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サイクル ロードレース コラム 2024年8月18日

【ブエルタ・ア・エスパーニャ2024 レースレポート:第1ステージ】マクナルティ、スペシャリストの頂点に立つ。「なにかクレイジーなことが起こった」総合勢はログリッチが負傷からの復帰をアピール

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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ブランドン・マクナルティが自身初のグランツール総合リーダージャージを獲得

ブランドン・マクナルティが自身初のグランツール総合リーダージャージを獲得

強い横風をものともせず、ブエルタ史上最速の時速57.197kmで駆け抜けて、ブランドン・マクナルティが開幕ステージを勝ち取った。自身にとっては生まれて初めての、グランツール総合リーダージャージもついてきた。なにより所属チームUAEチームエミレーツにとっては……今年40枚目のグランツール総合リーダージャージ獲得だった!

「なにかクレイジーなことが起これば、自分にも勝てると分かっていた。だから、なにかクレイジーなことが起こったんだと思う。僕にとっては信じがたい出来事だ」(マクナルティ)

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【ハイライト】ブエルタ・ア・エスパーニャ 第1ステージ|Cycle*2024

短くて、真っすぐで、ほぼ平坦な戦い。今年3つ目のグランツールが、27年ぶりにポルトガルのリスボンで走り出し、12kmの個人タイムトライアルでは、予想通りにスペシャリストたちによる激しい高速バトルが繰り広げられた。

ただテージョ川の河口には、常に北からの強い風が吹き付けていた。出走のタイミングや機材選択が、もしかしたら、秒単位の戦いに影響を与えたのかもしれない。

真っ先に好タイムを出したのは、参加全176人中22番目に出走台から飛び出したエドアルド・アッフィニ。かつてのアンダー23欧州TTチャンピオンは、フィニッシュタイム12分43秒20で暫定首位に立った。しかも2年前のブエルタの初日TTT優勝メンバーであり、第3ステージの終わりにはマイヨ・ロホさえ羽織ったイタリア人は、以降、2時間以上もホットシートを温めることになる。

早々に退席させられる可能性だってあった。現欧州TTチャンピオンにして、昨世界選TT3位のジョシュア・ターリングが、7.3km地点の中間計測で、アッフィニのタイムを3秒上回ったのだ。

ところが他の大部分のライバルたちとは異なり、前輪をバトンホイールで攻めた20歳は、「自分の身体がまるで煉瓦みたいに感じた」と終盤に失速。フィニッシュではアッフィニにわずか0.28秒届かなかった。3週間前、メカトラのせいで、たった2秒差で五輪TTメダルを逃したターリングは、生まれて初めてのグランツールの初日を、最終的には8秒遅れの区間6位で終えた。

残念ながら、アッフィニも、人生2枚目のマイヨ・ロホは着られなかった。150番出走のマティアス・ヴァチェクにホットシートから追い出され、その後も3選手にタイムを抜かれた。ステージの終わりには、7秒差の5位に後退した。

初のグランツールで快走を見せたマティアス・ヴァチェク

初のグランツールで快走を見せたマティアス・ヴァチェク

大本命ターリングの不調が衝撃だったのだとしたら、ヴァチェクの快走は、嬉しいサプライズだった。たしかにジュニア時代には、欧州選手権TTを勝ち取った経験がある。また今年6月のベルギー一周初日では、今区間と同じ12kmの真っ平なTTコースで、2位に食い込んでいる(ちなみにアッフィニは4位だった)。それでも、やはり生まれて初めてのグランツールに挑む22歳は、決して注目されていたわけではなかった。

「自分には良いタイムが出せると分かっていた。でも、これほどとは予想していなかった。全力を尽くした。これ以上は出来ないほどだった」(ヴァチェク)

最後から2人目に出走したマクナルティには、わずか2秒17差で破れたが、もう1人の大本命、最終走者ワウト・ファンアールトには0.63秒差で競り勝った。堂々の区間2位。ヴァチェクは純白の新人賞ジャージも手に入れた。

中間計測では、実は、ヴァチェクに対してマクナルティは1秒遅れで、ファンアールトは1秒リードしていた。ただラスト4.7kmで、2人の運命は入れ替わった。

下見の段階では、ファンアールトは、前後両輪ともにディスクホイールを使用したという。同セッティングで臨んだパリ五輪TTでは、たしかに銅メダルに輝いた。しかし風が強すぎるとの判断で、本番では前輪をスポークに変更。ただリムハイトに関してだけは、マクナルティが使用した前輪よりも、はるかに深いものを選択した。……そしてターリングと同じように、最終盤で遅れた。中間地点は8秒ビハインドの6位から、後半で2秒戻して区間4位に食い込んだシュテファン・キュングとは、対象的だった。

レース中盤から苦戦したワウト・ファンアールト

レース中盤から苦戦したワウト・ファンアールト

「絶好調ではなかった。単に好調だっただけ。すぐに脚がきつくなって、フィニッシュまでが長く感じた」(ファンアールト)

対するマクナルティは、最初から最後まで、ひたすら全力で飛ばした。最終盤も決してスピードは落ちなかった。

「これだけ短距離だと、もはやペース配分の問題ではい。ただ僕はスゴく調子が良かったから、可能な限りプッシュした。中間地点で自分がいいポジションにつけていると分かったから、後はひたすら粘って、全力を尽くすだけだった」(マクナルティ)

元ジュニア世界TT覇者にして、アンダー23でも世界選TT表彰台に2度乗っているマクナルティは、メダルを狙っていたパリ五輪TTを5位で終え、大いに失望したという。だから「自分にはできる」ということを、ポルトガルで証明できたことが嬉しかった。今大会参加者の誰よりも速い12分35秒28でフィニッシュラインを駆け抜け、ブエルタ史上、誰よりも速い時速57.197kmを記録した。

パリ五輪の悔しさを晴らしたマクナルティ

パリ五輪の悔しさを晴らしたマクナルティ

昨年のジロでは逃げ切りの果ての少集団スプリントで区間勝利を収めたマクナルティにとって、ブエルタでは初めてのステージ優勝。しかも表彰式ではマイヨ・ロホだけでなく、フィニッシュラインで発生したポイントに基づきポイント賞ジャージと、本来であれば該当者がいないはずの山岳賞ジャージさえ受け取った。

ちなみにジロ&ツールの「ダブルツール」制覇を成し遂げたタデイ・ポガチャルは、過去の出場大会も含めて、どうしてもグランツール初日だけはリーダージャージを競り落とせずにきたというのに、チームメイトのマクナルティがあっさりと成し遂げてしまったことになる。またUAEは2024年3大ツールのすべてで区間勝利を射止め(計13勝、うちポガチャルが2勝)、しかもリーダージャージを最低でも1日ずつ着用した唯一のチームとなった。最終的にUAEが3大ツール全てを制覇してしまうのかどうかは、3週間後の結果を待つとして、少なくとも初日はUAEがチーム総合でも首位に立っている。

個人としては、最終マイヨ・ロホ候補の中では、プリモシュ・ログリッチがトップタイムを叩き出した。東京五輪TT金メダリストは、わずか17秒遅れの区間8位。ツールでの落車負傷から順調に回復していることをアピールするとともに、ブエルタ総合4勝目へ向けて好調なスタートを切った。

母国ポルトガルでの開幕に大いにモチベーションを抱くジョアン・アルメイダは、ツール総合4位の勢いそのままに、ログリッチの2秒後にピタリとつける。UAE内でダブルエースを担うアダム・イェーツは、17秒遅れに留まる(区間首位から34秒遅れ)。

リドル・トレックで今回「唯一絶対のエース」を任されたマティアス・スケルモースは、ログリッチに対してわずか3秒しか失わず、5月のジロでは新人賞ジャージを持ち帰ったアントニオ・ティベーリも、10秒遅れと上々の滑り出し。エンリク・マスは22秒差、リチャル・カラパスは23秒差と、被害を最小限に食い止めた。

一方でイネオスの若きエース、カルロス・ロドリゲスは、すでにログリッチから29秒も遅れを取った。さらにディフェンディングチャンピオンのセップ・クスは36秒、今ツール総合5位ミケル・ランダは48秒もの負債を背負って、3週間の戦いへと走り出さねばならない。

文:宮本あさか

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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