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常勝軍団へ移籍したジョナタン・ナルバエスがボーナスタイムをコツコツ集めシーズン初戦で総合優勝に輝く【Cycle*2025 ツアー・ダウンアンダー:レビュー】
サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか左から新人賞ウィゼンフィリプセン、山岳賞ブラウニング、総合優勝ナルバエス、スプリント賞ウェルスフォード
記念すべき25回大会の栄光は、ツアー・ダウンアンダー史上初めて、南米選手の手に落ちた。1年前はわずか9秒差で総合優勝を逃したジョナタン・ナルバエスが、この夏のオーストラリアでは、9秒リードでオークル色のリーダージャージを身にまとった。
「シーズン最初の大会だからこそ、僕にとっては本当に大切な大会だった。これは間違いなくキャリア最大の勝利であり、僕にとっては非常に大きな意味を持つ」(ナルバエス)
なにより2024年大会は、ボーナスタイム抜きなら、実は総合首位と同タイムだったのだ。その教訓をしっかりと胸に刻み、2025年のナルバエスは、第1ステージから勢力的に秒数を奪いに行った。初日から3日連続で果敢に逃げ、最終的に山岳賞を持ち帰ることになるファーガス・ブラウニングらの後方で、第2中間ポイントへ向け猛ダッシュ。集団トップ通過=3位の1秒をまんまと懐にしまい込む。
2025年もステージ3勝&ポイント賞のウェルスフォード
もちろん、この日の勝負を決めるピュアスプリントは、サム・ウェルスフォードがパワフルに制した。昨大会区間3勝と大暴れしたからこそ「かなりの重圧を感じていた」と打ち明けたオージーは、解放され、その後も第2ステージと最終日とで圧巻のスプリントを披露。2年連続ステージ3勝&ポイント賞を射止めた。ちなみにトータル6勝は、ダウンアンダー史上5位タイの記録だ。
本格的な総合争いは、クイーンステージと銘打たれた3日目、大会史上初のノッツ・ヒル登坂×2回で勃発した。前大会の王者スティーブン・ウィリアムズは、無念にもステージ中盤の落車で大きくタイムを失ったが、集団前方では、総合有力候補たちが熾烈なアタック合戦を繰り広げた。中でも豪州唯一のワールドチーム、チーム ジェイコ・アルウラーが強烈なテンポを試み、やはりオーストラリラ出身で、2年前の総合覇者ジェイ・ヴァインも存在感を見せた。
独走でプロ初優勝したハビエル・ロモ
そんなにらみ合いの隙を、ハビエル・ロモは突いた。ノッツ・ヒルの山頂間際で勢い良く飛び出すと、そのまま、5km先のフィニッシュラインまで全速疾走。ダウンアンダーが生まれたまさに1999年1月に、この世に生を受けた26歳が、プロ初優勝に輝いた。
ただ5秒後にフィニッシュに滑り込んだ小集団の頭は、きっちりナルバエスが獲った。つまり区間2位のボーナスタイム6秒を収集。また4位にはほやほやのネオプロにして、今大会最年少18歳のアルバート・ウィゼンフィリプセンが食い込み、新人賞=最優秀U23賞の白いジャージを羽織った。
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【ハイライト】ツアー・ダウンアンダー 第6ステージ|Cycle*2025
スプリンターとアタッカーの綱引きとなった翌4日目は、最終的にスプリンターに軍配が上がり、ブライアン・コカールが僅差の勝利を果たした。ちょうど2年前、プロ入り11年目にして初めてワールドツアー大会で両手を上げた思い出の大会で、実力の再証明を済ませた。……背後では封じ込められたナルバエスが不満の意を表明したが、特に危険行為はなかったとしてコカールの首位は変わらず(4番手は集団最下位に降格)。とりあえず後の総合覇者は、区間3位で4秒のボーナスをむしり取れたことには満足した。
最終審判は、やはり今年もウィランガ・ヒルが下した。ナルバエスはUAEチームエミレーツXRGの同僚を、序盤の逃げに滑り込ませた。1年前のウィランガ覇者オスカル・オンリー率いるピクニック・ポストNLが、その逃げの対応に勤しんだ。チーム ジェイコ・アルウラーからは、連日アタックを試みるクリス・ハーパーや、前日の逃げでボーナスタイム6秒を収集したマウロ・シュミットが、この日も積極的に動き回った。各チームの思惑と戦術が入り乱れ、ついには総合リーダーのロモが独走態勢に切り替えた。
ただチームメイトの働きを決して無駄にはしまいと、ナルバエス、オンリー、ルーク・プラップが必死に後を追いかけた。さらには今年からウェルスフォードのチームに合流したフィン・フィッシャーブラックも、背後から大急ぎで迫ってきた。
「ロモはすごく強くて、もしかしたら追走が遅すぎたかもしれない……とも考えたけど、僕は常に冷静だった。ああ言う場合は常にスマートに立ち振る舞う必要がある」(ナルバエス)
残り300mからの、ウィランガ山頂へ向けたスプリント。大会初日からすでに何度も全力ダッシュを成功させてきたナルバエスに……1年前のダウンアンダー前哨戦・ど平坦市街地クリテリウムで、衝撃的な逃げ切りスプリントを制した俊足に、適う者などいなかった。オンリーとフィッシャー・ブラックはあっという間に後方へ置き去りにされ、力尽きたロモは3秒差で1日を終えた。
オーストラリアの美しい大自然もみどころ
今季からUAEのジャージを着て走るナルバエスが、昨季81勝という恐るべき常勝軍団に、めでたく2025年1勝目を献上した。同時にダウンアンダーの覇権を完全に掌握。翌日アデレードでの最終日には、もはやもがく必要などなかった。ただ多発した落車を上手く避けつつ、ウェルスフォードの鮮やかな区間3勝目を背後で眺めた。
「僕にとってはチームと走る初めてのレースであり、初めての環境や雰囲気の中での戦いでもあった。ただ僕は毎日、すごぶる調子が良かった」(ナルバエス)
本来のフィニッシュタイムだけであれば、ロモには2秒足りなかった。それでもナルバエスはボーナスタイム21秒(第1S1秒+第3S6秒+第4S4秒+第5S10秒)を積み上げ、ボーナスは第3ステージ優勝時の10秒だけ……というロモを、総合で9秒上回った。単純な脚力だけではなく、計算力と、連日のたゆまぬ努力とで賢くつかんだ、自身初のワールドツアー大会総合制覇だった。
文:宮本あさか
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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