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【ツール・ド・フランス2024 レースレポート:第3ステージ】歴史の扉を開いたスプリント ビニヤム・ギルマイがエリトリア人ライダーとして初のツール勝利「エリトリア、そしてアフリカ大陸全体に大きな意味をもたらすステージ優勝だ!」
サイクルロードレースレポート by 福光 俊介ツール初勝利を果たした、ビニヤム・ギルマイ(アンテルマルシェ・ワンティ)
初もの尽くしのツール・ド・フランスにまたひとつ、新しい記録が歴史に刻まれる。アフリカ大陸北東に位置する国・エリトリアが生んだスプリンター、ビニヤム・ギルマイ(アンテルマルシェ・ワンティ)が混戦を制して第3ステージで優勝。自身のツール初勝利はもとより、エリトリアンライダーとして初めてのステージ優勝者となった。
「やっと僕のターンがめぐってきた! 本当に、本当にうれしい。ツール・ド・フランスで勝つことは、最高のスプリンターたちの中での勝利でもあるんだ。僕ならできると信じていたけど、いざ成し遂げてみたら言葉にならない…感動的だよ」(ビニヤム・ギルマイ)
開幕から2日間、丘陵地帯で耐えてきたスピードマンにとって、ようやく巡ってきた主役争いのとき。今大会最長の230.8kmのステージは、道中3つの4級山岳があるものの、スプリンターの脚を削るほどの難易度ではない。つまりは、スプリンターのための1日。決して多いとは言えないスプリントチャンスを、みすみす逃すわけにはいかないのである。
ジョルジオ・アルマーニの生まれ故郷であるピアチェンツァを出発する一行。先頭には、タデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ)が就いた。マイヨ・ジョーヌを着るにはまだ早すぎる気がしないでもないが、前日に見せたアタックは状態の良さを示すのに十分すぎるものだった。それをきっちり捉えたヨナス・ヴィンゲゴー(ヴィスマ・リースアバイク)も、フィニッシュ前で追いついたレムコ・エヴェネプール(スーダル・クイックステップ)とリチャル・カラパス(EFエデュケーション・イージーポスト)も、強さと意志を見せた。まだ2ステージしか終えていないけれど、彼らはいま、横一線である。
さて、レースはというと、逃げらしい逃げがないまま進んでいくこととなる。リアルスタートから少しおいてアルペシン・ドゥクーニンクが集団牽引を開始。ポイント賞のマイヨ・ヴェール2連覇を目指すヤスペル・フィリプセンを押し上げるため、まずはレースコントロールに努める。少しばかりヨナス・アブラハムセンらウノエックスモビリティ勢が前に出たりもしたけど、逃げの態勢に入るところまでは至らない。ポイント賞と山岳賞で現在トップのアブラハムセンは、70.8km地点に置かれたこの日1つ目の4級山岳を1位で通過している。
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【ハイライト】ツール・ド・フランス 第3ステージ|Cycle*2024
なおも集団はひとつ。94.3km地点に設定された中間スプリントポイントは、フィニッシュ勝負さながらの争いに。ここはマッズ・ピーダスン(リドル・トレック)が1位通過。スプリント時のトップスピードは、時速77.3kmまで上がっている。
中間スプリントポイントを越え、独走状態になったファビアン・グルリエ
その後はおおよそ時速40km前後のスピードで集団は進行。リドル・トレックやチーム ジェイコ・アルウラーもコントロールに加わって、ステージを狙う意思を示し始める。途中、マーク・カヴェンディッシュ(アスタナカザクスタン)がパンクしたタイヤを交換。コース近くが地元のマッテオ・ソブレロ(レッドブル・ボーラ・ハンスグローエ)は、家族やファンクラブが待つ4級山岳でトップを走行するなど、細かな動きが見られるようになる。この流れからファビアン・グルリエ(トタルエネルジー)が単独先頭に立って、集団に対して50秒ほどのタイム差を得た。
ただ、グルリエの独走も一時的なもの。フィニッシュまで28kmを残したところで集団がキャッチし、終盤戦に向けて各チームが隊列を成し始める。残り25kmを切る頃には、そのスピードは時速50kmを超えた。
緊張感が増すプロトンにトラブルが相次いだ。残り13kmではカスパー・ピーダスン(スーダル・クイックステップ)が落車し、フィニッシュ前6kmのポイントではマチュー・ファンデルプール(アルペシン・ドゥクーニンク)がパンク。
マチューを失ったアルペシン・ドゥクーニンクは、さらなる痛手を被る。数チームが入り乱れて主導権争いを展開する中、残り2.6kmで大規模なクラッシュが発生。ここにエースのフィリプセンが巻き込まれてしまったのだ。
「クラッシュする前の段階でチームメートとはぐれてしまっていて、成す術がなかった。原因? ちょっと分からないね。ダメージがほとんどなく済んだことが幸いだよ」(ヤスペル・フィリプセン)
このクラッシュで集団は完全に崩壊。最前線には20人程度しか残らない状況となる。アンテルマルシェ・ワンティは複数人を残し、トレインを乱さない。残り1kmで先頭に立って、そのまま最終コーナーを抜けた。
フィニッシュ前400mでデカトロン・AG2Rラモンディアルやリドル・トレックも前線へ。狙い通りのシチュエーションでピーダスンが真っ先に加速を始めると、その脇からギルマイとフェルナンド・ガビリア(モビスター)もスプリントを開始。コースサイドのバリケード側から伸びたギルマイがピーダスンをかわすと、そのまま一番にフィニッシュラインを通過。自身初、エリトリア人ライダーとしても初めてとなるステージ優勝の瞬間だ。
「プランとしては、僕かヘルベン・テイッセン のどちらかでスプリントをするというものだった。実際に自分が良い位置を確保できたので勝負をすることに。さすがにこんなにうまくいくとは思っていなかったけどね。この結果は僕にとってはもちろん、長い間勝利を待っていてくれたチーム、エリトリア、そしてアフリカ大陸全体に大きな意味を持つものになっていることは間違いないよ」(ギルマイ)
ギルマイは2000年4月2日生まれの24歳。エリトリアの首都・アスマラで生まれ育ち、13歳のときにマウンテンバイクとの出会いをきっかけに自転車の世界に飛び込んだ。2015年に年代別の国内チャンピオンになると、以降、自国では敵なしに。ジュニア時代にアフリカ選手権を勝ったことがきっかけで、スイス・エグルにあるUCIワールドサイクリングセンターのスカウトを受け、ヨーロッパでの活動を始めた。
エリトリア出身としても初勝利となる偉業を成したギルマイ
この10年ほどで存在感を増しているエリトリアンライダーにあって、彼が異彩を放っているのはスプリンターであること。それまでの同国選手の多くはクライマーで、彼が尊敬しているというダニエル・テクレハイマノは過去のツールで山岳賞ジャージを着用した。それがギルマイの台頭によって、新たなフェーズへ。2021年のロード世界選手権U23で銀メダルを獲得し、翌年にはヘント~ウェヴェルヘム優勝に、ジロ・デ・イタリアのステージ優勝。みずからの力をもって、完全にトップライダーとしての地位を築いてみせた。
「自転車に初めて乗った時に、ツール・ド・フランス出場が夢になったんだ。父にその夢がかなうか聞いたときに、“努力次第だ”と言われたのを今でも覚えている。スプリンターになった理由? スプリントのトレーニングしかしてこなかったからじゃないかな(笑)。エリトリアの人たちだけでなく、アフリカ全体が僕のことを誇りに思ってくれているとうれしいね。僕たちはみんなツール・ド・フランスの一員なんだ。この勝利はアフリカのみんなに捧げるよ」(ギルマイ)
ちなみに彼の祖国であるエリトリアにも触れておくと、アフリカ大陸北東部に位置する国で、1993年にエチオピアから正式に独立。かつてイタリアの植民地だった時代があり、その影響で古くから自転車競技が盛んだった経緯がある。
連日、スター選手たちによる熱戦が展開される
この大会はスプリントゾーンルール(通称「3kmルール」)の改正テストが実施されていて、第3ステージにおいてはフィニッシュ前5km以内でのトラブルが救済対象に。前述のクラッシュの影響で、大多数の選手がギルマイと同タイムフィニッシュとして扱われている。
第3ステージを終えてのマイヨ・ジョーヌは、カラパスに移ることとなった。いくつにも分断されたプロトンの後方でレースを終えたポガチャルやヴィンゲゴーらとは対照的に、カラパスは足止めを回避しギルマイらと一緒にフィニッシュラインを通過していた。これによって、3日間の順位合算で最小となり、リーダーの座が舞い込んできた。自身初のマイヨ・ジョーヌである。
「さすがにびっくりしているよ。ツール・ド・スイスで落車リタイアして、その後には体調を崩したりもした。正直ツール開幕までが長く感じていたんだ。でも、昨日のステージで自信が回復してきて、今日はマイヨ・ジョーヌに挑戦してみようと思った。こんなにうまくいくとは思っていなかったけど、自転車競技が盛んとは言えない自国のみんなと喜びを分かち合いたいね」(リチャル・カラパス)
第4ステージで、いよいよフランスに入国する。ガリビエ峠越えが控える、今大会最初の山岳ステージだ。大会4日目にしてマイヨ・ジョーヌ争いの有資格者がある程度見えてくるだろうか。戦いは一気に緊迫度を増していく。
●ステージ優勝:ビニヤム・ギルマイ(アンテルマルシェ・ワンティ)コメント
「歴史的な1日だね。幼い頃からツール・ド・フランス出場を夢見ていたけど、実現可能な夢だとは思っていなかった。ツールで勝利を挙げるなどなおのことで、考えたことすらなかったよ。激しいスプリント勝負を勝てたことは大きな自信になるね。勝つと信じてくれていたチームのみんなや家族、エリトリアの人々には心から感謝したい。
今日の走りから、アンテルマルシェ・ワンティはプロトン最高のリードアウトトレインを有していると証明できた。正直に言うと、今日はヘルベン・テイッセン向きのコースだと考えていて、僕は自由に動くことを許されていたんだ。結果的に、チームのトレインを活用して僕は勝つことができた。全力を尽くしたし、それに値する走りだったと実感しているよ」
●マイヨ・ジョーヌ:リチャル・カラパス(EFエデュケーション・イージーポスト)コメント
第3ステージではリチャル・カラパスがマイヨ・ジョーヌに輝いた
「世界最高のレースでリーダージャージを着られるなんて特別な気分だよ。このときのためにたくさんの準備をしてきたし、今日のステージを楽しめたことも本当に良かった。
実をいうと、今日はチャンスがあると思っていたんだ。この大会で最初のスプリントステージだから緊張感はあったけれど、チームメートとともに集団の前方に位置していれば上位でフィニッシュできると考えていた。その甲斐あってとても素晴らしい瞬間を迎えられたし、この結果がエクアドルの自転車競技発展につながるとなおうれしい。明日は大変な1日になると思うけれど、僕にはこのジャージを守る力があると信じているよ」
●マイヨ・ブラン:レムコ・エヴェネプール(スーダル・クイックステップ)コメント
「今大会最初のスプリントステージだから、激しいレースになることは分かっていた。とにかく安全に、リスクを負わずに走ることを心掛けた。今日はその目的が果たせたから満足しているよ。
明日については、まずはタデイ(ポガチャル)とヨナス(ヴィンゲゴー)から後れを取らないことだね。もし小集団スプリントになったら? どうだろうね…明日の展開を見て決めるよ」
文:福光 俊介
福光 俊介
ふくみつしゅんすけ。サイクルライター、コラムニスト。幼少期に目にしたサイクルロードレースに魅せられ、2012年から執筆を開始。ロードのほか、シクロクロス、トラック、MTB、競輪など国内外のレースを幅広く取材する。ブログ「suke's cycling world」では、世界各国のレースやイベントを独自の視点で解説・分析を行う
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