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マルク・ヒルシがアラフィリップとの一騎打ちを制して初優勝! 3シーズン過ごしたチームへ、置き土産とするバスクタイトル【Cycle*2024 クラシカ・サンセバスティアン:レビュー】
サイクルロードレースレポート by 福光 俊介表彰台 優勝ヒルシ、2位アラフィリップ、3位ファンイートヴェルト
スペイン・バスク地方の伝統レース「クラシカ・サンセバスティアン」。自転車どころでもある同地が誇るいくつもの丘を越え、美しい海を臨むサンセバスティアンの街へ誰が一番に帰還するか。今年も好勝負が演じられ、最後はマルク・ヒルシ(UAEチームエミレーツ)がジュリアン・アラフィリップ(スーダル・クイックステップ)との一騎打ちを制して、初めてのバスクタイトルを手にした。
「ビッグタイトルだよ! 僕にとってもチームにとっても、大事な勝利だね。僕はツール・ド・フランスやフレーシュ・ワロンヌで勝った経験があるけど、それと同じくらい大きな勝利だと感じているよ」(ヒルシ)
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パリ五輪によるUCIワールドツアーの中断期間を経て、このレースからシーズン後半戦が加速する。いつもよりおおよそ1週遅れで開催された今回は236kmのコースが設定され、ワールドチーム・プロチーム合わせて25チームがバスク自治州北部の街・サンセバスティアンに集った。
近年は毎回のようにルーティングにアレンジが加えられ、このレースのポイントである丘越えは今回7カ所。名物ハイスキベルは当然のようにコースに組み込まれ、最後の勝負どころとして最大勾配27%のピロテギがサンセバスティアン帰還を目指す選手たちの前にそびえた。
アルペシン・ドゥクーニンクを中心に序盤の攻撃戦が展開されると、40km地点を過ぎたところで10人が逃げを打つことに成功。メイン集団が容認したこともあって、少しずつリードを広げていく。先頭メンバー間での協調も図られて、中間地点を過ぎてもタイム差は3分以上。165km地点を過ぎたところから始まるハイスキベルの上りへとそのまま入っていった。
それまで快調に飛ばしていた逃げのメンバーだけど、登坂距離7.9km・平均勾配5.5%の上りではリズムを保つのがさすがに難しかった。先頭パックは完全に崩壊し、前線に残ったのはサイモン・カー(EFエデュケーション・イージーポスト)ひとりだけ。メイン集団ではヨナス・ヴィンゲゴー擁するヴィスマ・リースアバイクがペースを上げて、カーとのタイム差は1分30秒ほどに縮めた。
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【ハイライト】クラシカ・サンセバスティアン|Cycle*2024
クラシカ・サンセバスティアン
一度下ってすぐに上り始めるエルライツで、ついにメイン集団に動きが起こる。きっかけを作ったのはアラフィリップ。一気に集団を引き離しにかかると、フロリアン・リポヴィッツ(レッドブル・ボーラ・ハンスグローエ)がチェックに入る。さらにはパヴェル・シヴァコフ(UAEチームエミレーツ)も追随し、頂上を目前にアラフィリップとリポヴィッツをかわして先頭に立つ。その頃には、長く逃げていたカーは後方へと下がっていた。
この時点で、UAEチームエミレーツは想定通りのレース運びに自信を深めていたという。最大のライバルと見ていたヴィスマ・リースアバイクは、ヴィンゲゴーがハイスキベルで失速。序盤から集団をコントロールしていながら、エースの脱落でプランが完全に崩れていく様を目の当たりにしていた。
「ヴィンゲゴーが想像以上に早く遅れてしまったことには驚いた。ただ、彼はツールを戦った後だし、調子が上がっていないことも僕たちの頭にはあった。だから、ヴィンゲゴーが遅れるようならパヴェル(シヴァコフ)かヤン(クリステン)で攻撃を始めようと計画していたんだ」(ヒルシ)
フィニッシュまで40km以上を残したところで、シヴァコフが独走を開始。25秒ほど後ろを走る集団は約20人まで絞られるが、その中にUAE勢は4人。3選手を残したロット・デスティニーがシヴァコフを追う間、UAE勢は次の攻撃をいつでも繰り出せるよう、態勢を整える余裕があった。
「パヴェルの調子がすごく良かったから、そのまま逃げ切ることもイメージはしていたよ。ロット・デスティニーの人数が1人少なかったら追いきれなかっただろうね。パヴェルが逃げてくれたおかげで、僕たちの脚は万全で、最後の上りをフルガスで走るだけだったんだ」(ヒルシ)
最終登坂・ピロテギで再びアラフィリップがアタックに出ると、すかさずヒルシが対応。それまで逃げていたシヴァコフに代わって先頭に出ると、一度は追いついたクリステンとブランドン・マクナルティも勝負役をヒルシに託した。
ヒルシとアラフィリップのマッチスプリント
頂上直前でのアラフィリップの再攻撃にも冷静に立ち舞ったヒルシは、2人逃げとしてサンセバスティアンへのダウンヒルをこなす。後続とのタイム差も十分に確保でき、アラフィリップとのマッチスプリントに備えるだけとなった。
そして最終局面。残り1kmを切っても続いたヒルシとアラフィリップの協調体制は、最後の数百メートルでアラフィリップが前に出たところで牽制状態へ。数度フェイントを仕掛けたアラフィリップに対し、残り150mのバナー通過と同時にスプリントを開始したヒルシ。両選手ともスピードには長けているけど、今回のマッチアップはヒルシに軍配が上がった。今季4勝目、クラシカ・サンセバスティアンでは初優勝だ。
「とにかく“激しいレース”のひと言だよ。速いスピードで走り続けて、全力で上る。今日はそんなレースだった。苦しかったけど、気づいたらジュリアン(アラフィリップ)と2人になっていた……そんな感じだよ。最後も良いスプリントができて本当に良かった。最高だよ!」(ヒルシ)
ポディウムではおなじみのバスクベレーをかぶり、多くの観衆からの祝福を受けたヒルシ。このレースの翌日には、来季のチューダープロサイクリング移籍を発表。3シーズン身を置いたUAEチームエミレーツへ、置き土産とするバスクタイトルともなった。ビッグチームでの充実した日々に感謝を伝えるべく、シーズン終わりまで全力を尽くすつもりだ。次の目標も明確になっている。自国スイスで開催されるロード世界選手権である。
「このまま好調を持続できると思う。スイスで開催されるロード世界選手権を目標としていて、チューリッヒのコースも自信をもって走れると考えているよ」(ヒルシ)
2018年以来の優勝まであと一歩まで迫ったアラフィリップは、敗れたとはいえレース後には笑顔。パリ五輪からの調子を維持して今大会での好走につなげた。ジロ・デ・イタリアでの劇的なステージ優勝があったけど、その後も6月から7月にかけて2勝を挙げている。元世界王者の力が戻ってきたと見ても良さそうだ。
クラシカ・サンセバスティアン
「大きなレースでポディウムに戻れるのがすごくうれしいよ。本当は勝ちたかったけど、良いレースができたし、ベストを尽くした結果だから満足しているよ。今日のマルクはすごく強くて、特にスプリントは完璧だった。良いタイミングで、爆発力も抜群だったんだ」(アラフィリップ)
実のところ、アラフィリップもスーダル・クイックステップからの今季限りでの離脱が濃厚となっている。自身も、チームを率いるパトリック・ルフェヴェル氏もサイクルメディアからの質問に対して、それが事実であることを公言している。育成チーム時代も含めると約15年間現チームと歩み続けてきたアラフィリップだけど、次のステップへと進むときが近づきつつある。未確定ではあるものの、一部報道でヒルシとチームメートになる可能性もあるとか。
ピロテギ峠を先頭で上るファンイートヴェルト
ビッグネーム2人に続き、3位に入ったのはレナルト・ファンイートヴェルト(ロット・デスティニー)。終盤まで複数人を残しメイン集団を引っ張ったロット・デスティニーは、最後にしっかり若きエースを表彰台へと送り込んだ。今季UAEツアーで個人総合優勝している23歳は、ブエルタ・ア・エスパーニャでもエースクラスの働きが期待される。
「今日は良い感触を得ることが一番重要だった。それが果たせたし、3位はすべてがうまくいった証明だと感じている。チームの戦い方にも自信が深まったし、みんなが僕を信頼してくれたこともすごくうれしい」(ファンイートヴェルト)
バーレーン・ヴィクトリアスの一員として臨んだ新城幸也は、サンティアゴ・ブイトラゴやジャック・ヘイグの上位進出に貢献するべくレース構築に励んだ。ハイスキベルに向けて集団を牽引する局面もあり、チームオーダーに徹して7回目のクラシカ・サンセバスティアンを走り終えている。
文:福光 俊介
福光 俊介
ふくみつしゅんすけ。サイクルライター、コラムニスト。幼少期に目にしたサイクルロードレースに魅せられ、2012年から執筆を開始。ロードのほか、シクロクロス、トラック、MTB、競輪など国内外のレースを幅広く取材する。ブログ「suke's cycling world」では、世界各国のレースやイベントを独自の視点で解説・分析を行う
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