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サイクル ロードレース コラム 2024年9月7日

【ブエルタ・ア・エスパーニャ2024 レースレポート:第19ステージ】ログリッチが独走勝利でマイヨ・ロホ奪還! 3年ぶり4度目の総合優勝に前進

サイクルロードレースレポート by 山口 和幸
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真紅のリーダージャージでインタビューを受けるログリッチ

第79回ブエルタ・ア・エスパーニャが最終決戦となる3日間の激闘に突入した。2つの山岳決戦と首都マドリードでの最終タイムトライアルというファイナルバトルのゴングが鳴った。9月6日、ログローニョからアルト・デ・モンカルビリョまでの173.2kmで第19ステージが行われ、5秒遅れの総合2位につけていたプリモシュ・ログリッチ(レッドブル・ボーラ・ハンスグローエ)がゴールまでの上り坂で独走。今大会3勝目、大会通算15勝目を挙げるとともに、第6ステージでベン・オコーナー(デカトロン・AG2Rラモンディアル)に奪われた真紅のリーダージャージ、マイヨ・ロホを奪還した。

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スタート地点のログローニョはワイン造りの伝統があって、中心地には数多くのタパス・タベルナがある美食の観光都市だ。フィニッシュは2020年に初採用されたモンカルビリョ山岳。厳しい上り坂が11kmも続く。4年前もスタートはログローニョで、それ以来となる2度目の舞台設定だ。

第19ステージは美食の観光都市からスタート

2020年はパンデミックの影響を受けた大会で、ブエルタ・ア・エスパーニャは秋開催となり、ステージ数も全18区間とわずかに縮小された。ログローニョ〜アルト・デ・モンカルビリョ間のレースは第8ステージとして10月28日に行われ、ログリッチとリチャル・カラパス(当時イネオス・グレナディアーズ)の大バトルが行われた。

大会連覇をねらっていたログリッチと首位につけていたカラパスがアルト・デ・モンカルビリョの上り坂で抜け出し、最後はログリッチが13秒差をつけてステージ優勝。首位を守ったカラパスとの差を13秒にした。

その1カ月半前のツール・ド・フランスで、ログリッチは最終日前日にタデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ)に逆転されて首位陥落の憂き目を味わっていた。この2020ブエルタ・ア・エスパーニャも初日に首位に立ったが、第6ステージでその座をカラパス明け渡した。この日は未経験の山岳だったが、「チャンスがあれば勝負をかけよう」と積極的に走り、上りに強いカラパスを置き去りにした。「献身的にアシストしてくれるチームメートのためにも」とエースとしての自覚をもって勝利したのである。


2020ブエルタ・ア・エスパーニャは初日から最終日までマイヨ・ロホを2人が奪い合う展開で、最終的にログリッチがカラパスをわずか24秒という僅差で上回って2連覇を達成している。ログリッチにとっては人生の大きな挫折から立ち直るきっかけとなった思い出深いコースなのである。

J SPORTS サイクルロードレース【公式】YouTubeチャンネル

【ハイライト】ブエルタ・ア・エスパーニャ 第19ステージ|Cycle*2024

ぶどう畑の中を駆け抜けていく選手たち

この日のステージは距離173.2kmで獲得標高2550m。過酷なフィニッシュは距離8.6km、平均勾配8.9%、最大勾配16%だ。総合優勝を争うチームがレースをコントロールする動きを見せるのは確実だったが、わずかなステージ優勝のチャンスをねらってアタッカーたちがこの地形を最大限に利用した。エドワルト・プランカールト(アルペシン・ドゥクーニンク)、フラン・ミホリェヴィッチ(バーレーン・ビクトリアス)、フィト・ブラーツ(アンテルマルシェ・ワンティ)が38km地点でアタック。イサーク・デルトロ(UAEチームエミレーツ)とシモーネ・ペティッリ(アンテルマルシェ・ワンティ)が追いかけてこれに加わった。

5選手が43km地点で第1集団としてまとまった。エドゥアルド・セプルベダ(ロット・デスティニー)が彼らに加わろうとするが失敗。メイン集団は57km地点で5分17秒遅れ。レッドブル・ボーラ・ハンスグローエが集団の主導権を握り、ログリッチが2020年に制したゴールを目指しチームの総合力を注ぎ込む。

レッドブル・ボーラ・ハンスグローエが集団の主導権を握る

「計画していたわけじゃない。このステージでアシストは必要ない」とログリッチはスタート前のミーティングで口にしたという。これに対してチームの何人かが「俺たちはお前の言うことなんか聞かない。とにかくエースを引っ張るんだ!」と反論。ログリッチはこれを受けて「みんな同じ考えでいなきゃいけないから、挑戦するしかない」と覚悟を決めたという。

最後の50kmに差し掛かると、レッドブル・ボーラ・ハンスグローエのアシスト陣がその差を2分に縮めてきた。ブラーツが逃げをあきらめてメイン集団を待つことにした。アルト・デ・モンカルビリョの上り口で逃げ続ける4選手はさらに追い上げられ、その野望は終焉する。

レッドブル・ボーラ・ハンスグローエは上りの最初から猛烈なペースを刻んだ。残り6kmで ダニエル・マルティネスアレクサンドル・ウラソフ、ログリッチがライバル選手との差を広げることに成功。ログリッチは最後の5kmで独走状態となった。1分25秒遅れの総合3位エンリク・マス(モビスター)が追走を開始するが、最後の1kmで総合5位ダヴィド・ゴデュ(グルパマ・FDJ)と総合7位マティアス・スケルモース(リドル・トレック)に追いつかれた。

チームの期待に応え坂を全力で駆け抜けたログリッチ

ログリッチは過酷な坂を全力で駆け抜け、第4、第8ステージに続く3回目の優勝を果たした。ブエルタ・ア・エスパーニャでのステージ優勝は15回目。第6ステージから首位を守り続けたオコーナーは1分49秒遅れでゴール。ログリッチが第5ステージ以来となる総合1位に返り咲き、ここで首位に躍り出た。表彰台でログリッチがマイヨ・ロホを着用してみせるのは40回目だ。

ゴデュとスケルモースが46秒遅れ、マスが50秒遅れ。この結果総合成績ではオコーナーが1分54秒遅れの総合2位、マスが2分20秒遅れの総合3位、カラパスが2分54秒遅れの総合4位となった。

「最後の上りで本当にいい思い出ができたし、このチャンスを逃さなかった。うれしいよ! 明日は最後のビッグステージで、すごく厳しいものになるだろう。それにマドリードではいつものサーキットレースではなくタイムトライアルという決定的なステージがもうひとつあるから、戦いはまだ終わってない」とログリッチ。

一方で、「総合2位以下とタイム差がここまでつけられたことには感心しているよ。5分遅れよりはいい。だから自分のパフォーマンスには満足しているし、チームメイトたちにも満足している」と自信ものぞかせている。

ステージ3位になったスケルモースは4分47秒遅れの総合6位。初めてヤングライダー賞のジャージを獲得するとともに、表彰台が見える位置につけた。

「グランツールで総合優勝争いをするのは初めて。他の選手たちもそうだと思い。プリモシュ(ログリッチ)は違うかもしれないけどね」とコメント。

「毎日限界を超えないようにして、できるだけ自分を温存し、最小限の作業に留めた。私にとって一番大切なのは、自分の実力を証明すること。明日2分失っても2分稼いでも、それは一番大切なことじゃない。一番大切なのは、明日は崩れずに一貫性を保ち、運命がなにをもたらすかを見ること。一日一日を大切にしている」(スケルモース)

翌日の第20ステージは今大会のクイーンステージとして厳しい戦いが予想される。さらにその翌日にはタイム差がつきやすい個人タイムトライアルが設定されている。大会最多タイの4勝目が見えたログリッチだが、この日の独走によりどれだけ疲労が蓄積されたのかは定かではない。上りと大会終盤に強いカラパスが一発逆転の大逃げを狙ってくる可能性もある。総合9位ミケル・ランダ(ティーレックス・クイックステップ)はそのままで終わっていいのか? そして大会期間の3分の2で主役を張ったオコーナーが意地を見せて表彰台を確保するか? いよいよ大一番の2日間となる。

文・山口和幸

代替画像

山口 和幸

ツール・ド・フランス取材歴25年のスポーツジャーナリスト。自転車をはじめ、卓球・陸上・ボート競技などを追い、日刊スポーツ、東京中日スポーツ、Number、Tarzan、YAHOO!ニュースなどで執筆。日本国内で行われる自転車の国際大会では広報を歴任。著書に『シマノ~世界を制した自転車パーツ~堺の町工場が世界標準となるまで』(光文社)。2013年6月18日に講談社現代新書『ツール・ド・フランス』を上梓。青山学院大学文学部フランス文学科卒。

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