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【Cycle*2024 ツール・ド・フランス2024 レースレポート:第17ステージ】リチャル・カラパスが全グランツールでの勝利を達成 ステージ優勝を信じて再三再四のアタック「この勝利にはすべてが詰まっている」
サイクルロードレースレポート by 福光 俊介絶好の機会をモノにしたカラパス
リーダーチームを中心に統率されたレース展開は、逃げを狙う選手たちのチャンスの芽を摘み取る格好にもなっていた。あまりにも身動きが取れないと、若手ライダーが悔しさ紛れに「何とかしてよ」と取材陣に訴えるほど。もちろんそれは冗談半分だけれど、ステージの進行とともにみずからの可能性が失われつつあることを実感し、焦っているのも事実だろう。
そんな状況下でも、勝てると信じてチャレンジを続ける者に勝利の女神はほほ笑む。めぐりあわせとはそんなもの。大会を通して再三再四アタックを試みて、ついに来た絶好の機会をモノにする。
ツール・ド・フランス2024第17ステージは、レース後半に形成された逃げのグループからリチャル・カラパス (EFエデュケーション・イージーポスト)が抜け出して、独走勝利。意外にもこれがツール初勝利で、同時にすべてのグランツールで勝利を挙げたライダーとなった。
「この勝利にはすべてが詰まっているんだ。ツールの目標はステージ優勝だった。僕ならできると信じていたよ」(リチャル・カラパス)
プロトンは南仏を最終目的地ニースに向かって東進中。この日は、第1週で一度足を踏み入れたアルプスへと戻る。戻るというよりは、少しばかり足をかけるといった方が良いだろうか。スタートから緩やかに上っていて、最後の35kmは2級・1級・3級のカテゴリー山岳を連続で上る。1級山岳のノワイエは登坂距離7.5kmで、平均勾配8.1%。頂上に向かって連続するヘアピンコーナーと、10%超の急勾配が特徴だ。最後は、3級山岳シュペルデヴォリュイの頂上にフィニッシュをする。
戦前の予想は逃げだった。マイヨ・ジョーヌを着るタデイ・ポガチャル (UAEチームエミレーツ)にしても、「ステージ優勝は逃げから出るだろう」と。そんなときこそ、逃げはなかなか決まらない。リアルスタートの瞬間からアタックに次ぐアタックで、まさに攻撃戦。ポガチャルやヨナス・ヴィンゲゴー (ヴィスマ・リースアバイク)も先頭付近に位置している。
J SPORTS サイクルロードレース【公式】YouTubeチャンネル
【ハイライト】ツール・ド・フランス 第17ステージ|Cycle*2024
ハイペースに加えて、強い風もプロトンを襲う。レース中盤までに数度集団が分断して、一時的ながらもアダム・イェーツ (UAEチームエミレーツ)が後方に取り残される場面があった。
コルトの動きでパック形成
ようやく逃げグループが生まれたのが57km地点。マグナス・コルト (ウノエックスモビリティ)の動きに同調した4人がパックを形成。コルトに加えて、ボブ・ユンゲルス(レッドブル・ボーラ・ハンスグローエ)、ロマン・グレゴワール (グルパマ・FDJ)、ティシュ・ベノート(ヴィスマ・リースアバイク)が先を急いだ。
大会終盤にきての激しい展開。集団から遅れる選手も出て、体調不良が伝えられていたアレクセイ・ルツェンコ(アスタナカザクスタン)が涙を流しながらリタイア。フェルナンド・ガビリア (モビスター)、サム・ベネット (デカトロン・AG2Rラモンディアル)といったスプリンターもバイクを降りている。
速いペースに収まりが見えないまま、114.8km地点に設定された中間スプリントポイントにやってくる。逃げる4人が先に通過し、45秒後にメイン集団が現れた。ここは当然、マイヨ・ヴェールを着るビニヤム・ギルマイ (アンテルマルシェ・ワンティ)と、猛追するヤスペル・フィリプセン(アルペシン・ドゥクーニンク)の競り合い。前日の落車で傷を抱えながらもギルマイが先着し、全体5位通過で11点を加算。1点だけながらも、ポイント賞争いでフィリプセンを引き離している。
この直後、メイン集団がまたも分断。今度は個人総合上位陣が前乗りせず、総合に関係しない選手たちだけで前を目指す。これでレースの流れはおおむね定まった。総合系ライダーが位置する実質のメイン集団は、リーダーチームのUAEチームエミレーツがfペースを落ち着かせた。
分断を機に組まれた前方パックには、47人が乗り込んだ。たびたび追走を狙って動いていたカラパスのほか、ヴィスマ・リースアバイクはクリストフ・ラポルトとワウト・ファンアールト 。UAEチームエミレーツもパヴェル・シヴァコフ とマルク・ソレルがジョインし、彼らはチーム戦の様相。
選手たちの前にそびえたつ山岳ステージ
1つ目のカテゴリー山岳、2級バイヤールでギヨーム・マルタン (コフィディス)とヴァランタン・マドゥアス(グルパマ・FDJ)が飛び出す。1級山岳ノワイエを前に、先頭グループに追いついた。
ノワイエを上り始めたら、大人数のグループからサイモン・イェーツ (ジェイコ・アルウラー)がアタック。先頭グループへのブリッジを図ると、そのままパスして独走を始めた。その後ろには、カラパスとスティーブン・ウィリアムズ(イスラエル・プレミアテック)が近づいている。
カラパスはウィリアムズを引き離すと、中腹でサイモンに合流。しばらく2人で上ったが、残り13kmで勝負に出た。
「大きなグループが形成されてから、僕に合うレース展開になると感じたんだ。もともとこのステージを狙っていて、チームともどう走るかを話し合っていた」(カラパス)
大観衆が待つ急坂区間をダンシングで上ってサイモンとの差を広げると、最終登坂の3級シュペルデヴォルイも力強いクライミング。トップは揺るがず、大歓声の中でステージ優勝の瞬間を迎えた。
「一生忘れられないレースになるよ。アタックばかりでハードな1日だったけど、最高の結果になった。ジロ・デ・イタリアやブエルタ・ア・エスパーニャで勝ったことがあるけど、ツールの勝利はまた違った喜びだね」(カラパス)
2019年にジロを制し、ツールでも2021年に3位となって総合表彰台を経験している。その力は総合系ライダーとして確かなものだが、前回大会では第1ステージで落車し負傷リタイア。今大会は序盤こそ好調で、第3ステージではマイヨ・ジョーヌにも袖を通したけど、前哨戦のツール・ド・スイスで体調を崩していたこともあって早々に総合争いから遅れていた。
「いろんな経験をしてきているけど、いつも何かが欠けているような感覚があったんだ。何かと考えたときに、ツールで勝っていないことに気が付いた。以来、僕の目標はツールのステージ優勝だったんだ」(カラパス)
カラパスはエクアドル人初ツール勝利者となった
3年前には、東京五輪のロードレースで金メダルを獲得。しかし、パリ五輪は代表選考から外れ、五輪2連覇の可能性は潰えている。レース後には、ツール勝利と五輪欠場との関連性を問われたけど、本人は無関係を強調した。
「復讐とか、見返したとか、そんなことはこれっぽっちも思っていないよ。あくまで僕はツールで最高の走りをしようと集中していただけなんだ」(カラパス)
数々の栄光を手にしてきた31歳に、またひとつ新たな勲章が加わった。
ゴール前では総合勢の駆け引きが激化
逃げメンバーが上位を占め、別のレースとなっていたメイン集団では、1級山岳ノワイエでポガチャルがアタックした。ヴィンゲゴーとレムコ・エヴェネプール(スーダル・クイックステップ)が追ったけど、頂上までにポガチャルには届かない。ヴィンゲゴーは、前線を走っていたアシスト陣をここで生かすこととなる。まず、クリストフ・ラポルトが下りで牽引役となって、数秒先にいたレムコをキャッチ。レムコとも協調体制を図って、ポガチャルにも追いついた。
それからは、同様に逃げ残っていたワウトやベノートがペーシング。ただ、UAEチームエミレーツもシヴァコフがしっかりと残っていて、最後のシュペルデヴォルイでポガチャルをフォロー。そうしているうちにレムコが抜け出して、前待ちのヤン・ヒルトを生かしながら2人との差を広げる。お見合いするポガチャルとヴィンゲゴーだが、前者には総合タイムでの余裕がある。レムコを行かせつつ、自身はヴィンゲゴーとの総合タイム差拡大のために、フィニッシュ前でアタックした。
「ヴィスマ・リースアバイクは僕にプレッシャーをかけたかったのだろうね。それか何か別の理由があったのかな? いずれにせよ、僕自身は満足できる1日になったよ」(タデイ・ポガチャル)
結果的に、個人総合トップ3ではレムコが先着し、10秒後にポガチャルがフィニッシュ到達。ヴィンゲゴーは2秒遅れてレースを完了。総合順位はそのままながらタイム差は変動して、ポガチャルとヴィンゲゴーが3分11秒差、レムコは5分9秒差となっている。
試走の成果を出したレムコ
「今日のコースは試走していて、うまく走る自信があったんだ。下りでタデイに追いついたときに、チームカーから“何かやってみろ”と言われて奮い立ったよ。僕のリクエストに応えて、ヒルトが待っていてくれた。彼は最後の1kmまで僕を連れて行ってくれたんだ」(レムコ・エヴェネプール)
マイヨ・ジョーヌ争いは、誰がどう見たってポガチャルの流れにあることは明白である。好況時は何をやったってうまくいく。
「フィニッシュ前でアタックした理由? 自分でもなぜなのか分からないんだ(笑)。もはや、上りを楽しむためとしか言いようがないね。1級山岳でのアタックは自分の脚をテストしてみたかった、というのが理由だよ。調子が良いことが分かってうれしいよ」(ポガチャル)
ツールは残すところ4ステージ。フィナーレへのシナリオがどう描きあげられるのか、じっくりと見守ろう。
●ステージ優勝 リチャル・カラパス(EFエデュケーション・イージーポスト)コメント
「特別な1日だよ。今日のステージを狙ってはいたけど、思っていた以上に活発なレースになった。チームとも何度も話し合ったよ。重要なポイントとしてはマイヨ・ヴェールを争う選手がいることと、風が強いということだった。そのあたりをうまく見極めながら、トライすべきタイミングを測っていたんだ。世界最大のレースで成功を収められたことは最高にうれしいよ。
今回の目標はステージ優勝だった。その意味で、マイヨ・ジョーヌを着られたことは大きな自信になっている。総合表彰台を経験しているけど、僕には欠けているものがあった。それはツールのステージ優勝だったんだ。正直に言うと、もともと総合成績は狙える状態になかった。だから、ステージ優勝にフォーカスしていた。
パリ五輪の選考について不満はない。この勝利が復讐だとか、見返しただとか、そんなことはこれっぽっちも思っていないよ。あくまでツールで勝つことを望んでいたんだ」
マイヨ・ジョーヌ争いの行方は
●マイヨ・ジョーヌ タデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ)コメント
「第3週を戦うための脚があるか確認をしたかった。ただ、今日はレムコの方が強かったね。彼は僕たちより早くフィニッシュからね。ヨナスはチームメートのサポートを受けながら走っていたね。僕? いつも通りのレースだったよ。
ヴィスマ・リースアバイクが今日何をしようと思っていたのかは分からない。ただ、ヨナスをサポートできる強い選手が先行して、彼のことを待っていたのは確かだね。ヨナスも、レムコも、僕もそれぞれにチームの作戦があるので、それに沿って走っているんだ」
●個人総合2位 ヨナス・ヴィンゲゴー(ヴィスマ・リースアバイク)コメント
「チームメートに感謝しているよ。クリストフ(ラポルト)、ワウト、ティシュ(ベノート)が重要な働きをしてくれたんだ。個人的にはステージを追うごとに調子が上がっている。今日はベストなレースではなかったけど、内容そのものには満足しているよ」
文:福光 俊介
福光 俊介
ふくみつしゅんすけ。サイクルライター、コラムニスト。幼少期に目にしたサイクルロードレースに魅せられ、2012年から執筆を開始。ロードのほか、シクロクロス、トラック、MTB、競輪など国内外のレースを幅広く取材する。ブログ「suke's cycling world」では、世界各国のレースやイベントを独自の視点で解説・分析を行う
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