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【ブエルタ・ア・エスパーニャ2024 レースレポート:第10ステージ】ファンアールトにはかなわない!初参戦の10区間ですでに3勝目
サイクルロードレースレポート by 山口 和幸父として最高の姿を見せたファンアールト
第79回ブエルタ・ア・エスパーニャは1回目の休息日明けの8月27日、ポンテアレーアス〜バイヨーナ間の159.6kmで第10ステージが行われ、ポイント賞ジャージを着用するワウト・ファンアールト (ヴィスマ・リースアバイク)がカンタン・パシェ(グルパマ・FDJ)を制してステージ優勝。初出場のブエルタ・ア・エスパーニャにおいて前半の10ステージでなんと3勝を挙げた。
「家族がレースに遊びに来てくれたときに勝てるなんて、そうそうあることじゃないからすごく特別でとてもうれしい」(ファンアールト)
ファンアールトはこれでグランツール(三大ステージレース)での優勝回数を12回(ツール・ド・フランス9勝、ブエルタ・ア・エスパーニャ3勝)とし、現役ベルギー選手としてアルペシン・ドゥクーニンクのスーパースプリンター、ヤスパー・フィリプセンと並んだ。
第6ステージで首位に立ったベン・オコーナー (デカトロン・AG2Rラモンディアル)は、3分53秒遅れの総合2位プリモシュ・ログリッチ (レッドブル・ボーラ・ハンスグローエ)らの総合上位選手と5分31秒後にフィニッシュ。オーストラリア選手としての新記録となる5日目のマイヨ・ロホを確保した。これまでの記録はブラッドリー・マギーが持っていたもので、2005年に4日間マイヨ・ロホを着用していた。
休息日明けのスタート地点
休息日を利用して選手らは空路で、車両を運転するスタッフや関係者は陸路で、南スペインから北西部にあるガリシア州まで一気に移動した。南は今回の開幕地となったポルトガルに接し、北部にはキリスト教の巡礼地として知られるサンティアゴ・デ・コンポステーラがある。ブエルタ・ア・エスパーニャは1935年に始まったが、その草創期から舞台としていた伝統の地だ。
ポンテアレーアスからバイヨーナまで159.6kmの山岳ステージで戦いはリスタートした。大会第2週の6日間はすべてガリシア地方での厳しい山岳ステージで、この日も上りで勝負を仕掛けるアタッカータイプの選手がワクワクするようなコースだった。4つの峠があり、獲得標高は3047m。ブエルタ・ア・エスパーニャの歴代チャンピオンが活躍した象徴的なコースを走る注目ステージだ。
J SPORTS サイクルロードレース【公式】YouTubeチャンネル
【ハイライト】ブエルタ・ア・エスパーニャ 第10ステージ|Cycle*2024
オフィシャルスタートが切られるとブランドン・マクナルティ(UAEチームエミレーツ)がファーストアタックし、激しい戦いが始まった。ステージ勝利を狙う選手たちが前に飛び出るが、なかなかメイン集団との差をつけることができない状況が続く。カテゴリー2級のアルトデフォンフリアの峠で、マルク・ソレル(UAEチームエミレーツ)がついに抜け出すことに成功。ここでファンアールトとウィリアムジュニア・ルセルフ(ティーレックス・クイックステップ)が反応した。先頭の3選手は頂上(27.4km地点)で14秒のリードを奪った。
しかしメイン集団から抜け出そうとする選手とそれを追う選手が途絶えることはなく、ギャップはほとんど拡大しない。ようやくユーリ・ホルマン(アルペシン・ドゥクーニンク)とパシェが46km地点で先頭集団に加わり、5人になる。そして、激しい戦いが80km続いた後も集団のペースは落ちなかった。
その後、差は98km地点で6分15秒に広がり、3連続の峠に突入した。ファンアールトはポイント賞の懸かる中間スプリント地点(128.5km)のみならず峠の山岳ポイントも1位や2位で通過したため、最終的に山岳賞トップのアダム・イェーツ (UAEチームエミレーツ)と22点で並んでしまった。総合成績で上位のイェーツが山岳賞ジャージを守ることになるが、ファンアールトのマルチなライディングスタイルは目を見張るものがあった。
46km地点から始まった先行する5選手の激しい戦い
3つ目と4つ目の峠の間にある中間スプリントポイントをファンアールトが取りにいったことがきっかけとなり、先頭集団の勝利に向けた最終的な攻防が始まった。すぐさまパシェがファンアールトの動きに追随した。ソレル、ルセルフ、ホルマンも追うのだが、その差は徐々に広がっていく。最後の山頂(139.3km地点)を通過し、ゴールまでのダウンヒルをするうちに先頭の2人とこれを追う3人との差は2分になった。ステージ勝利はファンアールトとパシェの一騎打ちとなった。
スプリント勝負ではかなわないと悟っていたパシェが最後の2kmでアタックしたが、ファンアールトはパシェに余裕を与えなかった。残り1kmを切ってファンアールトがスプリント勝負に出て、そのまま優勝。ウイニングポーズで3本指を突き立てて3回目のステージ優勝を果たした。
圧倒的なパフォーマンスを見せ、多彩なスキルを披露したファンアールト。ブエルタ・ア・エスパーニャ初出場ながら、第2ステージで首位に。比較的平坦な第3ステージでは首位のマイヨ・ロホを着用してスプリント勝利。第7ステージでは人数の少ない集団を支配して優勝。そしてこの日はガリシアの山岳で攻勢に出て、パシェを手玉に取って最終的に打ち負かした。
「逃げ集団に入るのが当初の目標だったけど、最初の上りで苦戦した。あきらめかけたけど、頂上直前でもう1回トライした。それでも、後続との差はわずかだったので50km戦わなければならなかった。正直に言うと、それが僕に有利に働いたと思う。というのもステージ終盤になると僕と一緒に逃げていたクライマーたちの脚は疲れきっていた。それで勝てたんだ」(ファンアールト)
「どんなステージでも勝てるかって? それはちょっと大げさだと思うけど、いろいろな強みを持つトッププロ選手たちとレースで戦えることがうれしい。そして、レース終盤で勝負できる状況になれば、いつでもチャンスがある。今日もすごくクールな勝利をゲットできたと思う。先頭で激しい戦いをしたので山岳賞ポイントをたくさん獲得したけど、僕の目は間違いなくグリーンジャージに向いていて、山岳ジャージにはまったく向いていない」(ファンアールト)
マイヨ・ロホを守ったオコーナー
ステージ6位を先頭とするメイン集団は5分31秒後にフィニッシュ。この中にオコーナー、ログリッチらもいてこの日は総合成績の上位選手に変動はなかった。
「結局、完璧なシナリオになってくれた。スタートは本当に厳しく、逃げ切り選手が確定するまでに時間がかかった。トップ10の選手の多くが逃げたいと思っていたはずで、今日はスタートをうまくコントロールできたと思う」とマイヨ・ロホを守ったオコーナー。
「他のチームはポジションを守ろうとしていたので、チームは全開で下り坂を走った。2回目の山岳ではペースがかなり速くなったけど、その後は一段落した。まずは総合1位を守ることが大事だった。明日のフィナーレはもう少し決定的になると思う。最後の峠は難しいのでどうなるかわからない」(オコーナー)
3連続の峠を目指し、山の中を駆け抜けていくプロトン
レッドブル・ボーラ・ハンスグローエでログリッチのアシストをこなしながら、ヤングライダー賞でトップとなるフロリアン・リポヴィッツは、「今日は難しいステージだった。見ての通り、休息日が全員にとっていい結果をもたらし、スタート後の最初の峠では全員が超高速で走った。チームは逃げ集団をできるだけ小さく抑えようとした。総合上位のライダーがそこに加わらなかったので、かなりいい仕事をしたと思う」とフィニッシュ後に回想。
「区間勝利を狙う選手が先行することは予想していたので、上りで全力を尽くすことなく、集団でフィニッシュする展開に持ち込めたことは満足している。それでも、スタート直後はコントロールが非常に難しく、全員にとってかなり大変だったと思う。休息日が体にどう影響するかもわからなかったけど、昨日は本当に休息が必要だった。いいい感触がつかめたので、次のステージも楽しみにしている」(リポヴィッツ)
翌日の第11ステージはカンプス・テクノロヒコ・コルティソ パドロンを発着とする166.5kmの中級山岳だ。標高は500mにも満たないが4つの山岳ポイントがあって、とりわけ最後の峠からフィニッシュまでは7.9km。ステージ勝利を目指す一発勝負師がどこから勝負を仕掛けるのか、そして総合成績で4分ほど先行するオコーナーに対して、総合2位以下の選手たちがこの日を利用して差を詰めていくのか。見逃せない日々が続く。
文・山口和幸
山口 和幸
ツール・ド・フランス取材歴25年のスポーツジャーナリスト。自転車をはじめ、卓球・陸上・ボート競技などを追い、日刊スポーツ、東京中日スポーツ、Number、Tarzan、YAHOO!ニュースなどで執筆。日本国内で行われる自転車の国際大会では広報を歴任。著書に『シマノ~世界を制した自転車パーツ~堺の町工場が世界標準となるまで』(光文社)。2013年6月18日に講談社現代新書『ツール・ド・フランス』を上梓。青山学院大学文学部フランス文学科卒。
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