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トリプルクラウンか、五輪ダブル×世界選ダブルか、歴史的快挙を懸けたバトルが繰り広げられる【Cycle*2024 UCI世界選手権大会 男子エリート ロードレース:プレビュー】
サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか2024年世界選手権は男子エリートロードレースでクライマックス
トリプルクラウンか。それとも五輪ダブル×世界選ダブルか。9月最後の日曜日、チューリッヒの難コースを舞台に、歴史的快挙を懸けたバトルが繰り広げられる。2024年UCIロード世界選手権のアルカンシエル争奪戦は、男子エリートロードレースでいよいよクライマックスに達する。
全長273.9kmの長距離走は、チューリッヒ北東20kmほどに位置するヴィンタートゥールで幕を開ける。まずは北側にぐるりと回り、ブッフ・アム・イルヘルの上り(登坂距離4.8km、平均勾配4.2%)をこなす。そこから改めてスタート地を経由すると、南下してキーブルクへ(1.3km、10.1%)。個人タイムトライアルでも通過したグライフェン湖のほとりをかすめた直後には、ズエスブラッツ登坂(1.8km、7.5%)も待っている。
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UCI世界選手権大会 男子エリート ロードレース コースマップ
序盤のラインレース部分69.4kmに登場するこれら3つの上りは、もちろん、単なる前菜に過ぎない。レースが本格的に動き出すのは、チューリッヒ湖北岸のゼクセロイテン広場を起点に描かれた全長26.85kmの「シティサーキット」に突入してから。
周回前半には、チューリッヒベルフシュトラーセ(800m、7.1%、最大勾配17.2%)と、ウィティコン(2.6km 5.3%、20.7%)が立ちはだかる。全部で7周回するうちに、最終的に獲得標高差は4470mにも至り──今春のリエージュ〜バストーニュ〜リエージュより約200m多く、昨秋のイル・ロンバルディアより約200m少ない──、間違いなく、本格派クライマー&パンチャーにふさわしい地形と言える。
ただし今年のコースの難しさは、決して、脚をひどく痛めつける激坂だけには集約されない。時に道はナーバスに曲がりくねり、特に周回後半には、スピードの出る平地やテクニカルな下りも組み込まれた。中央分離帯や歩道との段差など、市街地特有の「障害物」も多い。さらには、この季節特有の雨の多さと、道をひときわ滑りやすくする落ち葉。
そもそも、例えば最終周回にウィティコンの激坂で上り巧者が飛び出して行ったとしても、フィニッシュラインはいまだ20kmも先なのだ。脚のある平地巧者たちが、粘り強く追走を仕掛ける余地は残っている。
トリプルクラウンを狙うポガチャル
「いまだかつてないほど興奮してる。だってこれ以上に僕向きの世界選はないほどだから」。こう豪語するタデイ・ポガチャルこそ、自他共に認める優勝大本命。今シーズンは出走54日で22勝とぶっちぎり、1998年以来26年ぶりとなるジロ&ツール同一年制覇=ダブルツールをも成功させた。当然、狙うは、1974年エディ・メルクス、1987年ステファン・ロッシュに次ぐ男子史上3人目のピンク&イエロー&レインボーの同一年獲得=トリプルクラウンだ。
モニュメントで現役最多タイの6勝を誇るポガチャルは、距離の長いワンデーにめっぽう強い。決して地形的には向いていなかったはずの昨夏のグラスゴー大会でさえ、フィニッシュ直後に嘔吐するほど死力を尽くし、見事3位に食い込んだ。この夏ツール総合3勝目を祝った後はパリ五輪を完全スキップし、1カ月半以上実戦から遠ざかっていたが、復帰2戦目となる9月15日のGPモントリオールでは軽々と独走勝利を手に入れた。
前人未到の五輪ダブル×世界選ダブルなるか? レムコ・エヴェネプール
一方で3年前にはロード欧州チャンピオンとなり、2年前にはロード世界チャンピオンとなり、この夏にはロード五輪金メダリストとなり……24歳にして国際チャンピオンシップで史上最多の12メダルを誇るレムコ・エヴェネプール(ベルギー)は、つまり「無線なし」の戦い方を心得ている。ついでに言えば1週間前の世界選個人タイムトライアルでは「パワーメーター」なしで2連覇を果たした。
「好きなタイプの周回だ。あとはただタイミング良く飛び出すだけ」と、やはりエヴェネプールも自信を見せる。この夏は男子として初めて同一五輪で個人TTとロードレースのダブル制覇を果たし、やはり男子として史上初めて同一年の五輪TT&世界選TTのダブル快挙を成功させたばかり。9月29日の日曜日には、同一年の五輪TT&ロード&世界選TT&ロードの全制圧といういまだかつて誰にも手の届かなかった高みへと突き進む。
スロベニアもベルギーも、今世界選には最大枠8人の出走が許されている。落車負傷で実力者のマテイ・モホリッチ(スロベニア)を欠くものの、ポガチャルの側には、ほんの3週間前にブエルタで4回目の総合優勝をもぎ取ったプリモシュ・ログリッチ(スロベニア)がついている。またここ数年ベルギー代表チームの「ダブルエース」を務めてきたワウト・ファンアールト(ベルギー)もまた、ブエルタでの落車負傷により不在。逆に毎回恒例、大会前の「どちらがエース?」問題がない分、エヴェネプールは自分の走りだけに集中できるかもしれない。
昨年の優勝者マチュー・ファンデルプールも連覇を狙う
ポガチャルvsエヴェネプールの一騎打ちばかり注目されるが、指折りのライバルたちも、年に1度しか巡ってこない機会を簡単に諦めるつもりはないはずだ。この1年間アルカンシェルをクールに着こなしたマチュー・ファンデルプール(オランダ)は、「今世界選でチャンスが皆無だと思ったら、スタートラインにさえ立たないだろう」と、2連覇に向けて強い意欲を示す。この春はロンド&ルーベ両制覇で石畳の王となった直後に、リエージュ3位で起伏攻略の可能性を証明した。1.5kgの減量で身体を絞り、チューリッヒの激坂群へ挑む。
ポガチャルがツール・ド・ラヴニールを制覇し、エヴェネプールがジュニア世界選で個人TT&ロードのダブル優勝を果たした2018年に、アンダー23部門でロード世界一となったマルク・ヒルシ(スイス)は、母国で、2人の巨人を迎え撃つ。8月半ばからの1カ月間でワンデー5連勝と、かつてないほど絶好調。「ついに僕にチャンスが巡ってきた。今大会へのモチベーションは高い」と、26年ぶりのスイス人ロード世界王者を目指す。
2020年から世界選2連覇のジュリアン・アラフィリップ(フランス)は、GPモントリオール3位で調子は上向き。五輪で最後までエヴェネプールにしがみついたヴァランタン・マドゥアスと、今ツール初日に鮮やかにマイヨ・ジョーヌをまとったロマン・バルデと共に、フランスの勝機を探る。マティアス・スケルモース、マッズ・ピーダスン、マグナス・コルト、カスパー・アスグリーン等々、各チームのエース級が集結したデンマーク代表は、果たしでどの選手が勝負のカードを切るのか。スペイン代表にはミケル・ランダ、カルロス・ロドリゲス、フアン・アユソと実力派クライマーが名を連ねるが、ナーバスなコース地形はむしろペリョ・ビルバオ向き。
UCI世界選手権大会 男子エリート ロードレース
マッテオ・ヨルゲンソン、ブランドン・マクナルティ、マグナス・シェフィールド、ニールソン・パウレスと米国も活きのいい選手が揃っているし、ロードレースと同じ周回コースで行われたミックスタイムトライアルで、世界制覇を成し遂げたオーストラリア勢──ジェイ・ヴァイン、ベン・オコーナー、マイケル・マシューズ──からも、絶対に目が離せない。五輪ではロードではなく、マウンテンバイクで2連覇に輝いたトム・ピドコック(イギリス)には、頼もしいイェーツ兄弟が側についている。伝統的に世界選手権を極めて重視するイタリア代表は、アントニオ・ティベーリやアンドレア・バジオーリ、ジュリオ・チッコーネといった上り巧者を擁する。
日本からは1週間前に40歳の誕生日を迎えた新城幸也が、チューリッヒへと乗り込む。残念ながら(?)今大会の最年長レーサーではないようだが、世界選手権出走16回目は、正真正銘、今大会の男子エリート最多。長年我が国の自転車界を先頭で牽引してきた新城に、改めて大きな声援を送りたい。
文:宮本あさか
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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