィンゲゴーが制覇できなかった難所で、2月上旬に開催されたボルタ・ア・バレンシアで総合優勝したブイトラゴのようなクライマー向きだ。アルメイダもこのレースで総合2位になっていて、動いてくることは必至。チューダー・プロサイクリングチームでのデビュー戦となるジュリアン・アラフィリップにとっても大会後半戦は攻撃を仕掛けるのに適している。第5ステージのラ・コートサンタンドレでアラフィリップがトップフィニッシュを目指している。
8日間の日程にチームタイムトライアルが組み込まれている
第7ステージのニース〜オロン間はフィニッシュを含めて高い山頂が設定されている。2024年のブエルタ・ア・エスパーニャで総合2位になったオコーナー、2010年代の盟主イネオス・グレナディアーズを復活させることを使命とするオランダのテイメン・アレンスマン、パリ〜ニースでは最後の出場となるフランスのロマン・バルデ、そして初出場となるバーレーン・ヴィクトリアスのレニー・マルティネスなど山岳を得意とした選手が目白押し。
スプリンターの中では、シーズン序盤で好調なリドル・トレックのマッズ・ピーダスンとスーダル・クイックステップのティム・メルリールの2人の戦いになりそうだ。第2ステージと第6ステージでチャンスを得るだろう。2月のツール・ド・ラ・プロヴァンスの総合優勝者であるピーダスン。中東ですでに4勝しているヨーロッパチャンピオンのメルリール。ウノエックス・モビリティのアレクサンダー・クリストフ、チューダー・プロサイクリングチームのアルベルト・ダイネーゼなどスプリントの他の候補者たちも注目。
文:山口和幸
山口 和幸
ツール・ド・フランス取材歴30年超のスポーツジャーナリスト。自転車をはじめ、卓球・陸上・ボート競技などを追い、東京中日スポーツ、ダイヤモンド・オンライン、LINEニュース、Pressportsなどで執筆。日本国内で行われる自転車の国際大会では広報を歴任。著書に『シマノ~世界を制した自転車パーツ~堺の町工場が世界標準となるまで』(光文社)、講談社現代新書『ツール・ド・フランス』。青山学院大学文学部フランス文学科卒。
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