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【ツール・ド・フランス2024 レースレポート:第20ステージ】ホームコースで今大会5勝目のポガチャル ヴィンゲゴーとの直接対決にもノーギフト「一番のライバルに勝とうとするのは当たり前。いつだって勝つために走る」
サイクルロードレースレポート by 福光 俊介最終盤までヴィンゲゴーと競り合い5度目のステージ優勝を果たしたポガチャル
ツール・ド・フランス2024はタデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ)のためにあった。本人にして「キャリアでも一番と言えるほど」のコンディションに、最高レベルのチーム力。攻撃に出れば他の追随を許さず、過去2大会のような大崩れもなかった。そして、ホームコースであるアルプスの山々でその力を見せつけた。1ステージ残しているけど、よほどのことがなければマイヨ・ジョーヌは手中にある。ステージ5勝は、今のプロトンの構図を表している。
4つの山岳を駆けた第20ステージ。ロードレースステージとしては今大会最終の1日は、ポガチャルとヨナス・ヴィンゲゴー(ヴィスマ・リースアバイク)との直接対決に。ポガチャルはここ数日口にしていた「ディフェンシブに攻める」を体現し、ヴィンゲゴーを徹底的にマークしながら最後の200mで勝負を決めた。3年ぶりの個人総合優勝は、もう目の前まで来ている。
「楽しんで走れたよ。またステージ優勝ができて本当にうれしい。ステージ5勝はこれ以上ない成果だよ。ここまでの走りができるなんて、ツールの前には想像すらしていなかったからね」(タデイ・ポガチャル)
最終決戦の場であるアルプス山脈だけど、形勢ははっきりしつつあった。よりはっきりと、答えが導き出されたのが第19ステージ。クイーンステージと目された標高2000m超でのバトルは、ポガチャルが最終登坂で逃げとのタイム差3分を9kmでひっくり返す“離れ業”。事実上の「決着」を見たのだった。
それでも、レースは残されている。最終目的地のニースにひと足早くやってきたプロトンは、2級山岳1つ、1級山岳3つを連続して上る132.8kmのクライミングコースにトライ。獲得標高4600mは、数字上では前日(4400m)より上ることになる。消化試合というには難易度が高すぎる。3週間の旅を無事に終えるためには、乗り越えなければならない“壁”なのである。
マイヨ・ジョーヌをニースに運ぼうとする者もいれば、個人総合2位は最低限キープしようとする者もいる。最後まで走り切ることを目指している者だって。それぞれに目的を持って、選手たちはアルプスの山へと入っていった。
J SPORTS サイクルロードレース【公式】YouTubeチャンネル
【ハイライト】ツール・ド・フランス 第20ステージ|Cycle*2024
もはやお決まりとなった激しい出入りの序盤戦。1つ目の山岳である2級ブロスを上り始めたところでウィルコ・ケルデルマン(ヴィスマ・リースアバイク)とブリュノ・アルミライユ(デカトロン・AG2Rラモンディアル)が先行を開始。これをエンリク・マス(モビスター)が単独で追い、さらにマイヨ・アポワを着るリチャル・カラパス(EFエデュケーション・イージーポスト)がメイン集団を引っ張って、逃げる2人とのタイム差拡大を許さない。20秒ほどの差で頂上を通過する。
形勢の変化は、直後の下りで。カラパスが集団から抜け出して、ヤン・トラトニク(ヴィスマ・リースアバイク)やマルク・ソレル(UAEチームエミレーツ)らが乗じる。2つ目の上り、1級テュリニの中腹でカラパスら4人が前を走っていたケルデルマン、アルミライユ、マスに合流。頂上を前に新たな3人が加わって、先頭グループは10選手に膨らんだ。一方、メイン集団では一時、総合系ライダーを中心とする16人まで絞られたが、ペースが落ち着いたことで後ろに下がっていた選手たちが多く復帰。リーダーチームのUAEチームエミレーツのコントロールのもと、最大4分30秒差で山岳コースを進んだ。
先頭グループでは、カラパスがマイヨ・アポワを決めるべく山岳ポイント収集に勤しんだ。テュリニ、続く1級コルミアーニも獲って、山岳賞を確定的に。あとは、全21ステージを走り切ることだけが条件となった。
序盤はリチャル・カラパスがメイン集団を牽引
「調子が良くて、これなら逃げて山岳ポイントが獲れると思っていたよ。山岳賞は僕にとってツールの成功を意味するんだ。幸せな気分で家に帰れそうだよ!」(リチャル・カラパス)
3つの山々を越えた時点で、先頭グループとメイン集団とのタイム差は3分10秒。最終登坂、1級クイヨールに入ると逃げ切りをかけた駆け引きが激しさを増した。
フィニッシュラインが敷かれる山頂まで11.5kmで、マスがアタック。すかさずチェックしたのはカラパスだ。これを機に2人逃げの態勢となるが、それまでの協調が崩れた。
「僕とカラパスはまるで猫とネズミのようだった。どうしても協調することができなかったんだ。どちらかがアタックすれば追いかけて…の繰り返し。逃げ切りの可能性があったのに、自分たちでフイにしてしまったね」(エンリク・マス)
その頃、メイン集団ではレムコ・エヴェネプールを盛り立てようとスーダル・クイックステップのアシスト陣がペースメイク。個人総合6位につけるカルロス・ロドリゲス(イネオス・グレナディアーズ)や、同11位のサンティアゴ・ブイトラゴ(バーレーン・ヴィクトリアス)ら、上位選手たちも切り離されていく。
残り8kmで、集団に残ったのはポガチャル、ヴィンゲゴー、レムコ、個人総合4位のジョアン・アルメイダ(UAEチームエミレーツ)、同5位ミケル・ランダ(スーダル・クイックステップ)、同9位マッテオ・ヨルゲンソン(ヴィスマ・リースアバイク)の6人。トップ3ライダーを擁するチームから2人ずつ残している状況で、主にランダが牽引役となる。前方ではマスとカラパスが打ち合っていたけど、精鋭メンバーが確実にタイム差を縮めていた。
レース終盤、勝負を仕掛けていくヴィンゲゴー
トップ3が動いたのは、残り5kmだった。まず仕掛けたのはレムコ。これをヴィンゲゴー、ポガチャルの順でチェックする。一瞬ペースが緩んで他の3人も戻ったけど、今度はカウンターでヴィンゲゴーがアタックして、ポガチャルとの直接対決に持ち込む。レムコは差がついて、テンポでの登坂に切り替えた。
「レムコのアタックに反応ができたとき、“これはいける!”と思ったんだ。自分から攻撃して、ステージ優勝を目指そうと心に決めた。自信をもって走ることができていたしね」(ヨナス・ヴィンゲゴー)
逃げ残りの選手をパスしながら突き進むヴィンゲゴーに、ほぼ付き位置のポガチャル。ときおりヴィンゲゴーが先頭交代を要求するけど、ポガチャルはマイヨ・ジョーヌさえ守れれば良い状況。攻撃的に走らずとも、ヴィンゲゴーの動きだけマークしておけば問題ない。
2人はカラパスとマスを残り2.5kmでキャッチ。ほどなくしてマスが遅れて、ヴィンゲゴー、ポガチャル、カラパスの態勢で最後の1kmを迎えた。
ステージ優勝をかけた勝負は、残り900mでカラパスが遅れ一騎打ちの様相へ。フィニッシュ前500mでポガチャルを前に出したヴィンゲゴーだったけど、残り200m、ポガチャルが満を持してアタックすると、もう追う力は残っていなかった。
「ポガチャルがステージ優勝を譲ってくれるのではないかと思っていたのだけれどね。やっぱり勝負だからそう簡単には勝たせてもらえないよね。逆の立場だったとして、僕も同じことをしていたと思うよ。今日はタデイが強かった」(ヴィンゲゴー)
総合タイム差などを加味し、実のところステージ優勝はマストではなかったというポガチャル。それでも、ウイニングセレブレーションでは今大会5勝目をアピールしてみせた。いよいよ、ジロ・デ・イタリアとの2冠「ダブル・ツール」に王手。思えば、クイヨールは2023年のパリ~ニースで勝っている山である。普段のトレーニングコースでもあって、その走り方は熟知していた。
フィニッシュ目前でアタックを仕掛けたポガチャルがステージ優勝を勝ち取る
「僕にとって一番のライバルに勝とうと思うのは当たり前のことだよね。最後だけはステージ優勝を譲るつもりはなかったよ。総合争いをするライダーならみんな同じ思いだと思う。僕はいつだって勝ちたいし、そのために努力している。いつだって勝つために走っているよ」(ポガチャル)
十分すぎる総合タイム差を持って、最後のステージへ向かう。ポガチャルと2位ヴィンゲゴーとの差は5分14秒、3位レムコとは8分4秒差。35年ぶりの個人タイムトライアル閉幕は、マイヨ・ジョーヌのウイニングライドである。
「明日はタイムトライアルを楽しみ尽くしたいと思う。とはいっても、難しいコースだから慎重に、無事にニースへ戻ることを最優先しないとね。沿道からの応援も聞きながら走れたら良いな」(ポガチャル)
歓喜のポガチャルから36分53秒後には、マイヨ・ヴェールのビニヤム・ギルマイ(アンテルマルシェ・ワンティ)がアシストとともに上がってきて、ほぼ決まりとなったポイント賞を喜ぶ。そのおおよそ5分後には、マーク・カヴェンディッシュ(アスタナカザクスタン)も登頂。最後のツール完走が見え、涙があふれている。
「ステージ35勝目を達成したのは随分と前のようだよ。今は美しいニースの街に到達するのが一番の目標だ。今日を走り切れて本当に良かった。明日は素晴らしいタイムトライアルになるよ。最後のツール・ド・フランスを走り切れそうだ。スペシャルな経験だよ。僕には素晴らしい仲間がいる。早くありがとうを言わなくちゃ!」(マーク・カヴェンディッシュ)
“ツール・ド・フランス2024”という物語に、選手ひとりひとりのドラマに、終わりが来ようとしている。エモーショナルなエピローグは、ニースの中心地・マセナ広場にて。4年前、新型コロナ禍で四方を壁に囲まれたあの地が、今度は大きく美しいフィナーレを演出する。
●ステージ優勝&マイヨ・ジョーヌ:タデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ)コメント
「難しいレースだった。できる限りチームメートと走ることを心掛けて、メインのプロトンでレースを進めようと考えていた。コルミアーニに入るまで、その通りに走ることができた。スーダル・クイックステップがペースを上げたけど、レムコとしてはヨナスを追い抜いて総合2位に上がりたかったのだろうね。レムコとヨナスは非常に高いレベルの戦いをしていたからね。
正直に言うと、カラパスかマスの逃げ切りで良いと思っていたんだ。でも、一緒に走っていたヨナスがレムコを引き離そうとする意志がものすごい強かったんだ。2人でカラパスを追い抜いたとき、こうなった以上は一番のライバルに勝利を譲るわけにはいかないと思ったんだ。総合系ライダーなら誰もが抱く気持ちだと思うよ。僕はいつだって勝ちたいし、そのためにトレーニングを積んでいるからね。
ジロ・デ・イタリアとの2冠「ダブル・ツール」に王手がかかるポガチャル
ツールの最終日がタイムトライアルなのは不思議な感覚だよ。好きか嫌いか? あえて言うなら好きではないね。なぜならスタートまでの待ち時間が長いから(笑)。明日は最終出走なんだよ。それならシャンゼリゼでのスプリントフィニッシュの方が気楽だね。まぁそれでも、なかなかない機会だから、良い経験としてとらえるよ。
過去2回の個人総合優勝と比較しようと思えばいくらでもできるよ。初めて勝った2020年はただただ驚きだった。あのときは個人総合2位で大満足だったからね。2021年はアルプスでうまく走ることができた。その分、落ち着いて最後まで走り切れた印象が残っている。今年は…まだ勝ったとは決まっていないけど、過去2回よりはるかに力がついていると思う。ただ、昨年と一昨年勝てていなかったから、プレッシャーを感じていた。
ステージ5勝の中でも、ガリビエのステージ(第4ステージ)が僕に自信を与えてくれた。あの日の勝利が僕の戦い方を決めたと思う。以来、すべてが完璧に運んだんだ」
●ステージ2位&個人総合2位:ヨナス・ヴィンゲゴー(ヴィスマ・リースアバイク)コメント
「レムコのアタックに反応できたとき、“これはいける!”と思ったんだ。彼の動きを見て、今度は僕がアタックしようと。今日はステージ優勝したいと思っていたから、チャレンジするしかなかった。脚の状態が良くて、自信があった。
個人総合2位で決まり? まだ分からないよ。レムコは世界最高のタイムトライアリストだからね。約3分僕がリードしているけど、タイムトライアルはちょっとしたことでタイムを失ってしまう。いずれにしても、2位を確実にするために最善を尽くすよ。
タデイがステージ優勝を譲ってくれると思っていたのだけれどね。スプリントされてしまったら僕に勝ち目はないよ。もう限界だった。彼の走り方に対する不満はまったくない。今日のタデイは誰よりも強かったし、逆の立場なら僕も同じことをしていただろうからね。昨日の苦しさを思えば、立ち直ることができた今日の走りには大満足だよ」
●マイヨ・ヴェール:ビニヤム・ギルマイ(アンテルマルシェ・ワンティ)コメント
「シャンゼリゼで勝つという目標を今年は立てられないので、その代わりにニースに到達することを目指してきた。マイヨ・ヴェールはもちろんうれしいけど、アルプスを制限時間内で走り切れたことの方が今は誇らしいんだ。
チームメイトと一丸となってマイヨ・ヴェールを死守したギルマイ
僕たちのような小さなチームが、ステージ3勝してマイヨ・ヴェールを獲れるなんて信じられないよ。僕はチームメートに恵まれている。スタッフみんなにも感謝をしたい。僕たちには素晴らしいチームスピリットがあるんだ。全力で戦ったよ」
文:福光 俊介
福光 俊介
ふくみつしゅんすけ。サイクルライター、コラムニスト。幼少期に目にしたサイクルロードレースに魅せられ、2012年から執筆を開始。ロードのほか、シクロクロス、トラック、MTB、競輪など国内外のレースを幅広く取材する。ブログ「suke's cycling world」では、世界各国のレースやイベントを独自の視点で解説・分析を行う
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