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【ブエルタ・ア・エスパーニャ2024 レースレポート:第16ステージ】ソレルが2年ぶり3勝目…ポイント&山岳賞トップのファンアールトが負傷リタイア
サイクルロードレースレポート by 山口 和幸今大会初のステージ優勝を果たしたマルク・ソレル
第79回ブエルタ・ア・エスパーニャは休息日明けの9月3日、ルアンコからラゴス・デ・コバドンガ山頂までの181.3kmで第16ステージが行われ、UAEチームエミレーツのマルク・ソレル(スペイン)が残り4.5kmで仕掛けて優勝。2020、2022年に続くステージ3勝目を挙げた。
真紅のリーダージャージ、マイヨ・ロホを争う戦いは総合3位エンリク・マス(モビスター)が残り60km地点で戦いを開始。最終的に総合4位リチャル・カラパス(EFエデュケーション・イージーポスト)と総合2位プリモシュ・ログリッチ(レッドブル・ボーラ・ハンスグローエ)とともに、首位ベン・オコーナー (デカトロン・AG2Rラモンディアル)に58秒差をつけてゴール。オコーナーは総合成績でログリッチに5秒差まで詰め寄られたが、なんとか首位を守った。
第6ステージで大差の独走勝利を決めて首位に立ったオコーナー。2度の休息日を過ごしてもマイヨ・ロホを奪われることなく、第15ステージを終了してもログリッチに1分03秒、マスに2分23秒の差をつけていよいよ勝負の第3週を迎えた。しかしここまで2区間ごとに着実に貯金を失っていくという苦しい展開だ。マイヨ・ロホを着用することで生じる多くのストレスもあって心身ともに焦燥している。
一方のログリッチは好位置で最後の6日間を迎えた。マイヨ・ロホを総合的な実力ではわずかに劣る選手に着用してもらい、徐々にその差を詰めていくのは労力が少ない戦い方だ。第15ステージで激坂用の自転車に交換した後、集団復帰にチームのサポートカーのドラフティングを使ったことで20秒のペナルティを受けているが、それさえも致命的には感じさせなかった。軽いギアで激坂を上ったことで20秒以上に相当する体力温存ができたメリットもあるような気がする。
厳しい第16ステージは今大会の勝負どころの1つだ。距離181.3kmの長丁場に加え、フィニッシュのラゴス・デ・コバドンガまでの道のりには、3つの厳しい上り坂がある。獲得標高は3820mという難関山岳ステージだ。
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【ハイライト】ブエルタ・ア・エスパーニャ 第16ステージ|Cycle*2024
この日も総合優勝には届かないものの、ステージ優勝を狙っていける実力を持った選手たちがスタート直後から積極的に動いた。ルイス・フェルヴァーケ(ティーレックス・クイックステップ)はスタートフラッグが下りるとすぐにアタックし、激しい逃げ切り合戦が始まった。ポイント賞と山岳賞の1位選手で、規定によってポイント賞ジャージを着用しているワウト・ファンアールト(ヴィスマ・リースアバイク)は、この日最初のアタッカーの1人だが、ステージ序盤でこの日最初のクラッシュに巻き込まれる。
それでもファンアールトは、最初の1時間で46kmを走破する16人の第一集団に加わった。イサーク・デルトロ、山岳賞2位で繰り下がりの山岳賞ジャージを着用しているジェイ・ヴァイン、ソレル(UAEチームエミレーツ)、ウィリアムジュニア・ルセルフ(ティーレックス・クイックステップ)、マルコ・フリーゴ、マチュー・リッチテッロ(イスラエル・プレミアテック)、シルヴァン・モニケ(ロット・デスティニー)、ダレン・ラファーティー(EFエデュケーション・イージーポスト)、オイエル・ラスカノ(モビスター)、フラン・ミホリェヴィッチ(バーレーン・ヴィクトリアス)、フェリックス・エンゲルハート、フィリッポ・ザナ(ジェイコ・アルウラー)、シモン・グリエルミ(アルケア・B&Bホテルズ)、マックス・プール、マーティン・トゥスフェルト(dsmフィルメニッヒ・ポストNL)、ヨン・イサギレ(コフィディス)がファンアールトとともに逃げた。
クラッシュに巻き込まれ負傷したワウト・ファンアールトはリタイア
ファンアールトはその日の最初の山頂、カテゴリー1級のミラドール・デル・フィト(77.1km地点)まで先頭に立ち、そこで山岳賞を争うヴァインに打ち勝った。ファンアールトはダウンヒルでも高速走行し、逃げ仲間との差を1分15秒に広げた。一方、メイン集団は先頭のファンアールトから10分10秒遅れ。オコーナーを擁するデカトロン・AG2Rラモンディアルが先頭に立ってペースメークした。
ファンアールトは、この日2度目の峠、カテゴリー1級のコラーダ・ロメナを前にいったん第1集団に捕まった。上り始めでメイン集団は8分17秒遅れとなり、モビスターがデカトロン・AG2Rラモンディアルと並んでペースアップを始める。
モビスターはコラーダ・ロメナの上りでさらにペースを上げ、エースのマスが残り60km地点で攻撃を仕掛けた。しかし総合上位のライバルたちは当然のように反応する。 ミケル・ランダ (ティーレックス・クイックステップ)がカウンターアタックするが、ランダのこのチャレンジも成功しない。ヴァランタン・パレパントル(デカトロン・AG2Rラモンディアル)がペースを落ち着かせる働きをこなす。
ファンアールトはコラーダ・ロメナ山頂(125km地点)もトップ通過した。しかし、下り坂でエンゲルハートとデルトロとともに激しいクラッシュに巻き込まれる。ファンアールトはレースに復帰しようとするが、膝からの出血が止まらずチームカーの荷台に座り込んでしまった。ブエルタ・ア・エスパーニャのデビュー戦でいきなり3つのステージで優勝してレースを盛り上げたファンアールトがここで姿を消した。この日のレース後、ポイント賞でカーデン・グローブス(アルペシン・ドゥクーニンク)が、山岳賞でヴァインがリーダーに繰り上がった。
戦いはいよいよ最後のラゴス・デ・コバドンガへ。集団は上り始めで5分35秒遅れだ。先頭集団ではプールがペースを上げ、ソレルとザナだけが追従した。そして、残り5kmを切ってからソレルが攻撃を仕掛けると、誰も反応できなかった。
ソレルは「最後の勝利から2年経って、ここで勝つのは特別なこと」と語る
これまでのレースでも最も積極的に走っていたソレルが、ラゴス・デ・コバドンガでスリリングなステージ優勝を果たし、その努力が報われたのだ。総合優勝候補たちが激しい戦いを繰り広げる中、ソレルは逃げを組んだザナとプールに打ち勝った。
「いつもわずかな差で勝利を逃したが、ついに勝利することができた。ラゴス・デ・コバドンガの上りで何度か加速して、マックス・プールも何度かアタックした。その競り合いで得たアドバンテージを最後に活かすことができた」とソレル。
「アタックは1回で終わらせようと考えていた。プールも力強いペースを維持していたけど、あそこで行ったからには後ろを振り返らずに走り切った。この勝利を妻と子供たちに捧げたい。とても幸せだ。このチームではあまり勝てなかったので、とても特別な勝利なんだ。ブエルタ・ア・エスパーニャの最後の勝利から2年経って、ここで勝つのは特別なことだった」
一方の総合優勝争い。ランダは残り8.5kmで満を持してスタート。マスが追い上げ、残り5kmで反撃に出た。カラパスとログリッチだけがゴールまでマスについていくことができ、オコーナーに58秒差をつけてフィニッシュ。総合成績では首位オコーナーと2位ログリッチの差は5秒になった。
この日も逃げ集団に加わり、チームメートをアシストするとともに、山岳賞でトップになったヴァインは「今朝は調子がいまいちだとみんなに伝えた。最初の山岳ポイントでワウト(ファンアールト)とスプリントしたが、調子がいまいちだったので、他の2人(ソレルとデルトロ)のために頑張ろうと決めた」という。
「マルクが勝利を収めることができた。2年前、ビルバオの第5ステージで彼が優勝したとき、私もレースをしていたことを覚えている。マルクとは何度も一緒に走ったことがあるので、ブエルタ・ア・エスパーニャでチームの勝利に貢献できたのは素晴らしい」
一方で、「ファンアールトがクラッシュしたことは絶対に私が望んでいた山岳賞ジャージの取り方ではなかったし、正直言って、峠の頂上でのスプリントでは彼に負けていた。今日の目標はチームの勝利で、その目標は達成された。逃げには3人のUAEライダーがいて素晴らしい動きをした。デルトロは若く、初めてのグランツール。彼は今日本当に調子がよかった」(ヴァイン)
ログリッチがタイム差を縮めつつオコーナーが総合首位をキープ
「実は今日はそんなにひどいとは思っていなかったが、最終的にはマイヨ・ロホを守れたので、次の2つのステージに向けていいことだと思いたい」と5秒差で首位を守ったオコーナー。
「最終日のマドリードでそれを味わえるかどうかわからないので、最大限に楽しまなければならない。オーストラリアの自転車競技は常にいい結果を生み出しており、私たちが先頭で戦っているのを見るのはクールなことだよ」
文・山口和幸
山口 和幸
ツール・ド・フランス取材歴25年のスポーツジャーナリスト。自転車をはじめ、卓球・陸上・ボート競技などを追い、日刊スポーツ、東京中日スポーツ、Number、Tarzan、YAHOO!ニュースなどで執筆。日本国内で行われる自転車の国際大会では広報を歴任。著書に『シマノ~世界を制した自転車パーツ~堺の町工場が世界標準となるまで』(光文社)。2013年6月18日に講談社現代新書『ツール・ド・フランス』を上梓。青山学院大学文学部フランス文学科卒。
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