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【ツール・ド・フランス2024 レースレポート:第12ステージ】勝ち方をつかんだビニヤム・ギルマイ、会心スプリントでステージ3勝目「マイヨ・ヴェールは僕にとって翼のようなもの」 ログリッチが落車で2分27秒遅れ
サイクルロードレースレポート by 福光 俊介今大会3勝目のビニヤム・ギルマイ
マイヨ・ジョーヌ・マジックならぬ、“マイヨ・ヴェール・マジック”。すっかりグリーンジャージ姿が板についたビニヤム・ギルマイ(アンテルマルシェ・ワンティ)が、今大会3勝目をつかむ会心のスプリント。どのチームもトレインが崩れ混沌とした状況下で、最終局面を冷静にさばき切った。最後はワウト・ファンアールト(ヴィスマ・リースアバイク)らとのハンドルの投げ合いに勝ち、一番にフィニッシュへ飛び込んだ。
「マイヨ・ヴェールは僕にとって翼のようなものだよ。力強く走れる感覚があるんだ」(ビニヤム・ギルマイ)
中央山塊を駆けた前日のステージを終えて、プロトンはこれからピレネーへと向かっていく。オーリヤックからヴィルヌーヴ=シュル=ロットまでの203.6kmは、平坦にカテゴライズされる。途中、3つの4級山岳があるほか、細かな高低の変化も特徴ではある。主催者に言わせれば、逃げ切りの可能性も低くはないから、スプリント狙いのチームがいかにしてレースをコントロールするかを見ていきたい…という。
スタートを前に、ミケル・モルコフ(アスタナカザクスタン)が出走しないことが発表された。マーク・カヴェンディッシュを献身的に支える姿が印象的だったが、新型コロナウイルスの陽性反応が出て、チームから出走にストップがかかった。症状はないというが、ステージが進行している状況での感染拡大は避けたいとの判断だ。
167選手が出走したレースは、6.3kmのパレード走行の後にリアルスタート。ケヴィン・ゲニエッツ(グルパマ・FDJ)のファーストアタックに、トマ・ガシニャール(トタルエネルジー)も続くが、リードしたのはほんの少しの時間。時速50kmを超えるスピードで進む集団を引き離すのは、さすがに無理がある。ときに集団が分断し、30人近い人数が前をうかがうタイミングもあった。めまぐるしい変動の末に、ようやく4人が逃げを打った。
なおも集団は慌ただしい。クラッシュが発生し、マイヨ・ジョーヌのタデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ)も足止めを食う。ポガチャルは落車こそ免れたが、少々時間を使ってバイクを調整。アシストとともに集団へ戻っている。
J SPORTS サイクルロードレース【公式】YouTubeチャンネル
【ハイライト】ツール・ド・フランス 第12ステージ|Cycle*2024
ここまで11ステージをこなしてきた選手たちの体が悲鳴を上げている。あまりの速いペースに耐えられず、ファビオ・ヤコブセン(dsmフィルメニッヒ・ポストNL)が遅れだした。しばし最後尾を単独走行していたが、集団に復帰することは難しい状態のよう。結局、途中でリタイアを決断した。
メイン集団は、逃げる4人を2分30秒以内にとどめながら進む。先頭メンバーのうち、ヨナス・アブラハムセン(ウノエックスモビリティ)は明らかに山岳ポイント狙い。3つある4級山岳すべてで1位通過を果たす。上級山岳の上位通過数でポガチャルを下回っているものの、ひとまずポイント数では並んだ。このステージを走り切れれば、翌日も代打ながらマイヨ・ブラン・ア・ポワ・ルージュに袖を通すことができる。
110km地点に置かれた中間スプリントポイントは、4位までを逃げメンバーが占める。注目は1分25秒後にやってきたメイン集団の動向だ。スプリントはギルマイがヤスペル・フィリプセン(アルペシン・ドゥクーニンク)らに先着。全体5位通過として11ポイント加算に成功している。
それぞれのチームが綺麗にトレインを編成していく
メイン集団は、フィニッシュまで40km以上残したところで逃げを全員キャッチ。ここまでの平坦ステージと同様に、一団のままスプリントへ向かっていく構え。各チームがトレインを編成して集団内のポジションを固めていく。残り距離が減るとともに全体のペースが上がっていくなか、アクシデントは残り12kmで起こった。
中央分離帯を避けきれずバランスを崩したアレクセイ・ルツェンコ(アスタナカザクスタン)をきっかけに、集団の随所で落車が発生。これに、個人総合4位につけるプリモシュ・ログリッチ(レッドブル・ボーラ・ハンスグローエ)が巻き込まれた。
ログリッチはしばらくしてバイクに戻ったが、アシスト陣の牽きで集団へ復帰しようにも思うようにスピードが上がらない。肩付近を負傷している。ログリッチが何やら無線で告げた言葉に、アシスト陣が反応している様子も見られる。
このクラッシュで一時的にペースを緩めた集団だったが、いつまでも待っているわけにはいかない。残り7kmから再び最終局面に向けた主導権争いが始まって、ヴィスマ・リースアバイクに加えてイスラエル・プレミアテック、dsmフィルメニッヒ・ポストNLも上がってくる。残り5kmでは、UAEチームエミレーツがポガチャルを引き上げて先頭へとやってきた。
残り3kmを切ると、ウノエックスモビリティやバーレーン・ヴィクトリアスも前へ。そうこうしているうちに、各チームの隊列が乱れていく。スプリントに向けて、トレインを維持し進めるチームがなくなっていた。
そうして、混沌としたままスプリントタイミングを迎える。リードアウトを受けたアルノー・デマール(アルケア・B&Bホテルズ)がフィニッシュ前200mバナーを合図に加速。その脇からギルマイやワウト・ファンアールト(ヴィスマ・リースアバイク)、マーク・カヴェンディッシュ(アスタナカザクスタン)らが伸びてくる。逆サイドからはヤスペル・フィリプセン(アルペシン・ドゥクーニンク)も。ギルマイ、ワウト、デマールが横並びのフィニッシュは、ギルマイがすぐに勝利を確信。ホイール半分ほどの差で、今大会3勝目を決めた。
ワウト、デマールとの接戦を制したギルマイ
「チームメートの最大限の感謝をしたい。彼らがいなかったら、僕が今日最速であることは示さなかったよ。正直なところ、今日は逃げを最後まで行かせても良いと思っていたんだ。でも、集団スプリントのムードだったから、みんなに今日も勝負させてほしいと無線で伝えた」(ギルマイ)
混戦下でも、冷静さは失っていなかった。最後1kmを示すフラムルージュ通過時には20番手付近にいたはずなのに、いざスプリントとなると好位置まで上がってきている。その理由をこう説明する。
「最後の500mでマイク・トゥーニッセンが僕を引き上げてくれたんだ。何人追い抜いただろうね。彼の働きにどうしても応えたいと思った」(ギルマイ)
第3ステージでアフリカ系黒色人種のライダーとして初めてツールのステージを勝つと、第8ステージでも勝利。そして、このステージで3つ目の勝ち星。世界中が称賛する彼の“メイクヒストリー”は、次々と新たな章が書き加えられていく。
「ロードレースはまだ世界的なスポーツとは言えないけれど、僕の走りがグローバル化につながっていくのならとてもうれしい。いつだって何か貢献できることがあるんじゃないかと考えているんだ」(ギルマイ)
この日だけでポイントを61点獲得。フィリプセンが4位に終わったことで、マイヨ・ヴェール争いでも俄然有利な状況を築いている。同賞を争う両者の差は107点に広がった。スプリントシーンの、そしてロードレースシーンの新たな時代の幕開けが、近くなりつつある。
なお、このスプリントでは、3着フィニッシュだったデマールがワウトのスプリントラインを侵害したとして降着に。5着だったカヴェンディッシュも同様に降着と裁定され、それぞれメイン集団最後尾の67位と68位に終わっている。
そして、ログリッチ。集団復帰はかなわず、アシストとともに2分27秒遅れでフィニッシュへとやってきた。個人総合は6位にランクダウンした。マイヨ・ジョーヌをキープしたポガチャルは、自身のことよりも同国の仲間を心配する。
「自分の後ろでクラッシュがあったのは把握していたけど、プリモシュが巻き込まれていたのはフィニッシュしてから知ったんだ。彼がステージごとに調子を上げていくのを感じていたので、この結果は本当にショックだよ。怪我の度合いが大きくないことを今は願っている。僕たちはマイヨ・ジョーヌを争うライバルなんだ」(タデイ・ポガチャル)
ちなみに、この日が今大会最後の200km超えステージ。最終的な平均スピードは47.487kmと、高速レースになった。
アフリカ系黒色人種のライダーとして躍進を続けるギルマイ
●ステージ優勝&マイヨ・ヴェール:ビニヤム・ギルマイ(アンテルマルシェ・ワンティ)コメント
「これまでのキャリアの中でも最高のレベルにあると思う。いつだって良い気分だし、朝目覚めたときに身体の調子がとても良いんだ。それでも、ツールで3勝できるとは思っていなかった。チームのみんなが僕に自信を与えてくれているんだ。
ステージ通算35勝はさすがに考えられないよ。僕のキャリアでも35勝していないくらいだからね。ツールが始まってからいろんな選手と話をしたけど、みんなが僕のことを祝福してくれる。1つの大会で3勝は誰もが驚いているんじゃないかな。
僕のスマートフォンは通知だらけで、正直手放したいくらいなんだ(笑)。メッセージは600通以上の未読があって、少しずつ目を通しているところだよ。たまにチームからの大事なメッセージも入っていて、見落としてしまうんだ。だから、今はチームメートに頼んで必要な情報を教えてもらうようにしている。
好調の理由? 必要以上に自分に対してプレッシャーをかけすぎないようにしている。去年は高望みしてしまった部分があったから、ツールに対するアプローチから変えてみたんだ。トレーニング方法を変えたこともうまくいっている要因だろうね。
今の状況にはとても満足しているけど、これからもっとロードレースのグローバル化に貢献したいと思っている。まだまだ世界的なスポーツになるには時間がかかると思うけど、もっとアフリカのライダーに目を向けてもらえるようになればうれしい」
●マイヨ・ジョーヌ:タデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ)コメント
「僕の後ろでクラッシュがあったのは分かっていたけど、スピードが上がっていたから何が起きているかまでは確認しなかった。プリモシュが巻き込まれていたのはフィニッシュしてから聞いたんだ。本当にショックだよ。怪我が大きくないことを祈りたい。僕たちはマイヨ・ジョーヌを争うライバル同士なんだ。
第14・15ステージに控えるピレネーでの走りにも自信を見せるポガチャル
昨日のステージについては、時間があったのでゆっくり振り返ってみた。映像で見ても僕が調子が良いことは感じ取れるし、ヨナス(ヴィンゲゴー)がそれ以上に強かったことも分かった。ピレネーのステージが大事になってくるけど、僕にはかなりの自信がある。マイヨ・ジョーヌを着ているのは僕だし、ヨナスは攻撃しないといけない立場だからね」
●ステージ2位:ワウト・ファンアールト(ヴィスマ・リースアバイク)コメント
「デマールとバリアの間にはさまれてしまって、加速し直さないといけなくなってしまったんだ。あれがなかったら僕は勝てていたかもしれない。ただ、勝てる手ごたえはつかんだので、この先のステージも自信をもって走りたい。フィニッシュまで50kmを残した段階で、今日はスプリントをしようと決めた。タフなコースからのスプリントは得意だからトライしてみたかったんだ」
文:福光 俊介
福光 俊介
ふくみつしゅんすけ。サイクルライター、コラムニスト。幼少期に目にしたサイクルロードレースに魅せられ、2012年から執筆を開始。ロードのほか、シクロクロス、トラック、MTB、競輪など国内外のレースを幅広く取材する。ブログ「suke's cycling world」では、世界各国のレースやイベントを独自の視点で解説・分析を行う
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