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マチュー・ファンデルプールが7度目のシクロクロス世界選手権制覇で史上最多勝利に並ぶ【Cycle*2025 UCI世界選手権大会 男子エリート:レビュー】
サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか7度目のUCIシクロクロス世界選手権制覇を成し遂げたマチュー・ファンデルプール(写真は2024年大会)
現役無双のチャンピオンが、史上最強に並んだ。全勝で突っ走ってきた完璧なシーズンの終わりに、マチュー・ファンデルプール(オランダ)が7度目のUCIシクロクロス世界選手権制覇を成し遂げ、52年前にエリック・デフラーミンクが打ち立てた史上最多勝利記録にとうとう追いついた。
「これは大きな意味を持つ。歴史的だ。ずいぶんと長い間、記録は破られてこなかった。僕がレースを始めた時、1度は勝ちたいと願ったけど、決して7回も世界チャンピオンになれるとは想像していなかった。すごく特別なこと」(ファンデルプール)
開始30秒で勝負は決した。1列目でスタートを切ったディフェンディングチャンピオンは、ホールショットこそトーン・アールツ(ベルギー)に奪われたものの、直後に訪れた2つ目のコーナーで先頭に競り上がった。このスタートダッシュこそが、優勝へのロングスプリントとなる。もはやフィニッシュまで誰にも先頭を譲り渡すことはなかった。
「昨日のアンダー23レースを見る限り、最高の手段は前に行って自分の走りをすることだった。特に今回ようなコースではね。すごくトリッキーだし、集団のままだったらペダルをはめ直すのに面倒が多くなる。だからすぐに大きな差を開きにかかった。追走する気を挫くためだった。上手く行った」(ファンデルプール)
最大のライバルとなるはずだったワウト・ファンアールト(ベルギー)は、4列目からのスタートだった。実はUCIワールドカップで総合上位16位までに入れば自動的に2列目までが確保できたものの、惜しくも3ポイント差で17位だったのだ。しかも第1コーナーの渋滞で、本人曰く「スタートよりも後方」へと押しやられた。ファンアールトは一瞬でスピードを失い、優勝争いに絡むチャンスも永遠に失った。
それでも数人はファンデルプールの背後でしばらく粘ったのだ。ただスタートから3分ほどで、あえなく後方へと押しやられた。独走の完成。1周回目を終える頃には2位以下に20秒差をつけ、2周回目にはその差をさらに45秒へと開いた。北フランス・リエヴァンに押し寄せた35000人ものファンが見守る中、ファンデルプールは孤独な前進を続けた。
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【ハイライト】UCI世界選手権大会 男子エリート シクロクロス リエヴァン|Cycle*2024/25
早々に、関心は、残されたメダル争いへと切り替わる。さすがに出走45人中大量9人を送り込んだベルギー軍団が束となって立ち回り、ベルギー5人とヨリス・ニューエンハイスのオランダ1人という構図を作り上げた。「自分の走りが出来る場所にたどり着くまでに1周回を要した」というファンアールトも、ついに3周目には第2集団へと追いついていた。
そこから銀メダルへと抜け出したのは、やはりファンアールトだった。4周目で何度も加速して揺さぶりをかけた。テクニカルなゾーンを利用して、昨大会銀のニューエンハイスだけは必ず追いついてきたが、それでも5周目序盤のストレートで一気に突き放した。
激しい攻防戦こそ見られなかったものの、結果的にはマチューとワウトとのワンツーフィニッシュだった。元世界選3連覇のファンアールトにとっては自身5度目の2位。これもまた史上最多タイだろうか。1996年世界王者のマチュー父アドリも、2位が5回あった。ちなみにファンアールトは、ロードでも、世界大会の銀メダルを5枚持っている(世界選ロード2&TT2、五輪TT1)。
「今回の世界選手権に参加できたのは、本当にボーナスのようなものだし、今回の成績は真っ当な結果だと思ってる。銀メダルを誇らしく感じるし、おかげで良い調子でロードシーズンを迎えられると信じている」(ファンアールト)
次はティボウ・ネイス(ベルギー)が、7周回目で、ニューエンハイスを振り払う番だった。初のヨーロッパ選手権制覇、初のベルギー選手権制覇と大躍進を遂げた今季の幕引きにふさわしく、エリートとして初めての世界選表彰台に飛び乗った。世界選2勝の父スフェンが、最後に世界選を戦ってから、わずか9年後の快挙だった。
「素晴らしいコースで繰り広げられた、素晴らしいレースだった。(1週間前のウィルス感染から)望み通りの調子に戻せていたから、足さえあれば、表彰台は可能だと分かっていた。シクロシーズンをこんなやり方で締めくくることができて本当に嬉しい」(ネイス)
世界選手権は虹で彩られる
「記憶にはないけど」どこかでフェンスにぶつかり、ジャージの左太もも部分が破けたまま走ったファンアールトや、スタート直後の混乱で足を地面につき出遅れたネイスとは異なり、ファンデルプールはミスのない走りを貫いた。ただどうやら、3周回目で、前輪のパンクに見舞われていた。その後はメカニックにタイヤの空気圧を少し上げるよう指示し、本人も極めて注意して走ったとのこと。もちろんリードは最後まで失うことなく、45秒差でフィニッシュ。
「この数年間でパワーが増した。以前はそこが僕の弱点で、今日のようなハードなコースはそれほど得意としていなかった。でもロードレースのおかげでパワーがつき、テクニカルなゾーンも力みなくこなせるようになり、ミスが減ったんだ」(ファンデルプール)
両手で7本の指と……同時に大会前に個人スポンサーについた高級腕時計とをアピールしながら、ファンデルプールは悠々と1時間2分44秒の全力疾走を終えた。2015年に初めてエリートで世界の頂点に上り詰めてからちょうど10年。元ロード世界チャンピオンにして、現グラベル世界王者が、シクロクロスで7枚目のマイヨ・アルカンシエルを手に入れた。
自転車関係者の期待は、早くも1年後に飛ぶ。昨夏のツール・ド・フランスで、マーク・カヴェンディッシュが49年ぶりにステージ最多勝利記録を塗り替えたように、ファンデルプールが8勝目を挙げ、半世紀以上の時を経て、ついにシクロクロス世界選手権史上最多優勝記録を更新するのかもしれない。今年は祖父の母国フランスで繰り広げられたが、来年は自らの故郷、オランダ開催だ。
「今はまず、この勝利を楽しみたい」と語るファンデルプール。その後はロードシーズンに全力投球。シーズン最初のモニュメント、ミラン〜サンレモへ2年ぶりの栄光をつかみに行くし、その前にはどうやら、パリ〜ニースかティレーノ〜アドリアティコで足慣らしをする予定らしい。
ベルギー勢は10位以内に7人を送り込み、オランダは男女エリート優勝どころか女子はトップ4を独占した。開催国フランスも、無事に女子ジュニアで世界チャンピオンの誕生を祝った。日本から参戦の織田聖は40位。4ラップ差で、キャリア2度目の世界選手権を終えた。
文:宮本あさか
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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