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【Cycle*2024 ツール・ド・フランス2024 レースレポート:第4ステージ】タデイ・ポガチャルが超級山岳ガリビエ峠でアタックに成功 ライバルに差をつける独走劇でマイヨ・ジョーヌを取り戻す「独走でフィニッシュできるなんて夢のよう」
サイクルロードレースレポート by 福光 俊介イタリアを離れ、勝負の舞台はいよいよフランスへ
趨勢を見るにはさすがに早すぎるだろうか。21日間のうちの、まだ4日目である。それにしたって強かった。タイミングを見定め、プラン通りにアタックを決める。行程のほとんどをアシスト陣がコントロールし、チームとしてレースを支配した。
ツール・ド・フランス2024は開幕地イタリアを離れ、いよいよ本来の舞台であるフランスへ。今大会最初となる本格山岳ステージは、超級山岳ガリビエ峠を超えるアルプス横断ルート。そのガリビエの上りでタデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ)が猛攻。大会3連覇を目指すヨナス・ヴィンゲゴー(ヴィスマ・リースアバイク)らを振り切って、独走でフィニッシュ地・ヴァロワールに到達した。
「とてもうれしいよ。独走でフィニッシュできるなんて夢のようだよ。今日は全力で攻めるつもりでいて、ライバルにタイム差をつける自信もあった。ほぼ計画通りに走れて大成功だよ」(タデイ・ポガチャル)
UAEチームエミレーツは、ポガチャルを盛り立てるためスタート直後から強い意志を示した。頻発するアタックをやり過ごしつつ、逃げ狙いの選手たちに十分なリードを与えない。18.9km地点に設けられた中間スプリントポイントを前に、先行する選手たちを集団へと引き戻す。一時的にスプリンター陣に競わせたのちに、再びコントロールに戻っている。ちなみに中間スプリントポイントは、マッズ・ピーダスン(リドル・トレック)が1位通過。前日のステージを勝ったビニヤム・ギルマイ (アンテルマルシェ・ワンティ)が2位で続いている。
UAE勢のペースメイクは、ときに他選手の焦りも生んだ。集団が大きく2つに割れたときには、エガン・ベルナル(イネオス・グレナディアーズ)やプリモシュ・ログリッチ(レッドブル・ボーラ・ハンスグローエ)らが後方に取り残された。2人はすぐに前線へと復帰しているが、山岳区間に入って集団の人数は絞られていく一方となる。
彼らが逃げを容認したのは、スタートから30kmを迎えようかというタイミング。17人が先を急ぎ、その中にはマチュー・ファンデルプール(アルペシン・ドゥクーニンク)の姿もある。50.4km地点の2級山岳セストリエール頂上、71.1km地点の2級山岳モンジュネーヴル頂上ともに、逃げメンバーのスティーブン・ウィリアムズ(イスラエル・プレミアテック)が1位で通過している。
少しおいて上ってきたメイン集団は、依然UAEが支配する。モンジュネーヴルからの下りでは、ジョアン・アルメイダ(UAEチームエミレーツ)のペースアップでいくつものパックに分散。すぐに一団に戻ったとはいえ、サイモン・イェーツ(ジェイコ・アルウラー)が後方からの追い上げを強いられた。ガリビエに向けて、集団の緊張感が高まっていく。
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【ハイライト】ツール・ド・フランス 第4ステージ|Cycle*2024
山岳賞争いで差し切ったスティーブン・ウィリアムズ
超級の上りが始まってしばらくした頃、先頭ではオイエル・ラスカノ(モビスター)がアタック。これで逃げグループを崩すと、クリストファー・ユールイェンセン(ジェイコ・アルウラー)、ダヴィド・ゴデュ(グルパマ・FDJ)、トビアス・ヨハンネセン(ウノエックスモビリティ)の3人が対応。逃げ切りへのわずかな可能性にかけてスピードアップを図った彼らだったけど、メイン集団には逃がす気が毛頭なかった。残り26kmで逃げ残っていたラスカノが捕まり、いよいよ精鋭たちの勝負へと移っていった。
大きな変化は残り25kmで起きる。ガリビエの上り後半に入ってアルメイダがペースを上げると、マイヨ・ジョーヌを着て臨んだリチャル・カラパス(EFエデュケーション・イージーポスト)が遅れ始めた。ベン・ヒーリー(EFエデュケーション・イージーポスト)が寄り添うが、カラパスの走りに前日までのような力強さが見られない。さらには、エンリク・マス(モビスター)も後退。
そうこうしているうちに集団は8人にまで絞り込まれて、そこにいるのはヴィンゲゴー、ポガチャル、アルメイダ、フアン・アユソ(UAEチームエミレーツ)、カルロス・ロドリゲス(イネオス・グレナディアーズ)、 レムコ・エヴェネプール、ミケル・ランダ(ともにスーダル・クイックステップ)、プリモシュ・ログリッチ(ボーラ・ハンスグローエ)。
そのときは、残り20kmでやってきた。頂上までは800m。ポガチャルがついに動いた。
「ガリビエ峠の上りは向かい風が強かったので、頂上前800mまで我慢していた。アタックが決まれば、その後の下りも把握していたから不安はなかったよ。このあたりはトレーニングでよく走っていて、僕にとってはホームステージのようなものだからね」(ポガチャル)
すぐにヴィンゲゴーが反応したことで、そのまま2人が抜け出すかに見えた。しかし、連続するヘアピンコーナーでポガチャルがヴィンゲゴーを引き離す。これでギャップが生まれると、頂上では8秒差。今大会のアンリ・デグランジュ賞を獲得すると同時に、ガリビエに設定されていたボーナスタイムを8秒ゲットした。
「下り始めてすぐのコーナーが濡れていてビックリしたよ。それは想定していなかったからね。でも、それからはひたすらプッシュするだけだった。とにかくタイム差をつけたかったからね」(ポガチャル)
頼れるアシストのワウト・ファンアールトは早々にグルペットへ
時速90kmに届こうかというスピードで攻めると、後続との差はじわじわと拡大。追いたかったヴィンゲゴーだけど、ポガチャルとは対照的に追走メンバーの合流を許す格好に。
完全にレースをモノにしたポガチャルは、ヴァロワールのフィニッシュラインが見えてきても踏み続ける。ライバルとのタイム差を広げるべく、最後の最後まで力を抜くことはしなかった。
「スタートした時点から調子の良さを実感していた。この数週間は必死にトレーニングをしてきて、その成果を発揮したいと思っていたんだ。まずは今日、最高の結果になったことを喜びたい。ガリビエの頂上でボーナスタイムも欲しかったし、フィニッシュに向けても他の選手との違いを見せつけなければと考えていたからね」(ポガチャル)
2番手グループがフィニッシュに達したのは、ポガチャルから35秒後。ここはレムコが先着しステージ2位。ガリビエではペースメイクを担ったアユソが3位で終えた。
「個人的には良い走りができたと思う。ポガチャルの強さは知っているつもりだから、何の驚きもないよ。彼のアタックは爆発的だからね。僕もついていこうと思ったけど、彼のようなスピードは出せなかった。下りでもいくつかミスがあって、ポガチャルに追いつくのは難しくなってしまった。だから、できるだけタイム差をとどめて、2位を狙おうと切り替えたんだ」(レムコ・エヴェネプール)
ポガチャルを追いきれなかったヴィンゲゴーは、フィニッシュ前でいささか失速気味になって、レムコたちから2秒遅れてしまった。この結果に、何を思うだろうか。
「タイムを失ったことは残念だけれど、そのロスのほとんどがダウンヒルでのものだからね。今日のステージは2分くらい遅れることも頭にはあったんだ。そう考えると、総合タイム差50秒は上出来だと思うよ。個人的には、ここまでの4日間には満足している。もう少し体重が絞れるであろう第2週以降を重視しているつもりだよ」(ヨナス・ヴィンゲゴー)
ガリビエ峠の上りで猛攻を見せたUAEチームエミレーツ
これでマイヨ・ジョーヌ争いにおいて、ポガチャルが文句なしのトップに。ボーナスタイムも絡めて2位レムコに45秒差をつけた。さらに5秒差でヴィンゲゴーが続く。彼らと並んで“ビッグ4”の一角と目されるログリッチは1分14秒差の5位。まだ4ステージしか終わっていない状況でのこのタイム差。今後のステージはどう流れていくだろうか。
「4日間を終えた時点のタイム差としては大満足。でもツールは3週間の戦いだからね。個人タイムトライアルが控えているし、グラベルステージもある。そこでまた、何らかの変化があると思うよ」(ポガチャル)
いずれにしても、ここから先は各選手の思惑が交錯し、各チームはより戦術的にレースを進めていくことだろう。
ちなみに、ポガチャルはガリビエ峠を上りと下り合わせて50分47秒で走破。これはティボー・ピノが2019年大会でマークし、ストラバKOMにもなっている52分46秒をはるかにしのいでいる。頂上前8.5kmに限定しても20分50秒で走っていて、同区間の新記録をマーク。それまでの最高記録は、2019年ツールでナイロ・キンタナ (現モビスター )が出した22分23秒。
●ステージ優勝、マイヨ・ジョーヌ タデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ)コメント
「チームメートには頭が上がらないよ。今日のステージで、僕たちが最高のチームであることを証明できたんじゃないかな。彼らの働きはすごすぎるとしか言いようがない。この先のステージも強さを示していきたいね。
ヨナス(ヴィンゲゴー)の状態を判断するにはまだ早いと思う。ここからさらに調子を上げてくるだろうし、ほかの選手についても同じことが言える。ただひとつ感じているのは、ヨナスも好調だということ。個人タイムトライアル(第7ステージ)である程度みんなのコンディションが見えてくるんじゃないかな」
ステージ優勝!ハイレベルな争いの中でも抜きんでたタデイ・ポガチャル
●ステージ5位 ヨナス・ヴィンゲゴー(ヴィスマ・リースアバイク)コメント
「タデイとのタイム差を埋めたかったけど、ダウンヒルの後半が直線的だったこともあってどちらかといえば彼向きだったのだと思う。結果は受け入れなければならないけれど、2分ほどの遅れを覚悟して臨んでいたので、総合で50秒差は決して悪くない。
ツールに出たところで自分に何ができるかが疑問に思っていた時期もあった。調子が良いのかすら分からなかったし、今でも1ステージずつこなしながらコンディションを上げている段階。走り続けていればきっと、自分にチャンスがめぐってくると信じているよ」
●ステージ3位 フアン・アユソ(UAEチームエミレーツ)コメント
「チームのみんなが素晴らしい仕事をしたね。タデイが勝ったことでとてもハッピーな気分だよ。上りも下りも限界に限りなく近いところまで攻めた。その甲斐あってチームが強いことも証明できたし、僕個人としても状態の良さを実感している。いま、世界最高のチームで走っているけど、リーダーのために働き、トップに押し上げることに大きな価値を見出せているよ」
文:福光 俊介
福光 俊介
ふくみつしゅんすけ。サイクルライター、コラムニスト。幼少期に目にしたサイクルロードレースに魅せられ、2012年から執筆を開始。ロードのほか、シクロクロス、トラック、MTB、競輪など国内外のレースを幅広く取材する。ブログ「suke's cycling world」では、世界各国のレースやイベントを独自の視点で解説・分析を行う
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