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【ブエルタ・ア・エスパーニャ2024 レースレポート:第12ステージ】カストリーリョが前夜他界のチーム創設者に捧げる初勝利
サイクルロードレースレポート by 山口 和幸今大会初めて地元スペインで勝利を飾ったパブロ・カストリーリョ
第79回ブエルタ・ア・エスパーニャは8月29日、オウレンセ テルマルからモンターニャ・デ・マンサネーダ スキー場までの137.4kmで第12ステージが行われ、エキポケルンファルマのパブロ・カストリーリョ(スペイン)が10人の逃げ集団からゴール前10kmで抜け出して初優勝した。今大会で地元スペイン選手が優勝したのも初めて。
23歳のスペイン選手は、自身初のプロ勝利とチーム初のグランツールのステージ優勝を果たした。2022年の途中からエキポケルンファルマでプロデビュー。この大会でグランツールに初出場し、大会中盤の第9ステージから積極的な走りを見せていた。
エキポケルンファルマは第2カテゴリーに属するスペインチームだが、その創設者でありリーダーであったマノロ・アスコナ氏が前日に71歳で他界。アスコナ氏が精力を注いできたチームからプロに転向した選手は約70人いて、カストリーリョもそうした選手たちのなかの新鋭だった。
第6ステージから首位を守り続けるデカトロン・AG2Rラモンディアルのベン・オコーナー (オーストラリア)は、3分16秒遅れの総合2位プリモシュ・ログリッチ(レッドブル・ボーラ・ハンスグローエ)、3分58秒遅れの総合3位エンリク・マス(モビスター)らとともに6分29秒遅れの集団の中でゴール。この日は総合成績の上位陣に大きな変動はなかった。
スペイン北西部を舞台とした第12ステージ。スタート地点の名称にある「テルマル」とは温泉の意味。オウレンセはローマ人が定住した2000年前から水温60度の入浴場として楽しまれてきた町だ。フィニッシュ地点の「エスタシオン」は駅・施設という意味で、山岳にある場合はスキー場を指す。モンターニャ・デ・マンサネーダはアウトドアを楽しむ観光地だ。
ガリシア地方で行われる4連続ステージの3日目だ。この日はオウレンセ県を訪れたが、今大会唯一のガリシア人ライダー、カルロス・カナル(モビスター)の出身地である。マンサネーダ スキー場の山頂フィニッシュを目指すコースは、最後の上り以外に山岳ポイントはないものの、それでも連続したアップダウンがあり、獲得標高は3,100mに達する。
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【ハイライト】ブエルタ・ア・エスパーニャ 第12ステージ|Cycle*2024
そんなコースプロフィールに刺激を受けたアタッカーたちは、序盤からすぐに逃げを狙って激しい戦いを繰り広げた。起伏のある地形にもかかわらず最初の1時間で42.1kmを走破し、10人のライダーが先行する。
マルク・ソレル(UAEチームエミレーツ)、ジョナタン・ナルバエス、オスカル・ロドリゲス(イネオス・グレナディアーズ)、マウリ・ファンセヴェナント(ティーレックス・クイックステップ)、カルロス・ベローナ(リドル・トレック)、マウロ・シュミット(ジェイコ・アルウラー)、ルイス・メインチェス(アンテルマルシェ・ワンティ)、マックス・プール(dsmフィルメニッヒ・ポストNL)、ハロルド・ロペス(アスタナカザクスタン)、そしてカストリーリョだ。
激しい攻防が繰り広げられる先頭集団
このうちソレル、ロドリゲス、カストリーリョの3人は、エキポケルンファルマの生みの親でもあるアスコナ氏が見出した選手だ。この日のスタート前には前日に他界したアスコナ氏に向けて黙祷が捧げられた。それだけにどうしても勝ちたいという強い意志があった。
10選手の逃げに対して、マイヨ・ロホのオコーナーを擁するデカトロン・AG2Rラモンディアル勢が集団を牽引してコントロール。86km地点でその差は10分12秒にまで広がった。メイン集団のペースは最後の上りに向かって徐々に上がっていくが、10人のアタッカーは依然として7分15秒の差をキープ。この時点でステージ勝利は第1集団のものになった。
残り14kmでソレルが攻撃を仕掛けた。しかしライバルたちが反撃。ベローナが反撃するが、それも十分ではない。そしてカストリーリョが残り10kmでスパート。決定的な差を広げた。最後の1kmで振り返ってみたのは、執拗に追いつこうするプールを抑え、アスコナ氏のために空を指差して勝利を捧げる余裕があるかかどうかだった。
カストリーリョは最終的にライバルに差をつけて初優勝。プールが2位。同じくアスコナ氏の弟子であるソレルが3位になった。
カストリーリョは自身初のプロ勝利とチーム初のグランツールのステージ優勝も果たした
「実感はまだないけど、素晴らしい勝利だ。信じられないことだ。チームとスタッフの勝利だ。他の選手たちはとても強かったので、逃げ切りはなかなかできないと思っていた。フィナーレは緊張したが、平坦な部分でアタックすることに決め、それがステージ優勝につながった。残り7~8kmでアタックしようかと思ったが、他の選手たちが顔を見合わせているのが見えたので、残り10kmで行くことにした」とカストリーリョ。
「本当に特別な日だ。初めてのブエルタ・ア・エスパーニャで優勝できたなんて信じられない。この勝利をチーム、家族、そしてなによりも、昨夜残念ながら亡くなったマノロ・アスコナという特別な人に捧げたい。ステージ中ずっと彼のことを考えていた。勝利は彼の追悼の意味だ」
スペイン自転車界で広く愛されているアスコナ氏は、リチャル・カラパスも見出した。それ以前もツール・ド・フランスで総合優勝を争ったホセバ・ベロキやイゴール・アリエタなど、バスク出身選手も育成した。
元アマチュア自転車選手で、プロチームの運営の乗り出す前はバスの運転手。2020年に製薬会社のケルンファルマをメインスポンサーに迎えて新たな一歩を踏み出した。前日に訃報を聞いて、ケルンファルマの選手たちが第12ステージを勝ち取りたいと願ったのは言うまでもない。
総合優勝候補選手たちは6分29秒遅れで一緒にフィニッシュした。ガリシアの最難関山岳を越える次のステージに勝負は持ち越された感じだ。
ベン・オコーナーは総合1位の座をキープ
「レース序盤はトリッキーで、本当に大変だった。その後はレースをコントロールし、最後の山岳でペースを上げた。かなり速かったので、アグレッシブに走るには理想的ではなかったけど、今日はかなりいい感じだった。自信を失うことはなかった。イライラしたが、それは自分を信じていないという意味ではない。明日は極めて厳しいフィニッシュだ。このレースが始まって以来、最も重要な日の一つになるだろう」とオコーナー。
翌日の第13ステージは距離175.6kmという長丁場に加えて、コース途中に3つの峠が待ち構える。そしてフィニッシュはカテゴリー1級のプエルト・デ・アンカレス。タイム差のつきやすい山頂ゴールとなっている。
総合成績の上位選手はここまでの体力消耗を考慮しながら、そして土曜日の第14ステージ、日曜日のカテゴリー超級フィニッシュ・第15ステージをにらみながらの走りとなる。ほぼ山岳コースで開催される2024ブエルタ・ア・エスパーニャの象徴的な連続区間となり、これは絶対に見逃せない。
文・山口和幸
山口 和幸
ツール・ド・フランス取材歴25年のスポーツジャーナリスト。自転車をはじめ、卓球・陸上・ボート競技などを追い、日刊スポーツ、東京中日スポーツ、Number、Tarzan、YAHOO!ニュースなどで執筆。日本国内で行われる自転車の国際大会では広報を歴任。著書に『シマノ~世界を制した自転車パーツ~堺の町工場が世界標準となるまで』(光文社)。2013年6月18日に講談社現代新書『ツール・ド・フランス』を上梓。青山学院大学文学部フランス文学科卒。
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