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シーズン最後のレースでクリストフ・ラポルトがシーズン最初の歓喜をつかみ取る!【Cycle*2024 パリ〜トゥール:レビュー】
サイクルロードレースレポート by 宮本 あさかフランスのシーズン最終戦はフランス人のクリストフ・ラポルトが勝利
季節外れのパリ〜ルーベか、一足早いシクロクロスか。同日開催のグラベル世界選手権よりも、はるかに悪路で、はるかにフランドリアンで。近年でも最高の当たり年、いわばグラン・ミレジム。2018年に未舗装レースに生まれ変わってから、初めての雨が、レースを最高に面白くした。不遇が重なり、思うような春を過ごせなかったクリストフ・ラポルトが、秋のパリ〜トゥールで輝いた。
「できる限り最高の形でシーズンを終えたいと願っていて、その通りになった。おかげで気持ちよくバカンスに出かけられるし、家族と過ごす時間を、心静かに満喫することができる」(ラポルト)
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レースに火をつけたのは、マッズ・ピーダスンだった。優勝大本命に挙げられた北の男は、短い上りと未舗装路の繰り返しがいよいよ始まるタイミングで、思い切って仕掛けた。1日中コントロールに努めてきたリドル・トレック隊列に、さらなる加速を命じると、勢いよく前に飛び出した。まさにポガチャル風に。フィニッシュまでは70kmも残していた!
生まれて初めてパリ〜トゥールに乗り込んできた2019年世界王者は、泥沼と化したぶどう畑の小道を巧みにこなし、平坦な舗装路を全速力で突き進んだ。逃げとの2分差は、たったひとりで埋めた。
残り56kmで先頭にブリッジを成功させた後でさえ、ピーダスンはひたすら孤独な戦いを続けた。逃げの残党3選手が、一切の先頭交代を拒否したからだ。すでに160km近く逃げ続けてきたUCIプロチームとコンチネンタルチームの選手は、もはや足を残していなかったし、残り50kmでついに2人きりになった欧州タイムトライアルチャンピオンにして、世界選TT銅メダリストのエドアルド・アッフィニには、至極もっともな理由があった。後方のメイン集団に、エースのラポルトが控えていた。
南フランスで生まれ育ったラポルトにとって、アンダー時代を含めて、今年が11回目のパリ〜トゥールだった。伝統のスプリンターズクラシックからグラベル競争に様変わりした後だけでも、4回走っている。1年前は、逃げ切った5選手の背後で、集団スプリントを制した。
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【ハイライト】パリ〜トゥール|Cycle*2024
最初に仕掛けたのは優勝候補のピーダスン
「パリ〜トゥールっていうのはいつもこんな風に進む。最初の未舗装セクターからいきなりクレイジーな状況になるんだけど、実はそれほど早い段階では集団は割れない。だから序盤のセクターは、少し後方で控えていたんだ」(ラポルト)
アッフィニが前にいたおかげで、一切の牽引作業から解放されていたヴィスマ・リースアバイクは、ピーダスンが飛び出した後も、ヤスペル・フィリプセン率いるアルペシン・ドゥクーニンクやアルノー・ドゥリー擁するロット・スーダルに追走を任せておいた。残り50kmを切ると、グルパマ・FDJも最前列で激しいテンポを刻んだ。未舗装セクターを抜けるたびに、メイン集団は少しずつ削られていった。
「アルペシンやトレックに、あんな風に制御権を握らせておきたくはなかった。だからアタックすることに決めた」(ラポルト)
第5セクターに入る直前だった。残り33km、ラポルトが力強く踏み出した。素早く反応したマティアス・ヴァチェクが、後に続いた。
ラポルトが引き、ヴァチェクは後輪に張り付いているだけというヴィスマ&リドル2人組は、ほんの4km先で、ピーダスンが引き、アッフィニは後輪に張り付いているだけというリドル&ヴィスマ2人組に合流した。ただヴィスマ2人とリドルの2人だけで構成された先頭集団が出来上がると、アッフィニが残された力を振り絞った。イタリアのTTスペシャリストが限界に達し、先頭から静かに後退していくと、今度はヴァチェクが力を尽くす番だった。ブエルタ初日の個人タイムトライアルで2位に飛び込み、高いルーラー能力を証明した22歳は、一時は9秒差にまで迫った追走グループを再び突き放した。
その代わり、ピーダスンが、チームメイトの刻むテンポについて行けなくなった。独走14km+先頭交代なしの牽引27km=41kmの奮闘の果てに、残り22km、脚が止まった。……ただしリドルのエースは、ラポルトとヴァチェクが前へと遠ざかって行った後も、チーム員として模範的な働きを披露する。追走集団の行く手をさりげなく塞いだり、リズムを乱したりと、上手にライバルたちの邪魔をした。
2人になったヴァチェク(左)とラポルト(右)
2人だけになったラポルトとヴァチェクは、しばらくは協力し合い、黙々とフィニッシュへと突き進んだ。きっちり先頭交代を続け、後続には常に30秒前後のリードを保った。
ところが、いよいよトゥールの市街地へと滑り込み、フィニッシュまで2kmに迫ったところで、ふと、ラポルトが2番手に下がる。そして、もう2度と、前を引かなくなった。10歳年下の敵が、何度後ろを振り返っても、絶対に先頭には出なかった。それでも若者らしい真っ直ぐさで、ヴァチェクは決してペダルを踏む脚を緩めない。一方で2位に入った2022年世界選でも、銅メダルを手に入れた2024年パリ五輪でも、「自分が何位なのか分からない」状態ながら全力でスプリントした31歳は、この日ばかりは老獪な駆け引きを押し通した。
「(2022年)ヘント〜ウェヴェルヘムは、こういったフィニッシュでしてやられた。あの時、前にいたのは3人で、加速するタイミングを待っているうちに、先にギルマイにスプリントを切られて、そのまま勝利をさらわれてしまった。だから今日こそは、僕が先に加速をしたかったんだ」(ラポルト)
伝統のロングストレート、グラモン通りに入っても、ラポルトは頑なに意志を貫いた。ついには心に決めていた通り、自分のタイミングで加速を打った。初めてエースとして参戦したミラノ〜サンレモは体調不良で自転車を降り、初出場ジロは落車リタイアを余儀なくされ、苦しみもがいたシーズン最後のレースで、シーズン最初の歓喜をつかみ取った。
「勝てるなんて、期待さえしていなかった。去年の欧州選手権以来、勝利から遠ざかっていた。……ヨーロッパチャンピオンジャージ姿で残念ながら勝つことはできなかった。簡単な1年ではなかった」(ラポルト)
ブエルタ初日2位に続き、第7ステージでも集団スプリントで2位に食い込んだヴァチェクは、一騎打ちには敗れたものの、ワンデークラシックで初めての表彰台乗りを果たした。「またしても2位で、もちろん少しがっかりしているけれど、同時に来シーズンに向けた自信にもなる」と、今季の大躍進にたしかな手ごたえを得た。
24人の追走グループは21秒遅れでフィニッシュラインにたどり着き、3位争いをフィリプセンが制した。泥まみれの車輪で繰り広げられた、重たいスプリントだった。
文:宮本あさか
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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