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息をのむような景観と歴史が舞台の異色レース 新境地ピドコック、復活フルーネウェーフェン、日本チーム右京の走りに注目【Cycle*2025 アルウラー・ツアー:プレビュー】
サイクルロードレースレポート by 山口 和幸2024アルウラー・ツアー
ツール・ド・フランス主催者A.S.O.がプロデュースした5日間のステージレース、中東サウジアラビアを舞台としたアルウラー・ツアーが2025年1月28日から2月1日まで開催される。オフシーズンを早めに切り上げて冬場でも厳しいトレーニングを積んだ選手たちに報いるため、さまざまなプロファイルの5ステージが用意された。砂塵による集団崩壊やスプリント勝負、岩石地帯の短くて急な上りなど、開幕戦とは思えぬ本格的バトルの予感がする。
サウジアラビアに自転車レースがやってきた
A.S.O.により2020年にスタートした大会である。当初はサウジツアーと呼ばれ、超高層ビルがそびえる首都リヤドを中心に開催されていた。2021年はコロナ禍で開催中止。2022年に再開し、2024年からアルウラー・ツアーに名称変更するとともに、アルウラー・オールドタウン(旧市街)を拠点とするレースになった。アラビア半島の大部分を占める砂漠の国サウジアラビアを舞台とするのは同じだが、紅海に近い北東部のアルウラー近郊は、Google Mapで見れば一面の岩石地帯で、奇岩や古城などが点在する観光地だ。レースは今回が第5回となる。
アラビア語にはアルで始まる固有名詞が多いが、アルは英語の「the」に相当する定冠詞で、その後に続く名詞を強く押し出すときにも用いられる。ウラーは紀元前からある1つの町の名前。世界遺産や古代遺跡が残るこの砂漠のオアシスを観光的にアピールするためにアルウラーとして売り出したのである。第5回大会はヘグラ、マラヤ、アルマンシヤ駅、タイマ砦、キャメルカップトラックなどがスタートやフィニッシュ地点となるが、レース途中の景観は壮大で、ここでしか目撃できない独特なものだ。
アルウラー王立委員会(RCU)、サウジアラビアスポーツ省、サウジ自転車競技連盟、国際自転車競技連合(UCI)が全面協力する。持続可能なスポーツの発展を促進し、アルウラーの素晴らしい文化と歴史を紹介しながら、世界のスポーツの舞台としてサウジアラビアの存在感を高めることが目的。世界屈指のイベント運営会社A.S.O.が放っておくわけがない魅力的な素材なのである。
壮大な景観を見せる岩石地帯を走る
格式としてはUCIアジアツアーのカテゴリー2.1レース。しかし大会プロデュースはあのツール・ド・フランスである。欧州でのシーズンイン前に足慣らしで走っておこうというには舞台設定が特殊すぎる。好成績を修めるには最高の状態でレースに参加する必要がある。
第1ステージのスタートはアルウラーのアルマンシヤ駅前で、そこが第1ステージのゴール地点にもなる。この初開催ステージは距離142.7kmで特に難しいところはないが、スプリンターたちがゴール後にリーダージャージを着る権利を得るためには、最後の位置取りに注意する必要がある。
アルウラー・ツアー 第2ステージの高低差図
第2ステージはアルウラー・オールドタウンをスタートし、新登場のゴールであるビルジェイダ・マウンテンウィルカを目指す。ステージ最初の部分は比較的穏やかだが、最後のセクションは難易度が高く登坂力が試される。ステージ後半は3周回するコースを取り、平均勾配9.2%、最大勾配15%という2.9kmの上りを3回上る。パンチャーにとっては勝負を仕掛けるポイントとなる。
ヘグラ〜タイマ砦間の第3ステージは、アルウラー地域の古代の美しさを巡る旅となる。2008年からユネスコ世界遺産に登録されているヘグラは、ナバテア文明の最も重要な保存遺跡で、紀元前1世紀に作られたファサード装飾を持つ記念碑的な墓所が有名だ。ゴールのタイマ砦は考古学的に重要な遺跡で、かつてのこの地域の栄華を証明する宝物が発見されている。
第4ステージは古代文化から一転してアルウラーの現代シーンに突入する。スタートのマラヤには、アルウラーの自然の風景を映し出す世界最大の鏡張りの建物があって、息を呑むような光景が広がる。ゴール手前には平均勾配17%の坂が4km続く坂があり、ハラト・ウワイリドのスカイビューズでおそらく総合優勝争いが決着する。このステージの表彰台は、前回大会の最終表彰台でもあった。
最終日の第5ステージはキャメルカップトラックを周回する距離169.6km。サウジアラビア王国とアラブ世界の文化史に根ざした伝統的なラクダレース専用のトラックは強風が吹き荒れる。砂漠の罠をうまく回避した選手が第5回アルウラー・ツアーの覇者となる。
2024覇者のサイモン・イェーツ。後方左が岡
2024年はジェイコ・アルウラーのサイモン・イェーツ(英国)が総合優勝。JCLチーム右京の岡篤志(今季は宇都宮ブリッツェン)がアクティブライダー賞を獲得した。2025年大会は出場17チーム、そのうちワールドチームは6。1チームは7人編成。それでは今回の注目選手をみてみよう。
このアルウラー自治体をサブスポンサーに持つオーストラリアのワールドチーム、ジェイコ・アルウラーはオランダのナショナルチャンピオンジャージを着るディラン・フルーネウェーヘンをメンバーに加えた。ツール・ド・フランスの区間6勝を誇る強豪スプリンターだ。このアルウラー・ツアーがサウジツアーと呼ばれていた2022年に2勝、2023年に1勝をあげていて、それが大会の最多勝利数。さらに2年連続でポイント賞を獲得している。2024年は病気でこのレースを断念せざるを得なかったフルーネウェーフェンはリベンジを熱望している。
ライバルは欧州チャンピオンジャージを着用するスーダル・クイックステップのティム・メルリール(ベルギー)だ。2024年はステージ2勝してポイント賞を獲得。2月のワールドツアー、UAEツアーでもステージ3勝とポイント賞をさらっていて、春のクラシックレースのためにシーズン開幕から全開で行く気満々。
ワールドチームはバーレーン・ヴィクトリアス、ピクニック・ポストNL、XDS・アスタナも参戦し、とりわけ新スポンサーを獲得したピクニック・ポストNLとXDS・アスタナは目新しいジャージでレースをにぎわせてくれる。
Q36.5プロサイクリングに移籍したトム・ピドコック(英国)もあなどれない。前例のないコース設定がされた第2ステージはシクロクロス界の2022世界チャンピオン、マウンテンバイクの東京&パリ金メダリストの経歴を持つピドコックがその才能を発揮できる舞台設定だ。2021年にロードレースでプロデビューを果たしたイネオス・グレナディアーズから、スイスの2部チームであるQ36.5を新天地としたピドコックにとっては重要なリスタートとなる。
2025年のJCLチーム右京。日本チャンピオンジャージが小林海
日本登録のコンチネンタルチーム、JCLチーム右京も注目。A.S.O.が主催するパリダカ(通称)にもドライバーとして出場した経験がある元F1レーサー、片山右京代表がその人脈を最大限に発揮。目標に掲げるツール・ド・フランス出場への足がかりとして、この大会に3年連続で出場している。
2023年には5ステージ全てで積極的なアタックに出て、想定外の活躍を見せてチームの存在感をアピールすることに成功したのは言うまでもない。続く2024年も当時所属していた岡がアクティブライダー賞を獲得した。
「コロナ禍などで当初の計画から遅れてしまったけれど、2024年に初めてヨーロッパに拠点を移して、まずまずの成績をつかむことができ、ツール・ド・フランス出場に向けて一歩前に進むことができたシーズンだった」と片山代表。
「2026年が本当の意味で勝負。そのためにも2025年はしっかりと戦っていきたい。その緒戦となるのがアルウラー・ツアーです」
今大会には日本ナショナルチャンピオンジャージを着用する小林海(まりの)、小石祐馬、山本大喜(まさき)が出場。そして海外勢はすべて25歳以下の若手だ。2024ジロ・デ・イタリアネクストジェネレーションでスプリント力を発揮したアンドレア・ダマト(イタリア)。アレッサンドロ・ファンチェッル(イタリア)はトレック・セガフレード、エオロコメタ、Q36.5に所属していたオールラウンダーなどが起用された。
新加入の小林は、「いいレースに出られるのでとても楽しみです」と1月中旬に東京都内で行われたチームプレゼンテーションで語った。
南半球のツアー・ダウンアンダーで本格開幕した2025シーズン。次は温暖な中東エリアへ。チームや選手たちはさまざまな野望を持って栄冠に向けて走り始めた。
文:山口和幸
山口 和幸
ツール・ド・フランス取材歴30年超のスポーツジャーナリスト。自転車をはじめ、卓球・陸上・ボート競技などを追い、東京中日スポーツ、ダイヤモンド・オンライン、LINEニュース、Pressportsなどで執筆。日本国内で行われる自転車の国際大会では広報を歴任。著書に『シマノ~世界を制した自転車パーツ~堺の町工場が世界標準となるまで』(光文社)、講談社現代新書『ツール・ド・フランス』。青山学院大学文学部フランス文学科卒。
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