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サイクル ロードレース コラム 2024年7月22日

【ツール・ド・フランス2024 レースレポート:第21ステージ】26年ぶりのダブル・ツール タデイ・ポガチャルがステージ優勝締めで3度目のツール制覇!「自転車競技の歴史においても最高の時代。全力で楽しまなくちゃ! そして次の目標は…」

サイクルロードレースレポート by 福光 俊介
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今大会6勝目で個人総合優勝を果たしたポガチャル

今大会6勝目で個人総合優勝を果たしたポガチャル

2023年のオフシーズン、ジロ・デ・イタリアとツール・ド・フランスの2冠を目指すと表明したとき、その成功をどれくらいの人が信じていただろうか。ここ2年は、ツールで勝つことができていなかったのである。ツールの復権を目指すというならまだしも、もうひとつグランツールを獲ろうだなんて。

にわかに信じがたい壮大なミッション。遂行のために、より強くなって戦いの場へと現れる。タデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ)には、それを果たす強い意志があった。

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イタリア・フィレンツェで6月29日に始まったツール・ド・フランス2024。初のイタリア開幕、初のサンマリノ入国、初のパリ不通過、初のニース閉幕…。初もの尽くしの“イレギュラー・ツール”は、いくつもの山々を超えて、141人の勇者たちが3週間の旅を終えた。その頂点に立ったのがタデイ・ポガチャル。第2ステージで手にしたマイヨ・ジョーヌは一度手放したものの、第4ステージで再び袖を通すと、以降、ジャージを脅かされることはなかった。もっとも、ピレネーとアルプスでは段違いの強さを見せつけて。ヨナス・ヴィンゲゴー(ヴィスマ・リースアバイク)、レムコ・エヴェネプール(スーダル・クイックステップ)、プリモシュ・ログリッチ(レッドブル・ボーラ・ハンスグローエ)と並んで“ビッグ4”と称された戦前だったけど、終わってみればポガチャルが異次元にいた。

「スーパーハッピーだよ! 今大会はすべて完璧で、毎日大きな自信を持って走り続けることができた。最初から最後まで、本当に気持ちよく走ることができていたんだ」(タデイ・ポガチャル)

すでに勝負は決していた。十二分なリードを持って、大会最終日を迎えていた。だから第21ステージの焦点は、誰が勝利を飾るかと、ポガチャル、ヴィンゲゴー、レムコの個人総合トップ3がどんな3週間の終え方をするのか、であった。

本当ならば、何かとんでもないドラマを主催者は演出したかったのかもしれない。パリへ行かず、ニースで終わらせるなら、個人タイムトライアルを設定してやれと。1989年の個人TT閉幕では、グレッグ・レモンがローラン・フィニョンを大逆転し8秒差でマイヨ・ジョーヌを獲得している。そんな幕切れを期待していたのだろうか。しかし、それはもうあり得ない。

J SPORTS サイクルロードレース【公式】YouTubeチャンネル

【ハイライト】ツール・ド・フランス 第21ステージ|Cycle*2024

ならば何を期待しよう。ツール・ド・フランスの閉幕なのだ。美しく、感動的に終幕するだけでみんな大満足ではないか。3週間の旅の終わり、みんなで笑って終えられれば一番良い。

キャリア最後の「ツール・ド・フランス」を走り切ったカヴェンディッシュ

キャリア最後の「ツール・ド・フランス」を走り切ったカヴェンディッシュ

すべての者の胸を打つ、ライダーひとりひとりのドラマ。マーク・カヴェンディッシュ(アスタナカザクスタン)は、キャリア最後となるツールのステージを笑顔で出発した。さすがに2級山岳ラ・テュルビと続くエズ峠では苦しそうな顔を見せたけど、ニースに帰還すると再び笑顔。手を振ってツールに別れを告げるとともに、15回目の完走を決めた。

ビニヤム・ギルマイ(アンテルマルシェ・ワンティ)は、アフリカ人ライダーとしては初めてのポイント賞獲得だ。最終ライドを無難にこなすと、先に走り終えていたチームメートの胸に飛び込んだ。またひとつ、新たな“Make History”誕生の瞬間だ。

個人総合の上位ライダーが出走すると、さすがにレース水準が上がってきた。同9位で出発したデレク・ジー(イスラエル・プレミアテック)が最初の48分切りを果たすと、同8位のマッテオ・ヨルゲンソン(ヴィスマ・リースアバイク)は途中で落車に見舞われながらも、47分32秒で暫定トップに立った。

いよいよ、個人総合トップ3がコースへ。彼らは最後まで本気だった。

まず出発したのはレムコ。やはり中間計測からトップに立った。ラ・テュルビの計測ポイント(11.2km地点)から、それまでの一番時計を大きく更新していく。個人TTの世界王者は、46分38秒で33.7kmを走破。残る2人を待った。

ヴィンゲゴーにも直近2回のツールを勝っている意地がある。スタート直後からレムコを上回る好ペースを刻んだ。ラ・テュルビでの約20秒差を生かしながらニースを目指す。下りでタイヤを滑らせる場面こそあったけど、おおむねトラブルなく走り切った。終盤は少しペースを落としたけど、それでもレムコよりは速く走り切った。タイムは46分27秒。

そして、真打ちポガチャル。いざスタートするや、今大会での勢いを改めて示すかのごとく、別領域の走りを披露した。ラ・テュルビでヴィンゲゴーを7秒上回ると、エズ峠でギアを上げて25秒更新。下りで加速して1分以上の余裕が生まれると、夕陽に照らされたプロムナード・デ・ザングレ(とはいっても少々曇っていたけど)は完全なウイニングライド。フィニッシュ地・マセナ広場に集まった大観衆の前に姿を現すと、ハルクポーズでマイヨ・ジョーヌを誇示した。

最終ステージでもハルクポーズを披露したポガチャル

最終ステージでもハルクポーズを披露したポガチャル

「個人的にはF1のグリッドからスタートできただけで気分が上がっていたんだ。レース中は無線からレムコとのタイム差だけ教えてもらうようにしていて、最初の上りで彼を上回っていると聞いた時点で勝てると思った。ガールフレンドは“僕が何度もトレーニングで走っている道だから呆れられているんじゃない?”って言うんだ(笑)。それを思い出したら楽しくって!」(ポガチャル)

ステージ6勝目。先のジロと同数だ。1998年のマルコ・パンターニ以来、26年ぶりのダブル・ツールにあたって、みずから勝利したのは合計12ということになる。TT後、「ジロでは1日だけ調子の悪い日があった」と打ち明けた2冠王。一方でツールは何ひとつミスがなく、パーフェクトにレースができたことを強調する。

「ツールではここ2年、大きなミスをしてきたからね。負けた理由がはっきりしていた。今年は見違えるようなレースができて、自分でもその理由をどう表現したら良いかまだ分からないんだ」(ポガチャル)

ダブル・ツールを果たした今、ポガチャルは何を思う。表彰式後に出演したフランス国営放送のスタジオでは、目標を含め今後のことに言及している。

「今年はブエルタ・ア・エスパーニャには出ないよ。早ければ来年だね。パリ五輪を走るけど、まだ具体的なことは考えていない。次の目標? そうだね、マイヨ・アルカンシエルだよ。マチュー・ファンデルプールのアルカンシエルはお似合いだけど、彼から奪い取りたいと思っているんだ。実現可能だと思うよ」(ポガチャル)

ポガチャルとならびビッグ4に数えられたヴィンゲゴーは、やはり4月に負った怪我の影響が大きかった。レムコは初のツールでマイヨ・ブラン。すべてを終えて解放された瞬間、人目をはばからず涙した。

ログリッチは途中で大会を去ったけれど、彼を含めた4人の戦いは確かに時代を示すものだった。彼らの走りは、誰も観たことのない、感じたことのない疆域にレースレベルを、そして観る者をも引き上げている。この先、どんな世界を見せてくれるだろうか。

「今は自転車競技の歴史でも最高の時代じゃないかな。僕が観る側の立場だったとしても、同じことを思っているはずだよ。レムコ、ヨナス、プリモシュらと戦うのは本当に素晴らしい経験だよ。それに、次々と若い選手たちも出てくる。僕たちはこの時代を楽しまなくちゃ!」(ポガチャル)

そう、この時代を楽しまなくちゃ!

第111回ツール・ド・フランスは、マイヨ・ジョーヌがポガチャル、マイヨ・ヴェールがギルマイ、山岳賞のマイヨ・ブラン・ア・ポワ・ルージュはリチャル・カラパス(EFエデュケーション・イージーポスト)、ヤングライダー賞のマイヨ・ブランがレムコでそれぞれ確定。チーム総合はUAEチームエミレーツ、敢闘賞はカラパスが受賞。最終的な完走者は141選手だった。

2024年のロードレースシーンはパリ五輪を経て、後半戦へ。激動のレースばかりだから、いささか心配な“ツール・ロス”も大して感じることなく日々を送れるはずである。

●ステージ優勝&マイヨ・ジョーヌ:タデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ)コメント

「スーパーハッピーだよ! ツールでは2年連続で大きなミスをしていたから、今年のように順調に走り切れた喜びは言葉に表せないほどだよ。すべてが完璧だった。ツール・ド・フランスの頂点に立てて、最高にうれしい。

今を「自転車競技の歴史でも最高の時代」と語るポガチャル

今を「自転車競技の歴史でも最高の時代」と語るポガチャル

毎日自信をもって走ることができたのは、グランツールでは初めての経験だと思う。実を言うと、ジロでは1日だけ調子が悪い日があったんだ。どの日かは内緒だけどね。このツールはとにかく大成功だ。最初から最後まで楽しんで走れたし、チームからの手厚いサポートもあった。誰もがっかりさせたくなかったから、みんなのために走ったんだ。

今日のステージも調子が良かった。世界最高のサーキットであるF1のグリッドからスタートできて気持ちがものすごく上がったよ。チームからはレムコとのタイム差だけを教えてもらうようにしていて、最初の上りで上回っていると聞いたときに勝てると思ったね。ガールフレンドが“何回も走るから道に呆れられているんじゃない?”なんて言うんだけど、それを思い出したら楽しくて。だけど、何度も走ることで準備がしっかりできたんだ。

ダブル・ツールについても成功するとは正直思っていなかった。“ジロはツールで失敗したときのセーフティネットだ”なんて言われたりもしたけど、仮にそうなっていたって今シーズンは大成功だよ。もちろんツールを勝つことは別レベルの話だし、ジロとツール両方勝ったとなるともっと大きな喜びだね。

次の目標? そうだね、マイヨ・アルカンシエルだろうね。マチューのアルカンシエル姿は本当にかっこいいけど、僕はそれを奪い取りたい。いつか着られるよう、チャレンジを続けていきたいね」

リーダージャージを死守した(左から)レムコ、カラパス、ギルマイ、ポガチャル

リーダージャージを死守した(左から)レムコ、カラパス、ギルマイ、ポガチャル

●マイヨ・ヴェール:ビニヤム・ギルマイ(アンテルマルシェ・ワンティ)コメント

「最後の1日を楽しむつもりだったけど、思っていた以上に感情が勝った。すべてが素晴らしく、気持ちが高揚するばかりだったよ。子供たちには何でも可能だとここで伝えたいし、エリトリアのみんなにも感じてほしい。コース脇からエリトリアの国旗が見えたときには何とも言えない気持ちになったよ」

●マイヨ・ブラン・ア・ポワ・ルージュ:リチャル・カラパス(EFエデュケーション・イージーポスト)コメント

「総合成績は残念な結果になったけど、山岳賞にフォーカスして間違っていなかったよ。大満足のツールになった。エクアドルはトップアスリートが少ないから、僕のマイヨ・アポワでみんなに勇気を与えられるとうれしいね」

●マイヨ・ブラン:レムコ・エヴェネプール(スーダル・クイックステップ)コメント

「たくさんのことを経験できたツールだった。ものすごいプレッシャーを感じていたし、僕がツールを走り切れるのか半信半疑だった人も多かったと思う。世界最高のライダー2人に続いてフィニッシュできたのだから大成功だし、僕でも戦えることを証明できたんじゃないかな。

今となっては、イツリア・バスクカントリーでのクラッシュも良い経験だったと思えるよ。立ち直るのは簡単じゃなかったけど、きっと将来に役立つ期間だと感じている。

タデイは本当にすごいよ。別のレベルにあるのは認めないといけないね。僕だって最大限の力を出したんだ。またチャレンジできるんじゃないかな。

総合表彰台を喜ぶのは今日まで。今夜は精いっぱい楽しむよ。そして、明日からはパリ五輪の個人タイムトライアルに向けて集中する。もちろん金メダルが目標だ」

文:福光 俊介

福光 俊介

ふくみつしゅんすけ。サイクルライター、コラムニスト。幼少期に目にしたサイクルロードレースに魅せられ、2012年から執筆を開始。ロードのほか、シクロクロス、トラック、MTB、競輪など国内外のレースを幅広く取材する。ブログ「suke's cycling world」では、世界各国のレースやイベントを独自の視点で解説・分析を行う

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