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【ジロ・デ・イタリア2024 レースレポート:第21ステージ】ポガチャルが独占した3週間が、華やかに幕を下ろす。「ファンタスティックなジロだった。すべてが素晴らしい経験だった」
サイクルロードレースレポート by 宮本 あさかポガチャルが総合優勝を果たし、コロッセオの前でトロフィーを掲げる
永遠の町ローマで、永遠に終わらないトロフィーに、その名を刻みつけた。タデイ・ポガチャルが第107代ジロ・デ・イタリア総合覇者となり、ばら色の栄光を地上にあまねく照らした。悠久の歴史を誇るイタリアの首都では、荘厳なる最終スプリントが巻き起こり、最終ステージの勝利はティム・メルリールの手に落ちた。
「ファンタスティックなジロだった。世界中からファンが詰めかけて、雰囲気はいつだってクレイジーで。たくさんの感動を味わったし、コースも最高だった。本当に楽しんだよ。すべてが素晴らしい経験だった」(ポガチャル)
おしゃべりと、笑顔と、リラックスしたふざけあい。総合表彰台も4賞ジャージの行方も、第20ステージのモンテ・グラッパで、すでに決していた。昨夜600kmもの大移動を経た選手たちは、午後遅く、最後の戦いへとゆっくりと走り出した。グランツール最終日の伝統に則って、ステージ序盤は、のんびりとしたパレード走行が繰り広げられた。幸いにも首都ローマの上空には、爽やかな青空が広がっていた。
UAEチームエミレーツが集団先頭でローマを駆け抜ける
平地でも山岳でも陰日向なく働き、スプリンターもクライマーも誰一人欠けることなくマリア・ローザを支えたUAEチームエミレーツは、特にたっぷりと記念撮影タイムを楽しんだ。ただ、いまだフィナーレまでは100kmも残っていたというのに、そのUAEのアシストたちがひどく生真面目に集団牽引を開始してしまったものだから……38歳の大ベテラン、ゲラント・トーマスとアレッサンドロ・デマルキが慌てて減速を促すシーンさえ!
史上最多18回目のジロ出場を最後に、今季末で現役を退く41歳ドメニコ・ポッツォヴィーヴォが先頭でローマの市街地コースへと走り入ると、それを合図にいよいよ今大会最後の戦いに火がついた。アレックス・ボーダンとミッケルフレーリク・ホノレが飛び出し、さらにはエウェン・コステューとマルティン・マルチェルージが合流する。古代の英雄たちの足跡が残る街角で、4人の勇者は、スリリングな逃げを演出した。
コロッセオなど美しい建造物が並ぶローマの街で選手たちが激走
もちろんグランツール最終日の平坦ステージは、大集団スプリントで締めくくられる運命にある。しかも2024年に限って言えば、初日にスプリントを予定するグランツールが皆無で、ツールもブエルタも最終日はタイムトライアルだから……このジロ最終日だけがスプリンターにとっての希望なのだ。スプリンターチームは力を惜しまず集団制御に励み、フィニッシュ手前13kmで、邪魔な4人を早々に回収した。
……と、ラスト9km、まさかの事態が発生する。今大会のスプリントフィニッシュ6回のうち3回を制し、4日目の終わりから「キング・オブ・スプリンター」の証マリア・チクラミーノをまとい続けてきたジョナサン・ミランが、運悪くメカトラに見舞われてしまったのだ。
「残り1周でチェーンが壊れて、バイク交換を余儀なくされた。その後はひたすら全力だった。プロトン復帰のために全力を尽くし、その後もスプリントのために全力を振り絞った。だって、この最終ステージは、大きな目標だったから」(ミラン)
プロトンのスピードはすっかり上がりきっていた。新しいバイクで再スタートを切ったミランは、55秒もの遅れを無我夢中で埋めにかかった。チームカー隊列をすり抜け、時にはルールで許容されているよりも長く、車の後ろに留まった。そのせいで罰金200スイスフランにUCIポイント15点減点、マリア・チクラミーノ用ポイントさえ15点の減点処分が課されてしまうことになる。それでも残り4km、奮闘実って集団復帰を成功させた。さらには集団で待機していたチームメイトに導かれ、残り1.7km、ミランはプロトン最前列へと競り上がる。
クレイジーすぎるほどのフィナーレは、しかし一筋縄では行かなかった。いまだ今大会「初」勝利を追い求めるスプリントチームが、最後のチャンスを逃すまいと、がむしゃらに先頭を奪い合った。マリア・ローザ姿のポガチャルさえも、同僚フアン・モラノのために、熾烈な位置取り合戦に挑んだ。たくさんのカーブとシケイン、そして石畳が、カオスをいっそう色濃くした。
「実は調子はそれほどよくなかった。チーム列車にさえついていけなかった。だからちょっとギャンブルを打ったんだ。幸いにも石畳のスプリントには慣れていた。もしもトップスピードで石畳に突入すれば、他の選手たちは、簡単には僕を追い越せないだろうと分かっていた」(メルリール)
最後に大集団によるスプリント勝負が展開され、メルリールが第21ステージを制した
毎冬シクロクロスで鍛え、今春には石畳セミクラシックのノケーレ・コルセで3連覇を果たしたメルリールは、イタリアの石畳でも巧みに立ち回った。最終コーナーへ外側から突っ込むと、ラスト250m前後、アスファルトから石畳に変わった瞬間に全速力でトップへと躍り出た。後は目論み通りに事が運んだ。メルリールはそのままフィニッシュラインを先頭でさらいとった。
肝心のミランは、すかさずメルリールの後輪に滑り込めた。ところが猛烈な追い上げで脚を使ったせいか、あと一歩の伸びが足りなかった。メカトラに、ポイント減点、スプリント2位、さらにはマリア・チクラミーノ表彰式でスプマンテの大瓶を落としてしまう……という不運続きの最終日だった。
「今大会のベストスプリンターは果たして僕か、それともミランか。それを決めるのは僕ではない。それに僕としては、今日の勝利も、他のレースの勝利と同じ感覚だ。でも家に帰ったら、実感するのかもしれない」(メルリール)
第3ステージで大会最初のスプリントステージを制したメルリールは、実は2021年ジロでも、2021年ツールでも、スプリンターとしては同大会で真っ先に両手を挙げている。ただいずれも途中で帰宅した。つまりは今ジロで生まれて初めて、最終ステージの勝負に真っ向から挑んだことになる。すでに19日目に人生初めての「グランツール区間2勝目」を得た31歳は、この日、ミランに区間3勝で並ぶと共に、「グランツール最終ステージ勝者」の栄誉さえも手に入れた。
またメルリールの所属チーム、スーダル・クイックステップは、大会の終わりにジュリアン・アラフィリップのスーパー敢闘賞も祝った。第12ステージで勇敢な大逃げ勝利を成し遂げた上に、連日の飛び出しで、惜しみない努力を披露した。ちなみに10人以上の逃げはカウントされないフーガ賞では3位490kmだが、実際に逃げた距離は764kmとのこと。
表彰台に上がった(写真左から)2位のマルティネス、優勝のポガチャル、3位のトーマス
そしてラスト2kmまでプロトン先頭でピンクジャージを存分に見せつけたポガチャルは、首位と同タイムの74位(21日間で最も低い順位!)で、まさに完璧だった大会を終えた。山頂フィニッシュ4勝、登坂タイムトライアル1勝、難関山岳ステージ1勝。総合2位以下とのタイム差9分56秒は、戦後4番目に大きな数字だった。総合2位ダニエル・マルティネスと3位トーマスを含む直接的ライバルから、ボーナスタイム以外で秒を失うことは、3週間通して1日たりともなかった。
初日マリア・ローザこそほんのわずかの差で逃したが、2日目に希望通り身にまとって以来、とうとう最終日まで頑なに脱がなかった。初出場ツールからの2連覇に続き、初出場ジロでもあっさりと総合優勝を獲得し、グランツール出場6回にして総合3勝目。言うまでもなく、残る3回も、ことごとく表彰台乗りを実現している。しかもツール2連覇時と同じ様に、総合リーダージャージだけでは飽き足らず、山岳ジャージさえも我が物とした。
「今大会の僕が、現時点での『ベストバージョン』かって?うーん、そうかもね。間違いなく、今年、僕は新たなステップを上った。毎年成長を重ねることがどんどん難しくなって行く中で、幸運にも昨冬、僕は改良の余地を見つけられた。小さな収穫を得たんだ。それが嬉しかったし、僕にとってはすごく大切なことだった。もちろん僕はまだまだ成長過程だし、年齢を重ね、すべてが収まるべきところに収まり、さらに経験も大いに活かせるようになってきている」(ポガチャル、第20ステージ記者会見より)
チーム名がUAEになってから初のジロ覇者として、スロベニア史上2人目のマリア・ローザとして、あと数日は、ポガチャルもばら色の祝祭を楽しむのだろう。ただし、すぐに、黄色い目標へと視線を切り替える。1998年以来26年ぶりのジロ&ツール同一シーズン制覇へ向けて、走り出さねばならない。ツール・ド・フランスは、35日後に開幕する。
文:宮本あさか
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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