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【Cycle*2024 ツール・ド・フランス2024 レースレポート:第2ステージ】気鋭のオールラウンダー、ケヴィン・ヴォークランが初出場初勝利! “ビッグ4”も動いてポガチャルがマイヨ・ジョーヌに
サイクルロードレースレポート by 福光 俊介2日目のスタート地チェゼナーティコはマルコ・パンターニの故郷
フレンチライダーが熱い。まだイタリア国内をめぐっている最中だけれど、フレンチライダーが熱い、のである。ツール・ド・フランス2024第2ステージは前日同様に逃げが有利な展開になって、最後の14kmを独走したケヴィン・ヴォークラン (アルケア・B&Bホテルズ)が初出場で初勝利。前日のロマン・バルデ(dsmフィルメニッヒ・ポストNL)からのフランス勢2連勝となった。
「ちょっと信じられないよ。ツール前に走ったツール・ド・スイスとフランス選手権はさっぱりで、正直どうしようかと思っていたんだ。でも今日に限っては勝てるだけの脚があると感じていた。大事なチャンスを生かせて本当に良かったよ」(ケヴィン・ヴォークラン)
ツールを迎えて熱気を帯びるイタリア国内をもう少し走る。スタート地チェゼナーティコは、マルコ・パンターニの故郷。前日は彼が亡くなったリミニにフィニッシュしたけれど、今度は生まれ育った街を選手たちは出発する。それはまるで、自転車に携わる者の記憶から彼が消えないよう測っているかのように。
アドリア海の近くを走るのだけれど、実際に海の近くを行くのは一瞬だけ。少しずつ内陸へと針路をとって、レース半ばからは丘陵地帯へと入っていく。ポイントは、フィニッシュ地ボローニャを含む1周18.4kmのサーキットコースだ。これを2周回。急坂の3級山岳サン・ルーカ(登坂距離1.9km、平均勾配10.6%)が勝負どころと目されたが、その見立て通りに激しい展開が待っていた。
序盤のアタック合戦にはマチュー・ファンデルプール (アルペシン・ドゥクーニンク)も加わって、激しさを増した。そうした中から11人が8km地点で抜け出すことに成功。逃げの態勢を整えた。
リーダーチームの大役を担うのは、dsmフィルメニッヒ・ポストNL。キャリアで初めてツールのマイヨ・ジョーヌを着るロマン・バルデも前線に顔をのぞかせる。逃げに総合成績を脅かす選手がいなかったこともあって、スタートから50kmでその差は8分となった。
J SPORTS サイクルロードレース【公式】YouTubeチャンネル
【ハイライト】ツール・ド・フランス 第2ステージ|Cycle*2024
快調に逃げる先頭グループでは、山岳賞のマイヨ・ブラン・ア・ポワ・ルージュを着るヨナス・アブラハムセン(ウノエックスモビリティ)がポイント収集に勤しむ。その間に通過した中間スプリントポイントでも1位通過して、山岳賞・ポイント賞ともに得点を伸ばしていく。
マッテオ・ヨルゲンソンらの落車発生
モータースポーツで有名なイモラサーキットを通過しつつ、残り距離を減らしていくプロトン。メイン集団ではワウト・ファンアールトとマッテオ・ヨルゲンソンのヴィスマ・リースアバイク勢、ローレンス・デプルス(イネオス・グレナディアーズ)が絡む落車が発生。時速56kmまで上がっていた状況下でのクラッシュだったが、幸いにして大きなダメージとはならず。ドクターカーまで下がって様子を見ている姿こそあったが、問題なくレースを続行している。
フィニッシュまで70kmを残した段階でタイム差が9分を超えたことで、メイン集団では少しずつギャップを調整。この日4つ目の登坂区間では、序盤に仕掛けたマチューが集団から遅れている。
先頭グループは10人態勢で、いよいよボローニャの周回コースへ。すぐに1回目のサン・ルーカを迎えると、次々とアタックがかかった。そうしているうちに脚の差が見えてきて、6人に絞られる。さらには、ネルソン・オリヴェイラ(モビスター チーム)の動きにヴォークランとアブラハムセンが追随し、逃げは3人に。そのまま最終周回の鐘を聞くこととなった。
メイン集団は、4分前後のタイム差まで縮めたところで追撃ムードを緩め、総合系ライダー同士の駆け引きへと移っていく。上りではワウトが牽引役を務め、やがてヨルゲンソンへバトンタッチ。役目を終えたワウトはそのまま集団から後退した。
逃げ切りが濃厚となった先頭では、2回目のサン・ルーカで決定打が生まれた。頂上まで1kmを残したタイミングでヴォークランが渾身のアタック。沿道の大歓声を受けて突き進むと、長く逃げをともにしてきたアブラハムセンとオリヴェイラを振り切り、独走態勢に持ち込んだ。
「この3人なら僕が一番上れることは分かっていたんだ。だから、考えるべきこととしてはアタックすべきポイントだけだった。正直どこまでタイム差を広げられているのか分からなかったのだけれど、ひとりになった以上はフィニッシュまで急ごうと思って走ったよ」(ヴォークラン)
山岳賞マイヨ・ブラン・ア・ポワ・ルージュを着るヨナス・アブラハムセンとケヴィン・ヴォークラン
下りをこなして、大観衆が待つボローニャの街に一番に還ってきた。勝利を確信するまで時間がかかったそうだけれど、フィニッシュラインを目前に、大きなアクションで沿道を煽ってみずからの勝利を誇示。ツール初出場で初勝利を挙げる殊勲の走りを演じてみせた。
「キャリア最高の勝利だよ。最近はトレーニングでもレースでもうまくいかないことが続いていて、自信を失いかけていたんだ。昨日大きく遅れたこともさすがに堪えたね…。でも、“やってやろう”という思いは常に持っていたんだ。我慢していれば成功するときが来ると言い聞かせてやってきて本当に良かったよ」(ヴォークラン)
ジュニア時代にはトラックで名を馳せ、年代のトップを走った。2年前にプロデビューしてからはロードをメインに切り替えて、早くから大きなレースで上位進出を経験した。今年に入ってからはフレーシュ・ワロンヌで2位と大躍進。ツール出場は昨年の冬には決まっていたという。ワンデーレースからステージレースまで幅広く対応するオールラウンダーで、王国フランスの若手の中でも期待値の高いひとり。ツールで名を挙げ、いよいよトップライダーとしての歩みに加速度が増す。
このステージでアルケア・B&Bホテルズは、ヴォークランに加えてクリスティアン・ロドリゲスも逃げに送り込んでいた。ヴォークランが勝利へと突き進む後ろでは、ロドリゲスが追撃の芽を摘む役割を果たした。
「クリスティアンには真っ先にありがとうと伝えたいね。彼は逃げグループに動きをもたらそうと、何度もアクションを起こしてくれたんだ。レース全体をコントロールする仕事もしてくれて、僕のために全力を尽くしてくれた。彼と一緒につかんだ勝利だよ」(ヴォークラン)
歓喜のヴォークランの後ろでは、マイヨ・ジョーヌ候補たちの争いも熾烈なものとなっていた。2回目のサン・ルーカでUAEチームエミレーツがコントロールを始めると、頂上手前でタデイ・ポガチャル が猛然とアタック。大会3連覇がかかるヨナス・ヴィンゲゴー(ヴィスマ・リースアバイク)が一瞬反応に遅れながらもリカバーし、ポガチャルの背後についた。これで他の総合系ライダーを引き離すと、両者は協調体制を組んでボローニャの街への下りに入った。
「調子が良かったので、2回目のサン・ルーカでトライしてみようと考えていたんだ。ヨナスが続いてきたことにはまったく驚いていないよ。彼を協調してフィニッシュを目指すことも想定の範囲内だったしね」(タデイ・ポガチャル)
この状況をさすがに許すまいと、レムコ・エヴェネプール(スーダル・クイックステップ)とリチャル・カラパス (EFエデュケーション・イージーポスト)が猛追。フィニッシュ前350mでポガチャルとヴィンゲゴーに合流して、彼らは同グループでステージを完了させた。
ポガチャルの猛攻をしのいだヴィンゲゴーはレース後、自身の走りが勝利に値すると胸を張った。
「今日はポガチャルにタイム差を付けられることも頭にはあった。だけど、彼のペースについていくことができたんだ。実は下りでペダルを地面に当ててしまって落車しかけたのだけど、トラブルなく最後まで走ることができた。ポガチャルと同タイムでフィニッシュできた時点で、僕にとっては勝ったようなもの。今日の走りには満足しているよ」(ヨナス・ヴィンゲゴー)
沿道の大声援を受けるdsmフィルメニッヒ・ポストNL
ポガチャルやヴィンゲゴーのパックから21秒差で、実質のメイン集団がフィニッシュラインを通過。ここにバルデやプリモシュ・ログリッチ(レッドブル・ボーラ・ハンスグローエ)が含まれた。この結果、第2ステージを終えた段階で早くもポガチャルがマイヨジョーヌを着ることに。総合タイム的にはレムコ、ヴィンゲゴー、カラパスと並んでいるが、2日間の順位合算で最小のポガチャルにレースリーダーの座が与えられている。
「マイヨ・ジョーヌを長くキープできるかはまったく分からない。今は想像すらできないよ。まずは1日1日を大切に走っていくこと。それしか頭にないね」(ポガチャル)
激動のイタリアンデイズは、2日目にしてさらなる局面へ。大会前から謳われている“ビッグ4”のうち、ログリッチにだけ少しばかりのタイム差がつき、開幕前から期待されていたサンティアゴ・ブイトラゴ(バーレーン・ヴィクトリアス)やデレク・ジー(イスラエル・プレミアテック)も遅れている。
続く第3ステージは、今大会最初の平坦区間。ここまでハードなルートを耐えてきたスピードマンたちの出番が、ようやくやってくる。
独走勝利したケヴィン・ヴォークラン
●ステージ優勝 ケヴィン・ヴォークラン(アルケア・B&Bホテルズ)コメント
「本当に信じられない! 昨日(第1ステージ)といい、ツール・ド・スイスといい、悔しいレース続きで何とか状況を打開したかったんだ。勝つことができるときは何もかもが完璧だよ。逃げている間は、クリスティアン・ロドリゲスが何度も助けてくれたんだ。彼は先頭グループの統率役でもあったからね。感謝しかないよ。
僕の夢はツール・ド・フランスに出場することだった。それが初出場2日目でステージ優勝だからね。アルケア・B&Bホテルズとしても記念すべきツール初勝利。この喜びはチームのゼネラルマネージャーであるエマニュエル・ユベールに捧げるよ」
●マイヨ・ジョーヌ タデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ)コメント
「1回目のサン・ルーカで調子の良さを確信したので、2回目で自分の力を試してみようと思ったんだ。アタック自体は良かったし、ヨナスがついてくることも想定していた。後から追いついてきたレムコやリチャルも強いことは知っているから、今日の結果自体は何の驚きもないよ。
ボローニャの周回コースの熱気はすごかったね。誰もがサイクリングを愛しているんだと思わせてくれる盛り上がりだったよ。マイヨ・ジョーヌ? 長くキープできるか、今は想像すらつかない。1日1日を大切にして、当初からの計画通りに走り続けることが何よりも重要なことだと思っている」
●マイヨ・ブラン レムコ・エヴェネプール(スーダル・クイックステップ)コメント
「この2日間の走りにはとても満足している。調子が上がっている実感があるし、今日においてはタデイとヨナスに追いつくことができた。彼らのアタックには反応が遅れてしまったけれど、追いつくための脚は残っていたからね。自信になるレースだったよ。マイヨ・ブランが着られることもとてもうれしいね。ツールのポディウムに立てることが本当に横らしいよ」
文:福光 俊介
福光 俊介
ふくみつしゅんすけ。サイクルライター、コラムニスト。幼少期に目にしたサイクルロードレースに魅せられ、2012年から執筆を開始。ロードのほか、シクロクロス、トラック、MTB、競輪など国内外のレースを幅広く取材する。ブログ「suke's cycling world」では、世界各国のレースやイベントを独自の視点で解説・分析を行う
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