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サイクル ロードレース コラム 2024年7月14日

【ツール・ド・フランス2024 レースレポート:第14ステージ】“本能の走り”を支える充実の戦力 マイヨ・ジョーヌのポガチャルがアシスト陣の好援護を受けて超級山岳プラ・ダデを独走「強いチームメートがいることで、僕は本能でレースができる」

サイクルロードレースレポート by 福光 俊介
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大幅なタイム差でヨナス・ヴィンゲゴーに勝ってステージ優勝を果たしたポガチャル

大幅なタイム差でヨナス・ヴィンゲゴーに勝ってステージ優勝を果たしたポガチャル

数日前、「ピレネーで何が起きるか見ていてほしい」と語ったマイヨ・ジョーヌ。迎えたピレネー2連戦の初日、“有言実行”とばかりにアタックを決めた。アシスト陣は1日を通してレースをコントロールし、自身の攻撃直前にはチームメートに前待ちを託した。タデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ)に勝負できる下地が整ったとき、もはやその勢いを止めることは誰にもできない。ライバルたちはその事実を、超級山岳プラ・ダデで見せつけられることとなった。

ツール・ド・フランス第14ステージ。ピレネー山脈3つの上りをこなす151.9kmのレースは、今大会最初の山頂フィニッシュでもあった。ポガチャルは残り5kmでの攻撃で、最大のライバルであるヨナス・ヴィンゲゴー(ヴィスマ・リースアバイク)やレムコ・エヴェネプール(スーダル・クイックステップ)を振り切ることに成功。第4ステージ以来となる今大会2勝目は、総合リードを広げる価値あるステージ優勝になった。

「今日の僕はとても調子が良くて、総合とステージの両方を追い求めることができる状況にあった。チームメートも好調で誰もが勝負できたのだけれど、このステージばかりはどうしても勝ちたかったんだ。その思いに応えてくれたチームメートには本当に感謝しているよ」(タデイ・ポガチャル)

大会第2週に入ってからフランス中央部を南下してきたプロトンは、いよいよピレネー山脈に脚を踏み入れる。ツールではおなじみのポーの街を出発し、おおよそ南東に針路をとると、ピレネーの山々が近づいてくる。

70.2km地点で中間スプリントポイント通過を済ませると、その先は山岳ルート。手始めに…というには大物すぎる超級山岳トゥルマレ(登坂距離19km、平均勾配7.4%)を上ったら、いったん下って2級山岳ウルケット・ダンシザンへ。そして最後にそびえるは、この2つ目の超級山岳プラ・ダデ。登坂距離10.6km・平均勾配7.9%で、上り口からの3kmに10%超の急勾配が控える。

J SPORTS サイクルロードレース【公式】YouTubeチャンネル

【ハイライト】ツール・ド・フランス 第14ステージ|Cycle*2024

このステージを含めて残りは8ステージ。うち5つが山頂フィニッシュという、過酷を極める大会後半のセッティング。プラ・ダデへの挑戦は、その第一章である。

レースを前に、トーマス・ピドコック(イネオス・グレナディアーズ)が出走しないことを発表した。新型コロナウイルス感染が確認され、軽い症状も出ているという。あくまでパリ五輪を目標としているから、ここは体調の回復に専念する。また、ギヨーム・ボワヴァン(イスラエル・プレミアテック)も体調不良で出走を取りやめている。

157選手が臨んだレースは、7.3kmのパレード走行を経てリアルスタート。すぐにアタックがかかって、プロトン全体がハイスピード。前日、フィニッシュ前で落車したアモリ・カピオット(アルケア・B&Bホテルズ)は傷みが激しく、この流れについていけなかった。涙ながらにバイクを降り、ツールに別れを告げた。

集団前方では、数人が逃げを試みてはキャッチされる状況の連続。マイヨ・ジョーヌのポガチャルみずから先頭付近まで上がっていって、危険なアタックは阻止しようという構え。

マチュー・ファンデルプールらが先頭集団で競り合う

マチュー・ファンデルプールらが先頭集団で競り合う

40km地点を過ぎたところで、マチュー・ファンデルプール(アルペシン・ドゥクーニンク)ら4人が数秒のリードを確保。この4人をめがけてなおもアタックが繰り返されて、先頭グループは8選手となる。さらには15人まで膨らんだ追走グループが生まれて、その中にはポイント賞を争うビニヤム・ギルマイ(アンテルマルシェ・ワンティ)とヤスペル・フィリプセン(アルペシン・ドゥクーニンク)の姿もあった。

中間スプリントポイントは前の8人が先着。ブライアン・コカール(コフィディス)がアルノー・ドゥリー(ロット・ディステニー)との争いを制して1位通過。少し遅れてやってきた追走グループは、やはりギルマイとフィリプセンが競り合い。ここはギルマイが前を押さえて、全体9位通過。マイヨ・ヴェールを譲るつもりは毛頭ない。

「ヤスペル(フィリプセン)が逃げを狙っていたので、僕もついていく必要が出てきた。もともとは逃げるつもりはなかったんだけど、今日のような走りができると分かって自信になったよ」(ビニヤム・ギルマイ)

直後に追走グループが先頭に追い付いたが、スプリント系の選手たちは目的を果たしたことでメイン集団へと戻っていく。最前線を走るメンバーは幾分シャッフルされて、トゥルマレに入る段階で18人となった。

いざトゥルマレを上り始めると、この18人の登坂力に明確な差が現れる。後退する選手が次々出てきて、19kmもの長い上りを終える頃には、その人数は指折り数えられる程度まで減った。頂上はオイエル・ラスカノ(モビスター)が1位で通過して、この山に設定されていたジャック・ゴデ賞を獲得している。

メイン集団は、リーダーチームのUAEチームエミレーツがコントロール。トゥルマレ入口で約5分あった先頭とのタイム差は、2級山岳ウルケット・ダンシザンを上る頃には約3分まで縮まった。さらにこの頂上では1分15秒差。

途中独走していたベン・ヒーリーは敢闘賞に輝いた

途中独走していたベン・ヒーリーは敢闘賞に輝いた

プラ・ダデを前に、メイン集団が逃げを捕まえるのは時間の問題となった。5人となっていた先頭グループは、上り始めたところでベン・ヒーリー(EFエデュケーション・イージーポスト)が独走を始めるが、数十秒後ろには集団が迫っている。

この日のハイライトは、山頂のフィニッシュまでの約7kmだった。アダム・イェーツがポガチャルと何やら一言二言やり取りしたのち、集団から飛び出す。ヴィンゲゴー擁するヴィスマ・リースアバイクがマッテオ・ヨルゲンソンが集団牽引を始めたが、残り5kmを計っていたかのようにポガチャルがアタックした。

「アダムはステージ優勝を狙えるコンディションにあったんだ。でも、僕のために前に出て攻撃チャンスを演出してくれた。素晴らしい働きだったね。とても感謝しているよ」(ポガチャル)

当然ヴィンゲゴーやレムコがチェックに動いたけど、敢然とダンシングをするポガチャルの勢いが勝っている。数十秒前で待っていたアダムはポガチャルが合流したのを見て500mほど牽引。この間に逃げていたヒーリーもパス。残り4kmを切ったところで、ポガチャルが満を持して独走態勢に入った。

「タデイが僕のところへきてアタックしてほしいと言ったんだ。“どうして?”と聞いたよ。彼は前待ちを望んでいた。前に出たもののあまり脚が残っていなくて、彼の役に立てたかというと疑問だよ。でも思い切ったことができて良かったよ」(アダム・イェーツ)

ハルクポーズで喜びを見せるポガチャル

ハルクポーズで喜びを見せるポガチャル

後ろではヴィンゲゴーがレムコを振り切ってひとりで追走するが、ポガチャルとの差は広がる一方。コース左右を埋め尽くす大観衆を縫って山頂を目指した戦いは、ポガチャルに軍配が上がった。マイヨ・ジョーヌは最後の最後まで力強く踏み続け、ウイニングセレブレーションではハルクポーズを決めてみせた。

「プランとしては最後のスプリントでボーナスタイムを得ることだったんだ。結果的にはそれ以上の勝ち方ができたね。本当にうれしいよ。理想的なシナリオで、アダムが前に行ってくれたことで僕としては本能でレースできる状況が生まれたんだ」(ポガチャル)

本能でレースをする。それはポガチャルのポリシーであり、みずからの感覚にしたがって走ることでこれまで多くのタイトルを手にしてきた。一方で、無謀ともいえるアタックや、必要性が疑問視されるスプリントが、グランツールクラスの長い戦いで消耗につながるとの見方もされてきた。その良し悪しが問われることが多いけれど、本人にスタンスを変える気はない。それがタデイ・ポガチャルの走り方だから。そして何より、力のあるチームメートの存在が、彼の“本能”を導き、支えている。ポガチャル自身も認める。

「僕にとって一番大事なのは、サポートしてくれる強いチームメートがいることなんだ。そのおかげで本能でレースができる。失敗してしまうこともあるけれど、走り方を変えようとはまったく思っていないよ」(ポガチャル)

ポガチャルの歓喜から39秒後、ヴィンゲゴーがフィニッシュへやってきた。レムコを抜いて個人総合2位に上がったが、ポガチャルとの総合タイム差は1分57秒に拡大した。

「タデイの強さは印象的だった。40秒近くタイム差がついたのは残念だし驚いている。今日はタデイが勝者にふさわしいよ。おめでとうと伝えたい。でも、明日からは違うレースになるだろうし、僕向きの上りも多く残っているからね。チャンスはまだまだあると思うよ」(ヨナス・ヴィンゲゴー)

フランス革命記念日の7月14日も、ピレネー山脈を行く。5つもの上級山岳を上らなければならない。最後には超級山岳プラトー・ド・ベイユ(登坂距離15.8km、平均勾配7.9%)の頂上へ。過去4回登場して、そのすべてでステージ優勝者が個人総合優勝を果たしている。今年もこの山で趨勢がはっきりするだろうか。

「この先のステージで何が起きるかはまったく想像がつかないよ。明日も大事なステージなのは確かだ。最後まで気を抜かずに走り続けるよ」(ポガチャル)

●ステージ優勝&マイヨ・ジョーヌ:タデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ)コメント

「チームメートが素晴らしい仕事をしてくれた。これこそ共同作業だね。その結果、チームとして勝利ができたのだから本当に誇らしいよ。ヨナスへの復讐だなんて思っていない。レースである以上、勝つことも負けることもある。ツールのステージ優勝は当然大きな1勝だ。マイヨ・ジョーヌだとなおさらだね。その価値を説明するのはなかなか難しいよ。

アダムと何を話していたか? 歓声にかき消されてしまうので会話というよりは叫びあっていた感じだったよ。僕は彼にアタックするように伝えたんだ。それで他の選手たちがどんな反応をするのか見てみたかった。実はアダムにはそのまま逃げ切ってもらって良いと思っていて、僕がひとりで追いついたときに目的を切り替えたんだ。彼は疲れていたので、僕が代わりにステージ優勝を目指した…という具合だね。

チームメイトへの感謝を語るポガチャル

チームメイトへの感謝を語るポガチャル

僕自身がアタックするべきかどうかは悩むところだった。ただ、周りを見たら消耗している感じがしていたし、これならタイム差を付けられるかもと思ったんだ。アタックしたのは一瞬の判断だよ。理由を説明するのは難しい。アダムは僕が追いついてきて驚いたと言うけど、周りの音が大きくて状況を把握できていなかったことも関係していると思う。今日の勝利は彼のおかげだし、ライバルとのタイム差を付けられたのもすべて彼が良い動きをしてくれたからだよ」

●個人総合2位:ヨナス・ヴィンゲゴー(ヴィスマ・リースアバイク)コメント

「良い走りができたので満足はしている。ただ、40秒近くタイム差がついてしまったのは残念だよ。明日はまた別のレースになるだろうし、今日よりは僕に合ったコースだと思っているよ。

タデイのアタックが誰にも止められないことは知っているし、今日のようにフィニッシュ前が緩やかになるようなレイアウトは彼向きだとも感じていた。パワーは間違いなくタデイの方があるけど、急勾配の区間では僕の方が速かったと思うんだ。実際にタイム差が縮まっていたみたいだからね。いずれにしても、今日は彼が勝利にふさわしかったよ。おめでとうと伝えたい。本当に印象的な走りだった。

一部の観客が僕たちにブーイングしていて、誰かは僕にチップを投げてきた。なぜそんなことをするのか不思議でならないよ。僕たちは純粋に応援をしてほしい。ブーイングをされたいと思って走るライダーなんてどこにもいないよ」

●個人総合3位&マイヨ・ブラン:レムコ・エヴェネプール(スーダル・クイックステップ)コメント

ヴィンゲゴーが2位でフィニッシュしたことで個人総合が3位になったレムコ

ヴィンゲゴーが2位でフィニッシュしたことで個人総合が3位になったレムコ

「僕としてはできる限りのことはしたよ。タデイがアタックしたとき、僕はヨルゲンソンとミケル・ランダの後ろにいて、反応が遅れてしまったんだ。いずれにしても、今日勝ったのはステージ優勝に一番ふさわしい選手だった。僕はヨナスにも置いていかれてしまったけど、ステージ3位だし悪くない。個人総合でも4位の選手に4分近いタイム差をつけたので、アドバンテージがある状態だ。タデイとヨナスは僕よりはるかに経験とパワーがある。だから、僕は総合表彰台を目標にしていきたい。ヨナスとはまだそう大きな差があるわけではないので、順位を上げられるようチャレンジはしてみようと思う」

文:福光 俊介

福光 俊介

ふくみつしゅんすけ。サイクルライター、コラムニスト。幼少期に目にしたサイクルロードレースに魅せられ、2012年から執筆を開始。ロードのほか、シクロクロス、トラック、MTB、競輪など国内外のレースを幅広く取材する。ブログ「suke's cycling world」では、世界各国のレースやイベントを独自の視点で解説・分析を行う

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