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サイクル ロードレース コラム 2024年9月23日

エヴェネプールがスタート前のチェーン脱落も史上初の五輪TT&世界選手権TTの同一年ダブル制覇の快挙【Cycle*2024 UCI世界選手権大会 男子エリート個人タイムトライアル:レビュー】

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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UCI世界選手権大会 男子エリート個人タイムトライアル

世界選手権男子個人TT表彰台 優勝エヴェネプール、2位ガンナ、3位アッフィニ

ただ己の研ぎ澄まされた肉体と感覚だけを頼りに、レムコ・エヴェネプール(ベルギー)は46.1kmを走り切った。不測の事態を不動心で乗り越え、2年連続で世界の頂点へと登り詰めた。UCIロードレース世界選手権チューリッヒ大会、男子エリート個人タイムトライアル表彰台の両脇には、イタリア代表の2人、フィリッポ・ガンナとエドアルド・アッフィニが立った。

「人生で最も難しいタイムトライアルだったかもしれない。でも結局、勝ちたいなら、自分の身体を感じる必要があるんだ。あんなことが起こったが、最終的には僕が勝った。それが一番大切なこと」(エヴェネプール)

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ゼッケン「1」番を背負うディフェンディングチャンピオンが、出走台の上で、黄金色に輝くバイクにまたがった直後だった。まさかのチェーン脱落。現場はパニックの空気に包まれた。

メカニックたちの迅速な対応のおかげで、出走へのカウントダウンが始まる頃には、エヴェネプールは改めてスタートポジションについた。ところが、順調にコースへと滑り出した直後に、本人はもう一つの異変に気が付いた。

「パワーメーターが全く動いてなかった。純粋に感覚だけでタイムトライアルを走った。(中略)プッシュしなきゃならないと同時に、限界を超えてもならなかった。だって自分がしていることを、正確に把握することはできなかったから」(エヴェネプール)

幸いだったのは、エヴェネプールが、出走全59人の最終走者だったこと。コース途中に3つ設けられた中間計測地点を首位で通過し、フィニッシュラインで最速タイムを叩き出しさえすれば、自動的に優勝はついてくる。

平地基調のコース序盤を駆け抜けた後、第1計測地点では、かつて世界選2連覇を果たしたTTスペシャリストのガンナを6.70秒上回った。道程半ばに構える上り坂のてっぺんで、差は順調に9秒20秒へと開いた。テクニカルなカーブとアップダウンをこなし、チューリッヒ湖畔へとダウンヒルすると、リードはさらに広がり19秒。

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【ハイライト】UCI世界選手権大会 男子エリート個人タイムトライアル|Cycle*2024

UCI世界選手権大会 男子エリート個人タイムトライアル

第3計測からフィニッシュまでのラスト9.3kmだけならエヴェネプールよりガンナのほうが約12秒速かった

たしかに最終盤の平地区間で、ガンナが巨躯を活かし、凄まじい追い上げも仕掛けた。1分半前にスタートしたはずの前走者プリモシュ・ログリッチ(スロベニア)を、残り数百メートルで捕らえ、そのままフィニッシュラインへ向けスプリントを切ったほど。実際、第3計測からフィニッシュまでのラスト9.3kmだけなら、「ラスト5kmはリズムを保つのに苦労した」エヴェネプールより、ガンナのほうが約12秒速かった。

それでも、全体のトップタイムを意味するグリーンの表示は、常にエヴェネプールの名前の脇に灯り続けた。最後にはハンドルから両手を離して……まるでラインレースで独走勝利を祝っているかのように、ウィニングポーズをとる余裕さえあった。2位のガンナに6秒43差をつけ、フィニッシュラインに飛び込んだ。

「タイム差自体はどうでもよかった。ただ自分のタイムがグリーンだったから、祝いたい気分だった」(エヴェネプール)

UCI世界選手権大会 男子エリート個人タイムトライアル

史上初の五輪TT&世界選手権TTの同一年ダブル制覇の快挙

自らの感覚だけでペダルを回し続けたエヴェネプールは、全長46.1kmを53分01秒98で走り切った。平均時速は52.156km。ジュニア時代の2018年大会も含めると3度目の個人TT世界制覇を達成し、昨年8月のグラスゴー大会で得たマイヨ・アルカンシェル着用権利を、さらに1年間延長した。また女子エリートのグレース・ブラウンと同じく、史上初の五輪TT&世界選手権TTの同一年ダブル制覇の快挙さえも成し遂げた。

昨大会、さらにパリ五輪に続きまたしても銀メダルに甘んじたガンナは、悔しさを隠さなかった。ただ2013年世界選で共にジュニア個人TTを戦って以来の仲良しアッフィニと、揃って表彰台に上がれたことは、「誇らしい」と胸を張る。

そのアッフィニは、ほんの10日前には生まれて初めて欧州TTチャンピオンに輝き、ここチューリッヒでは生まれて初めての世界選表彰台に飛び乗った。スタートからフィニッシュまで安定したペース配分を貫き、平地でも起伏でも黙々とリズムを刻み続けたことで……熾烈な銅メダル争いを制した。

UCI世界選手権大会 男子エリート個人タイムトライアル

欧州王者になったばかりのアッフィニは初めての世界選手権表彰台

序盤の平地パートを快適に飛ばし、第1計測地点を全体の3位で走り抜けたジョシュア・ターリング(イギリス)は、中盤の上りに苦しめられた。最終盤の平地で再びスピードに乗るも、首位エヴェネプールから1分17秒遅れ、3位アッフィニから23秒遅れの4位。19歳で表彰台に飛び乗った昨大会のセンセーションを、再現することは出来なかった。また母国ファンの大声援に背中を押され、やはり第1計測で4番目のタイムを出したシュテファン・キュング(スイス)も、中盤以降で大きく崩れた。「最高の自分を披露したかったけど、ベストが出せなかった」と結果は8位。

逆に昨ブエルタ山岳賞のジェイ・ヴァイン(オーストラリア)は、中盤の上りを活かし、第2計測で全体の3位に競り上がった。残念ながらその後に落車。出血を押して最後まで走り切るも、5位で競技を終えた。

文:宮本あさか

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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