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【Cycle*2024 ツール・ド・フランス2024 レースレポート:第15ステージ】タデイ・ポガチャルがピレネー2連勝でダブル・ツールへ一気に近づく ヴィンゲゴーとの総合タイム差は3分以上に「こんな結果になるとは想像していなかったよ!」
サイクルロードレースレポート by 福光 俊介超級山岳で大差をつけたポガチャル
長き旅の結末がもはや見えてしまったのだろうか。頂上決戦と呼ぶにふさわしいマッチアップ。ツール・ド・フランスのタイトルを守ろうとする者と、取り戻そうとする者の大勝負。ピレネーの山々は、その答えを導き出すにはあまりに残酷で、あまりに慈愛に満ちていた。
ツール第2週最終日、第15ステージも前日に続いてピレネー山脈を駆けた1日。最終登坂の超級山岳プラトー・ド・ベイユでは、マイヨ・ジョーヌを着るタデイ・ポガチャル (UAEチームエミレーツ)がヨナス・ヴィンゲゴー (ヴィスマ・リースアバイク)を引き離し、最後は1分以上の大差をつけて頂上へ。文句なしのステージ優勝で、マイヨ・ジョーヌ争いにおいても3分9秒差に。これ以上ない形で大会中盤戦を終えた。
「自分でも本当に信じられないよ。第2週が始まったとき、こんな結果になるとは想像すらしていなかった。コンディションが最高に良くて、暑さにも対処できた。素晴らしい1週間になったよ」(タデイ・ポガチャル)
ピレネー山脈を駆ける1日の始まり
大会が半ばを過ぎてから、一気に山岳成分が増している今年のツール。第14ステージと第15ステージは、ピレネー山脈に足を踏み入れている。前日はポガチャルがプラ・ダデを一番登頂。ヴィンゲゴーやレムコ・エヴェネプール (スーダル・クイックステップ)を引き離すことに成功し、両人に2分前後の総合タイム差をつけている。
その形勢に変化あるかが見ものとなった第15ステージ。この日のフランスは革命記念日にあたり、主催者も意識的にハードなコースを用意する。スタートと同時に1級山岳ペイルスルド(登坂距離6.9km、平均勾配7.8%)を上るし、それからは平坦区間をはさみながら断続的に3つの1級山岳を越えていく。そして、最後に待つのが超級山岳プラトー・ド・ベイユ(15.8km、7.9%)である。ところどころ10%超の急坂区間もあって、マイヨ・ジョーヌの有資格者を測るには最適の上りだ。
スプリントでギルマイは降着扱い
レースが始まると、やはりこの日も逃げ狙いのアタックが頻発。自然とプロトン全体のペースが上がり、そうなるとスプリンター陣が苦しめられる。タイムアウトという“もうひとつの戦い”を、彼らは強いられる。
ペイルスルドの頂上はダヴィド・ゴデュ (グルパマ・エフデジ)が1位通過。数人が先行したものの、下りを経て再び一団に。上りで後方に下がっていた選手たちも多くが集団復帰をしている。
逃げは20km過ぎに決まる。ボブ・ユンゲルス(レッドブル・ボーラ・ハンスグローエ)のアタックをきっかけに、約20人が前線へ。いくつかシャッフルがありながら、21人が先頭グループを形成。この中には、マイヨ・ヴェールのビニヤム・ギルマイ (アンテルマルシェ・ワンティ)の姿も。37km地点に設置される中間スプリントポイントへ、ルイス・メインチェス のアシストを受けながら向かっていく。
そのスプリントでは、ギルマイとマイケル・マシューズ(ジェイコ・アルウラー)の競り合い。ギルマイが先着したものの、直前の緩いコーナーでマシューズのスプリントラインをふさいだとして降着扱いとなった。1位通過はマシューズで、ギルマイはメインチェスに続く3位。
40km過ぎから上りが始まる1級山岳マンテ(9.3km、9.1%)では、メイン集団からリチャル・カラパス (EFエデュケーション・イージーポスト)が飛び出す。サイモン・イェーツ (ジェイコ・アルウラー)ら数人も同調して、先頭グループへのブリッジを図る。一方で、ギルマイらは集団へと戻る。数キロのうちに逃げメンバーが入れ替わって、頂上手前3kmで先頭には17人。頂上はハビエル・ロモ(モビスター)が一番で通過している。
展開に大きな変動がないまま、3つ目の1級山岳ポルテ・ダスペ(4.3km、9.6%)へ。ここはトビアス・ヨハンネセン (ウノエックスモビリティ)がトップ通過。下りを終えて平坦区間に入ると、それまで1分台だった先頭とメイン集団とのタイム差は2分30秒まで広がった。さらに、128km地点から上る4つ目の1級山岳アニェス(10km、8.2%)を前に、逃げのパックが2つに割れる。上りで人数が絞られると、レースをリードするのはカラパス、ヨハンネセン、ローレンス・デプルス(イネオス・グレナディアーズ)、ジャイ・ヒンドレー (レッドブル・ボーラ・ハンスグローエ)、エンリク・マス (モビスター)の5人となった。
頂上決戦を繰り広げたポガチャルとヴィンゲゴー
メイン集団は終始ヴィスマ・リースアバイクがコントロール。レースが終盤に入る頃には先頭5人を射程圏に捉えた。いつでもキャッチできる状況を作るとともに、プラトー・ド・ベイユでヴィンゲゴーが勝負できる態勢を整えていった。
運命のプラトー・ド・ベイユ。先頭ではカウンターの応酬から、カラパスがひとり逃げ切りの可能性にかけて独走に打って出た。ただ、すぐ後ろではメイン集団も活性化している。マッテオ・ヨルゲンソン(ヴィスマ・リースアバイク)の牽きで一気に絞り込まれた精鋭グループから、残り10kmでヴィンゲゴーがアタック。すかさずポガチャルも追随。レムコはテンポで前を追う姿勢で、やがてポガチャルとヴィンゲゴーの頂上決戦の趣きとなる。
2人は労せず逃げ残りの選手たちをパスしていくと、カラパスも追い抜いてついに先頭へ。懸命に食らいついたカラパスが遅れると、マイヨ・ジョーヌ攻防戦のゴングが鳴った。山岳賞でもトップのポガチャルに代わってマイヨ・アポワを着るヴィンゲゴーが前を攻め、ポガチャルは付き位置を崩さない。
ポガチャルとヴィンゲゴー。時代の寵児とも言えるプロトンの頂点2人の競り合いは、フィニッシュ前5kmで決定的な瞬間を迎えた。
「ヴィスマ・リースアバイクは1日を通してハイペースを維持していたけど、きっと最後の上りで僕を引き離そうとしたのだろうね。確かにヨナスのアタックは少し苦しんだけど、その後の様子で彼が消耗しているのだろうと感じたんだ」(ポガチャル)
ペースを上げようとダンシングするヴィンゲゴーに、ポガチャルがカウンターで仕掛けた。ヴィンゲゴーについていく力はもうない。あっという間にポガチャルがリードを広げた。
しばし30秒ほどで推移していた2人のタイム差は、フィニッシュを目前に急激に拡大した。終わってみれば、両者のタイム差はこのステージだけで1分8秒。15ステージを終えての総合タイム差は3分9秒にまで広がった。
戦略的走りを見せるUAEチームエミレーツ
「今日も思い切ってトライして良かったよ。下手をすれば僕が崩れていたかもしれない。でもやるしかない状況だったんだ。総合タイムを広げることにもつながったし、大成功だよ」(ポガチャル)
「ダブル・ツール」を狙うポガチャルと、大会3連覇をかけて臨んでいるヴィンゲゴー。前者の勢いとチーム力を見せつけられた今、彼が断然優位な状況にあるのは誰の目にも明らかである。第3週も攻め続けるのか、ディフェンシブにいくのか…。
「十分なリードを得られたと思っているよ。僕としては最高のシチュエーションだよ。あとはミスやトラブルがないように、残りの6ステージにも集中していきたいね」(ポガチャル)
敗れたとはいえ、ヴィンゲゴーも決して下を向いてはいない。残る1週で大きな成功をつかむことができるだろうか。
「キャリア最高のパフォーマンスだったと思っているよ。まったくかっがりなんかしていない。この先のステージで勝つチャンスが残っているだろうし、そもそもツールは終わっていないんだ。昨年と一昨年にタデイのバッドデイを見た人も多いと思う。有利なのは当然彼だけど、僕ももう少しトライしてみるよ」(ヨナス・ヴィンゲゴー)
ちなみに、ポガチャルのプラトー・ド・ベイユ登坂タイムは39分50秒。1998年にダブル・ツールを達成したときのマルコ・パンターニが出した43分28秒を大幅に上回った。ヴィンゲゴーも40分58秒で走破している。
2人の後ろではレムコがペースを守りながら上がってきて、ステージ3位。個人総合でも3位をキープしている。その他個人総合上位陣では、ミケル・ランダ (スーダル・クイックステップ)とカルロス・ロドリゲス (イネオス・グレナディアーズ)の順位が入れ替わってそれぞれ5位と6位。ステージ7位にまとめたサンティアゴ・ブイトラゴ (バーレーン・ヴィクトリアス)が総合でも順位を上げて、トップ10圏内に入ってきている。
なお、この日のタイムリミットはトップのフィニッシュタイムから17%。53分22秒以内のフィニッシュが必要だった。結果として、リタイアとタイムアウトが1人ずつ。第3週には152人が進むことが決まっている。
さらに熱を帯びていく沿道の声援
2回目の休息日を経て、大会は最後の1週間へ。残すところ6ステージ。最終目的地・ニースが、そしてツール・ド・フランス2024の完結が、近づきつつある。
●ステージ優勝、マイヨ・ジョーヌ タデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ)コメント
「ここまでの結果になるとは想像していなかったよ。最後の数キロは心の中でカウントダウンしていて、早くフィニッシュにたどり着きたかった。今は本当に幸せな気分だよ。チームメートの働きぶりには脱帽だよ。彼らのおかげでハッピーな休息日を迎えられるんだ。
まだツールが終わったとは思っていないよ。ニースに到達するまでがツール・ド・フランスなんだ。最後まで集中して走るよ。フィニッシュラインを通過する瞬間まで、しっかり走り抜かないといけないと思っている。
2008年のパンターニより速く走ったって? そのときの彼の走りを見ていないし、30年も前の話だからね…。僕は僕自身の走りをしたまでだよ。今日もヨナスの走りが力強く、僕がチャンスだと思えたのはアタックを試みた瞬間だけだったんだ。チームカーからの無線では35秒差と聞かされていて、追いつかれるかもしれないと思って最後まで全力で走ったよ」
●個人総合2位 ヨナス・ヴィンゲゴー(ヴィスマ・リースアバイク)コメント
「がっかりなんかしていないよ。むしろ満足している。チームはレースをハードなものにしてくれたし、僕は最後の上りで勝負することができた。キャリア最高のパフォーマンスだったと思っているくらいだよ。それでもタデイに1分以上の差を付けられてしまったのだから、彼が今日は一番強かったということだね。
まだ勝つチャンスはあると思っている。何よりツールは終わっていないからね。昨年、一昨年とタデイがバッドデイに陥ったのを見た人も多いと思う。状況的には間違いなく彼の方が有利だけれど、僕にも可能性がある限りはトライを続けるよ」
●個人総合3位 レムコ・エヴェネプール(スーダル・クイックステップ)コメント
「タデイやヨナスのような爆発力が僕にはなかった。ヨナスが仕掛けたときに追いたかったけれど、あのペースにはさすがについていけないよ。だから自分のことに集中したんだ。2人は別格だけど、他の選手には先着できた。僕はそれで満足だ。
タデイは別の世界の人だね。この先追いつけるかどうか? 僕はこれが初めてのツールなんだ。経験を重ねていけばその差は埋められるのではないだろうか」
文:福光 俊介
福光 俊介
ふくみつしゅんすけ。サイクルライター、コラムニスト。幼少期に目にしたサイクルロードレースに魅せられ、2012年から執筆を開始。ロードのほか、シクロクロス、トラック、MTB、競輪など国内外のレースを幅広く取材する。ブログ「suke's cycling world」では、世界各国のレースやイベントを独自の視点で解説・分析を行う
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