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【ツール・ド・フランス2024 レースレポート:第16ステージ】今大会最後のスプリントステージはヤスペル・フィリプセンが快勝「チームワークの賜物。仲間と一緒に勝てて本当にうれしい」 ギルマイ落車でマイヨ・ヴェール争いが混沌
サイクルロードレースレポート by 福光 俊介今大会3勝目を果たしたヤスペル・フィリプセン
残すところ6ステージ。プロトンは南仏へ戻ってきた。不安定な天候とこの時期にそぐわない涼しさは、いつの間にか姿を消した。暑く、熱く、篤いツール・ド・フランスが、第3週にして戻ってきた。
2回目の休息日が明けて迎えた第16ステージ。気温35度を超える暑さの中での一戦はスプリントで決して、ヤスペル・フィリプセン(アルペシン・ドゥクーニンク)が勝利。4勝を挙げた昨年に続く“ハットトリック”の達成である。
「とてもうれしいよ。チームワークの賜物だね。仲間と一緒に勝てるのは本当に素晴らしいことだよ。最高の気分だ」(ヤスペル・フィリプセン)
チャンスはあと1ステージしかなかった。パリ・シャンゼリゼに行かないうえに、山岳比重の高いツールである。あまりにもイレギュラーで、ステージ構成上、平坦にカテゴライズされるのは第16ステージで最後となった。
「完走に向けて気持ちをどう持っていったら良いか、正直悩んでいる」とはフィリプセン。よくステージレースでは、平坦ステージが終わったら残りステージを切り上げて帰ってしまう選手も少なくはないけど、ツールでそれをするのはいかがなものか。格式、伝統、そして完走することの価値を考えたときに、脚質に合わないという理由だけで大会から離脱するのは無情である。
だから、スプリンターたちは躍起になった。最後のチャンスに賭けたのだ。すでに勝利を挙げて心に余裕がある者も、なかなか勝てず焦っている者も、このステージばかりは“戦う”という意味で条件はひとつだった。
12.5kmと長めのパレード走行を経てリアルスタートが切られると、シュテファン・キュング(グルパマ・FDJ)やサンディ・デュジャルダン(トタルエネルジー)が抜け出すが、すぐに逃げるのを断念。5kmもいかないうちに集団はまとまって、それから長く一団のままで進む。最初の1時間は37.9kmとスローペースである。
流れは変わらぬまま、96.1km地点に設けられた中間スプリントポイントに達する。当然スプリンター陣が競って、ブライアン・コカール(コフィディス)が1位通過。フィリプセンが2位、ビニヤム・ギルマイ(アンテルマルシェ・ワンティ)は4位で通過する。
J SPORTS サイクルロードレース【公式】YouTubeチャンネル
【ハイライト】ツール・ド・フランス 第16ステージ|Cycle*2024
この直後、トマ・ガシニャール(トタルエネルジー)が飛び出した。ひとり逃げはやがて1分以上のタイム差となって、途中の4級山岳も一番に登頂。最大タイム差は2分20秒まで広がった。
「ツールのプロトンでトップを走れて本当に楽しかったよ。大会直前に体調を崩してしまっていたので、今日のような走りができたのはとてもうれしい。今日の僕の目的は逃げ切りよりも、先頭を走って自信をつけることだったんだ」(トマ・ガシニャール)
メイン集団は、長くコントロールを担っているアルペシン・ドゥクーニンクに、チーム ジェイコ・アルウラーも加勢。ガシニャールとの差を縮めるのに苦労はせず、フィニッシュまで25kmを残したところで吸収。ガシニャールは文句なしの敢闘賞となった。
そこから先は、今までのスプリントステージ同様に各チームがトレインを組んで進行。徐々にスプリント狙いのチームを中心とする主導権争いが始まって、残り5kmからはチーム ジェイコ・アルウラーとウノエックスモビリティが先頭へ。さらにロット・デスティニーも残り3kmで前に上がってきた。
最後のスプリント機会に状勢はタフになるばかり。残り1.5km、ラウンドアバウト通過の際に数人が絡むクラッシュが発生。コース上に座り込んだのは緑のジャージ。ギルマイが巻き込まれてしまった。
フィリプセンとマイヨ・ヴェールを競うギルマイがクラッシュに巻き込まれてしまう
「みんながエキサイトしていたんだ。もちろん僕も。誰かが僕のハンドルバーに触れて、さらには身体が入ってきたんだ。そうなってしまったら対処できないよね。気づいたら地面に倒れていたよ」(ビニヤム・ギルマイ)
ウノエックスモビリティやアルペシン・ドゥクーニンクがスピードを上げ、一列棒状でのスプリント。アルペシン・ドゥクーニンクがひといきに先頭に立つや、マチュー・ファンデルプールのリードアウトからフィリプセンが加速。絶好の位置からスプリントを開始して、フィル・バウハウス(バーレーン・ヴィクトリアス)やアレクサンダー・クリストフ(ウノエックスモビリティ)の追い上げをかわす。十分なリードをもって、今大会3勝目となる勝利を決めた。
ステージ優勝を果たし「最高の気分だ」と喜ぶフィリプセン
「ステージをこなすごとに調子が上がっていくことを実感していたんだ。自信はあったよ。でも3勝目は特別だね」(フィリプセン)
獲得得点から見て、実質ギルマイかフィリプセンに絞られているマイヨ・ヴェール争い。前者が落車でフィニッシュでのポイントを得られなかったこともあって、両人の得点差は32点にまで縮まった。
「ギルマイの状況は分からなかった。自分のことに集中していたからね。落車の影響が深刻じゃないことを願うよ。落車が理由でジャージを失うなんて良くないからね」(フィリプセン)
「傷はしてしまったけど、メンタル的には大丈夫。明日次第だけど、きっと大丈夫だよ。ジャージよりは、ニースにたどり着けるかどうかを大事にしたい」(ギルマイ)
かくして、今大会の勝利数では並んだ両者。「マイヨ・ヴェール=スプリンターNo.1決定戦」の行方は、平坦ステージにとどまらず、山岳ステージでの中間スプリントにも委ねられることとなりそうだ。
クラッシュの影響でフィニッシュ時にはいくつにも割れたプロトンだったけど、救済によって大多数の選手がフィリプセンと同タイム扱いに。個人総合上位陣の並びにも変動はなく、ポガチャルのマイヨ・ジョーヌは揺らがない。
「全体的にはイージーなステージだったね。思っていたほど風が強くなかったことも関係していると思う。個人的にはスプリントステージがすべて終わってホッとしているんだ。なぜかって? 大事な山岳ステージが控えているからだよ(笑)」
マイヨ・ジョーヌの予想では、第17・第18ステージは「逃げ切りじゃないかな」。その行方は、リーダーチーム、そしてレースリーダーのポガチャル次第であったりもする。
●ステージ優勝:ヤスペル・フィリプセン(アルペシン・ドゥクーニンク)コメント
自身の調子に少し不安を抱えるフィリプセン
「とてもうれしいよ。大会前半は調子が良くなかったけど、うまく状況を好転させられた。結果的に3勝できて僕はハッピーだ。とにかく今日の勝利とチームのパフォーマンスを喜びたい。
調子が上がらなかった理由? チームと分析する必要があると考えている。単純に、運がなかっただけかもしれない。先週も休息日明けも勝っているけど、そのあたりは偶然だと思うよ。どちらにも共通するのは、体調が良かったこととモチベーションが高かったことくらい。
マイヨ・ヴェール? 32点差は近いようで遠い気がする。スプリントステージがすべて終わったし、山岳ステージは走り切ることで精いっぱいだ。中間スプリントのためにどうするかより、ニースにたどり着くために最大限の努力をしたい。正直に言うと、山を乗り切るためのコンディション自体はベストとはいえないんだ」
●マイヨ・ジョーヌ&マイヨ・ブラン・ア・ポワ・ルージュ:タデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ)コメント
「思っていたほど風が強くなくて良かったよ。警戒が必要なタイミングもあったけど、比較的楽なステージだったよ。ツールのスプリントステージは集中力が求められるし、難しいセクションがあったりもするのでいつでも緊張はするんだ。
早くもラスト3ステージでの走りを見据えるポガチャル
明日のステージは風が強いかもしれないね。後半にかけて上りがあるので、難しいステージになるかもしれない。個人的には明日と明後日は逃げ向きだと思っていて、僕たちにより大事になるのが最後の3ステージ(第19・第20・第21ステージ)になるだろうね」
●マイヨ・ブラン:レムコ・エヴェネプール(スーダル・クイックステップ)コメント
「レースが進むにつれて風が弱まっていったね。1日を通してリラックスして走ることができたよ。今日はイヴ・ランパールトと一緒に走っていて、できる限り集団前方に位置できるよう助けてもらったんだ。
明日と明後日は逃げの選手たちが活躍するだろうから、僕自身は総合表彰台が固いものになるよううまく走りたい。個人総合4位以下の選手とのタイム差はそれなりにあるし、僕としてはどちらかといえばディフェンシブに走ることになると思う」
文:福光 俊介
福光 俊介
ふくみつしゅんすけ。サイクルライター、コラムニスト。幼少期に目にしたサイクルロードレースに魅せられ、2012年から執筆を開始。ロードのほか、シクロクロス、トラック、MTB、競輪など国内外のレースを幅広く取材する。ブログ「suke's cycling world」では、世界各国のレースやイベントを独自の視点で解説・分析を行う
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