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サイクル ロードレース コラム 2024年7月19日

【Cycle*2024 ツール・ド・フランス2024 レースレポート:第18ステージ】ヴィクトル・カンペナールツが家族に捧ぐツール初勝利 大人数の逃げから抜け出し3人の争いを制する「ガールフレンドこそが僕のストーリーの主人公だよ!」

サイクルロードレースレポート by 福光 俊介
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狙い通りステージ優勝を遂げたカンペナールツ

経験したことのない不安に襲われていたのだという。今年の春ごろは、トレーニングに集中できず、父親になる日が近づく中でロードレーサーとしてのキャリアに未来があるのかさえ考えた。それでも、「ツール・ド・フランスでのステージ優勝」という目標がいくつもの悩みよりも勝った。昨年12月には照準が定まっていた。“第18ステージで勝つ”ために、みずからを奮い立たせた。

ツール・ド・フランス2024第18ステージは、最大37人の逃げが決まって、最終的に3選手によるステージ優勝争いに。最後はヴィクトル・カンペナールツ (ロット・デスティニー)がスプリントを制してステージ優勝。早くから目標に据えていたこのステージを、狙い通りモノにしてみせた。

「ツール・ド・フランスで勝つことを夢見てきた。誰もが勝ちたいと思うはずだけど、僕も同じだった。僕でも勝てそうなステージは今日だけで、目標にすることはチームとも共有していたんだ」(ヴィクトル・カンペナールツ)

前日と同様に、逃げ向きと目された1日。翌日からのアルプス最終決戦を前に、ステージ優勝を狙うアタッカーには実質最後のチャンスでもあった。

179.5kmのルートには3級山岳が5つ組み込まれ、丘陵コースにカテゴライズ。中盤に越えるマンス峠は、2003年大会でホセバ・ベロキが下りで衝撃的な落車に見舞われたポイントだ。最後のカテゴリー山岳はフィニッシュ前約40kmで、そこからは緩やかに上りつつバルスロネットのフィニッシュラインへと向かう。

ツールではおなじみのギャップの街を出発したプロトンは、前日同様にリアルスタートと同時にアタックがかかった。マチュー・ファンデルプール(アルペシン・ドゥクーニンク)らの動きが目立ったほか、ヤスペル・フィリプセン(リドル・トレック)は一時30秒ほど先行した。

ストゥイヴェンは20km地点を前に集団へと戻っているが、なおもアタックとキャッチで慌ただしい中から20人ほどが抜け出して前方へ。5kmほど進むうちに30人を超える選手たちが最前線に位置して、この流れから1つ目の3級山岳フェストルをオイエル・ラスカノ (モビスター)が1位通過。直後に逃げのメンバーがおおむね固まって、37人がレースをリードすることになった。

J SPORTS サイクルロードレース【公式】YouTubeチャンネル

【ハイライト】ツール・ド・フランス 第18ステージ|Cycle*2024

逃げの37人がレースをリード

2つ目の3級山岳コルもラスカノが1位通過。84.3km地点に設けられた中間スプリントポイントも逃げメンバーが上位を占めて、マイケル・マシューズ(ジェイコ・アルウラー)が1位通過している。

中間地点を過ぎる頃には、逃げとメイン集団のタイム差は約7分。大多数のチームが先頭グループにメンバーを送り込んでいることや、集団に対する十分なリードを考えれば、前にいる選手からステージ優勝者が出るのは決定的である。

それが関係してか、フィニッシュまで60kmを切って上り始めた4つ目の3級サン・アポリネールで駆け引きが本格化。アメリカチャンピオンジャージのショーン・クイン(EFエデュケーション・イージーポスト)が仕掛けると、ミハウ・クフィアトコフスキ(イネオス・グレナディアーズ)やトビアス・ヨハンネセン(ウノエックスモビリティ)も応戦。ヨハンネセンが頂上を1位通過後、下りではアレクサンデル・アランブル(モビスター)やゲラント・トーマス (イネオス・グレナディアーズ)が前をうかがう様子も見られた。

大きな局面は最終登坂ドモワゼル・コワフィで迎えた。ラスカノら数人が仕掛けたのに乗じて、クフィアトコフスキがカウンターアタック。そのままの勢いで頂上を通過すると、下りでカンペナールツとマッテオ・ヴェルシェ(トタルエネルジー)が合流。後ろではラスカノら5人の追走パックが組まれるが、協調した先頭3人はタイムギャップを広げる。さらに後方では約20人による第2追走グループが前を追ったが、先頭3人のチームメートが抑え役になったことでペースが上がらなかった。

おおよそ35kmに及んだ3人の逃げ。追走ライダーたちとの差を広げながら、ステージ優勝争いへと転化した。

「僕ら3人は協力し合って逃げ続けた。早い段階で逃げ切れると確信していたよ」(カンペナールツ)

残り1kmまで協調態勢を保った3選手。先に仕掛けたのはヴェルシェだった。カンペナールツとクフィアトコフスキが見合う間隙を縫ってアタックするが、クフィアトコフスキが引き戻す。そして勝負のスプリント。残り200mでカンペナールツが腰を上げると、ヴェルシェとクフィアトコフスキも合わせたが、スピードの差は明らか。カンペナールツが一番にフィニッシュラインへ飛び込んだ。

「スマートにレースができた。僕が勝つならスプリントしかないと思っていた。でも、クフィアトコフスキと一緒に逃げることになって、彼もスプリントに賭けていることを感じていた。ならば彼をうまく利用しながら、脚を残そうと考えたんだ」(カンペナールツ)

トップを狙った3選手の逃げは35kmに及んだ

夢にまで見たツールのステージ優勝。昨年12月からフォーカスしていたと前述したけど、このステージのために前日は最終グルペットでレースをクリアする徹底ぶり。走り終えた後には「調子が良くない」とまで口にしていた。

「みんなが思っている通りだよ(笑)。できる限り脚を使わず今日を迎えたかったんだ。作戦成功だね!」(カンペナールツ)

フィニッシュ直後には、真っ先に喜びを伝えるべく家族に電話をつないだ。「まだ籍を入れていなくて、正しくはガールフレンドなんだ」と説明するパートナーには頭が上がらない。

「僕が苦しんでいた時に奮い立たせてくれたのが彼女なんだ。ツールの前にシエラネバダ山脈で高地トレーニングを9週間行ったのだけど、最初から最後まで彼女が付き添ってくれた。出産を控えていたにもかかわらずだよ。トレーニングプログラムをこなすことさえ難しい状態にあった僕を毎日支えてくれた。彼女こそが僕のストーリーの主人公だ。それもあって、息子はスペインのグラナダで生まれたんだよ。今日勝ったことを早くみんなでお祝いしたい」(カンペナールツ)

現チームへの感謝を捧げるカンペナールツ

家族に捧ぐ大きな勝利であると同時に、長く歩んだチームへの置き土産になることも、カンペナールツみずからの口で明かした。一度は契約延長に口頭合意していたそうだが、「いろいろあって」離れることを決めた。下部組織時代から含めて現チームとは9年間。このステージのために最大限のサポートをしてくれたことにも心から感謝をしている。

「今年限りでチームを離れるけど、キャリア最大の勝利で終えられそうでうれしいよ。どんなことがあっても、チームは僕に自信を与えてくれた。今日のために多くのサポートを施してくれたこともずっと忘れないよ」(カンペナールツ)

カンペナールツの歓喜から13分40秒後、メイン集団がフィニッシュへとやってきた。個人総合上位陣はアクションを起こすことなく、静かにレースを終えた。レース終盤は、総合トップ10にエースを送り込んでいるリドル・トレックなどが逃げメンバーとのタイム差を調整し、レースをクローズ。マイヨ・ジョーヌのタデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ)もセーフティに走り終えている。

「イージーに終えられて良かったよ。ツールを楽しめているし、チームの雰囲気も最高だ。スロベニアからのファンが沿道にいるのを見つけたときはとてもうれしいね」(タデイ・ポガチャル)

ツールの覇権をかけたアルプス決戦がいよいよ始まる

“ブレイク”を経て、総合勢は最後のアルプス決戦を迎える。第19ステージは144.6kmのコースに、標高2000m超の山岳が3カ所。2つ目に上る超級シムド・ラ・ボネットは、頂上が標高2802mに達し、グランツール全体で見ても最も高いポイントだ。そして締めは、1級山岳イゾラ2000。フィニッシュまでの16.1kmがライダーたちの運命を分けるだろうか。

「明日が今大会のクイーンステージなのかまでは分からないけど、シムド・ラ・ボネットは魅力ある上りだし、イゾラ2000はトレーニングで走っている山なんだ。とりあえずディフェンシブに走るつもりだけど、オフェンスチャンスがあるかどうかも見極めていきたいね」(ポガチャル)

ツールの覇権をかけた最終ラウンドのゴングが鳴ろうとしている。

●ステージ優勝 ヴィクトル・カンペナールツ(ロット・デスティニー)コメント
「今年の最大目標をツールのステージ優勝に据えたいとチームに伝えていた。今までとは違うアプローチでツールを迎えたいと考えていて、シエラネバダ山脈で9週間の高地トレーニングをすることに決めたんだ。妊娠中のガールフレンドにも同行してもらったのだけど、トレーニングキャンプ中にグラナダで息子が生まれたんだ。シエラネバダには多くのチームやライダーがトレーニングに来ていたけど、僕が最初に来て、最後まで残っていたんだ。

今日のステージは昨年の12月から狙っていた。ツール全体としてはアルノー・ドゥリーをサポートするために臨んでいて、彼のためにできることすべてをこなしたいと思っていたんだ。

昨日はグルペットで終えていたのだけど、今日のためにできるだけ脚を使わずに終えたかったんだ。実際に逃げている間は、3人は協力しあっていた。クフィアトコフスキはとても強いし、残り15kmを切って彼がスプリントを狙っているのだと感じていた。彼の力をうまく利用しながら、僕自身のチャンスを探っていた。

とにかく、今日は彼女のサポートがあったからこその勝利だ。今大会は第10ステージを観に来てくれて、翌日の休息日も一緒に過ごすことができた。本当に素晴らしい時間だったよ」

ポガチャル「調子が良かったら攻撃するかも」

●マイヨ・ジョーヌ タデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ)コメント
「明日以降のステージは状況次第でレムコ(エヴェネプール)と手を組むことができるかもしれないね。彼はヨナスの動きをチェックしているだろうから、もし調子が良かったら攻撃するかもしれないね。僕が彼だったら間違いなくトライしているよ。

残る3ステージは何が起こっても不思議ではないよね。明日と明後日のステージはディフェンシブに走ろうと思うけど、状況によってはアタックするかもしれない。いずれにせよ、僕には十分なタイム差がある分、有利にレースを展開できるはずだよ。自宅近くを走るけど、ホームアドバンテージになるかは分からない。ただ、上りや下りの特徴を把握しているのは大きな強みになるだろうね」

●ステージ2位 マッテオ・ヴェルシェ(トタルエネルジー)コメント
「とても悔しい。これもレースだね。2位という結果自体は悪くない。チームメートのサポートをするつもりで先頭グループに入ったけど、僕が勝負を託されるとは思っていなかったんだ。もっと自信をもって臨むべきだったね」

文:福光 俊介

福光 俊介

ふくみつしゅんすけ。サイクルライター、コラムニスト。幼少期に目にしたサイクルロードレースに魅せられ、2012年から執筆を開始。ロードのほか、シクロクロス、トラック、MTB、競輪など国内外のレースを幅広く取材する。ブログ「suke's cycling world」では、世界各国のレースやイベントを独自の視点で解説・分析を行う

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