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【Cycle*2024 ツール・ド・フランス2024 レースレポート:第8ステージ】絶好調ビニヤム・ギルマイが今大会2勝目 マイヨ・ヴェール争いでも大差をつけてリード「今度はマイヨ・ヴェールで勝ってしまったよ! 現時点でツールは大成功だ」
サイクルロードレースレポート by 福光 俊介インタビューを受けるビニヤム・ギルマイ
歴史を切り拓く…。5日前にエリトリア人として、そしてアフリカ系黒色人種のライダーとして初めてツール・ド・フランスのステージ優勝を果たしたとき、アフリカ自転車界のパイオニアとしての意識を問われ、そう答えた。その歴史にストップはかからない。ストーリーは続く。
ツール・ド・フランス第8ステージ。ハイスピードで進んだレースは最後、上り基調でのスプリント勝負。ここまで好調でポイント賞首位のマイヨ・ヴェールにも袖を通しているビニヤム・ギルマイ (アンテルマルシェ・ワンティ)が、今大会2勝目となるステージ優勝。接戦を制した。
「トリノ(第3ステージ)は平坦なフィニッシュだったけど、今日は上りスプリント。どちらかといえばこっちの方が自信があった。今度はマイヨ・ヴェールで勝ってしまったよ!」(ビニヤム・ギルマイ)
この大会4回目の平坦ステージを迎えた。ここまでの3回と違うのは、終始高低の細かい変化がある点。3級と4級合わせて5つのカテゴリー山岳が設定されていて、フィニッシュ前の1kmの上り基調。とりわけ最後の150mは急坂を一気に駆け上がることになる。パワーに長けた選手に有利との戦前の予想だ。レース距離は183.4km。
コースレイアウトに適していると見られていたマッズ・ピーダスン (リドル・トレック)が出走を取りやめた。第5ステージのスプリント時にコース脇のバリアーに接触し落車。その後もレースを続けていたけど、日に日に肩回りが腫れてきたという。ポイント賞候補にも挙げられ、その戦いぶりが注目されていたが、大会を離脱することになった。
「現時点では骨折しているかどうかは分からない。ただ、昨日のタイムトライアルの走りを見てドクターからストップがかかった。どうもフォームが相当悪かったらしい。3週間を走り切りたかったから、リタイアを決意するのは簡単じゃなかった。でも僕にはオリンピックがある。今はそこでの金メダルの方が重要なんだ」(マッズ・ピーダスン)
J SPORTS サイクルロードレース【公式】YouTubeチャンネル
【ハイライト】ツール・ド・フランス 第8ステージ|Cycle*2024
ファーストアタックで先行する3選手
173人が出走したレースは、8.7kmのパレード走行を経てリアルスタート。パレード中には数人が絡む落車があったが、レースは予定通り始まっている。
ファーストアタックはシュテファン・ビッセガー とニールソン・パウレス のEFエデュケーション・イージーポスト勢だった。そこにマイヨ・アポワを着るヨナス・アブラハムセン(ウノエックスモビリティ)がジョイン。3人は着実に集団とのタイム差を広げていき、10km地点を過ぎる頃には約2分とした。集団では追走狙いの動きが散発したが、先頭3人までは届かない。この日はスタートから雨が降ったりやんだりで、路面はウェットな状況だ。
20km地点を過ぎて、この日1つ目の山岳区間、3級の上りでEFエデュケーション・イージーポストがさらなる攻撃。アルベルト・ベッティオルとベン・ヒーリー がペースアップを試みると、メイン集団は一気に活性化。先頭ではアブラハムセンが狙い通りに山岳ポイントを稼いでいる間、ヒーリーらを含む4人の追走パックが前を目指した。
しかし、EFエデュケーション・イージーポストの奇襲は成功ならず。30km地点を過ぎて、パウレスとビッセガーがアブラハムセンを残して集団へと戻る。集団での追走アクションもやがて止んで、期せずしてマイヨ・アポワの独走に。速いペースに苦しんでいた一部のスプリンターたちもメイン集団に復帰して、レース全体が落ち着くこととなる。
59km地点に設定された、この日の中間スプリントポイントはアブラハムセンの1位通過後に約5分40秒差で集団も到達。マイヨ・ヴェールのギルマイがスプリント制して全体2位通過。17点を加算している。
山岳をすべて1位通過したヨナス・アブラハムセン
最大6分のリードを得たアブラハムセンは、5つあるカテゴリー山岳をすべて1位通過。このステージだけで7点を加えた。
「3人で逃げていた間は思うようにローテーションが回らなかった。僕ひとりになってからの方が良いリズムで走れたね。山岳ポイントを稼ぐと同時に、ステージ優勝も狙っていた。さすがに全部成功させることはできなかったけど、敢闘賞を獲れたから良しとするよ」(ヨナス・アブラハムセン)
ヘリコプターと並走する選手集団
集団は残り30kmを切ったあたりから各チームが隊列をなしてペースを上げていく。アブラハムセンとの差は一気に縮まって、フィニッシュ前20kmで38秒。こうなると集団の勢いが完全に勝って、結果的に残り14kmでアブラハムセンの逃げは終わり。それでも、長くひとり逃げを見せて文句なしのステージ敢闘賞である。
そこからはUAEチームエミレーツやイネオス・グレナディアーズ、イスラエル・プレミアテックなどが前方に位置して、最終局面へと急いでいく。そのスピードに耐えられず、ファビオ・ヤコブセン (dsmフィルメニッヒ・ポストNL)が遅れ、スプリント戦線から脱落した。
残り3kmを切って、デカトロン・AG2Rラモンディアルやロット・デスティニーなどが前線へ。さらにアンテルマルシェ・ワンティのトレインが上がってくると、一気に先頭に出て残り1kmを示すフラムルージュを通過した。
上り基調の最終局面へ、コフィディスもブライアン・コカールを引き上げて先頭まで上がってきた。すぐにその番手にギルマイがつく。パスカル・アッカーマン (イスラエル・プレミアテック)、アルノー・ドゥリー (ロット・デスティニー)も続いた。
アシストの牽きが終わったところで、コカールがスプリントを開始。フィニッシュ前250mと、早めの動き出し。そして急坂になる最後の150mでヤスペル・フィリプセン (アルペシン・ドゥクーニンク)が加速を開始。同時にギルマイも腰を上げた。両者はコカールをパスすると、横並びでフィニッシュへ。スピードとパワーを擁した勝負は最後、ギルマイがわずかな差で先着。今大会2勝目は、マイヨ・ヴェールとスポンサーを誇示してのウイニングセレブレーションとなった。
「1勝するだけでも信じられないのに、2勝目を挙げられるなんて! 第3ステージを勝った段階で、他のスプリンターよりパワーで勝っているのではないかと感じていたんだ。だから、正直言うと今日のような上りスプリントはもっとチャンスがあるんじゃないかと思っていた」(ギルマイ)
スピード&パワー勝負をわずかな差で制したビニヤム・ギルマイ
次々と歴史を作り上げる24歳が、また新たなストーリーを完成させた。ここまで来たら、トップスプリンターとしての地位も確たるものになったと言えるだろう。当初はヘルベン・テイッセンとのダブルスプリンター態勢を予定していたというが、この日は中間スプリントでテイッセンがフィリプセンらライバルのポイント獲得を阻止する役割を果たしている。このステージを終えて、ポイント賞首位のギルマイと2位フィリプセンとの差は88点。マイヨ・ヴェール争いで好況にある。
「もうツール・ド・フランスは大成功だよ。本当はこれ以上望むことはないのだけれど…マイヨ・ヴェール? そうだね、もっとポイントを獲得できるようチャレンジしてみるよ」(ギルマイ)
国民的ヒーローの大活躍に、エリトリアの首都・アスマラはお祭り騒ぎだという。ギルマイが走りで描くストーリーには、まだまだ続きが残されている。
個人総合争いは動きがなく、タデイ・ポガチャル (UAEチームエミレーツ)のマイヨ・ジョーヌは変わらず。2位のレムコ・エヴェネプール (スーダル・クイックステップ)とのタイム差も33秒で変わっていない。前日の個人タイムトライアルが“ビッグ4”が上位を占める状況となっていて、3位にはヨナス・ヴィンゲゴー (ヴィスマ・リースアバイク)、4位はプリモシュ・ログリッチ (レッドブル・ボーラ・ハンスグローエ)で続いている。
その形勢に大きな変化が起きるとするなら、第9ステージが挙げられる。グラベル区間が設定されているのだ。199kmのコースに、計14セクター・総距離32.2kmの未舗装路がプロトンの到来を待ち受けている。セクションによってはアップダウンがあったり、鋭角コーナーがあったりと、それぞれに顔を持つ。ちなみに、最終セクターを終えるのがフィニッシュ前6.6km。未舗装路での遅れを挽回しようにも、距離が残されていない。タイムロストは致命傷になる可能性をはらむ。紛れもなく、大会前半戦のヤマ場である。
スタート前に握手を交わすタデイ・ポガチャルとビニヤム・ギルマイ
●ステージ優勝、マイヨ・ヴェール ビニヤム・ギルマイ(アンテルマルシェ・ワンティ)コメント
「しっかりとしたプランで臨んでいた。チームはフィニッシュ前のレイアウト的に僕向きだということを把握していて、勝負ができるように組み立てを考えてくれていた。最後の数キロに集中していて、スプリントに向けてチームメートがうまく導いてくれた。どのチームにもスプリンターがいるので、逃げを狙うチームが少ないように感じている。それに、スプリンターチームの多くが非常に組織化されている。
2勝目で喜んでくれる人が増えると信じているよ。マイヨ・ヴェールで勝ったのは自分でもすごいことだと思っている。トリノ(第3ステージ)で勝って以来、スマートフォンの通知が鳴りっぱなしなんだ。そんなに時間があるわけでもないから、正直なところ届いているメッセージに目を通し切れていないんだよ。
マイヨ・ヴェール争いについては特に考えていない。このジャージで勝ったことに大きな価値を見出しているところだ。すべてはチームメートのおかげ。まだ先は長いし、僕の目標は完走だ。もうプレッシャーはないから、リラックスして走るだけだよ。」
●マイヨ・ジョーヌ タデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ)コメント
「寒い中でのレースで、なおかつハイペースだった。集団内で走っていて多少のストレスは感じたけど、全体的には良い1日だったと思う。
グラベルステージがすべてを決定づけるとは思えないね。まずは集中して、ミスなく走り切りたい。特に全セクターの入口と出口には注意を払いたい。風や雨でも展開は変わるだろうし、逃げのメンバー次第でもレースの流れは変化するだろうね。僕が明日勝てるかは分からない。むしろ負ける可能性だってある。もしパンクをしようものならタイムをロスするだろうからね。そうならないように、チームとしてレース全体をコントロールできればと思っているよ」
●敢闘賞、マイヨ・アポワ ヨナス・アブラハムセン(ウノエックスモビリティ)コメント
「山岳ポイントを加算するために逃げに乗ることは決めていた。EFエデュケーション・イージーポストの2人と一緒に逃げられたのは良かったのだけれど、上りに入ったらローテーションが回らなくなってしまい、最終的には彼らは集団に戻ってしまったんだ。仕方がないから、僕ひとりでステージ優勝を狙おうと切り替えた。狙い通り山岳ポイントを獲れたのは良かったし、敢闘賞までもらえたのだからね。とてもうれしいよ。」
文:福光 俊介
福光 俊介
ふくみつしゅんすけ。サイクルライター、コラムニスト。幼少期に目にしたサイクルロードレースに魅せられ、2012年から執筆を開始。ロードのほか、シクロクロス、トラック、MTB、競輪など国内外のレースを幅広く取材する。ブログ「suke's cycling world」では、世界各国のレースやイベントを独自の視点で解説・分析を行う
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