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【ブエルタ・ア・エスパーニャ2024 レースレポート:第6ステージ】ベン・オコーナーが単独逃げ切り成功で全グランツール制覇 個人総合争いでも首位に立つ「今日のレースすべてが楽しかった!」
サイクルロードレースレポート by 福光 俊介全グランツールでのステージ優勝を果たしたベン・オコーナー
マイヨ・ロホ争いに重要な局面が訪れた。最大で33人で形成された逃げのグループから、ベン・オコーナー (デカトロン・AG2Rラモンディアル)が抜け出しに成功。総合タイム差1分56秒遅れで迎えていたこのステージで、その差をひっくり返し、さらには大きなリードを得ることに成功。同時に、全グランツールでのステージ優勝を達成した。
「今日は僕にチャンスがあると思っていたし、ステージ優勝する自信もあった。それでも、ここまで強い走りができるとは自分でも信じられないよ。本当に、今日のレースすべてが楽しかった!」(ベン・オコーナー)
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ブエルタ・ア・エスパーニャはいつだって大胆である。極端な山岳比重の高さしかり、ユニークなスタート地点しかり。このステージでは、大会スポンサーである大型スーパーマーケット「カルフール」の店内にスタートラインが敷かれた。
大型スーパーマーケットでスタートする選手たち
これまで航空母艦の中からスタートをしたり、牡蠣養殖のいかだから選手たちを出発させたりと、類を見ない演出を施してきたけれど、今度はショッピングセンターの中から。ブエルタのスポンサーに就いて12年目を迎えたカルフール側からの要望で、店内スタートが実現した。屋外の駐車場は関係車両の待機やチームパドックに使われ、事情を知らない買い物客は一時混乱をきたしたとか。同業他社をスポンサーに持つアンテルマルシェ・ワンティやリドル・トレックといったチームは、いささか複雑な気分の中で走り出していたことだろう。夜通しの準備を経てプロトンを送り出したお店は、レーススタート後、現地午後3時に通常営業へと戻っている。
華やかなスタートセレモニーから一転、レース序盤は激しさを極めた。逃げがなかなか決まらず、アタックとキャッチの繰り返し。たびたび集団が伸び縮みして、ときに分裂する場面も。わずかな時間ではあったものの、個人総合2位でスタートしたジョアン・アルメイダ(UAEチームエミレーツ)が後方に取り残されて、慌てて前へ戻る状況も発生していた。
60km地点を過ぎて本格的に上り始めた1級山岳ボヤールで、ようやく先頭グループが固まった。33人が先行し、その後ろではなおも追走を狙った動きが続いている。ポイント賞のマイヨ・ベルデを着るワウト・ファンアールト(ヴィスマ・リースアバイク)も最前線への合流を試みるが、厳しいマークに遭って集団へと引き戻される。頂上を目前にメイン集団が追いつきかけたが、逃げではそれを嫌った選手たちが下りに入って急加速。路面のすべりやすさを考慮した集団がペースを抑えたこともあって、13人がレースをリードする形になった。
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【ハイライト】ブエルタ・ア・エスパーニャ 第6ステージ|Cycle*2024
フィニッシュまで70kmを残す段階で、先頭13人とメイン集団とのタイム差は5分。レッドブル・ボーラ・ハンスグローエが集団先頭でメンバーを固めるが、追走を急ぐ雰囲気ではない。もっとも、フロリアン・リポヴィッツを逃げに送り込んでいて、バーチャルリーダーにもなっている。チームとしては、無理にレースをコントロールする必要性がなくなっていた。代わって集団を牽き始めたバーレーン・ヴィクトリアスは、アントニオ・ティベーリのヤングライダー賞を守るべく局面打開を急ぐ。
快調に飛ばす先頭グループでは、119.5km地点に設けられた中間スプリントポイントをオコーナーが1位通過。いったんグループに戻ると、再びペースアップ。追随したハイス・レイムライゼ(dsmフィルメニッヒ・ポストNL)とともに抜け出すことに成功した。2人逃げを整える一方で、他のメンバーは追走態勢に入るまでに時間を要してしまう。3選手が前の2人を追いかけたものの、数十秒差まで迫ったところで追走ムードは停滞。残り30kmを切ってオコーナーがレイムライゼを引き離すと、いよいよ独走状態へと持ち込んだ。
常に攻め続けオコーナーが先頭を走る
「アグレッシブなレースで、常に攻め続けているような感じだった。レイムライゼが遅れたのを見た瞬間にステージ優勝できると確信したよ。集団とのタイム差が広がっていると聞いたから、最後の上りでは総合タイムをどこまで稼げるかを考えながら走った。とにかく全力で上ることだけに集中したよ」(オコーナー)
その言葉通り、フィニッシュ地ユンケラへと向かう3級山岳の上りでも、オコーナーはメイン集団とのタイム差を広げ続けた。その間に控えていた追走メンバーへのリードも十二分に確保できている。フィニッシュ前50mでようやくウイニングセレブレーションを披露して、全グランツール勝利の瞬間を味わった。
「個人的な目標はステージ優勝だった。大会に入る前に、すべてのグランツールで勝った選手のリストに目を通していたんだ。すごい選手ばかりだよね。そこに僕の名前が記されるのはとても誇らしいよ」(オコーナー)
逃げ残った選手が8位までを占めて、その後ようやくメイン集団がフィニッシュにやってきた。終わってみれば、オコーナーとの差が6分31秒もついていた。マイヨ・ロホはもちろん、オコーナーのもとへ。個人総合2位に下がったログリッチとの総合タイム差は4分51秒。ステージ優勝目標だったとはいえ、ジロ・デ・イタリアやツール・ド・フランスで個人総合4位を経験しているグランツールレーサーである。思いがけず……であるとはいえ、オコーナーにとっては有利な状況になっている。
ベン・オコーナーは「今日のレースすべてが楽しかった!」」とコメント
思えば、昨年も似たようなことがあった。セップ・クス(ヴィスマ・リースアバイク)が115kmもの大逃げを決めて勝利すると、総合で一気にジャンプアップ。2日後にはマイヨ・ロホに袖を通して、結果的に個人総合優勝を果たしたのだった。あのときは、移籍前のプリモシュ・ログリッチやヨナス・ヴィンゲゴーといった“チャンピオン”が脇を固めていて、いわば鉄壁だったけれど、オコーナーの場合はどうなるだろう。両人に共通するのは、第6ステージで“大仕事”を果たしていることである。
「ジャージを守れるかって? できる限りトライしてみるよ。大きなタイム差があるし、この先に控えるハードな山岳も僕にとっては悪くない。リーダーチームとして走る経験は、仲間たちにとっても意義のあるものになるんじゃないかな」(オコーナー)
2シーズン過ごしたデカトロン・AG2Rラモンディアルを今季限りで離れ、来季からはジェイコ・アルウラーへと移る。実質、現チームでは最後となる共同作業。それは、とてつもなく大きなミッションである。
一方、大差での逃げ切りを許したレッドブル・ボーラ・ハンスグローエには誤算が生じていた。ログリッチが着ていたマイヨ・ロホを明け渡すこと自体は、想定の範囲内だった。問題はその相手とタイム差である。彼らにとっては、“貸し出す”程度の感覚だったリーダージャージは、グランツール実績のあるオコーナーへとわたってしまった。それも、5分近い総合タイム差で。
「手に負えない事態になった」とは、チームのスポーツディレクター、パチ・ヴィラ氏。彼によれば、オコーナーら力のある選手が逃げに入った段階で、監視役としてリポヴィッツを前に送り込んだのだという。今年4月のツール・ド・ロマンディでは個人総合3位に入った期待の23歳。逃げ切ったところで、「総合を見据えたプランが増える良い機会だと思ったし、何より他チームがフロリアンの存在を嫌がると思っていた」(ヴィラ氏)。
ところが、オコーナーがアタックした際にリポヴィッツが反応できなかった。「他選手と見合っているうちに行かれてしまった」とは本人談。何とかステージ3位とまとめ、個人総合でも4位へ。同時にヤングライダーのトップに立ったリポヴィッツだけれど、次のステージからはチームとして追う立場に回る。
「さすがにすべてをコントロールすることはできないからね。現時点ではマイヨ・ロホを手放しても良いと考えていたから、その通りに事が運んだ……ということかな。オコーナーがライバルになるかって? それはブエルタが終わるときに分かるだろうね」(プリモシュ・ログリッチ)
このステージでは3選手がリタイア。リゴベルト・ウラン(EFエデュケーション・イージーポスト)は、股関節の骨折が明らかになっている。今季いっぱいで現役を退くことを表明しており、ブエルタ後にも数レース走る予定だったが、これがキャリア最終レースになる可能性が高まっている。
文:福光 俊介
福光 俊介
ふくみつしゅんすけ。サイクルライター、コラムニスト。幼少期に目にしたサイクルロードレースに魅せられ、2012年から執筆を開始。ロードのほか、シクロクロス、トラック、MTB、競輪など国内外のレースを幅広く取材する。ブログ「suke's cycling world」では、世界各国のレースやイベントを独自の視点で解説・分析を行う
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