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ニールソン・パウレスが会心のロングスプリント 5人の争いを制して2度目の優勝【Cycle*2024 宇都宮ジャパンカップサイクルロードレース:レビュー】
サイクルロードレースレポート by 福光 俊介ニールソン・パウレスが2度目のジャパンカップ制覇
前年の大雨とは一転、秋晴れの下で行われたアジア最高峰のワンデーレース「宇都宮ジャパンカップサイクルロードレース」。天気は変われど、ジャパンカップならではのサバイバル戦はそのままに。5人に絞られた優勝争いは、ニールソン・パウレス(EFエデュケーション・イージーポスト)が最後の300mでトップを疾走。独走で獲った2年前に続く、2度目となるジャパンカップ制覇を果たした。
31回目を迎えたジャパンカップは、今回から開催地・宇都宮を冠し「宇都宮ジャパンカップサイクルロードレース」として世界へその名を広げていくことに。アジアでは唯一、UCIプロシリーズにカテゴライズされるワンデーレースは、これまで以上にサイクルロードレースシーンにおいて価値ある一戦として、世界からの目が注がれるものとなっていく。
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宇都宮ジャパンカップサイクルロードレースのスタート
そんなレースは、宇都宮市森林公園を基点とする10.3kmの周回コースを14周回。総距離144.2kmで覇権を争った。名物の上り、古賀志林道には今年も多くのファンが集まり、それはグランツールの山岳ステージを凌駕するほどの熱気。もちろん、宇都宮市森林公園やその他の観戦ポイントにもたくさんの人・人・人。前日までと比べて急激に気温が下がった宇都宮だけれど、ジャパンカップだけは寒さを感じさせない熱いムードが漂った。
号砲とともに飛び出したのは、このレースを最後の20年間のプロキャリアに終止符を打つ畑中勇介(キナンレーシングチーム)。すぐに始まる古賀志林道の上りめがけてスピードを上げると、プロトンはあっという間に活性化。やがて6人が先頭に立ち、そのまま逃げの態勢に移った。
序盤に形成された逃げグループ。サイモン・イェーツが牽引する
1回目の古賀志林道を先頭で通過した入部正太朗(シマノレーシング)に続き、アンドレア・パスクアロン(バーレーン・ヴィクトリアス)、サイモン・イェーツ(ジェイコ・アルウラー)、ゲオルグ・シュタインハウザー(EFエデュケーション・イージーポスト)、ハミッシュ・ビードル(チーム ノボノルディスク)、山本大喜(JCL TEAM UKYO)が先頭グループを形成。UCIワールドチーム勢も序盤から動きを見せたことで、逃げにメンバーを送り込めなかったリドル・トレックはマッズ・ピーダスンが牽引役を引き受けるなど、メイン集団も慌ただしい。
マッズ・ピーダスンがペーシングを担ったメイン集団
2周目に入って先頭はパスクアロン、Sイェーツ、シュタインハウザー、山本に絞られ、その45秒ほど後ろでリドル・トレックが引っ張るメイン集団。しばしこの構図が続いたのち、4周目の古賀志林道でトムス・スクインシュ(リドル・トレック)らがアタック。これで先頭が完全にシャッフルすると、タイミングよく前に上がってきたアントニー・ペレス(コフィディス)がひとり逃げとなって、レースをリードした。
ペレスは6周目に設定された、この日2回目の山岳賞を1位通過。集団では依然アタックが散発して、マテイ・モホリッチ(バーレーン・ヴィクトリアス)の動きに小石祐馬(JCL TEAM UKYO)や津田悠義(日本ナショナルチーム)といった日本勢が追随。上りのたびに激しい打ち合いとなる集団は、自然と人数が絞り込まれていく。これが現チームでは最後のレースとなる新城幸也(バーレーン・ヴィクトリアス)らも、中間地点を過ぎるまでに後方へと下がっていった。
レース中盤には留目夕陽が古賀志林道で先頭に立った
数人が抜け出しては集団がキャッチする流れが続いた中盤。UCIワールドチーム勢が代わる代わる前に出てコントロールする状況から、15人ほどが抜け出して残り5周へ。留目夕陽(EFエデュケーション・イージーポスト)や石上優大(愛三工業レーシングチーム)も加わって先を急ぐが、イスラエル・プレミアテックが集団を率いて猛追。追いついたタイミングでエースのマイケル・ウッズみずからアタックして、さらに人数を絞り込んだ。
大きな局面は残り4周(11周目)でのこと。それまでチームメートにレース構築をゆだねてきたパウレスがついにアタック。すかさずウッズが反応し、2人で頂上を通過。直後の下りでモホリッチ、さらにはイラン・ファンウィルデルとマウリ・ファンセヴェナントのスーダル・クイックステップ勢も合流。地脚のある5選手はすぐに協調態勢に入り、みるみるうちに後続とのタイム差を広げた。
12周目、13周目とハイペースを刻み続けた先頭5人は、その形勢のまま最終周回の鐘を聞く。最後の古賀志林道で早くも牽制が始まって、パウレスやウッズが仕掛けるとモホリッチとファンウィルデルが後退。食らいついたファンセヴェナントはチームメートのファンウィルデルを待ち、先頭交代には応じず付き位置をキープ。得意の下りで先頭復帰したモホリッチに続き、ファンウィルデルも残り3kmを目前に再合流。追いついた勢いのままアタックすると、これに乗じたウッズもライバルを振り切ろうと試みる。一瞬反応が遅れたモホリッチとパウレスだったが、何とか踏みとどまって、最終局面へとつなげた。
先頭5人が最終周回へ
フィニッシュまで残すは1km。スプリントを避けようと先駆けしたのはファンセヴェナント。お見合いする選手たちを尻目にパウレスがすぐに反応すると、最終の300mでついに単独先頭に。そのまま最終のストレートに突入すると、大観衆の待つ宇都宮市森林公園のフィニッシュラインに一番で飛び込んだ。
「スプリントでも勝てる自信はあったんだ。だけど、ファンセヴェナントの加速が素晴らしく、これについていくべきだと直感した。残り300mからのスプリントは早すぎるかとも思ったけど、最後まで踏み込む脚が僕には残っていたんだ」(パウレス)
ジャパンカップの優勝は2年ぶり。そのときは独走で勝ったが、今度は5選手による争いを制してみせた。前評判の高かった選手同士での駆け引きをモノにしただけあって、改めて勝負強さを印象付ける形に。この秋はすこぶる好調で、10月10日のグラン・ピエモンテでは圧巻の42.5km独走劇。2日後のイル・ロンバルディアでも8位にまとめていて、コンディションを維持して来日していた。
宇都宮ジャパンカップサイクルロードレース表彰式
「今回もファミリーで日本に来ていて、妻と子どもの前で勝つことができた。最高の勝利だよ」(パウレス)
表彰台には幼いわが子とともに登壇し、一番高いところから会場の景色を見渡した“ミスター・ジャパンカップ”。その表情は誇らしげであるとともに、すっかり父の顔に戻っていた。
最終的に、2位にはファンウィルデル、3位にモホリッチと続き、それぞれ表彰台の一角を確保。日本人選手トップの14位で走り終えた岡本隼(愛三工業レーシングチーム)が2年連続のベストアジアンライダーを獲得。112人が出走し、完走が半数を切る54選手というサバイバルレース。その厳しさは「これこそがジャパンカップ」と実感させられるものだった。
クリテリウムはトムス・スクインシュが優勝。リドル・トレックとして5連覇の偉業達成
また、ロードレースに先立って19日に行われた宇都宮ジャパンカップクリテリウムは、大会史上初の逃げ切りによる決着となり、最後の1周で連続アタックに打って出たスクインシュが初優勝。リドル・トレックとしては、昨年までエドワルト・トゥーンスが3連覇(新型コロナによる大会中止をはさむ2019・2022・2023年大会優勝)、その前には2018年大会でジョン・デゲンコルプが勝っており、チームとして実質5連覇の偉業達成。
宇都宮市の中心部を走った33.75kmのハイスピードバトルは、やはりUCIワールドチーム勢が中心となって展開し、そのスピードはアベレージ48.75km。大会のテーマ通り、「世界のスピード」が宇都宮で披露されたのだった。
チームプレゼンテーションが行われた18日も含め、世界のサイクルロードレースの中心地となった宇都宮での3日間。壮絶なドラマと感動はわれわれの心にしっかりと刻まれた。
文:福光 俊介
福光 俊介
ふくみつしゅんすけ。サイクルライター、コラムニスト。幼少期に目にしたサイクルロードレースに魅せられ、2012年から執筆を開始。ロードのほか、シクロクロス、トラック、MTB、競輪など国内外のレースを幅広く取材する。ブログ「suke's cycling world」では、世界各国のレースやイベントを独自の視点で解説・分析を行う
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